「スシローが新型店を出したらしい…え、寿司じゃなくて天ぷら定食!?」 スシロー「次の一手は天ぷら」なぜ注目されるのか
スシローの次なる一手は「天ぷら」らしい……。
そんなニュースが飛び込んできた。スシローを展開するFOOD & LIFE COMPANIES(以下、F&LC)が新業態「天ぷら定食 あおぞら」の1号店を4月10日にオープンしたのだ(運営は、子会社である株式会社FOOD & LIFE INNOVATIONS)。
くら寿司、はま寿司と並ぶ回転寿司チェーン大手のスシローを抱える同社は、なぜ「天ぷらチェーン」に乗り出したのか。意外に思えるこの挑戦には、回転寿司業界と天ぷらチェーン業界の現状がある。
実際に新店舗「あおぞら」に訪れながら、その事情を説明したい。
■「あおぞら」に行ってみた
筆者はさっそく「天ぷら定食 あおぞら」の1号店を訪れた。
【画像10枚】「1300円でこのクオリティは…」と驚愕! スシローの“兄弟天ぷら店”のメニューや内観
場所は千葉県野田市の国道16号線沿い。国道16号線といえば、代表的な郊外タウンが連なる街として知られ、チェーン店の郊外立地の実験店舗が出店される場所も多い。
「あおぞら」の周りにも、ブックオフやびっくりドンキー、ラーメンチェーンの「山岡家」など、「ザ・郊外」の風景が広がる。
オープンした週の土曜日だったからか店は人であふれていて、私が訪れたときも10組以上が待っていた。
順番を待つ客を見ると、年配層の姿が目立つ。一方で、子どもを連れたファミリー層もちらほらいる。回転寿司の客層と重なりつつ、よりシニア受けがいいのかもしれない。
待つこと30分。意外と早く順番が来た。店内はカウンターが中心で、奥にはテーブルもある。
筆者は複数人で訪れたため、テーブルに案内された。店舗はオープンキッチン形式が採用されていて、客席から職人が天ぷらを揚げる様子が見られる。
■看板メニューは1300円
注文したのは看板メニューだという「あおぞら定食」(税込1300円)と、「アジフライを超えたい、アジ天定食」(税込1500円)。
注文すると早々にご飯とみそ汁・天つゆが先にやってくる。
それも束の間、ものの数分で最初の天ぷらが到着。揚げたものからどんどんと配膳される仕組みのようだ。そういえば、思ったより待ち時間が少なかったことを書いたが、それはこの効率的なオペレーションにも理由がありそうだ。
■調達力を生かしたネタのお味は……?
あおぞら定食は、エビ・生アジ・イカ・半熟たまご・野菜(茄子、とうもろこし、さつまいも)の天ぷらが付いている。
注目すべきは「生アジ」。「生」たるゆえんは、店舗に届くまで冷凍を一切していないから。そんな新鮮なアジを天ぷらにする。確かに、食感はふわっとしていて、回転寿司を扱うF&LCならではの食材調達が生かされている。
また、「エビ」もウリの一つでエクアドル産のバナメイ海老を使用。味がよく、養殖もしやすいことから使われることが決まったという。
こうした回転寿司チェーンならではの商品以外でも、面白いメニューがある。半熟卵の天ぷらはご飯に載せて天つゆをかければ、卵かけご飯としても楽しめる仕様になっているのだ。
肝心の天ぷらのお味は、というと、全体として揚げ物特有の「脂っこさ」は少なく、さっと食べやすいのが印象的だった。一般的に高齢者の方が天ぷらを好む傾向にあるが、そうした人々も食べやすい味が目指されているのだろう。
■回転寿司一本足打法からの脱却をめざす
そもそも、スシローが天ぷら業態に乗り出すのはなぜか。
一つには、回転寿司業界が置かれている状況の厳しさがある。「国内市場の飽和」と「水産資源の高騰」だ。
日本ソフト販売が発表する、すしチェーンの店舗数ランキングによれば、業界全体の店舗数は4164店舗(2024年7月)。その1年前は4201店舗だったので、わずかに減少している。実は2年連続でその数は減少していて、国内店舗数の天井が見えてきた形だ。それは、国内の回転寿司チェーンが海外出店に積極的であることからもわかる。
例えば、くら寿司の2024年10月期決算資料によれば、日本での新規出店は9店舗に対し、アメリカ・アジアを合わせた海外出店は19店舗(アメリカ14、アジア5)。スシローはより顕著で、F&LCの2024年9月期決算資料では、国内の新規出店数は5店舗に対し、海外では42店舗も増加している。
こうした飽和状態に加え、魚介類の値段上昇も深刻だ。これは、円安や地球温暖化による漁獲量の減少、輸送燃料費の高騰などの影響による。以下の水産庁が発表するグラフの通り、他の食材と比べてもその値上がりは甚だしい。
これは、「安さ」が価値の回転ずし業界にとって死活問題である。実際、スシローでは2022年10月に大規模な価格改定が行われ、1984年から続いていた「1皿100円」が終了。同じ時期にくら寿司も値上げに踏み切り、同じく100円皿が終了している。
