「年をとったら借金をしてはいけない」と考える人の重大な盲点 間違った思い込みを捨てて老後の生活が豊かに

3/25 15:02 配信

東洋経済オンライン

新NISA制度の開始など、「貯蓄から投資へ」の流れが加速する2024年。そのような状況のなか、フリージャーナリストの川島睦保氏は「老後の投資は、業界No.1企業への高配当投資に限る」としたうえで、老後生活を豊かにする投資術を実践しています。本記事ではシニアが高配当投資を行うための資金管理をどのようにすればいいかを解説します。

*本稿は『一生、月5万円以上の配当を手に入れる!  シニアが無理なく儲ける株投資の本』(川島睦保 著)から一部抜粋・再構成しています。

■資産と負債の両建てで生活を豊かにする

 50歳前後まで堅実に働いてきた人なら、リタイア後に備えてそれなりの老後資金を貯めているはずだ。

 ところが、その老後資金を「間違った思い込み」で減らしてしまう人がいる。残念なことだ。

 その思い込みの最たるものが「歳をとったら借金をしてはいけない」だ。

 たとえばマネー評論家やファイナンシャルプランナーのなかには、定年が視野に入ってきたら、住宅や自動車などの支払いは、借金(ローン)ではなく現金(キャッシュ)で済ませるべきだと主張する人が多い。

 しかし、その是非は状況によるのではないか。

 私は、歳をとるほど手持ちのキャッシュが重要になると思っている。そのキャッシュの多寡によって、人の経済的な豊かさの感じ方が大きく変わってくるからだ。

 手持ちのキャッシュが多ければ豊かな気持ちになれる。何をするにしても財布の中身を心配する必要がなくなる。これは大事なことだ。

 たとえば周囲に対しては大らかになれる。生活の活動範囲が広がる。自然災害や戦争の被害者、難民への義援金、母校や菩提寺からの寄付の要請などにも気持ちよく応じられる。

 気軽に海外旅行や高級レストランでの食事に出かけられる。子供や孫へのお小遣いや資金支援にも応じることができる。

 健康を害したときも、高度の治療や保険適用外の高い薬に手を伸ばすことができる。老人ホームへの入居でも頭金が足りないためにワンランク落とさざるをえないようなこともなくなる。

■「ローン制度」という発明を放棄する必要はない

 キャッシュをどう使おうが借り先から口出しされることはない。

 発展途上国ではまだまだ住宅ローン、自動車ローンの制度がないために、一部の金持ちしか人生の豊かさを享受できないケースが多い。一般の庶民は購入資金がすべて貯まるまで自宅や自動車の購入を先送りしなければならない、という。

 一方、先進国の若い世代は2~3割程度の頭金さえ貯めることができれば、早い段階からローンで自宅や自動車を購入して快適な生活をエンジョイできる。ローン制度は人類の偉大な発明の一つだといっても過言ではない。

 その偉大な発明を高齢だからという理由で自ら放棄してしまうのはもったいない話だ。

 かなりの高齢になって体の自由がきかなくなれば自動車の運転免許は国に返上するのが筋だが、ローンは何歳になっても返済能力さえあれば返上する必要はない。

 この“第2”のキャッシュの一部をうまく長期の高配当利回り銘柄への投資に活用できれば(短期投資ではないことに注意)、生活をさらに豊かにすることができる。

 企業でいえば、銀行や資本市場から借金で資金を調達して工場を建設し、そこで製造した製品を市場で販売して安定的な収益を上げていくことと同じだ。

 バランスシート(貸借対照表)の負債項目にある借金と資産項目の設備とのバランスをうまく図りながら収益を上げ、借金の元利金も返済していく。これができれば、企業経営としてはいくら借金してもまったく問題ない。

 むしろそれをやらないほうが企業家精神に欠ける消極的な経営だと、株主から烙印をおされかねない。

 つまり借金はすべてが悪ではない。もちろん金利が上昇に向かえば、こうしたローンも使い勝手が悪くなる。

 しかし、企業活動の収益が利払いを上回っているかぎり、つまり利払いを続けることができるかぎり、前向きに取り組むべき選択肢の一つだ。この鉄則は、企業でも個人でも、若年層でもシニア層でも変わらない。

 ただ誤解のないように言っておくが、私はここで信用取引を推奨しているのではない。本当に実現するか不確かな値上がり益を根拠に借金で株式を買うのは厳重に慎むべきである。

