モノ言う株主・丸木氏「社外取締役は飾りじゃない」 「求められる役割」を日本企業の経営陣は知っているのか

5/21 15:02 配信

東洋経済オンライン

新NISAが始まり、株価はバブル期の最高値を超え、投資への関心の裾野が広がっています。しかし、世界と比べたとき日本企業は多くの課題を抱えています。例えば、過剰な内部留保、研究開発や新規事業への消極姿勢、はたまた親方日の丸からの天下りなどのガバナンス問題などなど。
そんな内向きな経営者に向けて、「社長はおやめになったほうがいい」と直言し続けるのは、ストラテジックキャピタル代表の丸木強氏。国内アクティビスト(モノ言う株主)の代表格として、株式市場と企業経営の本質を喝破する言動が注目を集めています。

そんな同氏が自らの投資哲学を明かした初めての著書『「モノ言う株主」の株式市場原論』より、一部抜粋・編集してお届けします。

■社外取締役の「属性」には注意を

 一般的に社外取締役というと、いまだに「お飾り」とか「名誉職」のようなイメージが強いのかもしれません。だから人選も、案外適当に行われている印象を受ける会社もあります。

 しかし、社外取締役は大株主や常勤取締役から独立していること、そして一般株主と利益相反が生じないことが大前提。そこでまず確認すべきは、その方の属性でしょう。

 「会社法」では、例えば親会社や子会社の役員、あるいは経営陣の親族などは社外取締役になれないことになっています。

 ところが、関係会社の役員なら大丈夫。20%を持つ大株主企業の役員でも、社外取締役になれてしまうのです。これは大株主企業の意向を代弁することになり、属性としては偏っているはずです。

 あるいは元役職員でも、10年以上が経過すれば独立性があると見なされて就任できます。しかし、なぜ10年なのか、10年で本当に独立したといえるのか、疑問が残ります。

 また主要取引先の役職員はダメというルールはありますが、「主要」の範囲が明確ではありません。例えば親会社的に支配されているとか、最大の取引先などが該当するらしいのですが、それではまだまだ狭い。

■社外取締役は独立性を重視すべき

 独立性を重視するなら、例えば我々は、政策保有株主である企業の役職員・元役職員はダメだと考えています。

 さらに細かいことをいえば、親会社の株を十数%も持つ投資ファンドの幹部社員が、上場子会社の社外取締役になっているケースがありました。東証のルール上、これは問題ありませんが、利益相反になる可能性があります。

 もし親会社が子会社を100%買収しようとしたとき、親会社の株主としてはできるだけ安く買ってほしいし、子会社の株主としてはできるだけ高く売りたいわけです。

 その場合、この子会社の社外取締役はどちらの味方をするのか。

 実は我々は子会社に投資していたので、当人に直接お尋ねしたことがあります。答えは曖昧模糊なものでした。

 「私がそのとき、適切と思うように行動します」

 これでは、社外取締役としての役割を果たすことは期待できません。あくまでも子会社の一般株主の利益を最大化すべき立場なのです。それ以外の利益を代表しないよう、ここはルールの改正が必要でしょう。

 また同じく我々の投資先企業で、取引先の元副社長が社外取締役に就いていたところもありました。この取締役の立場も利益相反になりやすいでしょう。

 そこで我々は、当人にこうお尋ねしたことがあります。

 「もし取締役会でその取引先との契約について議論になったとき、あなたはどちらの利益を優先しますか?」

 「そういうときは議決を棄権します」

 一見すると正しい判断のようにも思えますが、やはり社外取締役としてはおかしい。一般株主の利益を代表して意見を述べ、行動する人でなければならないはずです。

 このような重要な案件においてこそ、常勤取締役から独立した立場で是非を判断するのが本来の役割です。棄権されては社外取締役の意味がありません。

 我々がよく知っている事例は投資先企業などに限られますが、同じような社外取締役は日本の上場企業に少なからずおられる気がします。官庁から天下っている例も多いし、旧財閥系では同じグループ企業から恒常的に送り込まれている例もあります。このようなケースでは、指名委員会もかぎりなく形骸化しているのではないかと懸念しています。

 こういう慣習を看過すべきではありません。

 社外取締役の立場や役割を再確認し、東証の「独立性基準」を社外取締役にふさわしい属性に改める必要があると思います。それが一般株主の意向を経営陣に届ける強力な手段であり、ひいては経営に常に緊張をもたらすことにもなるはずです。

■社外取締役に期待される2つの役割

 ではふだん、社外取締役にはどのような仕事があるか、あまりよく知られていないかもしれません。

 上場企業の取締役会の開催は、原則として月に1回程度です。多い会社では年18回という例がありました。その間にやるべきことは、実はさほどありません。

 社内の個々の事業については、常勤の役員が担うはずです。社外取締役も詳しいに越したことはないでしょうが、その分野の専門家である必要はありません。我々株主としても、事業に関わって企業価値を向上させてほしいとまでは期待していないのです。

 ただし、よく「大所高所から経営を監視します」とか「すべての関係者から独立した観点で意見を述べます」などと言われる社外取締役の方がいますが、それは違います。

 株主総会を通じて株主に選ばれている以上、前述のとおり、少数株主の立場で意見を述べることが大前提。つまり、「独立性」とは、一般株主と利益相反が生じないことなのです。

 これを踏まえると、社外取締役としてやるべきことは大きく2つに集約されます。1つは平時において、企業価値の毀損を防ぐこと。

 例えば、不動産を購入して本社ビルを建てるという構想が持ち上がったとします。しかしそれが、誰の得になるのか。経営者は気持ちいいかもしれませんが、多くの従業員にとって関心は薄いでしょう。

 私もかつてサラリーマンだった当時を振り返ると、オフィスはある程度きれいで通勤の便さえ良ければ、別に自社ビルでも賃貸でもよかった。周囲の同僚たちもそうだったと思います。

 それより問題なのは、自社ビルにお金をかけることで、どれだけ企業価値が向上するのかということです。

 単なるムダ遣いではないのか、他に有効な遣い道があるのではないか、どうしてもお金が余るなら株主に返すべきではないか。そういうことを、取締役会で社外取締役に指摘してもらいたいわけです。

 また「創業○周年記念事業」などと称して立派な冊子を作ったり、何らかのイベントを企画したりといったこともよくあります。

 はたして、それらを行うことで企業価値の向上にどれだけ貢献するのか、株価の向上に寄与するのか。経営者の自己満足のための散財にならないよう、厳しくチェックしてもらう必要があります。

■M&Aにおいても細かく確認するのが役割

 あるいはM&Aを画策している場合は、いくらぐらいまで出すつもりなのか、それによって買収先企業の価値をどうやって高めていくのか、そもそも買っていいのか。

 常勤取締役はM&Aの実行そのものが目的となってしまっていることがあるので、細かく確認するのも社外取締役の仕事でしょう。

 昨今であれば、買収費用として例えばEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益。企業の稼ぐ力を表す指標で、一般的には営業利益+減価償却費)の何倍まで出せるかを、あらかじめ決めておくのもよくある考え方です。大企業なら、もちろん専門チームがこれらの数字を精査した上で、最終的にトップが決断することになると思います。

 ところが中小企業の場合、そこまでの体制を整えられないので、プロセスが曖昧になることがあります。我々の投資先企業でも、かつてM&Aで傘下に入れた企業の価値が3年ほどで大幅に下がり、減損処理したケースがありました。

 「この会社はどういう基準で買ったのですか」

 と我々がお尋ねすると、社長も担当役員も下を向いたまま。EBITDAなども含め、特に何も検討せずに買ってしまったようです。こういう事態を事前に食い止めるのも、社外取締役に期待されるところです。

 以上が平時における社外取締役の仕事だとすれば、もう1つ大事なのが有事における仕事です。

 例えば会社の業績がずっと低迷しているようなら、その社長を解任しなければならない。社内にはいろいろな人間関係や力関係があるので、これは社外取締役にしかできない仕事だと思います。

 もちろん、急には対応できないでしょう。会社法では、取締役会で過半数の出席とその過半数の賛成が条件になります。常勤も含めた取締役の間でコンセンサスを得るのは、容易ではないはずです。

■「社長解任」の基準を設定する

 そこで有効なのが、事前に指名委員会で、「会社がこうなったら社長の解任を検討する」という基準を設定しておくことです。

 例えば3期連続赤字とか、3期連続ROE(株主資本利益率)が◯%以下とか、トップとして責任を免れない不祥事が起きた場合等々。こういうものを定めておけば、いざというときに堂々と解任を提案できるわけです。

 あるいは、他社からM&Aのターゲットになった場合も有事といえるでしょう。

 その場合、常勤取締役はやはり保身を考えて反対を主張しがちです。だからこそ、社外取締役が是非を冷静に判断する必要がある。

 特別委員会を作り、買収提案の内容が株主にとってプラスかどうかを見きわめるわけです。ちなみに、社外取締役が高すぎる報酬をもらっていてはいけない理由がここにあります。社外取締役自身の保身を考えてしまうからです。

 こうした役割を期待されている以上、社外取締役はけっして「お飾り」ではないし、また株主の側も彼らの仕事ぶりをチェックする必要があるはずです。

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最終更新:5/21(火) 15:02

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