韓国「アジアのベスト50レストラン授賞式」主催で見せた“圧倒的”存在感のワケ。Netflix「白と黒のスプーン」ヒットに乗せた食の戦略的展開

4/28 11:32 配信

東洋経済オンライン

 3月25日、2025年の「アジアのベストレストラン50」が発表された。

 英国の雑誌会社による、アジアのレストラン1位から100位までを選ぶランキングで、その上位50軒が「ベスト50(ベストフィフティ)」として表彰される。

 2025年の1位はガガン(バンコク)。5度目のアジア1位を獲得した。

 日本勢は「セザン」(東京)が4位を獲得し、50位までに11軒がランクインした。つまり50軒のうち20%強は日本のレストランが占めているわけで、国別では日本が最も多い。

【写真】「アジアのベスト50レストラン」に入った日本のレストラン11軒の様子など(15枚)

 アジアにおける日本のレストランの存在感は今回も揺るぎなかった。今回授賞式に参列したが、日本のレストランが上位にアナウンスされるたびに、ゲストのどよめきが起きていた。

 軒数は昨年より2軒増え、ランクインしているレストランの料理ジャンルもフレンチ、日本料理、鮨、中国料理、イノベーティブ(ジャンルにとらわれず自由な発想で生み出された料理)と多岐にわたる。

 2024年には、アジア1・2位を日本のレストランが占めるという快挙もあった。2013年当初からランクインする軒数もほぼ変わらず、日本のレストランの魅力はアジア内にすでに十分浸透しているといえるだろう。

 2025年の授賞式は、前年に引き続き韓国・ソウルで開催された。

 この賞は、もともと「世界のベストレストラン50」というランキングの地域版として2013年から始まった。

 授賞式にはアジア中のスターシェフや料理関係者が1000人近く集まる。海外から自国に注目が集まる貴重な機会であるこのイベントを、今年のホスト国である韓国は誰に向けて、どのような意図をもって開催したのだろうか。

■「白と黒のスプーン」ヒットに沸く韓国での授賞式

 今回の韓国での授賞式は、韓国の農業食糧農村省(=MAFRA、日本では農水省に相当する)とソウル特別市、それと韓国食品振興院(=KFPI、韓国料理を国内外にPRするための非営利団体)が共同で主催していた。

 今の韓国では、2024年に配信されたNetflix『白と黒のスプーン〜料理階級戦争〜』のヒットの余熱がまだ冷めやらぬ状態にある。

 100人の実在のシェフが「白スプーン」と「黒スプーン」に分けられ、多額の賞金をかけて熾烈(しれつ)な料理バトルを繰り広げるというリアリティーショーは、公開から3週連続でNetflixグローバルTOP10のTV(非英語)部門において1位を記録した。

 このドラマの成功は、シェフたちの実際の営業にも好影響をもたらしているようで、特にカジュアル店舗が多い「黒スプーン」の店は予約が全く取れなくなっているようだ。商品プロデュースをしたのだろう、出場シェフの顔を大きく入れたポスターが貼ってあるコンビニも見かけた。

 韓国国内においてシェフの個性に注目が集まりつつあるいま、今年のベスト50アジアをホストするにあたり、韓国側は授賞式などの公式イベントの前後に独自のイベントをいくつか組み込んでいた。パンフレットのシェフ紹介欄には、ミシュランの星の数と並んで『白と黒のスプーン』出演が書かれていたあたりに、このドラマの韓国内での影響の大きさが読み取れた。

 これらのイベントの特徴は、一般のゲストが参加可能だったことだ。

 気鋭のシェフたちが料理を振舞うイベント(「テイスト・オブ・ソウル」)やトークセッションには一般のゲストが大勢訪れており、イベント終了後には、シェフとの記念撮影を求める人たちが壇の周りに列を作っていた。このイベントは前回2024年にも行われており、そのときは150名の参加枠に45万人を超える希望者が殺到、席は10秒で完売したという。

 イベントで料理を振舞ったシェフは、星付き店から庶民的レストランまでさまざまだった。そのシェフたちを率いたディレクターのチェ・ヒョンソクさんは『白と黒のスプーン』で話題になったシェフで、インスタグラムのフォロワー数は25万人を超える。

 このような、一般ゲスト参加可能なイベントを設定した主催者である韓国にはどのような事情があるのだろうか。それは、韓国の主催者側が、自国のファインダイニングの国際的な認知とともに、韓国料理の良さを自国民にこそ認識してほしいと強く考えているということだ。

■日本を猛追する韓国のレストラン事情

 韓国の食といえば、ひと昔前の旅行ガイドではビビンバやタッカンマリ、韓牛焼肉店の紹介ばかりで、ファインダイニングと呼ばれる高級店は一握りしかなかった。

 東京に遅れること9年、2016年に初めて刊行されたミシュランガイドソウルの星付きレストランは24軒だった。それが2025年は、三つ星1、二つ星9、一つ星30にビブグルマン77、セレクテッド117軒(2024年から始まった釜山含む)となっており、今回の「アジアのベストレストラン50」にも4軒ランクインしている。

 イベントで提供された料理はミシュラン星付き店からカジュアル店までさまざまだったが、一通り食べてみた感想としてどれも料理の質の高さが感じられ、全体として現在の韓国のレストランの底堅さをうかがわせた。ここ10〜15年ほどのあいだに海外で学んだ若いシェフが帰国し、自分の店を持てるようになるほど韓国のレストランが成熟してきた証左でもある。

 今回アジア8位を獲得した「ラシーム」(大阪)のシェフ高田裕介さんは、韓国のレストランの現在について次のように述べる。

 「韓国のレストランは、いま全体的にみんな伸びているような感じがします。先日三つ星を取った『ミングルス』はもちろん、最近では今回23位に入った『セブンス・ドア』のシェフが出した精進料理の店『ビウム』は素晴らしかったですね。料理はもちろん見せ方もうまい。このビウムの料理は今後、アジア以外の他国にも波及しそうな新しさを持っています」(高田さん)

 今回、韓国側の主催者から感じられたのは、このイベントを通じて、国内外に韓国料理の歴史の長さや料理の奥深さを広めたいという意思だ。国としてこの機会を活用し、韓国料理の知名度を上げたいという思いが端々に感じられた。そこに『白と黒のスプーン』の話題性がタイミングよく加わった。

 韓国の外食費は年々増加している。年度別世帯当たり月平均の外食費は、2000年から2008年の9年間で1.6倍に増加している。しかし韓国の人口は5100万人(2023年現在)と国内マーケットは日本より小さく、韓国料理のマーケットを広げるには、海外からの流入が不可欠だ。

■授賞式開催都市となる大きなメリット

 日本の都市において、同じイベントを招致するメリットはあるだろうか。

 日本のレストランの質の高さは前述のように海外でもすでによく知られており、その証左として、ベスト50アジアでのランクインもすでに11軒ある。ではすでにオーバーツーリズム気味の日本において、このようなイベントが意味がないかというと決してそうではない。

 日本でいま求められているのは、都市圏ではない国内のさまざまな地方に人々を注目させ、そこに実際に足を運んでもらうことだ。日本国内には、地方やそのテロワールを体現する個性あるトップレストランが数多くある。

 実は一度、2020年に佐賀県が授賞式開催都市に決まったことがある。結局、新型コロナの影響により授賞式は行われなかったが、これがもし今実現すれば、その都市へ海外ゲストの目を向けさせ、その都市のみならず日本全体の食文化の知名度向上に資するにちがいない。

 トップレストランを表彰するだけでなく、郷土料理やその土地に注目させるイベントを組み合わせることで、飲食関係者だけでなく幅広い立場の人に、地元食材や農産物に注目してもらえる機会が生まれる。

 ファインダイニングを顕彰するこのイベントを、限られた人だけのものとするのはもったいない。世界的に知名度のある店だけでなく、気鋭のレストランにも焦点を当てるこのようなイベントは、食を楽しむ人たちの裾野を広げ、未来のファインダイニングの隆盛への種まきともなるにちがいない。

【写真】「アジアのベスト50レストラン」に入った日本のレストラン11軒の様子など(15枚)

東洋経済オンライン

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最終更新:4/28(月) 11:32

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