■年齢を重ねるほど現金を大切にすべし

 いまから十数年前になるが、私が50代半ばに差し掛かった頃のことだ。別の会社に勤務する学生時代の3歳年下の友人B君がいた。彼は30年近く独身生活をエンジョイしたあと、50代前半になってようやく現在の奥さんと知り合って結婚した。

 それまで横浜市の郊外の実家で両親と暮らしていたが、新婚生活を営むための住居が必要になり、都心で4000万円以上もする2LDKのマンションをキャッシュで購入したのだ。

 私は彼からこの話を聞いたとき、二重の意味で驚いた。

 1つ目は独身生活を長期間続けるとこんなにお金が貯まるのかという点であり、2つ目は50代という年齢になってキャッシュで不動産を購入したことだった。

 1つ目は、冷静に考えれば別に驚くことはなかった。独身で実家暮らしを30年も続ければ、住宅の費用や子供の養育費がかからないので、地方出身の既婚者に比べて、たくさんのお金が貯まることは理解できる。

 私が2人の子供を養育している頃、子供に大学教育まで受けさせると最低でも一人当たり2000万円はかかるといわれて驚いた記憶がある。

 それから逆算すると、未婚で子供のいなかった彼が住宅を買うのに4000万円もの大金をポンと出せるのは、当然と言えば当然だった。

 しかし2点目はどうしても合点がいかなかった。50代といえば10年先の定年退職(当時は60歳定年が一般的)が視野に入ってくる年齢だ。

 その年齢で30年のローンを組めば支払いが完了するのは80代だ。退職後も借金を抱えたくない、金利支払いに追われたくないという心情は十分に理解できる。

 しかし私が彼の立場なら、手持ちのキャッシュの一部を頭金に充当したとしても、購入資金の大半は住宅ローン(銀行の融資審査に合格することが大前提)で手当てしただろう。

 財務諸表的にいえば、負債の部に住宅ローンの借金、資産の部に購入したマンションが計上される。

■住宅ローンで手元のキャッシュが増やせることも

 住宅ローンにかかる月々の金利支払いは、毎月の月給から充当できる。定年退職後も仕事をしていれば同じく月給から振り向ければ良い。仕事をしていなければ、公的年金や手持ちのキャッシュからローン金利の支払いにあてることも可能だ。

 あるいはそれも面倒臭ければ、正式な退職時点で手持ちのキャッシュを使って借金をすべて早期返済してしまえば良い。

 重要なことは、シニア世代は手持ちのキャッシュをできるだけ保持し続けるべき、ということだ。

 50代で住宅ローンを組む最大のメリットは、手持ちキャッシュをそのまま手元において老後に向けた資産形成に役立てられる点だ。

 B君は手元にあるキャッシュ4000万円を利回り4%の銘柄に投資すれば、年間160万円の配当金(税引き前)を手にすることができた。

 この配当金から住宅ローンの金利を支払えば、2~3%程度のプラスの利ざや(当時の住宅ローンの変動金利型は1%前後)を抜けた。

 それを老後の資金原資に毎年充当することができたのだ。

 こうした“荒ワザ”は、異次元の低金利という恵まれた環境だからできたことかもしれない。

 銀行は貸し倒れの少ない有利な運用先として住宅ローンの拡大を目指した一方で、借り手は「超低金利+住宅ローン所得減税」によって実質ゼロ%金利で借金することができた。もちろん元本は毎月きちんと返済しなければならない。

■低利の住宅ローンは今後も続く可能性が高い

 しかし日銀が異次元緩和の修正に転じた現在の局面でも、住宅ローン金利の上昇ピッチは緩やかだ。

 現在、大手銀行の固定金利型の住宅ローン金利は、何度も引き上げられたとはいえ依然1.0~1.8%の水準にとどまっている。

 変動金利型は0.3~0.6%程度と低水準で据え置かれたままだ。

 キャッシュより住宅ローンで住宅購入するほうが相対的に有利な環境は、今後も続く可能性が高い。

 都心の高級住宅地に立派な自宅を構えていても、キャッシュに窮したら豊かな老後生活を送ることはできない。

 立派な住宅に引っ越してもしばらくすればすぐに慣れてくる。ありがたみも薄れる。人間はそういうものだ。

 一方、キャッシュが底を突けば本当の地獄が待っている。シニア世代はキャッシュを粗末にしてはならない。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:3/25(月) 15:02

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング