立川談志の名言「酒が人をダメにするんじゃない…」→酒をネットに置き換えても説得力がエグかった!

7:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 リア友とネッ友(ネット上での友人)の境界線が曖昧になっている昨今、トラブルやリスクを避けつつ、バランスの取れた利用が求められている。とはいえネット上での付き合いでは些細なことで行き違いが起こりやすく、親密だと思っていた関係が一気に崩壊することも。ネッ友が当たり前となった若者たちのSNSでの作法とは?※本稿は、物江 潤『デジタル教育という幻想 GIGAスクール構想の過ち』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。

● ネットでは特殊が普通になる 「フィルターバブル」問題

 有名な政治家のSNSを確認してみれば、熱烈な支持者たちが集っており、これでもかと賞賛の書き込みが積み重なっています。ある1人の政治家を熱狂的に支持する人々の国民に対する割合は、間違いなく非常に小さいのですが、そんな当たり前にすぎる事実を忘れてしまいそうです。

 たとえ、その政治家のSNSに集まる人々が、ネットユーザー全体の1%にも満たない人数だとしても、膨大な数のネットユーザーが分母であるため大人数に見えてしまい、集まっている人たちは、自分たちがマイノリティーであることに気付きにくいのです。

 「特殊が普通になる」と言ってもよいと思います。そしてそんな特殊な普通を、ネットの外の社会にも適用すると、しばしば厄介なことが起きてしまうわけです。

 政治に関する情報だけでなく、同様の考えを持ったユーザーたちとSNS上で繋がれば、類似した書き込みや自説を補強する情報を繰り返し目の当たりにします。

 アルゴリズムが働き、ユーザーが気に入る情報が優先的に表示されるようにもなりますので、まるで閉鎖的な情報空間に閉じ込められたかのようでもあります。

 あるフィルターを通過した情報がこだまする空間をバブルと見立て、昨今では「フィルターバブル」と名付けられ問題視されています。

 もちろん、いくら閉鎖的な空間だとしても、たまには反対意見を目にすることもありますし、なかには意図的に異なる主張を収集している方もいらっしゃるでしょう。自ずと偏る空間だけに、そうした姿勢は大切だと思います。

● 人間は「バイアスの塊」 情報を客観的に処理できない

 ところが、私たち人間はバイアスの塊であり、反対意見を公平に取り入れるのは難しいことが科学的に分かってきました。

 特に知性の高い方々に言えることですが、仮に説得的な反論や自説に反する情報を目にしても、その持ち前の頭脳を使い、退けてしまうのです。一時的に自説が非合理的になったとしても、すぐさま合理的なものになるよう論理が組み替えられてしまうわけです。

 こうなると、反対意見を得るほど理論武装が強化されるようなものであり、なお一層のこと考えが偏るという本末転倒な現象が起きかねません。

 人間がバイアスの塊であることを示す科学的な実験や調査は、数多く確認することができます。自説を補強するものであれば怪しい情報でも容易に信じてしまったり、論理的な主張よりも感情を大きく揺さぶるような情報から大きな影響を受けたりするという報告もまた、人間の欠陥を露わにした1例です。

 こうした人間の姿を見ていると、立川談志師匠が残した言葉を思い出します。談志師匠は「酒が人をダメにするんじゃない。人間がもともとダメだということを教えてくれるものだ」と話しましたが、この「酒」を「ネット」に置き換えても、そっくりそのまま通用しそうです。

 元来、人間は情報を客観的に処理することができないというダメな部分がありました。しかし、そんな欠陥をネットが明瞭にし、しかも増幅してしまったのが現代だと言えます。私たちは、そのダメな部分をまだ十分に自覚できておらず、以前であれば考えられなかったトラブルが生じ戸惑っているのです。

● 「ネッ友には依存しない」慎重さ ある中1女子のSNS活用法

 総体のうちの一部分だけが見えるから容易に仲よくなれるという図式は、SNSにおいて特に成り立ちます。

 ここでは、今を生きる中高生たちが、どのようにSNSを楽しみ、そしてネッ友・リア友を作っているのかを具体的に見ていきたいと思います。なお、登場する生徒たちの例は、特定されないよう個人情報を加工しています。

 中学1年生の女子Aさんは、いわゆるK-POPアイドルの「推し活」をしています。小学生の頃から彼女が使っているインスタは、インスタ映えする自撮りをアップロードし同級生たちと交流する場所ではなく、完全に推し活をするためのツールと化しています。

 推し活とは、特定のアイドルや歌い手などを応援する活動のことで、その内容は多岐にわたります。周囲に魅力を広める(推す)、熱心に情報を集める、グッズを収集するといった分かりやすいものから、もはや推しが神やカリスマ的存在の域まで達するディープなケースもあります。

 さて、推し活をしているAさんもご多分に漏れず、インスタ上のK-POP界隈にネッ友がいます。「界隈」とは、特定の業界のようなもので、価値観や趣味を共有するコミュニティやネットワークを指します。同好の士が集うコミュニティ故に貴重な情報が盛んに行き交うため、推し活にはもってこいの場所です。

 Aさんの場合、あくまでもネッ友の段階で止まっており、リア友にまでは発展していません。DM(1対1でやりとりをするダイレクトメール)でネッ友と楽しくやりとりをしているようですが、あくまでもネッ友はネッ友に過ぎないと割り切っています。

 学校や家庭における教育のたまものなのか、生来の慎重さ故のことなのかは定かではありませんが、彼女はネットのリスクについて理解をしており、ネット上でリア友を作る気は全くないと断言します。

