禅が教える「居場所」と「孤独」のほどよいバランス 「つながるべき」か「つながらないべき」かの基準とは

12/27 8:51 配信

東洋経済オンライン

あれもこれもと心配ごとが多すぎて、身動きがとれなくなっているのが現代人。どうしたら、不安に囚われることなく、「今、この瞬間」を全力で生きることができるのでしょう。
新著『考えすぎないコツ』では、禅僧であり世界的な庭園デザイナーでもある枡野俊明さんが、「頭をからっぽにして、心を無の状態にする」ためのヒントを解きます。

本稿では、同書から一部を抜粋してお届けします。

■人は本能的に群れる生き物

 人は群れる生き物です。

 SNSの登場をまつまでもなく、人は人と繋がり、集団に所属することで仲間をつくり、安心を得て暮らしてきました。

 そしてまた、「孤独」を寂しいもの、避けるべきものだとする気持ちも、群れをつくる理由のひとつでしょう。

 ただ、禅においては孤独=悪いものとは考えられていません。

 後で詳しく触れますが、自分と向き合い、自分の生き方を見つけるには、一人静かに過ごす孤独が絶対に必要だからです。

 それに、群れといっても「どんな群れでもいい」というわけにはいきません。

 特に、多くの人が必要としているのは、自分の「居場所」ではないでしょうか。

 居場所。そう聞いて、あなたが思い浮かべるものは何ですか。

 ここでいう居場所とは、身体が存在している場所というより、心の「拠り所」のことです。

 安心してありのままの自分をさらけだすことができ、またそんな自分が許され、受け入れられていると思える空間や、人間関係。そんなところでしょう。

 1日の大半を過ごす家庭や職場が居場所であるなら、それに越したことはありません。しかし、現実はどうでしょうか。

 「仕事にかかりきりで、家庭を顧みなかった。今では家のなかで孤立している」といった悲しい話を耳にすることもあります。

 職場にいけば、数字を求められるプレッシャーにさらされますし、上司やライバルたちの視線だって気になります。

■自分の居場所は家庭と職場だけ? 

 こうして、どこにいても「ありのままの自分」になれる時間を持てないとなると、心は重たくなるばかり。

 誰にも打ち明けられないでいる思いの丈を、吐き出したい。

 そんなとき、人は「自分の居場所がほしい」と望むのです。

 とはいいながら、居場所をつくるというと、どうしても「家庭か、職場か」になってしまうのは、困ったものです。

 家庭と職場を往復する生活に慣れ切り、それ以外の場所との接点が、薄くなりがちです。

 無理もないことだと思います。

 職場にしても、そこは生活に必要なお金を稼ぐためだけの場所ではありません。

 そこには生きがいがあり、仲間がいます。

 「仕事こそ人生、会社がすべて」であると考える人も少なからずおられるでしょう。

 それでも、競争の場でもある職場が「安心してありのままの自分をさらけだすことができる」場所になるかというと、現実的には難しいはずです。

 家族だって、何年一緒に暮らしていようと、血が繋がっていようと、他人であることには変わりありません。狭い空間のなかで「逃げられない」という問題もあります。

 干渉されたり依存されたりの度が過ぎて、「心を守るだけで精一杯」という方のお話も聞きます。
 
であれば、家庭と職場の外に目を向け、「居場所づくり」に出かけることです。

 例えば、将棋が好きなら将棋教室に通ってみたり、地域の催しに参加してみたり、そんな小さなところから始めてみましょう。

 どんなコミュニティにも馬が合う人、合わない人はいるはずです、趣味にせよ地域にせよ、共通の話題が1つあるだけで、人付き合いは格段に楽になります。

■大切にしてほしいコミュニティ

 それから、ぜひ大切にしていただきたいのが、学生時代の仲間です。

 卒業して以来ほとんど会っていない、連絡もとっていないという人も少なくないでしょう。それでも一度会ってしまえば学生時代にタイムスリップしたように「おい、おまえ」「なんだよ」で呼びあえる関係に戻れるのが、同級生というものです。

 たとえ社会的な立場が変わろうと、価値観がズレようと、それでも裸の付き合いができる気安さはほかでは得られません。若い方にはピンとこないかもしれませんが、お約束します。歳を重ねるごとに同級生の有り難みがきっとわかります。 

 一般的には、男性より女性のほうが居場所づくりが得意であるように思います。

 趣味のサークルに参加したり、育児を通じて地域の人たちと繋がったりと、自分から家庭と職場の外へ出ていくことに、比較的ためらいがありません。これに対し男性は、定年を迎え、会社の人間関係を失ってはじめて居場所さがしを始める人が大半です。

 だから慌てるのです。

 仕事も趣味も友人もなく、一人ぼっちになった夫は妻にべったり。

 いわゆる「濡れ落ち葉」のできあがりです。

 「定年後なんてはるか先だよ」と思う方も、今すぐ居場所づくりを始めて早すぎるということはありません。第一「安心してありのままの自分をさらけだせる」場所など、そう簡単には見つからないでしょう。

 「ここにいると、ほっと一息つけるな」

 最初は、そう思えるだけで上出来です。それを大切に大切に、時間をかけて、自分の居場所へと育ててゆくことです。

■孤独の時間にも価値を見つける

 「居場所」を求めることは人間の本能とも言えますが、その一方で、私たちは時に「孤独」と向き合う必要もあります。

 どれだけ居心地の良い場所があったとしても、禅は最終的に私たちは自分自身と向き合わなければならないと説きます。ここからは、禅の教えを通じて、「孤独」の価値について考えてみましょう。

 どれだけ家族や友人に恵まれていても、私たちはそれぞれが「ひとり」であり、どこまでいっても「孤独」である。禅にはそんな考え方があります。

 時宗の開祖であり、念仏を唱えながら踊る「踊り念仏」を流布したことでも知られる一遍上人も、「人は生まれた時も独り、死ぬときも独り。この世を人と暮らしても独りである」という言葉を残しました。

 また、2021年に亡くなった瀬戸内寂聴さんも、一遍上人の言葉に感銘を受けて「人は孤独です。孤独だからこそ、人と寄り添いますが、決して一緒に死ねるものではありません」と語っています。

 一遍さんは、世俗的なものを一切捨て、ただ「南無阿弥陀仏」を唱えることを説く「捨聖(すてひじり)」でした。

 家族も衣食住も捨て全国を遊行し、晩年には「旅衣(たびごろも)木の根かやの根いづくにか身の捨てられぬ処あるべき」(木の根本でも茅の根本でも、どこで死んでも構わない)という和歌を詠んだほど。

 ただ、一遍さんのいう「独り」は恐らく、現代人が思うほど悪いものではなかったろうとも思います。

 なぜなら、禅においては、孤独は人として自然な状態であり、耐えるものでも、悲しむべきものでもなく、ただ「受け入れる」もの。

 寂聴さんも「最初から自分は一人だと思って、他人に期待しないほうが家族や友人ともうまくいく」と語っています。

 さらに言えば、禅には「孤独であることを大切にしよう、一人でいることを幸いと考えよう」、そういう精神があるのです。

■居心地よくても「逃げられない」は辛い

 現代では、SNSで繋がることが良しとされ、孤独は悪いものと見なされがちです。

 確かに、人は一人では生きていけないと、私も思います。

 人は集団をつくる生き物であり、集団に属することで、心が安定するのも確かです。

 しかしながら、ブラック企業のような集団のみならず、愛と尊敬に満ちた居心地のいい集団であったとしても、そこから「逃げられない」環境は苦しみのもとです。

 友人の輪から外されまいと1日に何十通もLINEのやりとりをするのがしんどい、と感じたことはありませんか? 

 社会となんの関わりも持たない「孤立」はよくないものだとしても、一人の時間がまったくないのも、人は息が詰まるのです。

■ふと一人きりになった時間を大切に

 人は本来一人である。

 しかし人は一人では生きていけない。

 この矛盾を解決するには、積極的に孤独を「価値あるもの」だと捉えることが必要だと思います。

 例えば、家族や同僚に恵まれている幸せをかみしめられる時間は、その家族や同僚が横にいる時間ではなく、ふと一人きりになった時間のなかにあります。

 また、自分がこれから歩んでいく道を見定めるためにも、孤独が必要です。

 人生の岐路に立ったとき、一人旅をする人がいるのはなぜか。

 それは、情報の洪水から距離をとり、一人静かに心の声に耳を傾ける時間が必要だからでしょう。

 すなわち孤独とは、社会的な肩書や役割を手放し、本来の自分に立ち戻れる時間でもある。そうであるならば、孤独は悪いどころか、最高に贅沢なものだとは言えないでしょうか。

 お釈迦様も「犀(さい)の角(つの)のようにただ独り歩め」といいました。これはまるで、お釈迦様なりの「孤独のすすめ」のようでもあります。

 一遍さんのように、すべてを捨てる必要はないと思います。

 多事多忙で旅行にいくのもままならない人も多いでしょう。

 しかし、例えば週末は自然の中を一人歩いてみるのもいい。美術館を一人訪れるのもいい。仲間と食べるランチも賑やかでいいですが、たまには一人で。

 そうした一人の時間のなかで私たちは、本来の自分を取り戻し、心身を回復させていくのです。そのような時間が、寂しいものであるはずがありません。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:12/27(金) 8:51

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング