ホンダの燃料電池車「CR-V e:FCEV」に見る水素社会の行方。水素価格やステーションの少なさを補う価値は?

1/18 8:02 配信

東洋経済オンライン

 FCEV(燃料電池車)であり、PHEV(プラグインハイブリッド車)でもある、ホンダ「CR-V e:FCEV」にホンダのテストコース「鷹栖プルービンググラウンド」(北海道上川郡)と、公道(東京都内の一般道路と高速道路)で試乗した。

 法人/個人のリース専用販売方式をとる同車両の価格は809万4900円。ここからCEV補助金で255万円、東京都であれば135〜145万円程度の助成金が出るから実質400万円台で手に入る。数年前まで原価1〜2億とも言われていたFCEVがPHEVとなって400万円台とは、リース販売とはいえ魅力的だ。

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■充電&水素ステーションの数について

 しかし、業務や日常で使うとなると考慮すべき点がある。水素の充填だ。CR-V e:FCEVは水素と電気を使って走る。電気は自宅や公共の充電ステーションなどで充電するのでBEV(電気自動車)と同じ考え方。ゼンリンが2024年12月に公表したEV充電スタンドデータによると、日本には急速充電が1万455口、普通充電が2万1845口ある。

 一方、水素を充填する水素ステーションの数は圧倒的に少ない。次世代自動車振興センターによると、2024年12月現在、全国155カ所で、首都圏と中京圏に約60%が集中している。ステーション内で水素を製造するオンサイト式ともなれば建設費も高額で5〜7億円、さらに運営費も5000万円/年程度かかる(日本ガス協会調べ)。

 また、肝心の水素価格もなかなか下がらない。国ではNm3(ノルマルリューベ)あたりの水素単価を2050年に向けて現在の1/3にすることを目指すが、現時点の水素価格は1650〜2200円/kgで推移し、2024年にはむしろ値上がり傾向だった。

 ちなみにCR-V e:FCEVの場合、水素1kg(≒11.2m3)で129km走行できる(WLTCモードでのホンダ測定値)。さらにCR-V e:FCEVはPHEVなので、水素フル充填と電気フル充電のエネルギーを合算した際の航続可能距離は621㎞(同)と、ここは十分実用的。

 では、FCEVの未来は暗いのかと言えば、筆者は必ずしもそうではないと考える。各所が取り組んでいるFCスタックの出力密度を上げつつ、耐久信頼性を向上させる術が確立され、並行して国が主導となって水素単価を下げれば道は拓ける。

 また、化石燃料の代替として「小さな発電所」となり、電気エネルギーを生み出すFCスタックは、目的に応じて発電を制御したり、数を増やしたりする(並列させる)ことで、小型車から大型のトラック/バス、建設機械、定置発電設備まで、枠に囚われない電動化社会の実現を下支えすることも可能だ。

 筆者は過去、トヨタの燃料電池バス「SORA」のプロトタイプに公道で試乗し、さらには立ち席の乗客として現在もたびたび乗車しているが、運転感覚はやはりBEVそのもので、立ったままの乗車でも滑らかさが際立っているから安心だ。

■課題だったFCスタックの寿命が向上

 改めてCR-V e:FCEVの特徴はどこかといえば、FCスタックの課題のひとつである経年劣化(≒発電効率の低下)に対して、大容量(17.7kWh)の二次バッテリーからの給電を頼りに延命を図ったことにある。

 普段はFCスタックに余裕をもたせて発電させて性能と寿命をバランスさせながら、二次バッテリーからの給電で長い航続距離を確立。急加速時や高い速度域で走る場合にはFCスタックと二次バッテリーの共演で大きく発電し、求める走行性能を実現するという考え方だ。

 さっそく、試乗する。2002年12月、世界で初めてアメリカの燃料電池車販売認定を取得したホンダ「FCX」の日本における試乗以降、歴代のホンダ燃料電池車に試乗してきたが、CR-V e:FCEVはFCEVの常である空気を吸い込むブロアー音(ブワッ〜という電動ファンに似た低く唸る音)が全開走行であってもほとんど聞こえない。

 FCスタックは水素と酸素の化学反応で電気エネルギーを生み出す。よって、たくさん発電する場合(例:急加速など)には酸素がたくさん必要になる。CR-V e:FCEVでは、酸素を取り込むための電動ターボを小型高回転型として効率を高め、低圧縮型として先のブロアー音を押さえ込んだ。

