ドイツ在住ライター・キュンメル齋藤めぐみと申します。
今から数年前、人生設計に対する考え方の違いから、夫に別れを切り出した私―。住み慣れた庭付き一戸建てを売り、独立した子供たちの住むシュトゥットガルトの郊外に引越すことを決意しました。
引っ越し先は、緑が豊かですが、中心部へは電車で30分ほどで行ける、便利で素敵なところです。
今まで住んでいた街は、車がなくてはまるで生活できず、いつも同じ人の顔しか見ない、閉鎖的な田舎街でした。それにうんざりしていた私は、これからの毎日を楽しいものに変えたくて、人生の第二章にふさわしいこの土地を選んだのです。
ところが、ドイツでの「家探し」は、想像以上に大変なものでした。日本の皆さんにとっては、この私の体験は新鮮に映るかもしれません。そこで今回は、そんな私の家探しのエピソードをご紹介したいと思います。
■超合理主義、「データ」で決めるドイツ人の家探し
私が初めての家探しを経験したのは、日本に住んでいた頃です。高校を卒業した当時、駅前の不動産屋さんのドアを叩き、何軒か内見をし、その日のうちに契約をした記憶があります。
極めてアナログですが、日本には賃貸仲介のプロがいるお店があちこちにあり、彼らのサポートや円滑なコミュニケーションによってスムーズに家探しをすることができます。
日本に住んでいると当たり前に思えるかも知れませんが、比較的簡単にかつ安心して契約を結ぶことができる、素晴らしい日本的サービスだと思います。
それに比べるとドイツには、賃貸物件を探せる街の不動産屋さんというものはあまりありません。賃貸に特化したサイトも少ないのです。
多くのドイツ人は、家探しに「ImmoScout24(イモスカウト トゥウェンティーフォー)」というポータルサイトを利用しており、このサイトがマーケットではほぼ独占していることから、競合サイトの新規参入が困難なようです。
このサイトの大きな特徴は、プロ(不動産会社)と素人(個人)が混じっていることでしょうか。
不動産会社は自らのウェブサイトに賃貸物件を載せるだけでなく、このImmoScout24に新しい物件情報を載せて、できるだけ多くの募集者の中から良い入居者を探しているのだと思います。
■ドイツでは「大家」が入居者を選ぶ?
ドイツでの家探しで私が感じたことは、ドイツでは、入居者には部屋を選ぶ権利がないのでは? ということです。お気に入りの物件を見つけ、内見依頼のメールを送ったとしても、返事がくる確率が低いのです。
理由は競争率の激しさにあります。難民受け入れによる住宅需要の増加などにより、物件そのものが以前に比べて市場に少ないと言われています。
大家さんは選ぶ側の立場として、ImmoScout24に登録された入居者の情報を詳しく知ることができます。
入居者が登録する基本情報は、住所、勤務先、月収、入居人数、タバコを吸うか吸わないか、ペットの有無などです。これらを登録すると、大家がそれらを判断して、内見させてあげたい人だけを絞って連絡をくれる仕組みとなっています。
入居者の経済状況や個人情報など、聞きづらいけど重要なことをあらかじめ知ることができるImmoScout24のシステムは非常に合理的です。
さらに審査が厳格な物件、例えば不動産会社の保有する物件や、新築物件、競争率が激しい魅力的な物件、人気の立地条件の物件になると、それ以上の個人情報を事前に提出されることが求められます。
ドイツの信用情報機関「Shufa (シューファ)」の出すShufa-Score「信用度スコア」はもちろんのこと、過去遡って3カ月分の給料明細書などは重要視されます。
以前もアパートに住んでいたことがある人ならば、以前のアパートで家賃を踏み倒していませんよ、という証明書を大家さんから提出してもらう必要性があります。
収入に不安がある人や学生などは、家族(大抵は親)から「Bürgschaft(ビュルクシャフト=債務保証人)」の書類提出がマストとなります。これら必要書類が揃って初めて、信頼してもらえ、入居審査の対象に入れるのです。
ドイツの家探しでは、入居者はどのように自分を信頼してもらえばいいのかを常に考えなくてはいけません。
■いい家を探すにはサブスクへの「課金」が求められる
ImmoScout24には、有料のサブスクサービスが用意されています。賃貸物件向け、住宅購入者向け、さらには、新規物件や内見申し込みが有利になる有料課金プランもあります。
契約期間ごとに3カ月、6カ月、12カ月のコースがあり、期間によって月額料金が変わる仕組みです。
