東京のバンカー報酬は香港やNYに及ばず、市場活況で仕事量増加でも

3/26 8:00 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 日本の金融市場が活況を呈し、東京で働く投資銀行関係者の仕事量は増えているが、変わらないことが一つある。他の国際金融都市で働くバンカーと比べて相対的に見劣りする報酬だ。

丸の内や六本木といったビジネス街で働く十数人のシニアバンカーやリクルーターに話を聞くと、多くの場合、香港やニューヨークなど他の金融都市で働く同業者と比べた報酬は数分の一にとどまっていることが浮かび上がる。

国際的な投資銀行では、2023年のボーナスは東京で平均して約10%減少したと関係者は推定する。日本国外での業績と連動した影響が出ているという。

伝統的に欧米と比べて経営トップ層の報酬がはるかに低い日本では、厳しい労働法制によって解雇も難しくなっているため、低い報酬を受け入れることが期待されている。

外資系人材紹介会社のヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパンの金融部門採用責任者、ジャック・ブレナン氏は「企業の合併・買収(M&A)分野も不動産分野もプライベート・エクイティー(PE、未公開株)分野もビジネスは非常に好調だ。しかし、従業員への還元はまだ十分に行われていない」と語る。

金融データ・分析を提供するコーリション・グリニッチによると、ウォール街と欧州の投資銀行は昨年、日本の債券取引から前年比約3割増となる26億ドルの収益を上げた。欧米の上位12行のデータを対象に分析した。

しかし、報酬の増加にはつながらなかった。ある外資系投資銀行の債券トレーダーの報酬は1億円弱で、これはそのトレーダーが23年にもたらした収入の約1%に当たる。もし、香港やニューヨークを拠点にしていれば簡単に倍増しただろう。

東京でのバンカーの報酬の見劣りは、デフレからの脱却を目指す日本経済の先行きに対する楽観論とは対照的だ。ウォーレン・バフェット氏は今年、日本に対して強気な見方を示している。ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は昨年10月、日本の取り組みに1980年代の「経済の奇跡」の再現が見られると述べた。

こうした見方を裏付けるように、日本でのディール数は活発だ。ブルームバーグのデータによると、日本に関連するM&Aは、今年これまでに前年同期比55%増の約230億ドルに達した。昨年10ー12月期から同様のペースで増加している。23年のアジア全体の取引のうち、日本関連は22%を占め、過去4年間で最高となった。

日本と比べて、ウォール街の昨年のボーナスの1人当たり平均額は、取引案件の不振が続く中、わずかに減少した。ニューヨーク州の会計監査官の分析によると、2%減の17万6500ドル(約2655万円)と19年以降で最少となった。

東京のバンカーの報酬が香港やニューヨークなどと比べて低いのは、日本がデフレから脱却し、経済の見通しが楽観的になっているのとは対照的だ。

ある米系投資銀行の幹部は、過去10年間、取引の停滞に伴い、バンカーの報酬は低下していると述べた。こうした傾向は、東京を国際金融都市にするという長年の目標を実現する上で、人材誘致面において不利になるリスクをはらむ。

岸田文雄首相は「資産運用立国」を掲げ、国内外の優れた金融機関や人材が日本に集まることで運用能力を高め、より良い商品やサービスを提供する金融資本市場の実現を目指すとしている。

日経平均株価は今年、過去最高値を更新した。株式市場の活況は、野村ホールディングスなどの国内証券会社や、海外の機関投資家から注文を受ける外資系証券会社にとっては、収益の押し上げ要因となることから、報酬の引き上げにつながるのではとの期待もある。

モーガンマッキンリーの熊沢義喜ディレクターは、大手外資系証券でエクイティ・セールスやトレーダーの人員を増やしているところは見当たらないが、人材へのアプローチは増えており、「潜在的」な需要はあると指摘。「ヘッドカウント拡大に青信号が出た段階で雇えるよう青田買いのような動きが活発化しているのは事実」という。

日本で異例だったのは、国債や金利に連動する証券を扱う金利トレーダーの報酬だ。この問題に詳しい関係者によると、優れたトレーダーの場合、23年の報酬は平均で約2倍の約150万ドル、まれなケースでは300万ドルに達するケースもあるという。

日本銀行の元審議委員で慶応義塾大学教授の白井さゆり氏は、外資系金融機関は日本人が銀行口座に預けている多額の預金を他の資産に投資すれば、ビジネス機会が生まれると考えているかもしれないが、高齢化社会において人々はより慎重になる傾向があるとして、先行きは不透明だとみている。

過去30年間、ウォール街の金融機関が中国本土に進出するために香港などの拠点にリソースを注いだため、東京は主要な国際金融センターとしての地位を築く機会を逃してきた。中国が香港を厳しく管理し、シンガポールの生活費が高騰している現在でも、これらの都市が選好されている。

ヘイズ・ジャパンのブレナン氏は「香港からの人材流出は数年前から続いているが、さらに悪化している。シンガポールも同様だ」と指摘する。

そうした環境下では金融のプロフェッショナルを日本に誘致しやすくなるはずだが、報酬の少なさが壁になっているという。ブレナン氏によると、東京での人材仲介に関する候補者とのやりとりはほとんどが双方の失望に終わるという。「優秀な人材であれば、香港やシンガポールの報酬は東京よりもはるかに高いからだ」と述べた。

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--取材協力:Patrick Winters、Manuel Baigorri.

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最終更新:3/26(火) 8:00

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