アジア最弱通貨に堕ちた円、安い日本の不動産は海外マネーの有望な投資先《楽待新聞》

5/18 11:00 配信

不動産投資の楽待

2年以上にわたって続く円安局面を前に「何か処方箋は無いのか」という照会は確実に増えている。

この点、円安抑止の処方箋は為替介入や利上げといったマクロ経済政策を脇に置けば、対内直接投資促進(≒外資系企業の誘致など)やインバウンドの奨励といった論点がやはり注目されやすい。

いずれも正しいものと言えるだろう。今回は特に前者の「対内直接投資」について議論を深めてみたいと思う。

■「2030年までに100兆円」の政府目標

岸田政権は対内直接投資残高の目標として「2030年までに100兆円」を掲げている。

正式な「対外資産負債残高統計」は5月末の公表を待つ必要があるものの、対外資産負債残高の四半期推計(一次推計)によれば、2023年末の対内直接投資残高は前年比+7.5%の49兆6460億円と増勢が維持されている。

2014年から2023年の10年間に関し、対内直接投資残高の伸び率を平均すると年+9.9%程度である。

仮に、2024年以降もこの伸びが続くと仮定すれば、2030年には約94兆円、2031年には目標の100兆円を突破する計算になる。

100兆円は簡単ではないが、不可能ではない絶妙なハードルと言って良い。

また、半導体製造工場を筆頭に対内直接投資のニュースは頻繁に報じられているところであり、これまでの伸びを超えた動きも予見できるものだろう。「安い日本」が極まる中、2030年を待たずに100兆円に到達する未来が無いわけではない。

■アジアマネーの存在感が高まった10年

順当に増勢を維持している対内直接投資だが、どこの国・地域がどこの業種に対して実行しているものなのか。

まず、国・地域別の対内直接投資残高について、主要国・地域の比率推移を見たものが以下のグラフだ。

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一見して、「欧米の低下とアジアの上昇」という傾向ははっきり確認できる。

アジアにおける構成比率を見ると、2022年末時点で中国+香港が約32%、シンガポールが約43%、台湾が約10%、韓国が約9%を占めており、これらで9割以上が説明できる(※数字は全て小数点第1位を四捨五入している。以下同様)。

中国だけでは約9%と大きくないが、香港を経由して日本へ投資されている中国資本も大きいと思われることを考慮し、約24%を占める香港と合算している。恐らく、シンガポールも同様の事情を抱えており、同国に子会社を置くグローバル企業 からの投資が計上されている部分もありそうではある。

このような事情から推察する限り、中国+香港やシンガポールなどからの対内直接投資の勢いをもって「アジア資本に期待」というのは必ずしも正しく無い。

とはいえ、欧米資本が急に何らかの事情でシンガポールや中国・香港を経由するようになったわけでもないであろうから、欧米資本の比率低下から「アジア資本に期待」と考えるのもさほど間違いではあるまい。

また、台湾の数字はTSMC工場建設に沸く日本の実情を見れば多くの説明を要しないであろうし、韓国についても同国の最大手電機メーカーが神奈川に半導体の研究開発拠点を設けることが昨年報じられている。純粋にアジア資本が日本に投資を行う規模が拡大している部分はある。

■日本は今や「投資される側」

そもそも直接投資を行う企業は相応の資金力を持ち、投資先で発揮できる武器を備えていることが条件になる。そのように考えれば、当該国の経済が日本に投資できるほど成長してきたと読み直すこともできる。

既報の通り、1人当たり名目GDPについて韓国や台湾が日本に肉薄しており、近い将来に追い抜くと言われている中、それらの国々から投資が増えることは必然の帰結とも考えられる。

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わずか10年前、韓国も台湾も日本の名目GDPの6割程度だった。これほど急激な変化を前提とすれば、直接投資を巡る挙動に変化が出てきても不思議ではない。

なお、まだ日本とは差があるものの、マレーシアやタイ、インドネシア、フィリピンといった東南アジア諸国も明らかに追い上げてきている。

ちなみにマレーシアの現在の立ち位置が2000年前後の韓国や台湾と同じであると思えば、全く予断は許さないだろう。卑近な例で言えば、日本人がアジアに旅行に行けば、「思ったほど物価が安くなかった」という感想で帰ってくることが増えている。

それはアジア諸国と日本の購買力が縮まっている証左であり、日本が「投資する側」から「投資される側」に回る状況を正当化する。もはやアジア地域において日本は頭抜けた存在ではない。

■日本への投資に積極的な国や業種は?

