欧米人のように日本人が投資をしてこなかった歴史的な理由

4/23 6:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 日経平均株価がとうとうバブル後の最高値を突破し、株式投資が大きく注目されている。個人投資家のための税制優遇制度も新たになり、株式投資を始めようと考えている人、またさらに拡大させたいという人も少なくないのではないか。だが、間違った知識で投資をすることは危険。それを教えてくれる1冊が『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(奥野一成著)だ。社会人の教養として投資リテラシーは必須だと語る、その意味とは?(文/上阪徹)

● 株式投資で得た利益は、不労所得なのか

 投資には興味がないわけではないけれど、自分には縁遠いものなのではないか……。実は日本人に多い、そんな思いに対して、投資を知ることはこれからの社会人に必須だと説き、大きな共感を得て11万部のベストセラーになっているのが、『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』だ。

 著者は京都大学を卒業後、日本長期信用銀行、外資系証券を経て農林中央金庫に入庫。2014年から、株式を中心とした有価証券に投資を行っている農林中金バリューインベストメントのCIOを務める投資のプロフェッショナルである。

 世の中には、株式投資のやり方を指南するような書籍はたくさんあるが、本書の大きな特色は、「なぜ投資が必要なのか」「投資について知ることがいかにビジネス人生に役立つか」といった投資の哲学にこそフォーカスされていることだ。

 そしてもちろん著者本人が投資のプロであるだけに、どんな視点で投資対象の企業を見るか、どんな銘柄を選ぶのか、値動きにどう向き合うか、など投資のヒントに溢れている。株式に関わるデータをめぐるショッキングな見方も並ぶ。

 投資と聞くと、今なおネガティブな印象を持つ人が日本には少なくないのも事実だ。値下がりしてしまったら損をする、というだけではない。

投資とは、自分が働くのではなく、投資先の人に働いてもらうことで、そこから得られた収益の一部を分配してもらうことです。このように言うと、「投資なんて不労所得を得るためのろくでもない考え方だ」と批判する人がいますが、それは資本主義の仕組みを全く理解できていない人なので、無視してください。(P.30)
 なんとも思い切りのいい断言だが、この文章を書いている私には、過去に新興のオンライン証券会社がなぜ生まれたかにフォーカスした著書がある。それだけに、その気持ちはよくわかる。

 そもそも日本では、株式や証券市場について、多くの人が知らないのだ。

● 投資は、脳みそに汗をかいている

 投資の起源として本書では、イギリスの東インド会社が紹介されている。イギリスで生まれたのは、1600年。その目的は貿易。アジアで採れる香辛料や綿花、お茶などが対象で、輸入すれば高い値段で売れた。

そこでイギリスの貿易商人は、1回の航海ごとに出資者を募り、無事に船が戻ってきたら積み荷を売却し、そこで得た利益から元本と配当を得るという方式で、航海に必要な資金を集めました。(P.31)
 資金がなければ、貿易商人は船を出せなかった。もっといえば、資金がたくさんあれば、たくさんの船を出せた。つまり多くの人が、貿易で収益の機会を得ることができたのだ。投資家がいたからこそ、ビジネスは大きくなっていったし、収益を得る機会も増えていったのである。これがまさに資本主義の仕組みなのだ。

 現在の株式市場の仕組みも、基本的にはこれと同じだ。投資とは、ビジネスを大きくするために欠かせないお金を融通することに他ならない。「不労所得だ、ろくでもない」などと言っていたら、ビジネスは大きくなっていかない。それこそ、株式会社に勤めているなら、誰かが投資してくれたからこそ、勤めている会社は事業を大きくできたのだ。

その時の考え方が脈々とイギリス人の中には生きているので、現代においても資本家と呼ばれる人たちが大勢、欧米社会には存在しているのです。(P.32)
 ところが日本では、この根本理解が浅い。だから、株式投資というと株価に投資して一喜一憂する姿がイメージされてしまったりする。そうではないのだ。本書で繰り返し語られるが、株式投資とは株価に投資をするのではなく、事業に資金を投じるということだ。東インド会社と同じである。その事業が成長すれば、収益を得られるのである。

 ただ、どんな事業でも成長するわけではない。だから、投資家にも努力が求められる。

私自身が投資家なのでよく分かるのですが、投資は額に汗することはないかもしれませんが、脳みそは常に汗をかいています。とにかく考えて考えて考え抜いたうえで、投資判断を下しています。決して不労所得を得ているわけではありません。脳みそに汗をかくことは、額に汗をかくことと同等に尊いことを忘れないでください。(P.30)
● 「日本人はリスクを取るのが苦手」のウソ

 そして投資についての正しい理解の遅れは、日本人の資産形成に大きな影響を及ぼすことになってしまっている。1995年、日本の個人金融資産は1182兆円だった。これが2019年には1864兆円になった、と本書には記されている。24年で1.5倍、率にすると2.3%。しかし、アメリカはどうなったか。

1995年時点の米国の個人金融資産は、2343兆円でした。(中略)
それから24年が経過した2019年9月時点の数字を見ると、9855兆円にもなっています。実に4.2倍。年率にすると、1年につき13.3%も伸びていったことになります。(P.90)
 国民全員とは限らないが、アメリカの家計はこの24年間、豊かさを謳歌してきた。ところが日本の家計は豊かさをほとんど実感できずにいる。なぜ、日本の個人金融資産の伸びが、鈍いのか。

 個人金融資産の構成を見てみると、保険・年金・定型保証は日本が28.6%、米国が31.7%で、それほど大きな差はない。しかし、現預金や投資信託、株式の数字が大きく違う。

日本の個人金融資産は、現預金が53.3%と半分以上を占めているのに対し、米国の現預金はたったの12.9%です。
そして投資信託が、日本の3.9%に対して米国は12.0%、株式は日本が10.0%であるのに対して米国は34.3%もあります。(P.94)
 なぜ日本人は投資をしないのか。「日本人はリスクを取るのが苦手」という声もあるが、大ウソだと著者は記す。明治時代に創業した会社がたくさんあるが、創業当時は、とてつもなく大きなリスクを抱えていたのだ。

 しかし、それが一部の財閥経営者を除けばほとんど浸透しなかった。その理由として、第二次世界大戦での敗戦を挙げる。次の世代に向けて資本家マインドが定着する機会を失ってしまったのだ。そしてもう一つ、生きていくために労働者として働かざるを得なかったこと。投資をしようにも「お金」がなかった。労働力しか売るものがなかったのだ。

 ところが今は違う。昔と違って、日本人は豊かになった。日本を代表する大企業の株式でも数十万円単位で買えるものがある。ミニ株投資制度などを利用すれば、数万円単位で投資できるのだ。

第二次世界大戦に敗れた劣等感とそれをひっくり返した成功体験によってつくられた過度な「モノづくり信仰」のもと、戦後の教育では投資の重要性について教えられることはほとんどありませんでした。資本主義国家であるにもかかわらず、多くの国民は投資の重要性を知らないまま大人になります。教育の分断が起こっているのです。(P.104-105)
 これから求められるのは、投資に対する正しい理解である。それこそが、本書が唱える「投資家の思想」だ。株価に投資するのではなく事業に投資するという考え方も、その一つ。株式投資のテクニックを学ぼうとする前に、知っておいたほうがいいことがある。多くのアメリカ人のような投資の成功を手にするためにも。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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最終更新:4/23(火) 6:02

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