伏兵「トライトン」の驚くべき実力!パジェロ、ランエボなき三菱の「攻めの一手」

4/2 10:32 配信

東洋経済オンライン

 富士山麓の本格的オフロードコースとその周辺の一般道で、三菱自動車の新型ピックアップトラック「トライトン」を走らせた。

 操縦安定性、乗り心地、そしてワクワク感は、1980年代からアメリカでピックアップトラックを所有するなどしてきた筆者の想像を、はるかに超える出来栄えだった。

 トライトンは過去に日本でも販売されていたが、それは12年も前のこと。一般的な認知度は、ゼロに近いと言えるだろう。

 だが、グローバルに目を向けると世界150カ国で、年間約20万台を販売する、三菱の基幹モデルだ。1978年生産開始の初代(名称はフォルテだった)から先代である第5世代までの累計販売台数は、570万台。

 トライトンには、シングルキャブと呼ばれる2ドアの商用に特化した後輪駆動(FR)モデルから、レジャーなどでも活用の幅が広がる4ドア・ダブルキャブの4WDまで、多様なグレードがあり、この中から日本ではダブルキャブ4WDの上位2グレードのみを導入する。全数がタイからの輸入だ。

 価格は、標準グレードの「GLS」が498万0800円、上級グレードの「GSR」が540万1000円だから、なかなかの高級車だ。

 それでも、「デリカD:5」とは価格差がさほどないこともあり、2023年12月21日の受注開始(発売は2024年2月15日)から、試乗会が実施された3月上旬までの時点で、1700台あまりを受注しているという。月販目標は200台だから、順調な滑り出しである。

 三菱としては、日本で近年「アウトランダーPHEV」「eKクロス EV」、さらに「デリカミニ」とヒット作が続いている中、ここにトライトンを加えることで、三菱ブランドの強靭化を進めていく構えだ。

■全長5.3mの大型ボディにディーゼルを搭載

 トライトン日本導入モデルの詳細を見ていこう。ボディ寸法は、GLSが全長5320mm×全幅1865mm×全高1795mm、GSRが5360mm×1930mm×1815mmで、どちらも5人乗り。

 エンジンは2.4リッターのディーゼルターボ(4N16型)で、最大出力150kW/最大トルク470Nm。燃費は、WLTCモードで11.3km/Lだ。

 
筆者は、これまでも東京オートサロン2024などで実車を見ていたが、いずれも屋内で、こうして富士山をバックにした大自然の中でじっくり見てみると、デザインコンセプトの「BEAST MODE (勇猛果敢)」を改めて実感する。

 『新明解四字熟語辞典』(三省堂)によれば、勇猛果敢とは「恐れることなく、自分の目的・目標に向かって、ひたすら前進すること」。なるほど、トライトンにはそうした雰囲気を感じる。

 試乗会では、まずオフロード走行から始めた。旧知の増岡浩氏が同乗し、彼からトライトンの扱い方のレクチャーを受けながらコースを進む。

 いまさら説明の必要はないかもしれないが、同氏は2002年と2003年にダカールラリーで日本人初の総合優勝連覇を成し遂げるなど、オフロード競技のトップ選手だ。

 三菱の量産車開発にも直接関わり、直近では東南アジアを舞台にしたオフロードレースにトライトンの競技車両で参戦している、トライトンの本質をよく知る人物である。

■対応力の広さがハイラックスとの違い

 トライトンの4WDシステムには、三菱が「本格的クロカン(クロスカントリー)と乗用車のハンドリングを両立させる」と表現する「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」が採用される。

 後輪駆動の2H、フルタイム4WDの4H、センターデフロックする直結4WDの4HLc、そしてさらにローギアの4LLcをダイヤル操作で切り替える。

 また、4HではGRAVELモードやSNOWモード、4HLcではMUDモード、SANDモード、さらに4LLcではROCKモードを設定。これらのモードは、ブレーキのコントロールなど総括的な制御をするもの。合計7つのモードがあるが、スーパーセレクト4WD-Ⅱに連動することで、さまざまな走行シーンに対応する。

