ホンダ新型「アコード」に乗って感じたのは万人受けする走りと運転のしやすさ、セダン不況を打開できるのか

3/27 11:02 配信

東洋経済オンライン

 本田技研工業(以下、ホンダ)の新型ミドルサイズ4ドアセダン「アコード」の乗り味をひと言で表現するならば、「誰もが安心して乗れるクルマ」ではないだろうか。2024年3月中旬に開催された報道関係者向け公道試乗会に参加し、試乗してみた印象だ。

■新型アコードの進化点

 ホンダの国内フラッグシップとなる最新の11代目モデルは、独自の2モーター式ハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」を進化させるとともに、最新の安全運転支援システム「ホンダセンシング360(Honda SENSING 360)」を国内ホンダ車に初搭載したなど、数々の先進技術を投入することが特徴。それらにより、ワインディングなどではスポーティな走りを堪能できる一方、高速道路では極めてラグジュアリーなクルージングを味わえる。

 また、市街地では、モーターのみで駆動するEV走行の対応速度も拡大し、より静かな走りも実現する。しかも、そうした多様なシーンのすべてで、ドライバーはもちろん、助手席や後席も含めた乗員すべてが、ストレスを感じにくく、まるで居心地のいいリビングにいるような快適さを持つ。そして、それら特性により、このモデルは、幅広いユーザーへ安心感を与える「いいクルマ」に仕上がっていると実感した。

 では、実際、アコードのどんな点において、筆者がそうした印象を持ったのか。箱根周辺のワインディングや高速道路、市街地など約90kmを走った試乗記を紹介しよう。

■新型アコードの概要と変更点

 2024年3月8日に発売を開始した新型アコードは、1976年に登場した初代モデル以来、日本をはじめ、北米など海外でも根強く支持されているロングセラーモデルの最新版だ。50年近い歴史のなかで、熟成を重ねてきた新型4ドアセダンの主な変更点は、まず、外観に力強いノーズと伸びやかで流麗なシルエットを採用。ホイールベースや全高は先代の10代目アコードを踏襲しつつ、全長を75mm、リアトレッドを10mmそれぞれ延長。さらにロー&ワイドでスポーティなフォルムを持たせつつも、より安定した雰囲気を演出している。

 パワートレインには、2.0L・直列4気筒エンジンと、走行用と充電用のモーター2基を組み合わせた新開発のハイブリッドシステム「スポーツe:HEV」を搭載。ポート噴射式を直噴式に変更したエンジンは、最高出力を先代の107KW(145PS)から108kW(147PS)、最大トルクを175N・m(17.8kgf-m)から182N・m(18.6kgf-m)にそれぞれアップしている。

 また、新型の2モーター内蔵電気式CVTは、走行用モーターの最大トルクを、先代の315N・m(32.1kgf-m)から335N・m(34.2kgf-m)と大幅に増大。モーター走行の最高速度を引き上げつつ、エンジン走行では低回転でクルーズできるように駆動力と静粛性の両立を図っている。

 ほかにも、前述した最新のホンダセンシング360を装備し、先進機能も向上。グーグルの搭載により、グーグルマップや音楽など多様なアプリはもちろん、音声操作などの各種機能を活用できる12.3インチのセンターディスプレー「Honda CONNECTディスプレー」を新採用するなど、各部をアップデートしている。ラインナップはハイブリッドの2WD(FF)車のみで、価格(税込み)は、先代モデルから約80万円アップした544万9400円だ。

 今回試乗したのは、外装色がプラチナホワイト・パールの仕様。なお、ボディカラーには、ほかにもクリスタルブラック・パール、メテオロイドグレー・メタリック、イグナイトレッド・メタリック、キャニオンリバーブルー・メタリックの計5色が設定されている。

 全長4975mm×全幅1860mm×全高1450mmのボディは、とくにサイドビューが印象的だ。ロングノーズ化されたフロント部と後方へ流れるように伸びるリアセクションが、まるでクーペモデルのようなスポーティさを醸し出している。

■運転席やメーター類について

 ブラックを基調とする室内は、本革巻ステアリングホイールやスムースレザーのシートなどにより、高級感が高い。ユーザーの選択した色に合わせて室内空間を光で演出する「LEDアンビエントランプ」などにより、心落ち着く室内空間を演出する。