私が申し込んだものは賃貸物件向けのサブスクで、3カ月で月々39.99ユーロ(およそ5300円)。3カ月もあればアパートは見つかるだろうとこのプランを選んだのですが、実際はそれ以上かかりました。
ただ、この一番安いプランでも受けられるサービスは豊富です。例えば以下のようなことです。
・大家さんとのコミュニケーションが無料会員よりも優先されて上位に表示される
・本人のプロフィール欄にタグが付き大家さんの目に止まりやすくなる
・新しい物件情報が多く届き、優先的にアクセスできることがある
私の場合、このサービスを活用しつつ、大家さんを説得させるような自分のプロフィール文を送ることで、お返事をいただけることが多かったです(実際は応募者が多すぎると目にもかけてもらえず、ほぼ早い者勝ちのような時もありましたが)。
実際、電話番号のやり取りを提案してもらえ、直接話をさせていただくこともあり、そのおかげですぐに内見につながるようなご縁はたくさん生まれました。1週間のうちに10件の内見に周ったこともあります。
しかし、他にもっと真剣度の高い人や、より収入が多く「社会的信用の高い」人がいることは仕方のないことで、これはサブスクを利用していても避けられない現実です。内見に行かなくても、書類審査の段階で気に入られ、すぐに契約が決まる人もいます。
こうした体験を通して、住まい探しにおいてもドイツ社会では「コネ」や「社会的地位」が大きく影響することを実感しました。
ちなみに、外国人だからといって差別されたりとか、そういうことは一度たりともありませんでした。
住居探して苦労しているのは、ドイツ人も他の人も皆同じ。出会いの質は運次第であるし、何度内見しても納得いかないのは相手の問題ではなく、結局は焦りと戦う自分の問題なのだという結論に至りました。
■内見までの道のりは遠い
ここで、ImmoScout24の具体的な使い方についてご説明したいと思います。
アパートを探している人は、ImmoScout24nのサイトでまずは自分の理想の条件を登録していきます。場所、家賃、部屋数などはオーソドックスですが、その他引っ越し予定日、具体的な部屋の広さ、駐車場やバルコニーの有無などで検索します。
物件には写真があって、そこには必ずKaltmiete (「冷たい家賃」は純家賃のこと)、Warmmiete(「暖かい家賃」は管理費・暖房費などを含めた総家賃のこと)が載っています。
純家賃には管理費、暖房費、水道代、ゴミ処理費などの付帯コスト(Nebenkosten)は含まれていないことに注意です。
ドイツには「エネルギーパス」と呼ばれる制度があり、物件の光熱費の効率を示す指標の提示が義務づけられています。アパート探しの際には、ウェブ上でこれらをチェックすることで、おおよその月々の光熱費を把握することができます。
そして総家賃と言ってもドイツでは電気代やインターネット代、テレビ受信料(GEZ)などは含まれないことが多いので、内見の際には必ず大家さんに聞くこと。あるいは現在の住人に経験談として聞くことがおすすめです。
ちなみに、ここで絶対見逃してはならない点は「カビの有無」。
ドイツでは退去後にプロのクリーニングサービスが入ることは非常に稀であり、カビが少しでもあると厄介です。ドイツでカビが厄介なのは、これが借主の換気不足や暖房不足が原因だとされることが多く、後々責任問題に発展すると大きな訴訟沙汰になってしまうからです。
Altbau(古い建物)が多いため、これらは断熱性が低くて通気性に問題があり、壁が冷えた結果結露となります。秋口から春にかけてドイツでは長く湿気が続き、一気に寒くなります。そんな気候の影響から、一度カビが生えると乾燥しにくく、根深くなってしまうのです。
その他家賃の中にキッチンは組み込まれているのか(ドイツでは自分でキッチン・シンク台などを購入した場合、引越しの際に持っていってしまう)、駐車料金はいくらか(基本的に月々六千円から七千円ぐらい別途かかる)、家具の有無(家具を丸ごと置いていくから、引き取ってもらう代わりにお金を払って欲しいと言われることもある)など、日本では考えられないような条件がさまざまあるのです。
晴れていよいよ内見となったとしても、これも非常に独特です。一人ずつ時間をとって内見させてくれる大家さんもいれば、何人かまとめて団体で内見することもあります。
一人呼ばれて丁寧な内見を行ったからと言って必ずしも契約がまとまるかというとそうでもなく、私以外にも何人か個別で呼ばれていることもあります。一緒に行ってくれる伴走者がいると、自分の気づかない点に気づいてくれるため、内見には複数で行くことをお勧めします。
