20年ぶり再会の「元カノと結婚」した彼が語ること

5/26 11:02 配信

東洋経済オンライン

 千葉県にある分譲マンションのダイニングキッチンにお邪魔している。自家製の焼き豚やブリ大根を食卓に並べながら結婚ストーリーを語ってくれるのは、別々の福祉関連施設で働く堀井和美さん(仮名、51歳)と西川祐樹さん(仮名、50歳)。

 2019年の冬から同居して事実婚を開始したという同級生カップルだ。それぞれの左薬指には結婚指輪が光っている。

 2人は関東地方にある国立大学で「語学クラスのクラスメイト」として知り合い、付き合い始めたが、2年生の終わりに別れた後は疎遠になった。

■”紆余曲折”を経て約20年ぶりに再会

 大学を卒業したのが1996年。2015年に約20年ぶりに再会してよりを戻した。一緒にいられなかった時間を埋めるような勢いで仲良く話しまくる和美さんと祐樹さん。卒業後はそれぞれ苦しい時期が長く続いたようだ。

 ビックリしたような目が愛らしい祐樹さんは、事業家の祖父を持つお坊ちゃん風の人物。清潔な白シャツ姿がよく似合う。和美さんによれば、「お金がなくても性格がねじくれていない」男性だという。しかし、本人は「気持ちが病んでいた」過去を打ち明ける。

 「大学卒業後は公務員をしながら司法試験の勉強をしていました。働きながらでも合格までもう少しのところまでいったので、仕事を辞めて勉強に集中すれば受かると思ったのですが……。祖父の事業は親の代でたたみました。親に金銭的に頼ることはできません。日雇いバイトをしながら勉強していましたが、そのうちにネットゲームにハマるようになってしまいました」

 そんな祐樹さんには8年間も付き合った恋人がいた。友人の結婚式で知り合った同世代の女性で、文系の分野で研究者を目指している大学院生だった。

 「試験勉強をせずにゲームばかりするようになって、不信感を持たれたのだと思います。彼女は結婚したかったようなのでもっと早くに別れるべきでした。あの頃の僕は完全に病んでいました……」

■自己否定と現実逃避が続く日々

 千葉県の実家に住んでいる母親が倒れたのをきっかけに目が覚めた祐樹さん。34歳のときに小さな電気工事会社の社員になり、印刷会社に転じてWEBサイト制作の仕事をするようになった。サービス残業続きの過酷な職場だったこともあり、「彼女が欲しいな」と思いつつも結婚生活をイメージすることはできなかったと振り返る。

 「僕は経済的にも社会的な地位でも一人前になれていない、結婚相手に責任を持てないという意識が強かったです」

 ほんわかした雰囲気の祐樹さんだが、内面では「こんなはずじゃない」と自己否定と現実逃避を続けていたのだろう。そんな状況に光を与えてくれたのは、大学時代の同級生である「Tくん」だった。

 「僕も(彼女の)堀井(和美)さんもTくんとは卒業後もゆるくつながっていて、久しぶりに3人で会うことになったのです。都内の観光スポットを巡るはとバスツアーに参加してみようという話になり、現地で待ち合わせ。集合時間ギリギリになって焦って走ってくる女性の姿を見て、遠目にも堀井さんだとわかったんです。学生時代と全く変わっていないので……」

 その和美さんが台所仕事を終えて、千葉の地酒を片手に食卓についてくれた。グレイヘアは年齢相応だが、肌艶がよくて少女っぽい雰囲気の細身の女性だ。大学卒業後は大手企業に就職。人間関係に恵まれ過ぎて先輩社員と恋に落ち、「授かり婚」をしたのが25歳のときだった。

 「後から知ったのですが、彼には婚約者がいたそうです。私は知らずに略奪婚をしてしまったのですが、娘が3歳のときに彼から『好きな人ができたので離婚してほしい』と言われました。その浮気相手も職場の同僚でした……」

 その後は職を転々としながらシングルマザー生活をしていた和美さん。「一人娘とベッタリの関係になるのは避けたい」という思いもあって、男性と交際することもあったが、再婚には至らなかった。

 「私には遅刻癖があります。1時間も2時間も遅れても怒らずに待っていてくれるのは最初の彼氏だった祐樹さんだけでした。他の人はそんなに待ってくれません」

 ずっと祐樹さんを想い続けていたわけではないが、彼と再会したときに和美さんも「学生時代と何も変わっていない。Tくんと3人でワチャワチャしゃべれる」と感じ、ブラック企業勤務でも卑屈になっていない祐樹さんに好意を持った。