 そもそもですが、Aさんがネット上の界隈に足を踏み込んだのは、推し活のためにほかなりませんでした。学校や家庭に居場所がなく、ネット上を彷徨っているうちに居心地のよい界隈を見つけたわけではありません。私が見る限り、Aさんの学校生活は充実しており、居場所やリア友に関する深刻な悩みもないため、ネッ友に依存する必要性がないのです。

● グループの秘密の会話を漏らす 裏切り行為が露見した

 信頼できる家族・友人がいないからネッ友に依存し、さらなる関係性を求めリア友に発展させようとする……と単純に割り切ってはなりませんが、その傾向はたしかに感じます。

 不登校児(および予備軍)や、その親御さんと話をしていると、明らかにSNS・ゲーム・ネッ友の話題や悩みが多いのです。なかには、お子さんがトラブルを起こしてしまい、対処に苦慮している事例もありました。

 中学2年生のBさんは、とある無料ゲームのヘビーユーザーです。彼女が起こしたトラブルは、大人たちにとっても身に覚えのある女子グループでよくある騒動と似ています。

 たとえば、ある女子生徒Cさんが、学校内で複数のグループに所属しているとします。クラス内の4人グループ、クラス内外の6人グループ、部活内のグループといった具合に、3つのコミュニティに所属しているという状況です。それぞれのグループのメンバーには重複が見られるものの、基本的には別グループです。

 ある日、Cさんは4人グループから無視されるようになってしまいました。理由を探ってみると、4人グループのなかで交わしていた会話の内容を、部活グループに漏らしてしまったことが原因でした。

 彼女にとっては他愛もない話でしたが、他の3人は暗黙の裡に秘密の会話であるという共通認識を持っていたため、裏切り者のレッテルを貼られてしまったのです。

 部活グループでなされた話が、6人グループにも所属している別の生徒によって同グループに広がり、そして6人グループには4人グループに所属している生徒もいたため、巡り巡って裏切り行為が露見したのです。

 厄介なことに、他の3人がいない部活グループで秘密が漏れていた点もまた、密かに3人を裏切っていたという悪い印象を強めてしまいました。

 Bさんが起こしたトラブルは、ネットの内か外かを別とすれば、この騒動と全く同じです。同じゲームをしていたネッ友たちが、ゲーム・SNS上で複数のグループを作りコミュニケーションを楽しんでいたものの、些細な認識の違いによりBさんは裏切り者扱いされてしまったわけです。

● 「裏切り者」認定で極悪人に 個人情報を伏せたのが不幸中の幸い

 先述したように、ネット上では捨象と抽象のプロセスが強く働きます。だから、ネッ友は信頼できる側面ばかりで構成された集合体となります。

 ところが、この捨象と抽象は友人に対してだけでなく、裏切り者に対しても適用されます。

 1度は心から信頼した相手だけに憤りは強く、裏切り者のネガティブな要素ばかりがグループ内でどんどん蓄積されていき、以前とは正反対の集合体が構築されてしまいます。

 総体を知らないからこそ、苦手な部分を見ずに済んでいたのが一転、今度はその反対に、あるはずのよい部分が一切見えないがために極悪人として抽象化されやすいのです。かつては互いに信頼しあっていたため、個人情報を共有してしまったというケースもあるでしょう。

 不幸中の幸いだったのが、Bさんは大まかな居住地は伝えていたものの、個人を特定できる情報は最後まで伏せていたことです。ネッ友からリア友に発展する1歩手前であったため、トラブルはネット上のみで済みました。

 同コミュニティの男子高校生のなかには、顔写真・本名・高校名を伝え、Bさんと個チャ(個人チャットの略で、1対1でメッセージのやりとりをすること)をしていた生徒もおり、しかもBさんの個人情報を盛んに求めていたようなので危ないところでした。

● 「ネッ友に会う=危険な行為」と 子どもへ押し付けられない理由

 一方、私たち大人から見ても、それほど違和感のないSNSを利用したリア友の作り方もあります。インスタを通じ近隣の中高生たちとリア友になるというパターンもまた、その1例だと言えます。

 SNS上で相互フォロー(ゲームで言えばフレンドになること)し、ネット上で親密になってネッ友となり、実際に会うことでリア友に発展するという流れは同じです。

 しかし、近隣の中学・高校に通っているため、大抵の場合において共通の友人・知人がいるという点で異なります。相手が本当に中高生であることも確かめられますし、ある程度は素性を知ることもできます。

 実際に会う段階で大きなトラブルを起こせばリアルな交友関係にも影響を与えるため、トラブルが起きることは考えにくいでしょう。そもそも共通の友人・知人がいる時点で、ネッ友に該当するかどうか微妙でもあります。

 「ネット友と実際に会う=危険な行為」と単純化して子どもに接すれば反発を招くのみならず、実際にはリスクの低い行為に対してまでも不当な規制を加えることにもなりかねません。それどころか、こうした行為は息苦しい学校の外に居場所を確保することにも繋がるため、プラスの効果が期待できます。

 最後に「界隈」について補足します。本来はネットスラングだった「界隈」は適用範囲が広がっていき、現在では、たとえば生徒マキさんのクラスの友人グループを「マキちゃんの界隈」と表現することもあります。

 こうなると、普通の「グループ」とほぼ意味が同じです。ネットスラングだったはずが、いつの間にか若者たちの流行語に発展し、その意味内容が変容したのでしょう。

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最終更新:11/19(火) 7:02

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