中国人の比率が5割の学校まで登場 知らぬ間に地方で増加している「高校留学生」驚きの実態

5/18 5:32 配信

東洋経済オンライン

 中国から日本の中学校や高校に留学する「低年齢留学」が増え始めた。背景にあるのは、中国における教育環境の悪化と日本の過疎地が直面する超少子化だ。

■生徒の5割が中国人留学生に

 房総半島の南部に位置し、太平洋が目の前に広がる鴨川令徳高校(千葉県鴨川市)の教務担当は、「10年ほど前から中国人留学生を受け入れるようになっており、生徒全体に占める割合が50%ほどになっている」と話す。校内には中国語が話せるスタッフもいる。

 明徳義塾中学・高等学校(高知県須崎市・土佐市)の担当者からは、全校生徒1000人近くのうち250人ほどの留学生がおり、そのうち中国人留学生は約200人」との回答があった。つまり、中国人の比率は2割ほどということだ。

 また、岡山県の山間部に位置する中高一貫の朝日塾中等教育学校(岡山市)の国際交流部長は「6学年全体で中国人留学生が3割を占めているが、高校に該当する3学年では3割を超えている」と話す。こちらには教員と事務を兼ねた、中国語が話せるスタッフがいるそうだ。

 「(中国人留学生は)徐々に増えてきています。バックグラウンドが違う他者との触れ合いは大切なので、計画的に入れていこうということです。エージェントや中国での姉妹校を通じて募集しています」(同前)

 朝日塾中等教育学校では、今後については学習環境を維持するために留学生比率は3割を堅持していく方針なのだという。「あまり留学生が増えると学びが妨げられる懸念があります。仲間内で母国語ばかりしゃべるようなことになりかねません」。

 中学生の場合は子どもの生活を支える監護者が必須となるため、留学のハードルが上がる。そのため受け入れが進んでいるのは高校生だ。特に中国人留学生の受け入れが多いのが、寮を備えた地方の高校だ。

 楽商ジャパンは高校留学に関して中国でのマーケティングや日本語教育から試験のアレンジまで一手に担う留学エージェントだ。同社の袁列・代表取締役は、「ここ10年で中国人高校留学生は大体10倍になった。10年前には積極的に受け入れる高校は日本全国で4校程度だったが、今では20校以上になっている」と明かす。

 地方だけの動きではない。東京はじめ大都市でも中国人留学生の受け入れに積極的な高校は出てきている。関西の都市部にある高校の担当者は「全校生徒450人中ざっと50人ほど」つまり1割強が中国人留学生で、「感覚的にはコロナになる1年ほど前から増え始めた」と回答した。

 さらに、筆者は首都圏にある入試偏差値60台の有力進学校でも中国人留学生の受け入れが始まっていることを確認した。驚くことに、受け入れ校の中には、合格後に集中的に日本語を学ぶことを前提に「面接時点で日本語能力を要求しない学校もある」(袁列氏)という。

 全国的に高校の中国人留学生が増えてきているらしいことは、「学校基本調査」からも見てとれる。日本の私立高校における外国人生徒数は2013年から2023年にかけて3694人から6272人まで増えている。高校以下の学齢で中国人の留学を斡旋するエージェントが増えていることも、その傍証となる。

 中国人留学生比率がすでに一定の水準に達している高校の教師が、匿名を条件に全国で中国人留学生の受け入れが広がる現状について語る。

 「これは日本の少子化のあおりです。生徒が減っても高校には一定数の教師が必要です。教師の人件費を払うためには、どうにか生徒を入れて、学校を回さないといけない」

 だが、あまりに中国人留学生を増やしすぎると経営とは別の意味で”学校崩壊”が始まることになる。この教師は、「受け入れる留学生の学力にこだわらなくなると、指導できくなった教師が辞めていき、代わりの教師を探すという悪循環に陥る」と事情を明かす。

 この日本人教師は、「国際的プログラムを持たない一般の高校が受け入れられる留学生の数は全体の2~5%ほどで、10~15%までいくと違和感が出る」と打ち明ける。

 「中国人の学校」とみなされ、日本人生徒から敬遠される事態を避ける工夫も必要ということだ。

 そもそも、なぜ中国で日本への高校留学が人気となっているのか。

■中国の体制への失望が背中を押す

 都内で中国系進学塾を経営する中国人男性は「(中国人保護者の)中国国内の体制への失望です。つまりイデオロギー色の強い中国の教育を避けているのです。そして中国の教育をめぐる『巻』(ジュアン、過度な競争を意味する)が無意味で、子どもの心身を破壊することがわかったのです」と話す。

 日本への留学を考えても、競争率の高いインターナショナルスクールに入るのは難しい(参考:日本のインター校に中国から「教育移民」が殺到中)。さらにインターの場合、保護者が日本に居住しているのが前提なので、一般の高校への留学が有力なオプションになってきている。

 中国から都内の高校に留学した経験がある現役の女子大学生は、小学生の頃に家族で日本に旅行してすっかり気に入り、日本留学を決めたのだという。「中国の高校はすごく『巻』なので比較的早い段階で出国しました」と語る。

 一方、袁列氏は「最大の原因は中国の『中考分流』です」と断言する。中考分流とは、2018年に導入が始まった新たな教育制度だ。増加する一方の大卒者が就職難に苦しむ現状への対策として、大学に進む学生の数を絞るのが目的である。

 高校入試(中考)時点で、約半数の生徒が高校や大学への進学の道を閉ざされる。この制度のもとで中国では大学に行けそうもなくなった子どものため、親が海外留学を用意しているのだ。

 ある西日本の高校に通う現役の中国人留学生王濤君(仮名)は、自分のクラスでは8人に1人が中国人だと教えてくれた。本人も、まさに「巻」と「中考分流」が留学の理由なのだという。中国でこの高校の評判を聞いて来日を決めた。

 王君が語る中国の教育熱は、日本人の想像の遥か上を行く。

 「幼稚園のとき、私がまだ泥遊びをしている頃に幾何学や関数を学んでいる子どもがいました。私が小学校や中学校に通っていたときは、みんな楽器やダンスなどの特技を持っていました」「春節で中国に帰ったときには、空港で幼稚園児くらいの子が円周率を100桁まで暗唱していました」

 王君によると、日本での学校生活は充実していて、教師の面倒見もいいという。卒業後は首都圏にある某私立大学の理工学部を目指しているそうだ。

■費用がアメリカの2割以下で済む

 日本留学がブームとなっているのには、経済的要因もある。袁列氏によると、コロナの影響で、留学先として近場の日本が好まれるようになったという。国際情勢の不安定化で欧米を避ける傾向が強まったうえ、ここ数年円安が続いていることも日本の人気を高めた。「アメリカだと生活費など含めて年1600万円ほど必要ですが、日本なら多くても300万円です」。

 中国からやってきた高校留学生は、基本的に日本の大学に進学する。受け入れ校にはたいてい協定校や指定校推薦がある。留学生の在留資格では高校卒業後に浪人生としては日本に残れないという制約もあるが、日本人と同じ入試に挑む生徒もいる。

 「国語が苦手な生徒が多く国立大学合格は難しいが、優秀層には早慶などのトップ私立校に入学する人もいる」(袁列氏)という。ただ、前出の教師は、昔は私立有名大学を目指す留学生が少なくなかったが、最近は「意識が薄かったり、向上心が乏しかったりする生徒が増えた」と嘆く。それでも日本は大学全入時代なので、選り好みしなければ進学は難しくない。

 年々悪化する自国の教育環境から子どもを救い出そうとする中国人保護者の増加、そして少子化のなかで生徒数確保が焦眉の急である日本の高校の利害は一致している。中国から日本の高校を目指す留学生はますます増えていきそうだ。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:5/18(土) 10:08

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング