気が付けば、都市部の繁華街などで、黒く大きくタイヤの太い「ペダル付き電気モーター駆動自転車」が車道のみならず歩道を走る姿が目立ってきました。「モペット」と呼ばれる原動機付自転車です。
このモペットの取扱いには、かなり注意が必要なようで、それゆえに近未来には、共同住宅の駐輪場の使用目的や用法の制限に「モペット駐輪禁止」などの特約が増えるかも知れません。
今回は趣向を少し変えて、新しい乗り物として注目されるモペットを取り上げてみたいと思います。
■タワマン火災の火元は電動バイクだった?
金融機関の行員・職員は、収益物件融資を実行した後も、対象物件について「空室が増えていないか」などを注視しています。物件の近隣などを通りかかった際に、外側から「洗濯物などが干されているか」「郵便受けに名前が記載されているか」などを目視確認することもあります。
当然、建物の損傷ほかトラブルにも敏感ですし、トラブルの芽もできる限り早期に摘んでおきたいと考えています。日頃から、そうした視点で様々な情報を絶えず集めて活用しているのです。
モペットのことも、そうした視点で捉えています。2月23日の現地時間早朝に、中国の江蘇省南京の34階建てのタワマン1階に停められていた電動バイク付近から出火した火災は、死者15人・重軽傷者44人の大惨事となったことが報じられました。
現場のタワマンでは5年前の2019年にも火災が発生しており、その際にも、火元とみられる場所に多数の電動バイクが駐輪されていた模様です。そうした報道を目にすれば、当然に「日本でも同じようなことは起きないか?」と考えるわけです。
本題からはややズレますが、金融機関の行員・職員は、原付バイクや自転車などの乗りものにとても敏感です。
なぜなら行員・職員が、数ある職業の中でも最もバイクや自転車に乗る機会が多い・比率が高い職業のひとつだからです。
筆者は今でも、近隣への訪問時などに金融機関の社有車(原付バイク)にまたがって出かけています。それゆえに、こうした乗り物を利用する利便性だけでなく危険性も肌で感じています。
■リチウムイオン電池の危険性
本題に戻ります。中国での報道内容からは、「電動バイクが火災を引き起こす?」という印象が与えられますが、結論から言えば、そうした可能性は否定し切れないようです。
モペットを動かす電気モーターは、リチウムイオン電池を電源としています。この電池は、(1)正極(プラス極)、(2)有機電解液、(3)負極(マイナス曲)で構成され、リチウムイオンが+極と-極の間を移動することで充電や放電を繰り返す仕組みです。この有機電解液が可燃性の液体のため、容量が大きくなると、危険物扱いになります。
東京消防庁によれば、2022年中にリチウムイオン電池に関連する火災は150件に達し、前年よりも9件増加しています。内訳では、モバイルバッテリー35件、(スマホを含む)携帯電話16件、掃除機13件に続き、電動アシスト自転車が12件と第4位を占めています。
リチウムイオン電池には、強い圧力や衝撃が加えられた際に発熱・発火の可能性があるほか、運用時にも厳格な電圧制御が必要で、低温と高温の環境に弱いという厄介な特性があります。
車両本体のみならず、運転者の体重や荷物なども重量をモーターだけで動かすモペットのリチウムイオン電池の容量は、スマートフォンなどに比べて当然に大きくなり、有機電解液も多量になります。
車両本体の重量が重く、モーターだけで稼働させられる分だけ、電動ママチャリ(電動アシスト自転車)に装着されているものよりも電解液の量が多くなるのです。
もっと重い車体を稼働させる電気自動車(EV)のリチウムイオン電池には、国連協定規則の「ECE R-100 Part II」で定められた基準をクリアすることが求められています。
9項目の試験によって、電解液漏れ・破裂・発火・爆発の兆候が確認されているわけですが、モペットにはそうした基準はありません。
総じて言えば、軽量化やローコスト化のため安全対策も簡易な内容にとどめた車両が多くなり、走行中に気温などの影響を直接的に受けやすくなっていることが想像に難くありません。
よって、例えば高気温下で走行させたモペットを駐輪場に停めた後、転倒・追突・落下物との遭遇など何らかの衝撃がリチウムイオン電池部分もたらされれば、発火・燃焼の可能性が高まります。
その付近に他のモペットや電動アシスト自転車などが停められていれば、それらのリチウムイオン電池内の有機電解液に延焼をもたらす可能性もあるでしょう。
■クルマ離れ、自転車シフト
東京カンテイが2015年7月に公表した調査結果では、沖縄県・長崎県を除く新築マンションの駐輪場設置率は100%に達し、東京ほか人口の多い都市圏ほど高い傾向が認められた模様です。
対照的に、首都圏の新築マンションでの自動車用駐車場の設置率は、減少傾向にあるようです。不動産経済研究所が2017年9月に公表した調査結果では、2007年をピークに右肩下がりで減少し続ける実情が認められます。クルマ離れだけでなく、自転車へのシフトがうかがえるわけです。
こうしたマクロ的な動向は賃貸物件にも及ぶことでしょう。自転車・原付ユーザーにとっては買って置きやすくなったわけですが、金融機関や保険会社目線では、モペットがまとめて置かれる可能性も高まった一面を注視する可能性もあります。
と言うのも、冒頭でも触れたようにモペットの車輪は太いものが多く、2段式などの自転車ラックに収納できない事象が少なくありません。
結果として、集合住宅では駐輪場などに平置きされる事象がもたらされているわけですが、台数が増えれば火災発生の可能性も高まり、並べて置かれれば延焼の可能性が高まるわけです。
■緩い規制、トラブルの種に?
現在路上を走行しているモペットは、(海外での生産を含む)国内メーカー製のものと、海外メーカーのものがあります。
モペットの多くは、最高出力と最高速度によって「特定小型原付」に分類されますが、保安基準への適合性等について審査を受ける型式認定制度については、「受けることができる」位置づけです。
言い換えれば、販売に先立った認定取得は必須ではなく、取得せずに販売・走行させても違法ではありません。
それゆえに、国内の型式認定では取得できないような保安基準のモペットが輸入・走行されている可能性も否定できないわけです。
自賠責法第24条により、保険会社は正当な理由なしに自賠責契約の締結を拒否できませんが、形式認定が取得されていないような車種についての保険契約は、躊躇することが想像に難くありません。
普及に伴って、ナンバープレート未装着などモペットの違反は増加傾向にあるようで、昨年の摘発は345件に達しています。
ナンバーを取得・装着していない車両の所有者が自賠責に加入しているわけはなく、自賠責法第5条違反となって1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
技術革新による市場拡大自体は利便性が向上し経済も活性化するため歓迎すべき事象ですが、無保険を含む法令違反車が相当数走行する実情を歓迎する向きは少ないことでしょう。
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こうした実情を鑑みた管理組合なり収益物件オーナーなりが、「駐輪場にはモペットを置かないでくれ」という判断をする可能性があります。そんな情報が不動産管理会社や金融機関などを通じて徐々に広まっていく可能性もあるでしょう。
「モペットはトラブルの種」と捉えられる見方が相当数に達すれば、民泊などと同様に、規制の対象となったり、マンションの管理規約などに記載される可能性もあると考えます。
佐々木城夛/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
最終更新:5/22(水) 19:30
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