■44歳のときに恋人として「立候補」

 「祐樹さんに彼女がいるならば幸せになってほしいと思いました。でも、彼は『遅ればせながら婚活中。誰かいい人がいたら紹介してください』と言っていたんです。だから、ダメ元で彼女さんに立候補しました」

 2015年、和美さんが44歳のときの出来事である。祐樹さんとは20年以上前に一度付き合っていたという安心感もあったかもしれないが、断られて傷つくことを恐れずにすかさず恋人として「立候補」する勇気は素晴らしい。

 筆者は婚活中の男女を取材することが多いが、男女関係において受け身な女性は少なくないと感じている。見た目もコミュニケーション能力も経済力も高めの男性にならば自分のほうからアプローチできるが、それはほとんど無理筋だったりする。一見した条件がよくない相手にでも「卑屈ではない」といった心の部分で共感や尊敬を抱き、自分から働きかけること。30代半ば以降でパートナーを見つけたい人に必要な姿勢だと思う。

 行動力があり過ぎる和美さんは、祐樹さんとの交際がスタートした翌年に以前から興味があった農業に挑戦。農作地の関係で祐樹さんとは週末だけ会える中距離恋愛が続いた。ようやく同居を始めたのが2019年の秋。和美さんの一人娘は小売業の正社員として働いており、恋人と同棲中。月1ペースで泊まりに来て、祐樹さんとの関係も良好だ。

 「成人して独立した娘にとっての祐樹さんはあくまで『ママの彼氏』です。祐樹さんにも『お父さんになろうなんて思わなくていいよ』と伝えています」

 祐樹さんは和美さんの両親への挨拶を希望しており、事実婚ではなく法律婚でもいいと明言している。しかし、和美さんの両親が「田舎なので娘が離婚したことで肩身が狭くなっている。再婚したとは近所に言いにくい」「孫娘が一人戸籍になるのはかわいそう」という、筆者から見れば謎の理由で和美さんの再婚に反対。2人が婚姻届を提出するのは少し先のことになりそうだ。

 「どちらかが病気をしたり亡くなってしまったりすることを考えると、いずれは法律婚をしたほうがよいかもと思っています。でも、今の時点では祐樹さんと一緒にマンションを買ってローンを一緒に背負うことで結婚を実感しているところです」

 結局、就農に挫折したという和美さんだが、現在は福祉事業所の畑で農作業ができている。服が汚れるので2日に一度の洗濯は和美さんが担当。平日夜の料理は祐樹さんが作っている。バランスのとれた仲良し夫婦に見えるが、学生時代から付き合い続けて20代で結婚していたらすぐに離婚していただろう、と2人は口を揃える。

■「他人は他人、自分は自分」

 「僕は自分も含めて『人はこうあるべき!』という気持ちが強くて、それから外れた行動が若い頃は許せませんでした。経済力も生活力も足りない自分を認められず、ダメなところを他人に見せられなかったんです。でも、今は堀井さんが『隠さないでも大丈夫だよ』と思わせてくれます」

 和美さんのことを名字で「堀井さん」と呼ぶ祐樹さん。「他人は他人、自分は自分」という大人の感覚がようやく身についたと語る。そのうえで言うべきことはちゃんと言葉にして伝えることも覚えた。

 「学生時代に堀井さんと付き合っていたときに、食事中に興奮した堀井さんがナイフとフォークを嬉しそうに振り回したことがありました。それがどうしても嫌で、ついには別れてしまったのですが、今考えると嫌なものは嫌だと言えばよかったのです」

 一方の和美さんは、若い頃だったら目移りして祐樹さんとは続かなかったと断言する。離婚や子育てを含めてさまざまな人生経験をして、自分が生活に求めるものがはっきりわかった今だからこそ、祐樹さん以上のパートナーは私にはいないと確信できるという。

 「毎日、暖かい家で美味しいゴハンを一緒に食べられる。それが一番です」

 和美さんと祐樹さんの出身大学の卒業生は、2人を引き合わせてくれたTくんも含めて、一流企業の管理職などのエリート層が多い。現実逃避や遅刻などの癖がある祐樹さんと和美さんはそこには属していない。

 しかし、今では2人の家があり、健康的な食事と忌憚のない会話がある。農業や食、福祉などの分野を通して築いた心を許せる友だちにも囲まれている。お互いがこれからやりたいことを紙に書いて家の壁に貼り付け、夢中で語り合っている毎日だ。これも人生の成功だと言える気がする。

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最終更新:5/26(日) 11:02

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