こうした背景から、F&LCは「寿司」の一本足打法ではなく、それ以外でも収益を稼ぎ出せるような業態開発が求められているといえる。
そこで登場したのが「天ぷら」なのだ。
■なにかと「コスパ」がいい「天ぷら業態」
なぜ、天ぷらなのか。それは、スシローをはじめとした「グループシナジー」が最も発揮されやすい料理だからだ。
天ぷらのネタである「エビ」や「生アジ」からもわかる通り、F&LCは水産物の仕入れに強みを持ち、独自の物流網や調達網を確立している。既存の回転寿司事業を継続させつつ、天ぷらの食材も無理なく調達できるのだ。
また、リリースによれば、「グループ会社が運営する『回転寿司みさき』やお持ち帰り鮨専門店『京樽』の職人の天ぷらの調理に関する技術などを活用しています」とのこと。材料・技術の両方においてグループの既存資源が活用できるわけだ。
さらに、回転寿司ほどは「魚介一辺倒」の料理でないのも、水産資源の高騰が続く中では魅力的だ。先ほども紹介した通り、「あおぞら」のウリの一つは「半熟卵の天ぷら」であり、その他野菜の天ぷらも多く揃える。魚介だけに頼らないメニューがコスト面でも優れているのだ。
いわば、既存の食材調達ラインや技術を生かしながら、回転寿司より「コスパ」がいい、そんな「いいとこ取り」の業態として天ぷらが選ばれた背景があるのではないか。
一方で注目したいのが、「天ぷらチェーン」の状況である。意外にも、日本において天ぷらチェーンの数は少なく、規模としてもそこまでは大きくない。
「てんや」はチェーンの天丼屋としてよく知られているが、運営元であるロイヤルホールディングスの最新決算資料によれば現在の店舗数は182店舗あるものの、立地は全国16都道府県にとどまっており、全国にくまなく店舗を持っているとは言いがたい。
しかも、関西エリアについてはコロナ禍で一度撤退をしており、2023年にようやく再進出したばかり。2022年にはセルフレジなどを取り入れた「新型店舗」を東京に出店し、このフォーマットでこれから全国覇権を狙いにいく構えである。
他にも、丸亀製麺で知られるトリドールホールディングスが運営する「天ぷら まきの」や、サトフードサービスの「さん天」、「日本橋 金子半之助」などのブランドもあるが、いずれも50店舗以下程度の店舗数。
この背景には、天ぷらの「揚げ」技術の標準化・自動化が難しい点が挙げられる。油温や衣の厚み、提供タイミングといった変数が多く、品質の均質化が難しい。ある種の「職人」業が求められるため、拡大の中で人材の育成が追いつかず、スケール化が難しいのだ。
ただ、先ほども述べた通り、あおぞらはグループ企業での「揚げ技術」を生かしており、この難しさをクリアできる可能性がある。また、食材等についてもスシローの食材網を生かすのだから、スケール化の実現性は高いだろう。
ちょうどエアポケットのように空いた「天ぷらチェーン」の弱点を克服しつつ、その市場に挑む狙いが透けて見えるのだ。
■「あおぞら」飛躍の可能性は?
というわけで、回転寿司の飽和や漁獲高の減少といった回転寿司側の事情と「グループシナジーの活用」、そして天ぷら業界の現状などを踏まえると、「天ぷら定食 あおぞら」の出店理由は鮮明になる。
さらに、今後日本では高齢化が進んでいくことは必至だが、天ぷらは高齢層に強く訴求するメニューとしても知られている。
博報堂の2024年度の調査では、天ぷらが好きと答えた人の割合は、他の世代に比べて60代以上が7%も高かったという。実際、筆者が「あおぞら」を訪れた際も、高齢者の来店比率が高かったことは述べた通りだ。
今後の日本において天ぷらは大きなマーケットになる可能性がある。現時点では1号店のみの展開である「あおぞら」だが、これらを踏まえると、近い将来に2号店、3号店と拡大していく可能性も高いのではないだろうか。
とくに郊外での展開には適性があり、駐車場を備えたロードサイド店舗としての強みも生きてくる。
さらに、個人的に思ったのは、この業態は都心でも十分に戦えるポテンシャルを持っていることだ。実際、揚げたての天ぷらを1000円前後で提供できる店舗でオフィス街のランチ需要を取り込めば、サラリーマン層にも大きく受け入れられるはずだ。都心と郊外の両軸で展開できるモデルになれば、全国制覇も夢ではない。
とくに大きなチェーンではその2種類のフォーマットがあることは必須条件だから、都心店の出店可能性がどれぐらい見込めるかにも「あおぞら」の今後は左右されるだろう。また、オペレーション面でどこまでブラッシュアップできるかという点も重要だ。
全国チェーンの少ない天ぷら業界で、「あおぞら」はシェアを拡大できるのか。今後の動向にも注目だ。
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東洋経済オンライン
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最終更新:4/22(火) 6:26