「犬の飼育頭数」が日本で2040年に半減するワケ、猫はどうなる?

4/19 12:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 大切なパートナーとして、さまざまな形で人間との絆を築いてきた犬たち。そんな大事な存在がそう遠くない未来に私たちのそばから姿を消そうとしているという。なぜ国内の犬の飼育頭数が減少しているのか?「ヒトと動物の関係学」の研究者が警鐘を鳴らす。本稿は、林 良博『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)の一部を抜粋・編集したものです。

● ファミリーブリーダーが消えると なぜまずいのか

 日本では犬の飼育頭数が減ってきており、このままだと今後も減っていき、2040年には半分ほどの数に減ってしまいます。そして、犬の数が減る遠因としては、人口減少や共働き世帯の増加が考えられます。

 しかしながら、犬の飼育頭数が減る、より核心的な要因は、別にあると私は見ています。それは、「日本から、犬の交配や繁殖を担うブリーダーの人たちが姿を消していくから」にほかなりません。

 ブリーダーには大きく2種類があります。よび方はさまざまありますが、この本では「商業ブリーダー」と「ファミリーブリーダー」とよぶことにします。

 商業ブリーダーとは、ブリーディングによって生まれた仔犬を販売するなどして、生計を立てているブリーダーたちのことを指します。商業ブリーダーには、企業を設けたり企業に属したりして、組織的な活動をしている人が多くいます。

 一方、ファミリーブリーダーとは、ブリーディングによって生計を立てることを意図せずに、犬の繁殖をおこなっているブリーダーたちのことを指します。

 冒頭で、日本から、犬の交配や繁殖を担うブリーダーの人たちが姿を消していくと述べましたが、とりわけ姿を消しつつあるのが、ファミリーブリーダーの方々です。ブリーディングをやめてしまう方が多くなっているのです。

 ジャパンケネルクラブは、同クラブ会員のブリーダーたちの年間飼育頭数や登録者数の状況を把握しています。2004年には、年間繁殖頭数が1頭だったブリーダーは、約2300人、2頭では約3700人、3頭では約4700人、4頭では約4600人、5頭で3500人でした。6頭以降は頭数が増えるにつれて登録ブリーダーの数は減っていきます。

 では10年後の2014年はどうかというと、年間繁殖頭数が1頭だった登録ブリーダーは約600人、2頭では約800人、3頭では約900人、4頭で約700人、5頭で約500人となっています。全体的に激減してしまいました。これより多い頭数も含め、すべての年間飼育頭数においてブリーダー登録数が10年前を下回り、なかでも1頭から5頭くらいの小規模といえるブリーダーの登録数が減っているのです。年間で1頭から5頭くらいの少ない仔犬を繁殖させるのはもっぱらファミリーブリーダーですので、ファミリーブリーダーの減り方が深刻であるということができます。

 なぜファミリーブリーダーの方々が、ブリーディングをやめてしまったのか。その大きな要因と考えられるのが「法律の改正」です。動物愛護管理法という法律が改正され、2006(平成18)年6月に施行されたことをきっかけに、ファミリーブリーダーたちがブリーディングをするための手続きが大変になり、ブリーディング自体をやめてしまったと考えられるのです。

 具体的には、多くのファミリーブリーダーがおこなってきた犬の繁殖活動が、「業」を営む行為であるとみなされるようになり、業としておこなうために必要な登録をしなければならず、「そこまでするのは大変だから、もうブリーディングはやらない」となってしまったようです。

● 「丁寧な繁殖の担い手」たちが 去ったあとに待ち受ける未来

 動物愛護管理法の改正が、本当にファミリーブリーダーがブリーディングをしなくなった原因となっているのか、より詳しく見て見ましょう。犬猫適正飼養推進協議会は、ブリーディングのさかんな地域である愛知県三河地区で聞き込み調査をしています。石山恒会長の話によると、ペットショップや商業ブリーダーの下(もと)には、数多くのファミリーブリーダーがいたものの、法改正によりいなくなってしまったということです。

 50年間にわたり商業ブリーダーとして活動を続けている方への聞き取りによると、その方は「店子」とよばれるファミリーブリーダー500人とつながっていて、ファミリーブリーダーの協力の下(もと)年間2000頭ほどの繁殖をしていたそうです。しかし、ほとんどの「店子」のみなさんがブリーディングをやめてしまい、組織が崩壊したといいます。