 運転席に座ると、まず目に飛び込んで来るのが10.2インチの「デジタルグラフィックメーター」だ。右側に速度計、左側にハイブリッドシステムの出力や減速時にバッテリーへの回生状況などを示す「パワーメーター」を装備。中央部のマルチグラフィックディスプレーは、安全運転支援システムの作動状況や航続可能距離、平均燃費など、さまざまな情報を表示できる。

 また、グーグルマップのナビゲーション情報をセンターディスプレイだけでなく、メーター内にも映し出すことが可能。初めての慣れない道をドライブする際は、メーターだけを見ていればよく、運転に集中できる。今回の試乗でも、ほとんどのシーンでメーターへこの機能を表示させて走行。曲がり角などのルート指示を見逃すこともほぼなく、スムーズに全ルートをトレースすることができた。

 ちなみに搭載するグーグルの機能には、さまざまな設定を音声操作できる「グーグル・アシスタント」も採用。最初に「OK!  グーグル」と言うだけで、ナビの目的地や音楽の再生、車内温度など、さまざまな設定が可能だ。ただし、グーグルマップの目的地設定では、ちょっとコツも必要だった。今回は、事前に設定されたルートを走行中に、ちょっとトイレ休憩を入れたかったので、「OK!  グーグル、トイレに行きたい」と話したところ、「ご丁寧に報告していただきありがとうございます」と返答されてしまった。

 その後、「トイレのある場所を案内して」と言い直す。すると、ちゃんと公衆トイレのある場所を案内してくれたので、助かった(間に合った)。こうしたAIを活用した機能は、とても便利で、今後さらに普及が進みそうだ。だが、正しく使えるようになるには、ある程度の慣れや学びが必要なことも実感した。

 ほかにも、このモデルには、エアコン吹き出し口の中央部下に「エクスペリエンスセレクション ダイヤル」も新採用。エアコンやオーディオソース、音量、照明の色や明るさなどの設定を組み合わせて登録し、1つのダイヤルでまとめて簡単に操作できる機能も追加されている。

■走行モードや減速セレクターについて

 水平基調のインストルメントパネルなどにより、運転席からの視界はかなり広い。なお、新型アコードは、ワイパーをドライバーから見えづらい位置に格納していることも変更点。これは、ドライバーの目にできるだけ気になるものが入らないようにする配慮で、より運転に集中できる視界を演出している。

 センターコンソールにある「D」ボタンを押すとドライブに入り、クルマは発進可能な状態となる。なお、アコードが採用するe:HEVシステムは、主に3つの走行モードを自動で切り替える仕組みだ。走行用モーターのみで走る「EVモード」、エンジンの力で発電した電力で走行用モーターを駆動する「ハイブリッドモード」、高速道路をクルーズする際など、エンジンの得意領域でエンジンの力を使う「エンジンモード」がある。

 また、走るシーンに応じて選択できる5つのドライブモードも設定。すべてのシーンにおいてリニアで軽快な走りを楽しめる「NORMAL(ノーマル)モード」、快適性を最大限まで高める「COMFORT(コンフォート)モード」、エコドライブをアシストする「ECON(イーコン)モード」、ダイレクトで力強い走りでワインディングを楽しむ「SPORT(スポーツ)モード」を用意。加えて、新型では、ユーザーの嗜好にあったセッティングを設定できる「IDIVIDUAL(インディビジュアル)モード」も追加し、より多様なドライバーの要求に対応している。

 さらにアクセル・オフ時に減速の強さを変えられる「減速セレクター」も装備。ステアリングの左右にあるパドル型スイッチがそれで、右側の「+(プラス)」で減速度を下げる操作、左側の「-(マイナス)」で減速度を増す操作ができる。また、新型では、調整範囲を先代モデルの4段階から6段階に拡大したほか、減速度も増大。減速力が最大となる6段(最小は1段)では、停止間際まで減速することができるほか、アクセルペダルだけで加減速をコントロールできるワンペダルドライブも可能としている。

■スポーティさが際立つワインディングロード

 まずは、箱根のワインディングを走ってみる。センターコンソールにあるドライブモードスイッチを操作してSPORTモードに設定し、アクセルを踏み込んでみると、とてもスムーズかつシャープな加速感を味わえる。やや急な登り坂でも、グングンと車速が伸びて心地よい。

