苦しければ「抗がん剤」はやめてもいい…がん診断を受けたときに、患者や家族が最初に知っておくべきこと

5/9 8:17 配信

プレジデントオンライン

がんと診断されたらどうすればいいのか。腫瘍内科医の勝俣範之さんは「確定診断後の最初の治療がいちばん大事だ。特に早期がんでは手術の前後に行う抗がん剤治療の効果が高い。ただし、『がんを克服しよう』と考えて、抗がん剤をむりに使い続けるのは避けたほうがいい」という――。

 ※本稿は、勝俣範之『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「抗がん剤の吐き気の8割」はなくすことができる

 薬物を使ってがん細胞をやっつけたり、がんの進行を抑えたり、がんの再発や転移を防いだりする目的で行われるのが薬物療法です。

 一般的には「抗がん剤治療」という呼び方のほうが知られているかもしれません。

 近年、がん治療の中でもっとも進化しているのがこの薬物療法で、2016年に甲状腺がんに有効と認められて以来、抗がん剤がまったく効かないというがんはなくなりました。

 一方で、抗がん剤には副作用があります。それがこの治療の難しさの1つで、薬によっても異なりますし、患者さんによっての個人差もあり、抵抗感や誤解が多いところです。

 主な副作用のなかで、最もつらいといわれる「吐き気」については、これを抑える制吐薬が開発されて、8割は吐き気をなくすことができるほどになっています。

 脱毛も、頭部を冷却することで、かなり抑えることができるようになりました。

 こうした副作用を軽減して生活の質を落とさない「支持療法」という治療法が進歩してきています。吐き気をあらかじめ抑える制吐薬の処方もそれにあたります。

■再発防止のためには手術後の抗がん剤治療が有効

 現在、抗がん剤は160種以上あり、4つのタイプに分類されます。

 化学物質によってがん細胞を破壊したり、がんの増殖をおさえたりする抗がん剤による「化学療法」、ホルモンを利用して、増殖する性質をもつがんに対してその作用を抑える薬剤を用いる「ホルモン療法」。また、がん細胞だけがもつ特有の分子だけを標的にして攻撃する「分子標的薬」。最近では「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる新しい薬を使った免疫療法も登場してきました。

 特に早期がんでは、手術の前後に行う抗がん剤治療が、再発を防止するために大きな役割を果たします。

 手術でがんを取り去っても、再発を減らすという意味で、ぜひともやっていただきたいと思います。

 なぜなら最初に徹底的にやっておけば、再発しない可能性がかなり高くなるからです。

 逆にいうと、このタイミングは取り返すことはできません。

 患者さんが術後の抗がん剤治療に積極的になれないのは、医療側がきちんと説明できていないからという責任もあると思います。

■ステージ4で全身に転移していても「末期がん」ではない

 紋切型に「末期がん」と言われてしまいがちなステージ4や再発がんも、抗がん剤の進歩によって上手に共存しながら生きていけるようになっています。

 私の患者さんで、乳がんが再発、転移した方がいらっしゃいますが、骨転移、リンパ節転移、肝臓転移と、全身に転移し、もう40年も抗がん剤治療を続けておられます。

 ですから、ステージ4=末期がんではありません。

 これは知っておいていただきたいと思います。ステージ4でも長生きして天寿をまっとうすることはできるのです。

 そもそも、がんのステージは国際分類で決められており、7~8年に一度、見直しされます。医療の進歩によって予後がよくなると、ステージが変更になることがあります。

 ステージ4といわれていたものがステージ3になる場合もある。

 日進月歩が著しい医療の進化により、ステージ4の進行がんでも再発がんでも、自分らしく暮らしていくことが可能なのです。

■抗がん剤には「やめ時」がある

 ただ、抗がん剤について知っておいてほしいのは、過剰な抗がん剤の使用は避けたほうがいいということです。

 なかには抗がん剤を使えば奇跡が起こって、進行がんが治癒するのではないかと考える方もいらっしゃいます。だから、どんなにつらくても我慢して、最後の最後まで抗がん剤を続けたいとおっしゃる場合も多いのですが、それは決して適切ではありません。

 がん細胞は遺伝子変異を繰り返しますから、抗がん剤がだんだん効かなくなってくるのです。やりすぎはむしろ命を縮めることもあります。

 抗がん剤はいちばん治療効果が高いものから使い、それをファーストラインといいますが、セカンドライン、サードラインと抗がん剤を替え、今はフォースラインぐらいまでで限界です。ですから、ある時点で、抗がん剤はやめるべきです。

 こうした積極的な治療は、進行がんの場合は意外と早く終わってしまいますが、だからといって治療がなくなるとか、諦めるという意味ではありません。

 そもそも、抗がん剤をやめたからといって、すぐにがんが悪化するものではありません。

 むしろ、抗がん剤をやめることにより、体調がよくなり、がんの進行が落ち着くこともあります。

■がんは「克服するもの」でも「打ち勝つもの」でもない

 メディアでは、「がんを克服する」とか「がんに打ち勝つ」という言葉をよく目にします。がんは、まだまだ怖い病気ではありますが、共存できる時代になりました。うまく付き合っていってほしいのです。

 終末期医療と誤解されがちな「緩和ケア」は、立派な標準治療であり、一部のデータでは、延命効果が科学的に実証されています。

 だからこそ、欧米では、がんと診断されたときから緩和ケアをはじめるべきという考え方が主流です。

 抗がん剤治療で、逆転満塁ホームランを期待できる免疫チェックポイント阻害剤なども出てきていますし、がんゲノム医療も保険適用になり、保険適用になる新しい放射線治療などもあります。

 抗がん剤治療も、今ではほとんどのがんで、外来で治療が管理できるようになりました。

 通院による治療が可能なのです。

 がんとは共存していく時代であり、長い付き合いになります。

 だからこそ、ご自身のより良い人生を諦めないことを最優先にしていただきたいと思います。

 がんと言われますと、どうしても、焦ってしまい、慌てて、「○○療法でがんを克服する」などの怪しい情報にすがってしまうかもしれません。

 どうかむやみに「がんを克服する」とか「がんに打ち勝つ」などのマスコミが好んで使うような言葉に惑わされることなく、焦らず、慌てず、諦めず、適切な情報を知って、がんとうまく付き合っていってほしいと思います。



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勝俣 範之(かつまた・のりゆき)
腫瘍内科医
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授、部長、外来化学療法室室長。1963年山梨県富士吉田市生まれ。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業後、国立がんセンター中央病院内科レジデント、内科スタッフ。2004年ハーバード大学生物統計学教室に短期留学、ダナファーバーがん研究所、ECOGデータセンターで研修を受ける。その後、国立がんセンター医長を経て、2011年より現職。あらゆる部位のがんを診られる「腫瘍内科」の立ち上げは、当時の日本では画期的であった。国内における臨床試験と抗がん剤治療のパイオニアの1人。2022年、医師主導webメディア「Lumedia(ルメディア)」を設立、スーパーバイザーを務める。日本臨床腫瘍学会指導医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。著書に『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)などがある。
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最終更新:5/9(木) 8:17

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