SAPIX講師が“脈々と”受け継ぐ「教えすぎない」の妙 算数の力を上げるために必要な「思考」と「習得」とは?
「うちの子、とくに算数が苦手で」「私も苦手だから子どもも嫌いになってしまいそう」ーー。教育ライターとして多くの保護者から話を聞いてきた佐藤智さんは、算数への悩みがとても多いことに気づいた、と言います。
そこで佐藤さんは、難関中学の受験指導で知られる進学塾・SAPIX小学部で算数を担当する溝端宏光先生と小林暢太郎先生を取材。まず算数を「嫌いにさせないこと」が大事で、そのためには「未就学児」や「低学年」の段階で算数との出会いを楽しいものにしていく、というアプローチが重要だと気づきます。
本記事は佐藤さんの著書『10万人以上を指導した中学受験塾 SAPIXだから知っている算数のできる子が家でやっていること』から一部を抜粋し、「算数の思考力を育む接し方」についてご紹介します。
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■算数の考える力を鍛える6つのコツ
算数の力を上げるには、「思考」と「習得」の両方が欠かせません。そこで本記事では、家庭でできる思考力の鍛え方について説明します。
子どものことが心配になり、あれやこれやと手をかけてしまうのが親心でしょう。しかし、SAPIXでは、子どもの思考力を育むベースとなるのは「子どもの邪魔をしないことだ」と伝えています。
では、邪魔をしないためには、一体どうすればいいのでしょうか。
具体的には、次の画像の通り6つのコツがあります。
これらのコツのうち、本記事では「①教えすぎない」について解説します。
SAPIXでは講師の先輩から、脈々と受け継がれている言葉があります。それは、「教えすぎるな!」ということ。
「塾なのに『教えすぎるな!』ってどういうこと?」と思いますよね。
大人はよかれと思って、つい子どもに「あれもこれも」と教えようとします。
そうすると、すでにその内容を理解している子はどんどん話を聞かなくなります。また、わかっていない子は「言われた通りにやればいいや」と受け身の学習になっていきます。教えすぎることで依存心が高くなるというデメリットがあるのです。
理解している子にとっても、理解していない子にとっても教えすぎることはマイナスに作用してしまいます。
あたりまえのことですが、テストでは自分の力で問題を解けることがとても大事になります。
もっと言うと、中学受験をしてもしなくても、子どもの問題解決能力を高めていくことは、この先の社会で生きていくうえで非常に重要です。
しかし、あまりにも教えられることに慣れてしまうと、「わからないことは聞けばいいや」「待っていれば教えてくれる」という姿勢が身についてしまいます。
とくに算数という教科では、「教わればわかるけれど、自分で考える(手を動かす)ことは苦手」になってしまいます。
■子どもに「教えて」と言われたら?
教えすぎないことが重要な一方で、子どもに「教えて」と頼まれたのに「自分で考えよう」と断ってしまえば、「もういいや」とあきらめてしまう可能性もあります。
一度心のシャッターが下りてしまうと、そこからまた興味を持ってもらうのは大変なことです。「がんばったらできるかもしれない」という段階まで教えることを目標に、つかず離れず調整しながら接していけるとよいでしょう。
大切なことは、子どもが自分で考えられる余白を残しておくこと。
SAPIXでは「ここまでは教えて、ここからは自分で考えてほしい」という切りわけをしています。
「ここはこういうふうにすればわかるはずだから、1回自分で解いてみよう」とうながします。しかし、その塩梅(あんばい)が算数を教えているプロの先生でもとても難しいのです。まして、ご家庭であればなおのことでしょう。
さらに言うと、どこまでの範囲を教えて、どこからは自分で考えたほうがいいのか、すべての子どもにあてはまる正解はありません。
ただ、どの子どもにおいても思考する機会を奪ってはいけないということは共通しています。
たとえば、算数の問題を解くのに方程式の知識を持ち込んでしまうと、本来は子どもがもう少し試行錯誤して視野を広げたほうがいいタイミングだったとしても、先に効率的に解く方法を習得して思考する余地がなくなってしまいます。
また、大人が教えすぎることで子どもがうんざりしてしまい、勉強への抵抗感を抱く可能性もあります。
「叱られても仕方がない」と子どもが思っていることでも、1時間ずっとお説教をされ続けると誰でも飽き飽きしてしまいますよね。
この場合と同じように、1つの問題が解けないからといってずっと教え続けられると、「面倒だな」「できたことにしちゃいたいな」といった気持ちが湧いてくるのは自然なことです。
■問題の情報整理を手伝う意識で教える
大人は子どもに「勉強を教える」という姿勢ではなく、「問題の情報の整理を手伝う」「思考をうながす」といった接し方をすることがおすすめです。
「この部分ではどう思ったの?」
「この問題には、どんなことが書いてある?」
「ここまではわかったんだね。どこからわからなくなった?」
そうした投げかけによって、子どもが自ら思考を整理していくのを待ちます。
この調整は大変難しいですし、時間がかかるアプローチでもあります。だから、完璧にやろうと思う必要はありません。少なくとも、「一から十までは教えない」ということだけでも、大切にできるとよいでしょう。
■大人には「待つ力」が必要!
「教えすぎない接し方」が大切なのは、算数に限ったことではありません。生活や遊びの中で、子どもの思考力は育まれていくからです。
たとえば、子どもが掃除機の使い方に困っていたら、まずは自分で試行錯誤している姿を見守りましょう。
もしも、「掃除機の使い方を教えて」と子どもから言ってきたら、「こうやってかけるといいよ。どうしてだと思う?」などと問いかけながら、思考をうながす方法も有効です。
教えすぎないように接する。
これを実現するために大人に必要なことは「待つ力」です。勉強だけでなく、生活や遊びの中でも考えるきっかけとなる「問い」を投げかけながら、子どもが自ら考える機会を設けていけるとよいでしょう。
東洋経済オンライン
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最終更新:12/14(土) 12:02