 この対応力の幅の広さが、技術面でデリカD:5やトヨタ「ハイラックス」との最大の差である。そんなトライトンで走り出してすぐに感じたのは、取り回しのよさだ。

 ステアリングにしっかりとした手応えがあり、クルマ全体の動きの先読みがしやすい。現行のアウトランダーPHEVの初試乗もオフロードだったが、走り出してすぐに感じたステアリングの軽さとクルマ全体の軽快さが印象的だった。

 はしご型のセパレートフレーム(ラダーフレーム)を持つトライトンと、オンロード重視SUVのアウトランダーPHEVを比較することにあまり意味はないかもしれないが、改めてトライトンの特性を強く感じた。

 また、デリカD:5 での走行体験を思い出してみても、トライトンの走りはすべてにおいて新世代を感じさせる。

 先代トライトンと比べると、ダブルウイッシュボーン式のフロントサスペンションは上下方向の作動領域であるストロークを増やし、それにともないショックアブソーバーを大径化。

 リアサスペンションでは、いわゆる板バネであるリーフスプリングの枚数を縮小し、チューニングを大幅に変更している。

■頭に浮かんだ「人馬一体」という言葉

 急勾配の下り坂では、ヒルディセントコントロールとMUDモードを組みわせて安定した走りを見せてくれたし、地面に大きな“こぶ”が続くようなセクションでは、リアタイヤが完全に浮いた状態でもROCKモードであっさりと脱出した。

 しかし、よほどの状況下になければ、こうした各種モードを使わなくても、4HのNORMALモードだけで走行条件をあまり気にせずに走り切れるだろう。

 さらにいえば、オフロード走行をかなりハードにこなすときも、アクセル操作によってリア側の踏ん張りからハイペースが維持できる印象がある。今回は、そこまでのトライはしていないが、増岡氏のコメントがそれを裏付けている。

 また、エンジンの騒音・振動も低レベルであり、ツインターボによりすべての回転域でトルク感があって、とても扱いやすい。

 付け加えておくと、今回は新車装着タイヤでの試乗であった。それでも、これだけのパフォーマンスが実現できているのだ。

 このように新型トライトンは、車体、サスペンション、エンジン、トランスファー機構、そしてソフトウェアによる各種モード設定のバランス、さらに左右輪間の駆動・制動力を最適制御するアクティブヨーコントロール(AYC)など、三菱の知見を総動員し、それがひとつにまとまっている。

 今回のオフロードコースは、非日常的なシチュエーションだ。そんな走行条件でも、トライトンの車内では増岡氏と世間話ができるほどの安心感があった。

 そんな中で筆者の頭にふと浮かんだ言葉は、「人馬一体」だ。

 舞台をオンロードに移す。富士山麓の曲がりくねったワインディングや長めの直線路などを走行してみても、ピックアップトラックに乗っている感覚があまりない。

 「まるでSUV」のような乗り心地とハンドリングで、これなら長時間ドライブも楽そうだ。

 高速道路ならば2Hで走行し、一般路であれば常時4Hで走行することで安心感が増す。オンロードで4Hとしても、いわゆるオンセンターフィールによる壁がなくて違和感がない。これは、「直進安定性を強調したステアリングの操作感がない」という意味だ。

 あまりにもスイスイとワイディング路を走り抜けていくので、「もっとステアリングのギア比をクイックにしてもよいのでは?」というワガママを言いたくなるほどだった。

 むろん、オフロード走行を想定すれば、現行のステアリングギア比がベターだが、それぐらいオンロードでの走行フィーリングがよかったのだ。

 いずれにしても、筆者が過去に所有、あるいは近年試乗した各種のピックアップモデルの中で、オフロードとオンロードを融合した総合的な走行性能は、トライトンがトップクラスだと言える。

 なお、停車中にリアシートにも座ってみたが、座面の設定角度や前方の見切りなど、こちらも長時間ドライブに十分対応しそうな設計であった。車内の質感についても、次世代の三菱デザインを感じる上級な世界観で統一されている。

■期待できる「攻めの一手」

 「パジェロ」を失い、「ランエボ」が姿を消し……と、経営のV字回復に向けて大なたを振るった時代を経て、ルノー・日産・三菱アライアンスでの「リーダーとフォロワー」という建付けの中、「らしさ」を取り戻し始めている三菱。新型トライトンの日本導入モデルが「三菱らしさ」を強烈に感じる、三菱の「攻めの一手」であることは間違いない。

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最終更新:4/2(火) 10:32

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