 やめた理由の大きな一つは、2006(平成18)年の法改正により登録が義務化されたためとのことです。「年間1回のブリーディングで2、3頭しか仔犬を繁殖させないのに、書類づくりを要求されるのは億劫だ」と嘆いていたファミリーブリーダーもいたといいます。さらに、ファミリーブリーダーにはベテランの方が多く高齢化も進んでおり、2012(平成26)年の同協議会の調査では後継者の有無について聞いたところ、後継者がいると答えた方は32パーセントにとどまったとのことです。

 高齢になってからルールが変わり、登録または届出のための書類づくりをするのが大変になったため、いっそのことブリーディングをやめてしまおうという方が多くいたことが推察できます。

 犬猫適正飼養推進協議会は、三河地区のブリーダーへの2018(平成30)年の調査で、犬の繁殖をやめたブリーダーに、繁殖をやめたのはいつごろかを尋ねたところ、「2013年」と答えた方が最多だったといいます。2013(平成25)年といえば、法改正で第一種と第二種ができた年です。

 繁殖をやめた理由を尋ねたところ、もっとも多かったのが「登録制になり、書類等の管理が面倒だから」で、「自分が歳をとり、体力的にきつくなったから」がこれに続きました。この二つの理由が突出しています。

 また、1歳未満の犬の比率が7%以上を保っていることが、飼育頭数の維持増加には必要ですが、7%を下回ったのは2007(平成19)年でした。2007年といえば、改正動物愛護管理法が施行され、動物取扱業は書類の届出が必要となった翌年です。

 長年にわたり小規模ながら丁寧に犬の繁殖をおこなってきた専門家たちが、法改正にともなう書類づくりなどの煩雑さを感じ、ブリーディングをやめてしまいました。後継者も少ないため、なにかしらの対策を打たなければ、日本におけるブリーディングは尻すぼみとなり、衰退の一途をたどります。

● 猫は8割が雑種 犬は9割近くが純粋種

 なお、ここまでの現状に対して、「猫のブリーダーもおなじ状況になっているのか」と考える方もおられるでしょう。動物愛護管理法の改正は、犬だけを対象としたものではありません。中型の哺乳類という点では、猫も犬とおなじ条件ではあります。しかしながら、犬と猫で大きくちがうのは、大勢を占めるのが純粋種であるか雑種であるかです。

 飼育犬の9割近くが純粋種であり、純粋種であることを証明するには血統証明書が必要です。血統証明書を得るには、日本ではジャパンケネルクラブ(JKC)という団体へのブリーダーとしての登録が必要です。つまり、犬の繁殖に特徴的である純粋種を維持するには、ブリーダーの存在が重要なのです。

 一方の猫はというと逆に8割以上が雑種であり、ブリーダーを介さず、もらった、拾った、迷い込んできたといった入手経路も多くあります。そのため法改正が猫のブリーダーにあたえる影響は小さいと考えられます。

 「だったら、犬も猫とおなじようにブリーダーの手をあまりかけないで済む雑種に切りかえたらよいのでは」と考える方もおられるかもしれません。これについては犬と人間の関わり合いの歴史にも関係してくるのですが、犬の血統が守られつづけ、純粋犬がいまなお多く存在していることには意味があります。犬は、人間と暮らしていくうえで、人間の手によってさまざまな犬種が編みだされ、犬種ごとにさまざまな役割を果たしてきました。

 たとえば、ビーグルという犬種は嗅覚を生かしてにおいで獲物を追う役割が担わされた嗅覚ハウンドとよばれる猟犬です。またラブラドール・レトリバーはカナダのラブラドール半島で網からこぼれた魚を回収していた回収犬でしたが、現在は盲導犬としての役割のほか、介護犬としても活躍しています。役割を果たすためには、ビーグルならビーグル、ラブラドール・レトリバーならラブラドール・レトリバーといったように血統が保たれていることが基本的に大切となります。

 国際畜犬連盟という世界的な団体は、355犬種を犬種として登録しています。このうち約9割は使役犬、つまり人間のためにはたらいてくれる犬種です。なんらかの目的のために育種され、特殊な機能を先鋭化させた犬種たちです。雑種犬が主流になると、そもそも犬としての能力が薄まり、犬という動物の存在意義や価値が大きく変わってしまうことになります。

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最終更新:4/19(金) 12:02

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