もはや四季ではなく「五季」の日本。《猛暑》が変えるビジネスと働き方を考える。毎日の「通勤」にも大きなリスク!
「もう四季じゃない。五季だ」、そんな声を聞いたことがあるだろうか。
昨年、大手アパレル企業・三陽商会が年間の販売計画を「四季」ではなく、「五季」で考えると発表し、話題になった。
気候変動により日本の夏は長期化している。「酷暑」化と表現してもいいかもしれない。もはや従来の四季では対応できないのが現実だ。企業も消費者も、この新しい季節観を受け入れざるをえない。
そこで今回は「五季」という概念がもたらすビジネスチャンスと、猛暑時代の働き方について解説する。
■そもそも「季節」とは何か?
日本の季節区分は、実は曖昧だ。気象庁の定義では、春は3〜5月、夏は6〜8月、秋は9〜11月、冬は12〜2月。しかし実際の体感とはズレがある。
たとえば9月。暦の上では秋だが、気温は30度を超える日が続く。10月に入っても半袖で過ごせる年が増えた。これが現実だ。
アパレル業界の季節区分はさらに複雑だ。従来、一般的には以下のようなサイクルで商品を展開してきたという。
・春物:2〜4月
・夏物:5〜7月
・秋物:8〜10月
・冬物:11〜1月
しかし、このスケジュール通り8月に秋物を売り始めても、実際は猛暑の真っただ中。消費者のニーズと商品展開のミスマッチが生じていた。
そこで2024年、三陽商会は画期的な決断を下した。従来の四季制から五季制への転換である。具体的な区分は以下の通りだ。
・春:3〜4月(2カ月)
・初夏・盛夏:5〜7月(3カ月)
・猛暑:8〜9月(2カ月)
・秋:10〜11月(2カ月)
・冬:12〜2月(3カ月)
注目すべきは「猛暑」という新たな季節を設定したことだ。8〜9月を独立した季節として扱うのだ。私はこの考え方を強く支持する。「現実」を正しく見て、戦略を練り直しているからだ。
結果、同社は従来8月から秋物販売に切り替えていたのを改め、猛暑期も夏物販売を継続。2024年の夏商戦は夏向けジャケット、セットアップアイテム強化が奏功し、6-8月の売り上げが前年比103%となった。2025年も暑い夏の長期化を見据え、6-8月の生産数を前年比12%増と強化したという。
■猛暑がもたらす新たなビジネスチャンス
五季制の影響は、アパレル業界にとどまらない。さまざまな業界が独自に季節を設定し、新たなビジネスチャンスを生んでいる。
(1)食品業界の「まだなつ」戦略
(2)建築業界の猛暑対応住宅
(3)観光業界の避暑ビジネス
それでは、一つひとつ解説していこう。
(1)食品業界の「まだなつ」戦略
味の素は2025年、「五季そうさまプロジェクト」を発足させた。9〜10月上旬の「まだ暑い時期」を「まだなつ」と命名。この時期特有の食欲減退に対応する新レシピを提案している。
暦の上では秋でも、実際は夏のような暑さ。秋食材を暑い日でも食べやすく調理する工夫が求められているのだ。
(2)建築業界の“猛暑対応”住宅
住宅メーカーの中にも「五季」という表現を使い、商品ラインナップを拡充させている企業がある。
都市部でも遮熱塗装やグリーンカーテン設置など、猛暑対策が標準装備される住宅が増えている。断熱材や通風システムの需要も急増。「快適な家」ではなく「熱中症にならない家」「死なせない家」をキャッチフレーズにする住宅メーカーも登場している。
(3)観光業界の避暑ビジネス
いこーよ総研が2024年に実施したアンケートでは、最近1〜2年など酷暑が顕著になってきてからの夏のお出かけの仕方や行き先に変化はあるかを尋ねている。
その結果、「変化がある」と回答した人が6割以上にも及んだ。屋内施設に行く(69%)、日陰のある屋外スポットを選ぶ(51%)、涼しい高原へ行く(43%)という傾向が顕著だ。特に子どもを遊ばせる場所としては、都市型の屋内遊戯施設が人気のようだ。
日本だけではない。世界各地で季節の概念が変わりつつある。
ヨーロッパのファッション業界では、イタリアのOVS社が夏物セールの開始時期を7月初頭から中旬以降に変更。「夏が後ろ倒しになっている」という現実への対応だ。
北米では「煙の季節」という言葉が定着。カリフォルニアやカナダ西部では、夏から初秋にかけて山火事が頻発。その煙害が数週間から数カ月続く。これを「第五の季節」と呼ぶ地域もある。
シアトル市では公共施設にクリーンエアシェルター(煙対策の避難スペース)を設置。気候変動による極端現象が、新たな「季節」を生み出している。
■熱中症対策が義務化された日本
猛暑という新しい季節が増えることで、ビジネスチャンスが増えるのはいいことだ。しかしリスクのほうが大きいのではないか。
ご存じの通り、2025年6月に職場での熱中症対策が法律で義務化された。違反すると6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金。これは建設現場だけの話ではない。
驚くべきことに、職場で起きる熱中症の約4割は屋内で発生している。冷房の効いたオフィスでも油断はできないのだ。
しかし最大のリスクは通勤にある。気温35度を超える日の満員電車。駅から会社までの徒歩。外回り営業の移動。これらすべてが熱中症リスクになる。
営業職など、外出の多い職種も注意が必要だ。営業車で外回りを続け、体調不良を訴える営業が、私の身近にたくさんいる。
「満員電車で熱中症なんて」「外回りの営業が熱中症なんて」……。多くの人は、そう受け止めるかもしれない。たしかに、その瞬間に発症することは少ないだろう。
しかし、このような負担の積み重ねが熱中症を引き起こすと捉えるべきだ。これまでのやり方、考え方は通用しないことを、とくに経営者は理解してほしい。
厚生労働省の統計では、2024年の職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は1257人で、統計開始以来最多。業種別では製造業235人、建設業228人、運送業186人、警備業142人と続く。
この現実を受け、企業の対応も加速している。ある大手製造業では、工場内にミスト冷却やスポット冷風器などの「クールスポット」を設置し、作業者が定期的に体を冷やせる環境を整備した。
建設業界では、早朝から働く「サマータイム勤務」を導入したところもある。気温が上がる前に主要作業を終える工夫だ。
■猛暑時代のリモートワークを再考する
コロナ禍が過ぎ去り、世界的に「オフィス回帰」が進んでいるが、熱中症対策のためにもリモートワークの活用を再考すべきだろう。通勤そのものをなくすことで、熱中症リスクを大幅に削減できる。
自分のためだけでなく、満員電車が緩和されるだけで、どうしても電車に乗らなければならない他の乗客にもメリットがあるだろう。
コロナ禍で培ったリモートワークのノウハウ・習慣が、今度は命を守る手段として再評価されるべきだ。ある大手IT企業では、気温35度以上の日は「猛暑日リモートワーク」を推奨。通勤による熱中症リスクを回避する狙いだ。
製造業でも動きがある。工場勤務者向けに「猛暑シフト」を導入。早朝5時から勤務開始し、気温が上がる前に主要作業を終える。午後は軽作業のみとする工夫だ。
このような取り組みは企業にとってもメリットは大きい。従業員の健康を守り、生産性を維持できる。オフィスの冷房費削減にもつながる。猛暑日のリモートワークは、もはや「働き方改革」ではなく「命を守る対策」と言えるだろう。
東洋経済オンライン
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最終更新:7/7(月) 5:02