対内直接投資残高に関し、地域別かつ業種別に把握するとなると「直接投資残高(地域別・業種別)」で確認することになる。

同統計は国際収支統計や対外資産負債残高統計とは作成方法が異なるので記述の残高水準が異なることに注意を要するが、政府・与党が「どこの国・地域から、どういった資本を戦略的に狙うべきか」という考察のヒントにはなるだろう。

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上の表に示される通り、日本への対内直接投資残高の約66%は非製造業で占められており、特に金融・保険業だけで約40%を占めている。

「対内直接投資=製造業(の工場建設)」というイメージがまだ根強いかもしれないが、主軸は非製造業である。

この金融・保険業で最大の投資元となっているのが米国で金融・保険業の約46%を占めるが、これに約29%のアジアが続く。このアジアはほぼシンガポールだ。

2023年末時点で、米国からの対内直接投資残高はシンガポールのそれの2倍強だが、2014年は4倍強の差があった。やはり日本への直接投資に関し「欧米の低下とアジアの上昇」を感じる。

金融・保険業に関する投資の詳細を知ることは難しいが、証券投資や不動産投資などで日本法人を設立すればここに計上されるため、その影響は大きいと察する。

世界でも異質な低金利環境が日本への不動産投資を誘引してきたのは周知の通りであり、2023年は海外の投資ファンドや企業による国内不動産投資額が前年比で3割減少し、5年ぶりの低水準となったことが話題になっている。

裏を返せば、それまでは海外から日本への不動産投資が旺盛だったということでもある。実際、シンガポールの政府系ファンド(SWF)が日本の商業用不動産を購入するニュースは断続的に目にされてきた。

個別事例を挙げれば枚挙に暇がないが、例えば2023年には、シンガポールのSWF(メープルツリー・インベストメンツ)が大阪市の商業ビルを540億円で売却したことが話題になっている。

また、別のSWFであるシンガポール政府投資公社(GIC)が、汐留の大型オフィスビルを売却する方針も報じられており、この売却額は3000億円を超えるとの報道もある。それだけシンガポールのSWFが不動産投資を積み上げてきたことの裏返しだろう。

なお、不動産売却のニュースが目立った2023年も、GICは同年8月、「日本を長期的に優れたリスク調整後リターンを達成できる魅力的なマーケットであり続ける」、「多くの投資家が日本の低金利と円安に魅力を感じている中で、GICは特に日本の不動産市場の厚みと流動性に魅力を感じている」との声明を公表しており、日本への長期投資を続ける意向を示している。

もっとも、シンガポールドルと円はアジア通貨の最強と最弱の組み合わせであり、円安の影響も当然あるだろう。

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■価値観のアップデートが必要

もちろん、対内直接投資に関しては、個別事例を分析し、障害となっている論点の洗い出しなどを行った上で適切な施策を当てはめる必要がある。

そのために政府は、対日直接投資推進会議の運営を補佐し、関係府省などと調整を行うことを目的として「海外からの人材・資金を呼び込むためのタスクフォース(以下タスクフォース)」を設置している。

このタスクフォースが海外からの人材・資金の呼び込みを検討する上での課題や制度面での障壁等の把握を行う役目を負っている。

日本が「2030年までに100兆円」という目標を実現するにあたっては、TSMC工場誘致に象徴される製造業の引き込みも引き続き重要ではある。

だが、上記のデータを踏まえる限り、残高の実績を積み上げるために大きなインパクトを持ちそうなのは金融・保険業などの非製造業であり、国・地域別にはシンガポールなどを主軸とするアジア資本の取り込みが重要になっている現状がある。

タスクフォースの第1回会議(2024年1月31日)の資料を見ると、重点フォローアップ分野の一番手として「半導体など重要分野への投資促進策の活⽤」が登場している。これは当然重要に違いないが、「2030年までに100兆円」という残高に到達するためには違った目線も併せ持つ必要があるように思える。

今後、日本の対内直接投資を考えるにあたっては「資本は欧米、業種は製造業」という過去の価値観から「資本はアジア、業種は金融・保険業」という価値観へのアップデートが必要になっているよう思える。

「安い日本」を活かせるのはモノ作りだけではないという価値観をタスクフォース会議には認知して貰いたいと感じる。

唐鎌大輔/楽待新聞編集部

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最終更新:5/18(土) 11:00

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