 また、SPORTモードの場合、減速セレクターは設定した減速度に固定される(ほかのモードはアクセルを踏むと自動でモード解除される)。そのため、まるでMT(マニュアル・トランスミッション)車についたパドルシフトを扱っているような気分も味わえる。コーナー手前の減速時は、ブレーキペダルを踏み込みながら左の「-」スイッチで減速度をアップし、制動力をサポート。コーナーを抜け立ち上がる際は、アクセルペダルを踏み込みつつ、右の「+」スイッチで減速度を下げて、加速度を増していく。軽快ながら安定した走りは、まるでスポーツカーのようだ。

 しかも新型では、クルマが横Gを検出するとワインディングを走っていると判定し、エンジン動作をコントロール。つねにハイブリッドモードに固定する仕組みとなっている。先代モデルでは、このようなシーンで、ハイブリッドモードからEVモードに切り替わり、エンジンが一旦停止してしまうケースもあった。そうした場合、加速時などに再びハイブリッドモードとなりエンジンが再始動しても、アクセル操作に対し加速の応答が遅れてしまうことがある。

 そこで、ワインディングではエンジンをつねに稼働させるハイブリッドモードへ固定。これにより、減速からコーナーの旋回、立ち上がりの再加速までがとてもスムーズとなり、出力をアクセル操作で自在にコントロールしている気分を味わえた。

 ちなみに加速時のエンジンサウンドも抜群だ。ハイブリッドモードの場合、エンジンは走行用モーターを充電するための役割で、駆動には使われない。だが、乾いた高周波サウンドは、そうした事実を忘れてしまうほど爽快。昔ながらの4気筒スポーツモデルに乗っているような、ちょっとヤンチャな気分さえ味あわせてくれる。

■ハンドリングやサスペンションの絶妙な味付け

 また、ハンドリング性能もかなり良好で、思いどおりに車体を操れる感覚を味わえた。右に左に連続するタイトなコーナーでステアリングを切り返す場面や、コーナーの先が狭くなっているような複合コーナーでステアリングを切り増しするようなシーンでも、車体がドライバーの意思に対しリニアに反応してくれる。

 さらにサスペンションも絶妙。減速時のブレーキ操作やアクセル・オフ、加速時のアクセル・オンなどに対し、車体の前後移動が少なく、とても安定している。コーナリング中にイン側が沈み、アウト側が浮くような感じになるロールもさほど大きくない。また、減速時や旋回中などで、荷重に対し前後サスペンションがしっかりと踏ん張ってくれるので、車体がフワフワする頼りなさも感じない。それでいて硬すぎる感じもないから、路面の凹凸などに対しゴツゴツと室内に衝撃がくるような症状も出ない。しなやかによく動くのに、乗り心地も快適なのだ。

 こうした特性は、おそらく、いわゆる電子制御サスペンション「アダプティブ・ダンパー・システム」の効果だろう。先代モデルにも採用されていたこの機構は、車載のセンサーで車両挙動などをリアルタイムに検知し、ダンパー内のオイル用を1/500秒単位で最適な減衰力にコントロールするシステムだ。ドライブモード毎にサスペンションの動きを最適化し、とくに荒れた路面での乗り心地向上や安心感のあるハンドリングに貢献する。

 新型では、車両状態のセンシング性能向上などにより、このシステムがさらに進化している。6軸センサーの情報から車両の状態を検出し、ダンパーの減衰力を自動で4輪独立制御する。これらにより、前述のような効果を体感できた。また、ホンダによれば、後席の快適性も向上しているそうで、例えば、後席の乗員が走行中にスマートフォン操作を楽にできるといった効果も生み出しているという。

■統合制御による恩恵を実感

 足まわり関連の機能では、アコードに初採用された「モーションマネジメントシステム」も注目だ。これは、コーナリング中にハンドル操作にあわせて、パワートレインとブレーキを統合的に制御するシステム。旋回中などにパワートレインのトルクを少しだけ抜きブレーキも制御することで、前輪の荷重を増やす効果を生み出す。前輪のグリップ力が増すことで、あらゆる路面・環境下で旋回性能がアップするのだ。雪上でのレーンチェンジから高速道路のジャンクションなどでのコーナリング、ワインディングなど、幅広いシーンで意のままのハンドリングを実現するという。

