「肥満症薬バブル」でGAFAMを猛追する2つの銘柄 開発をリードする医薬品企業の評価が急上昇

3/29 5:21 配信

東洋経済オンライン

 マイクロソフト、アップル、エヌビディア――。生成AIブームが冷めやまぬ中、世界の株式市場ではアメリカのビッグテックや半導体銘柄が時価総額上位に君臨する。

 しかしこの1年で株価を2倍近くに伸ばし、これらトップ企業を猛追している医薬品メーカーがある。アメリカのメガファーマ、イーライリリー・アンド・カンパニーと、デンマークに本社を置くノボ・ノルディスクだ。

 2024年に入り、2社が相次いでテスラの時価総額を抜いたことが大きく報道された。足元の時価総額は、イーライリリーが約110兆円で世界9位、ノボは約65兆円で14位につけている。

■世界で肥満薬ブームを巻き起こす

 ノボという社名は知らなくても、「ウゴービ」という同社が開発した製品の名前に聞き覚えがある読者は多いだろう。2月に国内でも発売された、肥満症の治療薬だ。この“肥満薬”への期待こそ、両社の株価急騰の起爆剤となっている。

 ノボは、デンマークで1923年に設立された。糖尿病薬のインスリン製造を祖業とし、2023年12月期の売上高は2322億デンマーククローネ(約5兆円)に上る。医薬品メーカーでは、国内トップの武田薬品工業(前期売上高は約4兆円)を優に超える規模だ。

 ノボの売上高は前期比で3割増、5年前と比べると倍近く伸びている。この数年で、一気にグローバル上位の医薬品メーカーに名を連ねることとなった。

 急激な成長を牽引しているのは、「GLP-1受容体作動薬」。長期的に血糖値を下げるだけでなく、食欲を抑え、大きな体重減少効果を発揮する。ノボは従来展開してきたこのタイプの2型糖尿病薬「オゼンピック」を肥満症向けに開発し直し、「ウゴービ」と名付けた。

 2021年にアメリカで肥満症薬としての販売が承認されると、需要に供給が追いつかず、偽造品が流通するほどの社会現象を巻き起こした。この成功と連動するかたちで投資家の買いが集まり、足元のノボの株価は2023年初と比べ9割近く上昇している。

 肥満症薬ブームの火付け役ともいえるノボ。ところが、イーライリリーの株価はそれを上回る勢いで上昇し、2023年初と比べて2倍を超えている。こちらも同じく、GLP-1薬である2型糖尿病向けの「マンジャロ」と、肥満症向け「ゼプバウンド」の成長への期待が大きい。

 マンジャロは、2022年6月にアメリカで発売されたばかりの新薬だ。その売り上げは、同年の4.8億ドルから、2023年には51.6億ドルにまで急成長。デビューからわずか1年で、同社でもっとも売れている製品である「トルリシティ」に次ぐ大黒柱となった。

 糖尿病薬自体は以前から存在したが、なぜここまで注目を集めているのか。

 糖尿病は、血糖値の上昇を抑制するインスリンの働きが低下し、血糖値のコントロールが難しくなる病気だ。血糖値が高い状態が続くと、目の病気や脳卒中などにつながる可能性が高くなる。薬によって血糖値を下げることで、こうした合併症のリスクを下げられる。

 GLP-1は食後に腸内から放出されるホルモンのことで、インスリンの分泌を増加させる働きを持つ。GLP-1薬は、このホルモンと同様の働きをする。

 注射剤の場合、既存薬と比べて血糖値の低下をより長く持続させる効果があり、投与する回数を減らすことができる。それだけでなく、2017年にアメリカで発売されたオゼンピックが、2020年に心筋梗塞や脳卒中などの発症リスク低下の適応を得たことも大きい。多くの糖尿病患者が不安を持つ血管系リスクを抑えられることから、GLP-1薬への切り替えが急速に進んだ。

■発売前から糖尿病患者以外の関心を呼ぶ

 実はイーライリリーのマンジャロは、2022年にアメリカで発売される前から、糖尿病患者以外の肥満に悩む人たちの間でも大きな注目を集めていた。欧米人を対象にした臨床試験で、オゼンピックよりも高い体重減少効果を示したからだ。

 イーライリリーは2023年末、マンジャロと同一成分で、肥満症患者向けに開発したゼプバウンドをアメリカで発売。欧米での臨床試験では、最大容量の15mgを1年間投与し続けた患者には、25%以上の体重減少の効果が示された。

 これまで肥満症の治療は主に、即効性が乏しい食事・運動療法か、大きな効果がある一方で身体的・精神的負担も大きい胃の手術に限られてきた。第3の選択肢に対する需要は大きく、イーライリリーはマンジャロとゼプバウンドが2024年以降の成長を牽引すると予想している。

 目下の課題は生産能力の増強だ。ノボは昨年11月、9000億円超もの巨額を投じて新たな工場を建設することを発表。増強は2029年にかけて段階的に行われ、GLP-1薬などの将来需要に応える姿勢だ。

 一方のイーライリリーはアメリカでの生産能力拡大に投資をしているほか、ドイツにも約3700億円を投じて新たな製造拠点を建設する計画を発表している。工場が稼働する2027年以降はこうした生産能力拡大が寄与し、売り上げをさらに伸ばすとしている。

■肥満症治療以外での開発も進む

 GLP-1薬の開発で世界をリードする両社は、そのポテンシャルを糖尿病や肥満症以外の治療にも広げようとしている。

 イーライリリーは非アルコール性脂肪性肝炎などに適応を拡大する試験を行っており、ノボもGLP-1薬で腎臓病や認知症に対する試験を進めている。株価急騰の背景には、こうした肥満症以外の新薬への期待も含まれているのだろう。

 なお、世界でGLP-1薬の品不足が起きている理由として、2型糖尿病や肥満症患者ではない人たちが適応外使用している問題も指摘される。イーライリリーは2024年1月、マンジャロやゼプバウンドについて「美容目的」で使用することを控えるよう呼びかける文書を発表した。

 肥満症は、肥満度を表す体格指数であるBMI(ボディマス指数)が一定以上の人で、さらに高血圧や脂肪肝、月経異常など健康障害が1つ以上あるか、内臓脂肪の蓄積により腹囲が一定基準以上の場合を指す。そのため単なる肥満の人やダイエット目的での利用は本来想定していない。こうした人たちが両社の足元の収益拡大に貢献している実態には、注意が必要だ。

 アメリカのモルガン・スタンレー・リサーチは、肥満症薬の世界市場が2030年までに11兆円を超す規模に達すると見込んでいる。投資家の間でも過熱する肥満薬バブルは、まだ当面続きそうだ。

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最終更新:3/29(金) 5:21

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