 ホンダが2016年にリース販売した「CLARITY FUEL CELL」から、電動駆動モーターの音を12dB、ブロアー音7.5dBそれぞれ低減。FCスタック/駆動モーター&ギヤボックス/電動ターボ/エアポンプを一体化したことで音の発生源が抑えられ、内燃機関モデルとフロントサブフレームのマウント(ブッシュ類の減衰特性は重量増に合わせて調整済)の共有化が図られたことから振動の発生源をも抑制している。

■一般化しつつある電気自動車と変わらぬ走り

 乗り味はまさしく充電のいらないBEVだ。ハイブリッド機構はホンダの代表的な仕組みである「e:HEV」と同じ考え方。巡航時など一定の発電量で済む場合はFCスタックだけで電動駆動モーターに電力を供給するモードもある。

 走りの性能を左右する電動駆動モーター(定格出力60kW/最高出力130kW、最大トルク310N・m)は前輪のみ。つまり駆動方式はFFだ。モーターの回転上限から最高速度は160km/hだが、テストコースで確認するとメーター上は167km/hまで伸びた。パフォーマンス全振りのBEVのような速さはないが、大人3名乗車+荷物を積載した状態であっても不足のない性能だ。

 CR-V e:FCEVのベースは、アメリカ市場でホンダ最多販売台数を誇るドル箱的存在の「CR-V」。1.5Lターボ(車両重量1520kg)、2.0L e:HEV(シリーズハイブリッド)(同1700kg)、2.0L PHEV(同1800kg)、そしてCR-V e:FCEV(同2010kg)と、すべてのパワートレーンをひとつのシャーシで成立させたマルチプラットフォームを採用する。

 e:FCEVでは車両前部にアルミバンパービームを新作としつつ、水素タンクを抱えるリアフロアでは後面衝突に対応させたが基本骨格は全パワートレーン共通。

 ハンドリング性能はさすがホンダだ。ガソリンハイブリッドモデルに対して重心高を11mm下げ、前軸荷重を0.8%増加。ダンパーは振幅感応型として連続可変的な減衰力を生み出しつつ、スプリングのバネレートを上げて重量増加に対応。大きな入力(路面の凹みなど)に対しても鉛直方向の揺れは一発で収束。後輪サスペンションの取り付け部にはリアスプリングベーススティフナーで剛性を高めた(タイヤはハンコック Kinergy GTでオールシーズンタイプ)。

■GMと共同開発したFCスタック

 中枢のFCスタックはホンダとGMによる共同開発。新たにモジュール化されたFCスタックは「e:FUEL CELL」を名乗り、出力92.2kWを誇る。CR-V e:FCEVでは2本の水素タンク計109Lに70MPaの水素(約4.3kg)を充填(3分間)する。

 水素タンクを搭載しているがラゲッジルームは使いやすい。さすがにベースのCR-Vよりも狭くなるが、円柱型の水素タンクを平らなボードで覆うことで、その上部も積載スペースとなるように工夫を凝らした。

 「アメリカではコストコに代表される倉庫型店舗で大量の買い物をされる方がいらっしゃいますが、お困りにならないようボードを新作してフラットスペースを作りました!」と満面の笑みで語るのは、取材当時、ホンダの先進パワーユニット開発責任者であった上野臺 浅雄さんだ。

■水素充填のランニングコストと今後の行方

 一般道路で試乗した結果、燃費数値(FCEVは燃費で表現)は114km/kgとカタログ値の約88%を記録した。1kmあたりのランニングコストは約14.5円(水素は1650円/kgで計算)になる。これは外部充電の電気代を計算に入れていない概算値ながら、ハイオクガソリン185円/Lとした場合、約12.8km/L走る内燃機関モデルと等しい。

 ただ、冒頭に記したように国では水素価格を安価する目標を掲げていて、仮に1/3の価格が実現すれば単純計算ながらFCEVのランニングコストも1/3に。ガソリン価格が現状のままだとすれば、38.4km/L走るHV(一般的なハイブリッド車)と肩を並べる。皮算用だが夢はもてる。

 個人的には、研究が進む水素タンクのコンフォーマブル化(複数の小容量変形タンク連結)にも期待したい。現状、水素タンクの配置場所の確保からボディデザインに制約を受けているが、小型分散化が実現すればボディ全高を下げ、空気抵抗係数と前面投影面積の少ないスタイリッシュなFCEVも誕生する。

東洋経済オンライン

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最終更新:1/18(土) 8:02

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