 たしかにワインディングを走っているとき、タイヤの接地感を十分に感じられ、高い安心感を得られたのは、このシステムのおかげだろう。こうした先進機能により、ワインディングでの新型アコードは、軽快で快適、そしてスポーティな走りを味わえて、とても楽しいドライブを堪能できた。

■下り坂で効果を発揮する減速セレクター

 ワインディングでの走りを味わったあとは、長い下り坂が続く国道を走行し、減速セレクターの効果を試してみた。車速や前車との車間距離の調整を、フットブレーキをあまり使わずにできるかどうかのテストだ。一般的に長い下り坂で先行車に追いつくと、ブレーキペダルで車間調整を行うことが多い。

 だが、あまりブレーキを多用しすぎると、フェード現象やペーパーロック現象が起こり、ブレーキが利かなくなる危険性もある。そこで、減速セレクターでアクセル・オフ時の減速度を上げれば、あまりブレーキを使わずに車速や車間の調整が可能なはず。とくに新型モデルの減速セレクターは、先に紹介したように、減速度が増したほか、選択範囲も6段階に広がっており、より多様な状況なシーンに対応している。

 先ほどのワインディングでは、SPORTモードを多用したが、今回はそれ以外、NORMAL、COMFORT、ECONの各モードを使ってみる。これは、SPORTモードの場合、設定した減速度が固定されるが、それ以外のモードでは、アクセルペダルを踏むと減速度が解除されるためだ。そのため、例えば、先行車に近づきそうになったときだけステアリング左にある「-」パドルで減速度を上げて制動、車間が離れればアクセルを踏むだけで車速を伸ばすといった、よりイージーな走りができる。

 実際に、各モードで同様のやり方をやってみたが、いずれも渋滞で前のクルマが停車したときを除けば、ブレーキペダルを一切踏まずに、車速や車間の調整しながら走ることができた。減速セレクターは、この点も加味すれば、ワインディングでコーナーを楽しむだけでなく、下り坂などでより安全性を向上させることもできる機能といえるだろう。

■高速道路でも安心感と余裕が増した

 高速道路でも、料金所から本線への合流や、法定の最高速度までの加速などで余裕ある走りを実感できた。例えば、80km/h程度までの比較的ゆるい加速から、前車に追いつくため100km/hへ一気に加速する際などは、アクセルを踏み込む操作に対し、出力が素早く反応し、ストレスを感じさせない。また、今回は新東名高速道路の最高速度120km/h区間も走ったが、より高い速度域の登り坂でも、走りは極めてスムーズだった。

 新型モデルのハイブリッドシステムは、こうしたシーンでエンジンモードを継続する設定となっていることが、こうした余裕ある走りを生んでいるのだろう。ホンダのe:HEVでは、前述のとおり、高速道路などエンジンの得意領域では主にエンジンの駆動力で走行するエンジンモードへ自動で切り替わる。だが、先代モデルでは、80km/hなどのゆるい加速時には、エンジンで走行しモーターで走るハイブリッドモードに切り替わり、燃費を優先する。その後、車速を上げようとアクセルを踏むと、再びエンジンモードに切り替わる設定となっていた。その際、従来の仕様では、切り替え時に出力のロスが生じる場合もあった。

 その点、新型はエンジンモードの継続によりその問題を解消。さらに、ゆるい加速時にはバッテリーのアシストでエンジンの作動負荷も低減するなど、エンジン回転数を低く抑えることで、静粛性も両立する。実際に高速道路の走行時でも、室内はとても静かだった。加速時の唸るようなエンジン音はもちろん、ロードノイズなどの雑音もほぼ聞こえない。そのため、12ものスピーカーを搭載する「BOSEプレミアムサウンドシステム」から流れる70年代ロックなど、筆者が好みの音楽もじっくりと堪能でき、心地よいクルージングを味わえた。

 なお、新型は、出力特性などを向上させつつ燃費性能もアップ。WLTCモードの高速道路モード値を22.6km/Lから23.6km/Lにアップ、WLTCモード総合値も22.8km/Lから23.8km/Lと、全体的に燃料消費量を低減させていることも注目だ。

■ホンダセンシング360の機能について

 高速道路では、ホンダセンシング360の搭載により、進化した「ACC(アダプティブクルーズコントロール)」の機能も試してみた。ACCとは、ご存じのとおり、アクセル操作をせずに設定速度で巡航できるほか、車間距離を自動で保ちながら前車を追従する機能だ。アコードの場合は、従来の「ホンダセンシング」を搭載した先代モデルにも採用した渋滞追従機能もついており、渋滞などで前車が停止すると自車も停止。前車が再び発進すると、ドライバーの操作で追従を再開する機能も有している。

 ちなみに、新型アコードが採用する安全運転支援システムのホンダセンシング360は、フロントセンサーカメラを進化させ、有効水平画角を従来の約90度から約100度へ拡大。また、フロントと各コーナーに計5台のミリ波レーダーを装備したほか、リアコーナーレーダーが行う後ろ側方の検知範囲も、従来の25mから90mに伸ばすなどで、360度センシングを実現する。これら進化により、新しく「前方交差車両警報」、「車線変更時衝突抑制機能」、「車線変更支援機能」といった3機能を追加。ACCも改良されるなどのアップデートが図られている。

 なお、前方交差車両警報は、一般道の交差点などで停車状態から発進する際などに、左右前方から接近する交差車両の情報を通知する機能。また、車線変更時衝突抑制機能は、車線変更をする際、後方から接近する隣車線の車両との衝突回避を支援する機能だ。さらに車線変更支援機能は、高速道路などで渋滞追従機能付きACCと車線維持支援システム「LKAS」の作動中に、一定の条件を満たした状態でドライバーがウインカー操作をすると、システムが車線変更に伴うハンドル操作を支援する機能となっている。

 新型アコードの進化したACCでは、まず、設定速度で巡航している最中、遅い前車へ追いついたときに効果を実感できた。従来のACCよりも、減速がゆるやかとなり、安心感が高まったのだ。これは、前を走る遅い車両をより遠方にいる時点で発見できるようになったことで、早期の減速開始が可能となったためだ。従来のACCでは、前車との車間距離を取るための減速が急にはじまるように感じるケースもあり、「ちゃんと止まれるのか?」といった不安を覚えるケースもあった。

 一方、新型は、今回の試乗ではそういった不安は一切感じず、よりドライバーの感覚にマッチするようになったといえる。ほかにも、新型のACCでは、コーナーを旋回する際に自動で速度を落とす機能もあり、旋回中の安定性も向上。これらにより、ACC作動時も、より安定し、安心・快適な走行を実現しているといえる。

■車線変更支援機能は慣れも必要

 なお、今回の試乗では、先述した車線変更支援機能も試してみた。機能の操作は、ホンダセンシング360やACC、LKASを作動させ、ウインカーを移動したい車線側へ約1秒間ハーフストロークで保持するだけ。すると、システムが移りたい車線の後方から他車両が近づいてきていないことを確認後に、ハンドル操作を支援する。

 使い方はとても簡単そうだ。ところが、実際に数回ほど試してみたが、いずれもシステムが途中で解除されてしまった。何回かは、システム作動中に移りたい車線へ後方から車両が近づいてきたためだった。だが、不思議だったのが、後方に接近車両がいないケースでも、同じくシステム解除されたのだ。

 なぜだろう?  試乗後に、ホンダの開発者へ確認したところ、「おそらくステアリングを強く握りすぎたのか、無意識に自分でハンドルを切ろうとしたためではないだろうか」とのこと。この機能は、「ドライバーの操作を優先する」設定となっているため、システムの動きを筆者が邪魔してしまった可能性があるようだ。たしかに、システム起動時に多少ステアリングが自動で動いた感覚はあったのだが、それに対し、無意識に自分で補正をしてしまったのだろう。ホンダの開発者によれば、この機能は「車線変更が苦手なドライバー向け」とのこと。筆者のように、車線変更を苦に感じないドライバーにとっては、ちょっとわかりづらいし、あまり使わなくてもいい機能なのかもしれない。

 なお、ホンダは、2025年に、より高度化した安全運転支援システム「ホンダセンシング360+」をアコードに採用することを発表。「ハンズオフ機能付高度車線内運転支援機能」や「レコメンド型車線変更支援機能」などの新機能も追加されるという。それらの詳細については未発表だが、一定の条件を満たせば、手放し運転も可能になり、車線変更の支援も高度化されるなど、より便利で高い安全性に寄与することが期待できる。

