「雪の中のごみ収集」やっぱり苦労の連続だった 体力に高い運転技術、柔軟な対応力も必要

3/25 9:02 配信

東洋経済オンライン

 雪が日常的に降る地域では、どれほど雪が降っても通常どおりごみ収集サービスが提供されている。

以前の記事でも述べたとおり2019年、札幌市で初めて雪の中の収集を体験した筆者は、体力に自信があったにもかかわらず、不慣れな作業環境ということもあり、体力的にも、作業のスピードにもついていけなかった。

 結果、作業の進捗が大幅に遅れ、最後は仲間の皆さんにフォローしてもらうという大迷惑をかけてしまった。

 それ以降は「二度とご迷惑をかけたくない」という気持ちから作業に入ることは遠慮していたが、前回お世話になった札幌市西清掃事務所の田中有人さんと再会し、「また札幌で収集をしに来てください」とオファーをいただいた。

 そこまで言っていただけるなら行くしかない。

 2月1日に前回のリベンジに挑ませていただき、助けていただきながら作業をなんとか完遂した。本稿では、雪の中の収集の様子を述べるとともに、過酷な現場でごみ収集に従事している方々の業務への思いについて触れてみたい。

■除雪作業の前に収集

 2月1日、田中さんから「今回は朝早いですよ」と言われていたとおり、まだ暗い6時15分に迎えに来ていただき、西清掃事務所へと向かった。気温は-7℃だ。

 今回一緒に作業をするのは大石弘二朗さんと松里啓吾さん(運転手)。西清掃事務所での収集業務を牽引する、ベテランの2人だ。

 通常の収集作業は8時30分から始まる。しかし生活道路の除雪が予定されている地区では、除雪の重機が入る8時30分までに行かなければ、収集車の通行が阻まれてしまう。

 そのため職員は早出で出勤し、除雪作業の前にごみを収集するのだが、この日、8時前に現場となる西野地区へ到着したときにはすでに複数の重機が除雪を始めていた。

 すぐに大石さんは収集車を降りて走っていき、重機の運転手や交通整理を行うガードマンと調整を試みた。それとともに周辺の除雪状況や重機の配置状況の把握に努めた。その情報をもとに松里さんと相談し、効率的な収集ルートを考えていく。

 「ごみ収集」といえば肉体作業が連想されるが、今回のように刻々と変化する現状に対して、効率的なルートを考案することも業務の一つ。実はごみ収集という仕事には、頭脳労働的な要素がかなり含まれている。

■体力を消耗する雪の中の作業

 雪の中でのごみ収集作業は、通常時に比べて追加の体力が必要になる。

 収集車から降りる際には、ステップに雪が溜まって凍ると踏み外す危険性もある。凍って凸凹した地面に着地する際にも、足を怪我しないよう細心の注意を払わなければならない。

 小走りで収集へ向かうときもあるが、雪道では思うように足が動かず、いたずらに体力を消耗してしまう。ごみステーションが雪に埋もれているときは、雪をふるい落とすうちに手がかじかみだし、思うように指が動かなくなる。

 雪の降らない地区での作業と比べると、かなりの追加的な負担が強いられる過酷な作業であるのは断言できる。

 今回の経験を通して、過酷な環境下でごみ収集作業にあたる負担軽減のため、住民の一人ひとりに「収集者のことを考えたごみ排出」をしっかり考えてもらいたいと思うようになった。

 たとえばしっかり結ばれていないごみ袋だと、作業員がつかんだ瞬間に結び目がほどけ、中身が周囲に散乱することがある。ステーション内に中身が散乱してしまうと特にその後の清掃が大変だ。熊手とジョンバー(柄の広いスコップ)が使えれば良いのだが、そうでないなら手で拾い上げざるを得ない。

 天候が急変し地吹雪が吹き荒れ、帽子が飛ばされていく中で、このような追加の作業が発生すると、作業員のモチベーションは当然、下がってしまうだろう。追加の作業を限りなく発生させないよう、住民の側にも丁寧なごみ排出が求められていると感じた。

■高い運転技術も支えに

 収集車はスタッドレスタイヤを履いた4輪駆動車だった。ごみを積み込んで総重量が重くなっても、雪深い道であっても問題なく走行できると筆者が思っていた矢先、収集作業中に収集車が立ち往生する事態が生じた。

 筆者は立ち往生した車を人力で押し上げるのかと心積もりしたが、すぐに大石さんが収集車から砂を取り出し、タイヤの下に撒き始めた。

 それによりタイヤと地面の間に摩擦が生じ、スリップ状態から脱出できた。このようなトラブルに見舞われても、運転手の松里さんは極めて冷静にハンドルを握っていた。

 西野地区は雪深く、「この道を進むの?」と思うような雪道ばかり。松里さんは道のどの部分ならば問題なく通行できるかをしっかりと見極めて運転していた。雪の中の収集は作業員の現場での奮闘はもちろん、運転手の運転技術によっても支えられている。

 前回のリベンジで臨んだ今回の収集は、大石さんの多大なフォローもあり、16時前に無事にやり遂げられた。ただ、かなりの疲労を感じた。

 やはり雪の中の収集作業は大変なことだ。

■受け継がれる住民へ配慮するマインド

以前の記事でも述べたが、札幌市では行政改革を進め、民間の清掃会社に業務を7割程度委託するようになっている。

 そのため田中さんは、札幌市直営の収集を堅持するため自ら先頭に立ち、「住民のためにできる限りのサービスを提供する」というマインドで業務を続けている。単にごみを収集するだけなら委託業者と変わらないからだ。

 大石さんもそのマインドをしっかりと受け継ぎ、収集の現場で可能な限りのサービスを提供し、直営収集に意義を見出してもらおうと奮闘している。

 今回の収集でも、ごみを取り終えた後、ステーションが公道にある場合は、折りたたみ式箱型器材をきれいに畳んで横に寄せておく、防鳥ネットを見栄え良く畳んで所定の場所に戻す、ステーションのフックをしっかりと閉める、といったことまで細やかな気配りをしながらサービスを提供していた。

 大石さんは以前、ごみ収集の委託会社で勤務していた時期があり、そのときは「住民へ配慮する」というマインドでは仕事をしていなかったと振り返る。

 現在は公務員の立場になったので、住民へのサービス提供という意識が芽生え、田中さんの考えに賛同し、その想いを継承しながら業務に勤しんでいる。

 通常は、清掃職員自ら「住民へ配慮しながら収集している」とは言わない。大石さんも黙々と作業を続けているのみだ。なかなか気づかないかもしれないが、一人でも多くの住民に田中さんらのような清掃職員のマインドが伝わってほしいと思う。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:3/25(月) 11:32

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング