「赤字どころか、伸びしろある」と有識者が提言 全国屈指の赤字路線「JR芸備線」存続への道筋は?

5/27 4:32 配信

東洋経済オンライン

 JR西日本は、山陽本線の広島駅(広島県広島市)と伯備線の備中神代駅(岡山県新見市)を結ぶ芸備線159.1kmのうち、備後庄原―備後落合―備中神代間68.5kmについて改正地域公共交通活性化再生法に基づく再構築協議を要請、3月26日に第1回目となる芸備線再構築協議会が開かれたことから、その存廃の行方に注目が集まっている。

■ガソリン税で鉄道の維持を

一方で、広島県の湯崎英彦知事は、JR西日本が再構築協議を要請した区間について、「当初より芸備線の末端区間という認識はない。岡山県側の終点・備中神代駅では伯備線に接続しており、そこから鳥取県や島根県側に抜けることができる重要な鉄道ネットワークの一部を形成している」という考え方を示していたことは2022年9月20日付記事(広島県知事が主張「国はJRのあり方を議論すべき」)でも詳しく触れている。

 2024年1月19日、芸備線の備後西城駅がある広島県庄原市西城町では、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏を招いての勉強会「どうする どうなる芸備線」が開かれた。集まった市民はおよそ80人。藻谷氏は市民に対して、「道路や空港、港湾、学校、下水道などは赤字でも廃止されないが、日本ではなぜか鉄道だけが赤字だと廃止議論が起きる」と、ほかのインフラとの違いに対して疑問を投げかけた。

 藻谷氏によれば、日本では東京や大阪など大都市部でのイメージで鉄道は黒字経営が当たり前と思われており、過疎地の鉄道は廃線やむなしという風潮があるというが、「それは世界的にはおかしいこと」だと訴える。森林面積を除いた可住地の人口密度は東京や大阪は極端に高いが、欧州で最も人口密度の高いオランダでも島根県並みだ。ドイツやオランダの人口密度は島根県以下で、イギリスに至っては北海道よりも低い。それでも欧州各国には便利な鉄道網が張り巡らされているというのだ。

 一方の日本では、人口密度が諸外国と比較してはるかに高いことから鉄道は世界でも珍しく採算が取れたため民間任せで運行されてきたが、JR西日本についてはコロナ禍を経て大都市部の利益で地方路線を維持できなくなり、廃線問題が表面化することになった。なお、日本国内の道路は大半が赤字となっているが、税金で維持管理を行うことが前提となっていることとは対象的だ。

 こうした状況に対して藻谷氏が提示する解決策は、ガソリン税の税収を振り分け、諸外国のように税金で鉄道を維持することである。そもそも道路はガソリン税で維持管理され、空港については滑走路は自治体所有でターミナルビルは3セク所有、港湾も岸壁は自治体所有となっているのが通常であり、バス会社も航空会社も船会社もこれらの施設コストを全額負う必要はない。しかし、日本では鉄道だけは線路も駅も原則として鉄道会社の所有となっているが、世界ではこれらの施設は公共体が所有するのが一般的である。

■備後庄原―新見間には伸びしろがある

 藻谷氏は、芸備線の「備後庄原―新見間には伸びしろがある」と強調する。それは、芸備線は行き止まりの盲腸線ではなく、岡山県側で伯備線と接続しネットワークを形成していることがポテンシャルとなっているからだ。特に首都圏からの旅行客や外国人旅行客は鉄道利用者が多いことから、仮に伯備線の新見にミニ新幹線が開通した場合、「観光客が新見から芸備線を利用し庄原市や三次市を訪れるルートになる」と話す。

 さらに、芸備線は「備後落合駅で木次線とつながっていることも大きい」。例えば、木次線の出雲坂根駅の3段スイッチバックは「世界各地の観光鉄道にもなかなかない線形で、外国人観光客向けの観光列車のメインコンテンツになれる」ため、芸備線は新見から木次線に観光客を呼び込むためのルートとしても活用できる。

 藻谷氏は「既存の枠組みで議論している限り、JRも自治体も費用負担をするという話にはならない。国も費用負担に対して関与せよという運動をおこすべき。広島県は総理大臣も国土交通大臣も輩出している」と呼びかけた。

 この勉強会を主催した市民団体「芸備線魅力創造プロジェクト」の横川修代表は「JR西日本が再構築協議を要請した備後庄原―備中神代間のうち、最も長い区間のある庄原市の中でも影響が大きい旧西城町の住民に今回の問題をより深く理解してもらうために企画した」と話す。そうした中で、「地域が抱える問題に詳しく、全国各地の事例に精通されている藻谷さんにお願いした」という。

■接続が悪く使いたくても使えないダイヤに

 芸備線魅力創造プロジェクトが活動を開始したのは2023年1月のことで、備後落合駅でボランティアの清掃活動を実施してきたメンバーを中心に結成。6月に正式に発足した。特に芸備線の「備後落合―備中神代間は存続が厳しいことが容易に予想され、乗客も地元の人に比べ全国から乗りに来る人が多い状況だった」。こうしたことから、「このまま芸備線を本当になくしてよいのかという問題意識から市民団体を立ち上げた」と横川代表は振り返る。

 芸備線魅力創造プロジェクトが、最初に行ったことは、シンポジウムを開催するためのクラウドファンディングを実施することだった。7月から8月のおよそ2カ月で300万円以上を集めた。この資金を原資に9月23日には、庄原市内で俳優の六角精児氏や鉄道ジャーナリストの杉山淳一氏をパネリストに招いてのシンポジウム「芸備線・木次線~魅力を活かす方法を考える」を開催した。さらに翌9月24日には、キハ40系気動車2両を使用した団体貸切列車「呑み鉄鈍行ちどり足」号の運行を三次―備後落合間で行った。

 しかし、横川代表は「芸備線の現状は、訪ねてくる人だけでなく、地元の人でさえ利用したくても利用できない状態となってしまっている」と嘆く。2023年11月、木次線の備後落合―木次間を運行していたトロッコ列車「奥出雲おろち号」が車両老朽化により廃止された。おろち号は備後落合駅に12時36分に到着し20分ほど停車して折り返すが、広島方面からおろち号に接続できる列車の設定はなく、備後落合駅からも広島方面や新見方面に接続する列車の設定はされていなかった。こうしたことから、備後落合駅に到着した乗客はそのまま木次線で折り返すしか選択肢がなかったという。

 芸備線では2023年の夏と秋の土休日に広島―備後庄原間を結ぶ臨時快速庄原ライナーが設定された。地元関係者や住民によると、「この庄原ライナーを備後落合駅まで延長運転すればおろち号への接続が取れるダイヤとなってはいたものの乗りやすいダイヤにしようとJRが考えているようには思えなかった」とため息を漏らす。また、広島―三次間はそれなりに本数はあるものの三次以東は広島から接続の良い列車は1日に数本しかなく、土休日に広島から備後西城や備後落合に行こうとすれば三次駅13時発の備後落合行まで待たなくてはいけない。

 こうしたダイヤ設定についても藻谷氏は勉強会の中で「JR西日本は超閑散線区を先に廃止したいことから、運行ダイヤを利用しようがないほど不便にし、路盤を補修せずに低速化して、先に住民が鉄道を見放すように誘導している」と指摘していた。

 JR西日本の経営スタンスについては、京阪神の路線のみに注力し中国地方や北陸地方の赤字路線はできだけ手放したいという姿勢が垣間見える。2015年の北陸新幹線の長野―金沢開業時には、乗客の多い富山―金沢間すら並行在来線としてあっさり手放した。

■今後は全国的なネットワークを広げていきたい

 横川代表は、再構築協議会の期間は3年間だが「最初の1年で地元の住民がどう動くのかが重要になる」と意気込みを語る。

 2023年12月には、沿線の三次高校の生徒でつくる「芸備線を盛り上げる会」のメンバー12人が芸備線対策協議会会長を務める三次市の福岡誠志市長を訪ね芸備線を活用したまちづくり策の提言を行っている。三次市では2018年に三江線が廃止されたことにより、旧三江線沿線に住む高校生は、保護者が通学の足となり送り迎えをしていることから三次高校の生徒たちは芸備線の存廃問題を深刻に受け止めているという。さらに再構築協議の直前となる3月24日には、再び藻谷さんを庄原市に招いて市民集会が開かれた。

 今後については、「全国で再構築協議会を働きかけられそうな地域の市民団体と交流し、全国的なネットワークに広げていきたい」としている。

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最終更新:5/27(月) 4:32

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