空前のコメ不足発生で価格高騰、流通で陰りが見られる“農業協同組合の支配力”

2/17 6:02 配信

東洋経済オンライン

企業がどこからどれだけ調達しているか。そしてどこに販売しているか。『週刊東洋経済』2月22日・3月1日合併号の特集は「もうけの仕組み 2025年版」。会社四季報記者が日頃の取材や産業連関表を基に、56業界のサプライチェーンを“見える化”した。

 2024年夏、空前のコメ不足が発生した「令和の米騒動」。その余波で、現在もコメの価格は高値で推移している。その背景には、コメの流通において、最大手である農業協同組合(JA)の影響力に陰りが見られることがある。

 農林水産省が発表している22年産米のデータによると、国内のコメの生産量は727万トン。その半数近い350万トンは農家による卸売りや小売り、中食・外食業者への直接販売(直販)のほか、親戚への無償譲渡や自家消費に回る。残りは集荷業者が扱うが、このうち303万トンが米飯向けの「主食用」で、ほかは清酒やみそ、米菓向けの「加工用」などである。

■特権でコメを優位に集荷

 主食用303万トンのうち9割以上の284万トンを握るのが、全国に506(24年10月時点)存在するJAだ。JAがこれだけの集荷力を保ち続けられたのは、「無条件委託販売」と「共同計算」という特権があったからである。

 無条件委託販売とは、各地のJAの上部団体である全国農業協同組合連合会(JA全農)が農家に代わって、コメを販売する時期や価格、相手を決め、精算に至るまでの一切の業務を請け負う仕組みのことだ。JAは22年、集荷量の8割弱に当たる220万トンをJA全農へ無条件委託販売した。

 農家から集めたコメは、品質が同じでも、販売する時期や取引先によって価格は変わる。そうした条件の違いによる不公平が生じないよう、農家への精算は一定期間の平均価格によって行う。これが共同計算だ。

 JAを構成する組合員は大半が零細な兼業農家であり、自ら販売や精算をする力がない。無条件委託販売と共同計算はそんな組合員から、JAがほかの買い手より優位にコメを集荷する仕組みとして機能してきた。同時に、JAは国に働きかけて減反政策を維持させることで高い米価を演出し、零細農家の離農に歯止めをかけてきた。

■落ち込む集荷率

 ただ、流通全体に占めるJAの集荷率は落ちている。04年に45%だったのが、22年には39%になった。片や増えてきたのが農家による直販で、04年に26%だったのが22年に32%になった。

 これは時代の趨勢といえる。高齢化で離農が一気に進んでおり、残る農家は規模の拡大による経営体力の向上へ努力を始めている。一部の買い手はそうした農家に、JAが収穫期に業界で先駆けて示す一時払いの「概算金」よりも高値を提示するほか、即時での現金決済に対応することで支持を得てきた。EC(ネット通販)やふるさと納税の登場も、農家による販路の拡大につながった。

 24年夏に起きた令和の米騒動以降、JAの集荷率は一層落ち込みつつある。JA以外の買い手が、JAが示した概算金よりも高値を提示しているからだ。さらに新たな買い手が次々と争奪戦に加わったことで、JAは計画どおりにコメを集められなくなった。業界関係者によると、流通全体におけるJAの集荷率は24年産で前年産より約1割減になる見込みだという。

■米価高騰は早期に緩和か

 では、このままJAの集荷率は落ちていくのか。あるコメ卸業者の役員は「揺り戻しがあるはず」と予測する。最大の理由はインボイス制度での「農協特例」だ。

 23年10月に始まった同制度では、売り上げが年間1000万円未満の事業者も消費税を国に納める「課税事業者」として扱うことになった。同制度への登録は任意。ただ、免税事業者のままでいると、取引先が消費税の仕入れ税額の控除を受けられない。つまり損をするため、免税事業者は敬遠される。稲作農家の多くは年間農業収入が1000万円に達していないため、大半は免税事業者だった。

 ところが同制度では、農家がJAをはじめとする協同組合などに、無条件委託販売と共同計算を条件に出荷する場合、インボイスの交付義務が免除されるという特例を設けた。これが農協特例だ。

 インボイス制度では激変緩和のため、26年9月末まで8割控除、29年9月末まで5割控除という経過措置を取っている。コメの集荷はさらにJA有利となった。

 現時点では、JA以外の買い手が農家に異常な高値を提示しているため、その影響は見られない。だが、JA以外の買い手が懸念しているのは5割控除になる26年産以降だ。先述のコメ卸業者の役員は「5割控除となると、(消費税の負担が重く、われわれ民間業者は)集荷できなくなる」と危惧する。

 加えて、米価の異常な高騰はいつまでも続くわけではない。産地はこれまで減産傾向にあったが、25年産では前年産より増産する計画だ。さらに江藤拓農水相は2月7日、政府備蓄米の放出準備を進めていることを明かした。実現すれば、25年の収穫期を待たずとも需給は緩和する可能性が高い。

 「市場原理」が働かないとされてきたコメの世界。現物市場や先物市場が誕生しては、JAの反対に遭って潰されてきた経緯もある。それが令和の米騒動を招いた要因にもなっている。流通構造がいびつである限り、業界関係者はもとより消費者も損を被り続けることになる。

東洋経済オンライン

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最終更新:2/17(月) 12:02

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