あえて古い雑居ビルを選択? 「ルノアール」出店戦略を考える《楽待新聞》

2/8 19:00 配信

不動産投資の楽待

首都圏で展開する「喫茶室ルノアール」は、喫煙者の「オアシス」としての役割を果たしている。79店舗中、全席禁煙の店舗は4店舗しかなく、残り75店舗で喫煙可能だ。

一方、立地面で「やや不便な場所にあるなぁ」と感じたことはないだろうか。多くのカフェチェーンが駅近の目立つところに出店するのに対し、ルノアールは古びた雑居ビルの2階など、少し入りづらそうな場所にあることも多い。

あえてそうした場所に出店するのは、カフェのコンセプトと合致したり、賃料を低く抑えられたりするからかもしれない。

そんなルノアールの決算資料を見てみると、「受取補償金」という名目で、数千万~数億円が計上された年もある。これは何を指しているのだろうか?

今回は、決算資料や近年の退店情報をもとに、ルノアールの出店戦略について考えてみる。

■古い雑居ビルにある「喫煙者のオアシス」

株式会社銀座ルノアールは、首都圏でのカフェ運営が主力事業だ。展開している約100店舗のうち、「喫茶室ルノアール」は79店舗となっている。

数店舗を除いて直営で運営しており、セルフではないフルサービス式である点も特徴だ。また、79店舗中75店舗で喫煙可能となっており、禁煙化の流れの中で「喫煙者のオアシス」としても知られている。

2020年の改正健康増進法を機に、ルノアールも一度は紙たばこを禁止。しかしその後、利用者からの声もあったのか、喫煙ブースで紙たばこを吸えるシステムに切り替えた。

現在は自席で喫煙できるカフェチェーンが減少しているが、ルノアールは大半の店舗で加熱式たばこ可の喫煙席を設けている。

また、喫煙可能な点を強みとしているからか、ルノアールはやや不便な場所に立地していることも珍しくない。

例えばスターバックスコーヒーが駅ナカや一等地に、ドトールが繁華街や商店街に出店しているのに対し、ルノアールは古い雑居ビルの2階や地下にも入居している。

新宿駅東口側の店舗を巡ってみたが、少なくともふらっと入店する客をターゲットにはしていなさそうだ、と筆者は感じた。

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西武新宿駅前店:雑居ビル(1978年竣工)の2階
新宿TOHOシネマズ前店:雑居ビル(1979年竣工)の2階
新宿区役所横店:雑居ビル(1980年竣工)の1・2階
新宿靖国通り店:雑居ビル(1963年竣工)の1階
新宿中央東口店:雑居ビル(不明)の地下1階
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雑居ビルの竣工年度は、確認できる範囲で1963~80年。それぞれの店舗の場所は、人通りこそ多いものの、他のカフェチェーン店よりは目立たない印象だ。

新宿区役所横店は、区役所関連の需要があるのかもしれないが、近隣にホストクラブやバーが軒を連ね、個人的には入店しづらく感じた。

たばこを吸える喫茶店が数を減らしている現在、喫煙者を取り込めれば立地は集客力とあまり関係が無いのかもしれない。

■再開発理由に1年で7店舗閉店も

銀座ルノアールは、年によって、店舗の売上以外にも比較的大きな収入があることがある。

それが、特別利益に計上されている「受取補償金」だ。2015年3月期、2016年3月期、2018年3月期はそれぞれ2億円前後を計上している。

店舗撤退の際に立ち退き料を受け取っていた場合、この受取補償金に算入される。実際、賃貸人都合の撤退に伴う「特別利益の計上に関するお知らせ」がたびたび発表されている。

ただ、どの店舗でいくら補償金を受け取ったかは公表されていない。そこで、推測を含む形になるが、筆者が独自に近年の状況をまとめてみた。

(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)

2019年3月期に閉店したヨドバシAkiba横店は、1970年に竣工した「第二砂川ビル」の1階に入居していた。しかし、再開発により同ビルは取り壊され、現在は歩行者のための広場となっている。

西銀座店も同様にビルが取り壊され、現在は駐車場となっている。

2020年3月期に閉店したカフェ・ミヤマ高田馬場駅前店は、1968年竣工の「菊月ビル」に入居していた。閉店後、2023年に「ベッセルイン高田馬場駅前」としてリニューアルされている。

東京駅八重洲北口店は、1959年竣工のビルに入居していたが、「東京駅前八重洲一丁目東地区」再開発事業の対象エリアとなり、退店している。

2021年3月期には18店舗が閉店しているが、決算資料の中で、うち11店舗は「新型コロナウイルス感染症の影響による不採算」が原因だとし、他7店舗は「ビルの建て替えや再開発によるもの」と明らかにしている。

2023年3月期に退店したカフェ・ミヤマ新宿南口駅前店は、「新宿南口ビル」の地下1階にあった店舗だ。「新宿駅西南口地区開発事業(南街区)」に伴い、建物はすでに解体されている。

決算資料にある新規出店情報や閉店情報を見ても、ルノアールは店舗の新陳代謝が激しいと言えるだろう。

■1店舗あたりの金額を試算

再開発などが理由で閉店した店舗について、その補償金が何期の決算に反映されているかは不明だが、上表の期間では合計2億5954万円が計上されている。

決算資料によると、2020年3月期と2021年3月期で、合わせて11店舗が建て替え・再開発を理由に閉店している。2019年3月期と2022年3月期~2024年3月期は詳細が記載されていないが、ルノアール以外の飲食店(ベーカリーなど)も含めると、合計17店舗が閉店となった。

つまり、補償金を受け取ったと推測される店舗数は11~28(11+17)ということになる。ここから1店舗あたりの金額を試算すると、少なくて927万円、多くて2359万円となる。

賃貸住宅の場合、立ち退き料の相場は一般的に家賃の半年分程度とされている。一方、店舗の場合、移転費用や営業補償などを含め、賃料2~3年分とされることもあるようだ。

では、ルノアールの賃料はどの程度なのか。

2024年3月期は、賃借料として18億1678万円を計上した。これを期末時点の100店舗で単純に割ると、1店舗当たり1817万円となる。

ちなみに、東京都の平均坪賃料は2万~3万円ほど。これにルノアールの物件募集にある広さ50坪をかけると、年間の賃料は1800万円と近しい値が出る。

そう考えると、1店舗あたり2359万円という補償金は妥当か、少し低めのラインと思われる(もっとも、補償金を受け取った店舗数がもっと少ない可能性もある)。

今後もルノアールは古い雑居ビルを狙っていくのだろうか。ルノアールが新規出店したところは、将来的にビルの建て替えや再開発が期待できるという見方もできるのかもしれない。

山口伸/楽待新聞編集部

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最終更新:2/8(土) 19:00

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