60代で「自分の資産水準に満足できない」人が多いのには理由がある。過度に悲観的にならないために押えておきたい「残りの人生で必要な資産」

2/19 9:02 配信

東洋経済オンライン

退職して定期収入がなくなったとき、人はどんな気持ちになるのでしょうか。勤労時と同様に、お金を使うことができるのでしょうか。フィンウェル研究所の代表、野尻哲史氏の調査によると、「60代の自分の資産に対する満足度」は低いといいます。それはなぜなのでしょうか。
そこで本記事では、野尻氏の著書『100歳まで生きても資産を枯渇させない方法』より一部を抜粋・再編集し、退職後に“お金に対する考え方”がどう変わるかを紹介していきます。

■昔と今の「退職後の生活」は大きく違う

 昔は「定年後の生活」といえば、「現役時代に貯蓄しておいたお金と退職金、それに年金を合わせて生活費に充て、働かずにのんびり過ごす」というイメージが強かったものです。

 当時は「現役時代」と「定年後」という2つの期間ははっきりと分かれており、定年は1つの「ゴール」と考えるのが一般的だったといえるでしょう。

 しかし近年では、退職後の資金の準備は「株式や投資信託を使って資産形成しなければ、間に合わない人が多い」といわれるようになり、実際に積立投資をしながら退職後に備えてきたという人がたくさんいます。

 その一方で、運用してきた資産を「いつ、どのように売却するか」はあまり議論されてきませんでした。

 後述しますが、現在の60代の4割は資産運用をしています。おそらく本稿を読んでくださっている皆さんは、この4割に含まれるでしょう。

 この4割の方たちは、「これから運用をどのようにしていくか」、そして「運用してきた資産をいつ、どのように売却するか」の判断を迫られることになります。

 また、定年退職したら仕事を完全にやめるという人も、だいぶ少なくなりました。定年後、「収入は減るものの、再雇用でしばらく働き続ける」という人はたくさんいますし、中には新たな仕事を始める人もいます。

 定年退職しても仕事を続けており、資産運用も続けているわけですから、「現役時代」と「定年後」の区切りは、かつてのようには明確ではありません。

 昔と今とでは、退職後の収入や資産の状況が大きく異なるわけですから、私たちは今の時代に即した「退職後の生活」がどうあるべきかを考えなくてはならないのです。

■60代の約半数が生活全般に満足している

 「退職後の生活」がどうあるべきかを考えるにあたり、今の60代の生活がどのようなものなのかを一緒に見ておきましょう。

 私が代表を務めるフィンウェル研究所では、2022年から毎年「60代6000人の声」と題するアンケート調査を行ってきました。人口30万人以上の都道府県庁所在地に住む「都市生活者」の60代を対象にしたものです。2024年2月に実施した調査では、6506人から回答を得ました。

 この調査のうち、生活全般の満足度を尋ねた項目があります。「満足できる」を5点、「どちらかといえば満足できる」を4点、「どちらともいえない」を3点、「どちらかといえば満足できない」を2点、「満足できない」を1点として集計すると、平均点は3.24点でした。

 3点が「どちらともいえない」ですから、「どちらかといえば満足できる」ほうに寄っているといえます。

 ちなみに満足度の分布を見ると、一番多いのが4点の「どちらかといえば満足できる」で36.9%。5点の「満足できる」の11.1%と合わせると、48.0%が「満足できる」側にいます。

 一方、「満足できない」が10.2%、「どちらかといえば満足できない」が15.0%で、合わせると25.2%になり、4人に1人が「満足できない」側にいることになります。分布からは、60代の生活全般に対する満足度は全体にポジティブなことがわかります。

■60代の「自分の資産に対する満足度」は低い

 同調査では、生活全般の満足度の他に、その構成要素となる4つの項目の満足度も併せて聞いています。具体的には、「健康状態」「仕事・やりがい」「人間関係」、そして「資産水準」の満足度について、先の項目と同様に5段階で評価してもらっています。

 平均値を計算した結果は図表2の通りですが、平均が3点を下回って「どちらかといえば満足できない」側になったのは、4項目のうち「資産水準の満足度」のみでした。

 調査結果によれば、今の60代は平均すると「資産水準には満足できないけれども、健康状態、仕事・やりがい、人間関係では概ね満足している。総合的に見れば、生活全般にはまずまず満足できている」ということのようです。

■資産水準の満足度の影響力は大きい

 さて、このデータをもとに、「健康状態」「仕事・やりがい」「人間関係」「資産水準」の満足度が、生活全般の満足度に対して、どれくらい強い影響度を持っているのかを統計的に分析してみました。結果は、図表3の通りです。

 この係数は生活全般の満足度に対するそれぞれの満足度の影響度を表しています。資産水準の満足度の影響力が、他と比べて特に大きいことがわかります。「資産が減ると生活全般の満足度が下がる」というのは、「まぁそうだろう」と理解しやすい話ではないかと思います。

 「退職後の生活のために作り上げてきた資産なのだから、使って減るのは当然だ」とわかっていても、そして資産を使うことで豊かな生活を送れるのだとわかっていても、「資産が減ること」による心配を消すのは難しいものでしょう。

 しかし、感情に振り回されて合理的な判断ができなくなるのは避けたいものです。そこで、少し事実を整理してみたいと思います。

 下の図表4は、資産水準の満足度と保有資産額の関係を示したものです。確かに、保有資産額が少ないほど資産水準の満足度が低いことがわかります。「当たり前だろう」と思われるかもしれませんが、このデータから「資産水準の満足度は保有資産額によって決まる」と考えるのは早計です。

 下の図表5は、「60―62歳」と「67―69歳」を抽出し、同様に保有資産額に対する満足度をグラフ化したものです。

 データからわかるのは、資産が2000万円よりも高い層では、同じ資産額でも67―69歳のほうが60―62歳より満足度が高いということです。

 わかりやすくいえば、「60 歳で3000万円持っている人と、69歳で3000万円持っている人では、69歳の人のほうが満足度が高い」ということになります。

 おそらくこの傾向は、年齢差が大きくなるほど顕著になることでしょう。つまり、65歳時点で3000万円持っている人と、80歳時点で3000万円持っている人、90歳時点で3000万円持っている人では満足度に大きな差があり、90歳の人のほうが満足度が高いということです。

 これも考えてみれば当然のことで、資産額に対する満足度は、「その資産額で残りの寿命をカバーできそうかどうか」が大きな影響を与えるはずだからです。

 つまり、資産残高が減っていっても、その間に年齢が上がって余命が短くなっていけば、満足度はそれほど低下しないのです。

■「満足感」を得るためには

 私たちは「資産額が小さくなれば、満足度は当然に低下する」と考えがちで、資産を使うことに過度に悲観的になりやすいのではないかと思います。

 しかし実際には、歳を重ねれば重ねるほど、「残りの人生で必要な資産」は少なくて済むのですから、資産額だけで満足度が決まるわけではありません。

 少なくとも本書が目指す「100歳まで資産が枯渇しない」というラインが守れれば、満足感は得られるのではないでしょうか。

東洋経済オンライン

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最終更新:2/19(水) 9:02

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