「使わない」のも「使い過ぎる」のも痛みの原因に…加齢による「関節の痛み」引き起こす2種類の筋肉
加齢とともに悩む人が増えてくる「関節の痛み」は、日本整形外科学会認定スポーツ医である歌島大輔氏によれば、ほうっておくと健康寿命を縮めることにもつながりかねないそうです。
そんな「関節の痛み」を抑える対策として歌島氏が考案した「2種類の筋肉」のケア法について、同氏の著書『ひざ痛と股関節痛 自力でできるリセット法』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
■筋肉は「使わない」のも「使い過ぎる」のもダメ
誰でも歳をとれば筋肉が衰えていきます。たいていの高齢者の筋肉は、「クタクタ筋」か「ダラダラ筋」のどちらかになっているはずです。
「クタクタ筋」というのは、「とにかく体を鍛えないと」と思ってスポーツジムに通い、バーベルなどのハードな筋トレを続け、そのやり過ぎで腱(筋肉の先端にある筋で、関節を動かすところ)が切れたり、同じような体勢を我慢し続けて硬くなったりした筋肉です。
姿勢が悪くて巻き肩や猫背やいかり肩になっている人も、肩こりの原因になる筋肉が常に緊張を強いられているので、そこもまたクタクタ筋になっているでしょう。
「ダラダラ筋」はその逆で、「運動なんかしなくても生活に支障はない」からと何もしないで月日を過ごしているうちに、すっかり緩んでしまった筋肉です。
運動を心がけている人でも、使わない筋肉については緩んでいるはずです。そのようなダラダラ筋は怠け癖がついていて、弱くなる一方です。
運動を「やり過ぎてしまった人」も「怠けてきた人」も、どちらも加齢とともに筋肉の力が弱り、関節の痛みが出るのが普通です。あなたがどちらのタイプにしても、ほとんどの人は日常の生活や姿勢で、筋肉の使い方がアンバランスになっています。
アンバランスというのは、使い過ぎのクタクタ筋と、使わな過ぎのダラダラ筋の両方があるということです。姿勢が悪くて肩こりになるのは、肩甲骨の前がクタクタ筋で、背中側はダラダラ筋になっている、アンバランスの典型例です。
クタクタ筋もダラダラ筋も、ほうっておいて「いい状態になる」ことはありません。むしろ節々の痛みが増していくだけです。やがて体のあちこちを動かすことが難しくなり、日常生活が危うくなります。少しずつ痛みが増して、当たり前にできていたことがどんどんできなくなる……。できれば避けたい事態ですよね?
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■「ダラダラ筋」を起こして「クタクタ筋」をケアする
あちこちの関節が痛むのは、そこの筋肉が「クタクタ筋」か「ダラダラ筋」になったからだとも言えます。
徐々に起こってきた関節痛は、怠け癖のついたダラダラ筋に包まれた関節の周辺から出る痛みです。怠けて眠っているダラダラ筋を起こさない限り、関節の痛みは治りません。クタクタ筋も、自分自身が弱っているのですから、そのままでは関節を守ることができないままです。
かつて、筋肉は歳をとったら弱くなるだけだと信じられていた時代がありました。20代をピークに、その後は衰える一方だと聞いたことがあるのではありませんか? けれども近年の研究によって、どんなに歳をとっても筋肉は鍛えられることがわかっています。
65~75歳の男女と85歳以上の男女に長時間の運動トレーニングをしたところ、その効果に差が認められなかった、という研究もあります。大人の体でも成長できるのです。もちろん、老化は避けられません。けれども、「老化」と同時に「成長」することはできるのです。
高齢であっても、痛みがある状態をマイナスだとしたら、マイナスをゼロに戻すだけではなく、ゼロからさらにプラスに右肩上がりの成長カーブを描くことを目指していいのです。
だいじょうぶ、きっとできます! こんな声を聞いたことがあります。若い頃から、体を動かすことよりも、家の中で手芸をするほうが好きだったという70代女性。少し太り気味だということもあるのか、10年ぐらい前から、少し動くとひざが痛むようになったそうです。
一戸建てに住んでいますが、階段を上がるのが大変なので、2階に住む息子さんの部屋には、もう何年も行っていないそうです。ご主人が亡くなってからは、散歩に連れ出してくれる人もなく、外出らしい外出は本当にしなくなったそうです。
息子さんから「歩いて7分なんだから、スーパーぐらい自分で行くほうが体にいいよ」と言われるそうですが、そう言いながらも買い物に行ってくれる優しい息子さんに頼りっぱなしだそうです。
ひざを動かすと痛い。痛いから動かないようにしている……、よくわかります。動かさなければ、痛むことは少ないですからね。
でも、本当に今のままの生活でいいのでしょうか? 家の中なのに、行けない所があるのは寂しくありませんか? スーパーで、自分の手で取ってお買い物をしたいはずです。本当は好きなだけ家の中を歩き回って、スーパーにもご自身で行きたいと思っているのではないかと想像すると、胸が痛みます。
大丈夫。動かしていなかったところを、少しずつ、優しく動かしていくことで、ひざの痛みを軽くすることはできます。
■「寿命」も「健康寿命」も縮めてしまう筋力の低下
関節痛がある人は、痛みを避けるために動かなくなりがちです。あなたは、そうなっていませんか?
でも、そのまま動かないでいると、体の活動量が減って運動不足になり、その結果、筋肉の力(筋力)が落ちます。弱くなってしまった筋肉は、「関節に適度な刺激を与えて、関節を守る」ことができなくなります。「関節を支える」ことも難しくなり、結果として関節痛がますます悪くなるという悪循環に陥ります。痛みから解放されるために、どうか筋力を落とさないでください。
筋力の低下は、関節痛であなたをつらくさせるだけではありません。筋力の低下は、あなたの「寿命」を縮めます。筋肉の量が減ると、さまざまな病気にかかりやすくなるからです。研究でも、筋肉量の割合が高い高齢者ほど、死亡リスクが低いことが報告されています。
筋力の低下は、あなたの「健康寿命」(健康上の問題による制限がなく生活できる期間)も縮めます。たとえば、筋肉が減ると転倒リスクが高まり、1度転ぶと寝たきりになってしまうこともあります。それで長生きができたとしても、「寿命」と「健康寿命」の差が大きくなるばかりです。
筋力の低下は、QOL(Quality Of Life:生活の質)も低下させます。関節痛がひどくなる、以前はできていたことができなくなり、いろいろなこと(身のまわりのこと、趣味、交友関係など)を諦めざるを得なくなるのです。
■関節を守るのは“弱い負荷”をたくさんかける筋トレ
筋肉は、使わなければ衰えて、その筋力は弱くなる一方です。筋力が弱くなれば、そこにある関節に負荷がかかります。ダラダラ筋につながった関節は、悲鳴を上げることになります。
筋肉は、使い過ぎれば疲れていき、やがて壊れます。そうなっても、そこにある関節に負荷がかかります。クタクタ筋につながった関節もまた、悲鳴を上げることになります。
筋肉を使うにあたっては、「過不足」のどちらもダメなのです。筋トレで適切な範囲の負荷をかけることができれば、「ちょうどいい刺激」になって、筋肉は守られて、関節も強くなります。「運動習慣が健康にいい」ことは医学的にも検証されています。適度な運動をしていれば、筋肉や関節が適度に動かされます。適度に刺激を受けて強くなった筋肉や関節は、あなたの痛みを和らげていきます。
筋肉を鍛えることが大事だと述べてきましたが、筋トレの負荷が大き過ぎると筋肉を傷めるリスクがあります。さらには関節を傷めるリスクもあります。これは、患者さんを見ながら私が日々痛感していることです。
筋肉を鍛えるために懸垂や腕立て伏せをしたり、スポーツジムで重いバーベルを持ち上げたりした結果、体中がクタクタ筋になってしまった患者さんを私はたくさん診てきました。ジムでベンチプレスやショルダープレスなどをやり過ぎて、肩の腱板断裂になる人も本当に多いのです。
その一方で、全然運動をしない人の筋肉は、すでに弱くなっています。そういう人が急に筋トレをすると、本人は「少しやった」つもりでも、やり過ぎになってしまいます。逆に言うと、そういう人は「軽く」動かすだけで効果があるのです。できる範囲で、根気強くやっていくことで、効果が出るのです。
「やり過ぎては傷める」「軽く動かすだけで効果が出る」という事象は、筋肉だけではなく、関節にも当てはまります。負荷をかけ過ぎると、関節は壊れてしまいます。けれども関節をまったく動かさなければ、関節は弱くなります。関節が弱くなっている人は、少し動かすだけで「やり過ぎ」になってしまいます。適切な負荷をかけてこそ、関節も強くなります。
あなたは筋骨隆々の体になりたいわけではないですよね? 節々の痛みがなくなって、健康寿命が延びることを望んでいることと思います。そうであれば、弱い負荷をたくさんかけるのがベストです。
■大人の筋肉にとって大事なのは「焦らない」こと
強い負荷をかけると、逆に関節を傷めてしまうことを肝に銘じてください。若い頃は野球に熱中していたという80代の男性がいます。甲子園には行けなかったけれど、練習すればうまくなる、弱点は克服できる、なにより努力は裏切らないことを学んだそうです。
ところが社会人になってからは、いつのまにかスポーツから遠ざかってしまったそうです。その代わり夜の付き合い酒が増え、気がつけば、すごいビール腹に……。
これではいけないと一念発起して、定年退職後に近所のスポーツクラブに入会したそうです。昔のスポ根を思い出して筋トレに励んだのですが、数年前に腕がおかしくなって整形外科に行ったところ、腱板断裂だと診断されてしまったとか。
以来、怖くなって、クラブは退会。もう何もしていないそうです。せっかく張り切って筋トレに挑戦したのに、どれほどがっかりされたことでしょうか。
そういう人は珍しくありません。ジムでパーソナルトレーニングを受けて自分を激しく追い込んだら腰を傷めたとか、ベンチプレスで肩鎖関節炎になったとか。腱板断裂もよくあります。
大人の筋肉にとって大事なのは、焦らないこと。筋肉をゆっくり、優しく、少しずつ鍛えていけばきっと良くなります。大丈夫。筋肉は裏切りません。幾つになっても変わります。若いときのスポ根とは違いますが、優しくゆっくり変えていくことはできますよ。
東洋経済オンライン
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最終更新:12/4(水) 5:02