■ドイツにおける大家と入居者の関係
実際ドイツでも昔からゴミ屋敷が社会問題になっています。大家が住人を不法退去させるのが非常に困難であり、また人道的な観点からも、追い出すための道が狭まり、手続きが増え、テナント側の防御手段が法的に強化されてきました。
この理由としては、ドイツ社会における人権に対する考え方がまずあげられます。
ドイツでは住居は「商品」ではなく、安全な住まいを持つことは個人の尊厳を守ることであり、基本的な人権を守ることこそが、敷いては安全な社会を守ることにつながると考えるからです。
追い出されそうになった時、借主は異議申し立てを起こすことができます。大家が勝手に鍵を交換したり、荷物を処分するような意地悪をすると、大家が罰せられるのです。
もう1つの理由は、契約方法にあると思います。ドイツの賃貸住宅は基本的に自動更新、つまり借主が退去しない限り、契約は自動的に更新されていくのです。借主が望む限り、ずっと住み続けることができます。
ドイツの法律では特に住んでいる期間が長い者や社会的弱者(高齢・病気など)には手厚い保護があるのも、容易に追い出せない理由の1つと言えるでしょう。
それらを考えると、大家さんが入居者を非常に厳しく審査する理由がよくわかります。実際、私のドイツ人の知り合いも1年に渡って家賃収入がなく、裁判をしてやっと問題を抱えた住人を追い出したと思ったら、リフォームに100万円以上かかったといいます。
そしてさらにそんな住宅難の中、高級住宅や高級アパートなどばかりが建てられ、一般市民には到底手の届かないものばかりを売るブローカーの存在が現在問題視されています。
価格を人為的に上げて利ざやを稼ごうとすることで、ドイツの人々に不安が広がり、住宅市場が不安定になって家賃の高騰につながっているのです。
■ドイツあるある? 礼金はないけど、敷金はある
日本の「敷金」に当たるものは、ドイツでは「Kaution(カオツィオーン)」と呼ばれます。家賃のおおよそ3カ月分の敷金を家主に預け、退去時の損害や未払い家賃の担保とされます。部屋に問題がなければ全額返却されます。一方、「礼金」はありません。
ちなみに、敷金を払う必要のない個人家主の物件もあれば、2カ月分の支払いが求められる物件もあり、本当にまちまちです。
また、ドイツでは家賃の値上げは一般的です。私が契約した物件では、3年ごとに純家賃が10%引き上げられる仕組みになっており、そのさらに3年後にも再び10%の値上げが予定されています。
大家によってはこれよりも高く、3年ごとに15%の値上げを設定している場合もあり、これがひとつの相場となっています。
中には、毎年3%ずつ段階的に純家賃を上げていくケースもありますが、基本的には「3年ごとに10~15%の値上げ」が一般的な傾向といえるでしょう。
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ここまでご紹介したように、ドイツの住居探しは熾烈を極めます。そんな状況を利用する詐欺が横行しているのも確かです。
内見前に金銭のやり取りを求められた邦人がいるという注意勧告が日本領事館から出され、私も騙されそうになったことを思い出しました。
住まいは、人間にとって最も大切なアイデンティティの1つです。さまざまな情報が行き交う便利なサイトだからこそ、その「光」の部分を狙う「影」も今後、より濃くなっていくのではないかと危惧しています。
情報社会において大切なのは、「何を扱うか」ではなく、「どう扱うか」です。業務や生活が効率的になるほど、セキュリティ面だけでなく、より人間的な側面に立ち返ることが求められているのではないでしょうか。
「稼ぐ力」だけを重視した人の選び方ではなく、個々の人生に寄り添うような住まいのあり方を提案できる社会であってほしいと願っています。
キュンメル齋藤めぐみ/楽待新聞編集部
キュンメル齋藤めぐみ
フリーランスライター。AAM、エリクソンなどグローバル企業でブランド戦略の立案やコミュニケーション企画に携わった後、ストラスクライド経営大学院でMBAを取得。1999年よりドイツ在住。異国の日常にある「ちょっとした気づき」や、「人と人をつなぐ言葉」をテーマに、ビジネスから暮らしまで幅広く執筆。東京報道新聞社・第4回ライティングコンテスト優秀賞受賞。現在、世界100カ国以上の現地在住日本人ライターが所属する「海外書き人クラブ」会員。
不動産投資の楽待 編集部
最終更新:11/8(土) 19:00