■市街地ではEV走行が力を発揮

 最後に、市街地を走ってみた印象を紹介しよう。新型モデルでは、走行用モーターのトルクアップなどにより、EV走行できる速度域を50km/hまでに拡大している。これにより、例えば、夜間に住宅街を通過する際などには、より静かな走りが可能だ。

 EVモードの設定は、センターコンソールにあるEVスイッチを押すことで可能だ。3つの走行モードを状況に応じ自動で切り替える「AUTO(オート)モード」を、EV走行に固定する「EVモード」に変更すればOKだ。実際に、EV走行で街中を走ってみると、信号待ちからの発進などでも、かなりスムーズに加速する。とても走行用モーターのみで走っているとは思えないほどだ。十分に交通の流れに乗れるから、ストレスもまったくない。当然ながら、室内はとても静かだし、エンジン音がないから周囲の住宅環境にも優しい。

 なお、新型では、EVスイッチにバッテリーへの充電を優先する「CHARGEモード」も追加している。例えば、昼間の走行でこのモードを使い、バッテリーへ十分に充電しておけば、夜に帰宅する際には存分にEV走行ができる。新型は、EV走行についても、より自在な選択肢を持たせているといえるだろう。

 また、先述した減速セレクターは、渋滞路で頻繁にストップ&ゴーを繰り返すシーンでも便利だった。減速度を上げれば、アクセル操作だけで加速と減速ができるワンペダルドライブを可能とするからだ。とくに最大減速度の6段にすれば、ブレーキ操作なしで、車両をほぼ停止状態にすることができる。信号待ちなどで、完全停止する場合は、最後にブレーキをかけないとクリープ走行してしまうが、一旦停止してしまえば、「オートブレーキホールド」機能もあるため、ブレーキペダルを踏み続ける必要もない。これらにより、渋滞が続く市街地などでも、ドライバーは疲労を可能な限り少なくすることができる。

 ほかにも新型アコードには、ホンダセンシング360の新機能として、駐車をほぼ自動で支援する「Honda・パーキングパイロット」も搭載する。これは、例えば、並列駐車の場合、駐車スペース横に車両を停車させ、専用スイッチを押せば、車両が駐車枠を検知しセンターディスプレーに表示。駐車可能な枠を幾つか表示するため、希望の枠を指でタッチすればシステムが作動。ステアリングやアクセル、ブレーキをはじめ、前進・後退などのシフト切り替えまで、一切の操作を自動で行ってくれるというものだ。

 もちろん、ドライバーは、周囲の安全を確認するほか、まさかの時に備えステアリングやブレーキなどの操作をできる状況にしなければならない。だが、狭い駐車スペースへクルマを停めるのが苦手なドライバーなどにはありがたい機能だ。しかも、このシステムは、駐車枠がある場所の並列駐車や縦列駐車、斜め駐車に対応。駐車枠のない場所でも、並列や縦列の駐車、縦列出庫を可能としている。

■セダン回帰なるか、今後の行方

 以上から新型アコードは、ワインディングから高速道路、市街地まで、幅広いシーンでドライバーの要求へリニアに対応してくれるクルマだといえる。また、コーナーをハイペースで走ればスポーティな面をみせてくれるし、高速道路などをゆったりと走れば心地良さも提供する。その高い安定性は格別だ。ドライバーだけでなく、助手席や後席などの乗員にも、快適な移動空間を提供する。

 今回は後席での移動は体験しなかったが、幅広いシーンでクルマに大きな挙動が起きないため、きっと乗り物酔いするケースも少ないだろう。より多様な乗員のニーズに対応する快適性が生む安心感、それを具現化しているという点で、このクルマは非常によくできていると思う。

 なお、新型モデルは、先述のとおり、2024年3月8日より発売中で、販売計画台数は月間200台。試乗した2024年3月14日現在で、ホンダによれば、「180%の受注が入っている」とのことだから、出足は好調のようだ。SUVが活況の現在、かつてほどセダンモデルは売れないものの、ホンダのフラッグシップとして登場した11代目が、今後どのように市場からの反響を得るのか注目だ。

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最終更新:3/27(水) 17:41

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