「売上」や「財務状況」だけでは実態はわからない、投資の視点で「良い会社」を判断するポイント

5/27 7:02 配信

東洋経済オンライン

東証がPBR(株価純資産倍率)が低迷している上場企業に対し改善要請を強化したことから、「ROE(自己資本利益率)を高める経営」が再注目されている。では、どんな会社が「良い会社(クオリティの高い会社)」なのか。アメリカの投資ファンドでアナリスト等を歴任した森憲治氏が、長期投資の視点から、企業価値を高め、国内外の投資家から評価される会社について考察する。
※本記事は森氏の著書『米国の投資家が評価する「良い会社」の条件 クオリティ投資の思考法』から一部抜粋・再編集しています。

■「クオリティ投資」とはどういうものか

 クオリティ投資とは、文字どおり、質の高い会社に投資を行なう投資手法であるが、何をもって質の高い会社というかは専門家のあいだでもそれぞれであり、明確な定義は存在しない。

 また、クオリティ投資といってもさまざまな手法があり、クオリティ投資全般が市場平均以上の素晴らしい投資リターンを上げることができるわけではない。

 ただし、クオリティ投資を行なうことで市場を大きく上回る投資リターンを達成している投資家は数多く存在する。

 たとえば、英国のウォーレン・バフェットとも呼ばれる英ファンドFund Smithの創設者であるTerry Smithは、「良い会社を、そのクオリティに見合った金額内で買い、長期的に保有する」というシンプルな哲学に基づいて投資判断を行なう、代表的なクオリティ投資家の一人だ。

 彼は、2010年のファンド創設から2022年にかけて478%の投資リターンを上げた。これは市場平均の256%を大きく上回る数字である。クオリティ投資が機能した一例といえよう。

 「株式指数におけるクオリティ投資」(『三菱UFJ信託資産運用情報』2020年7月号)では、「クオリティ」について確固たる定義が存在しないことを前置きしたうえで、各指数会社(インデックスプロバイダー)が提供するクオリティ指数について、どのような特性指標が用いられているかを整理している。

 なお、インデックスプロバイダーとは、同じような性質を有する株式をまとめ、1つの投資商品(インデックスと呼ぶ)のように投資パフォーマンス(指数)を測定し、その情報を投資家等に提供する業者を指す。

■重視される5つの項目

 代表的なインデックスプロバイダーであるMSCI、FTSE RUSSELL、S&Pダウジョーンズ、STOXXが、「クオリティ」投資といった場合にどのような項目を見ているかをまとめたのが次の表だ。

 ■各指数プロバイダーのクオリティ指数の採用指標

 ※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

 同誌によると、各クオリティ指数に用いられている財務指標を列挙し共通の特性で整理したところ、①収益性、②資本構成、③利益の安定性、④成長性、⑤会計の質、の5つに分類することができたそうだ。それぞれの特性の内容は以下のとおりだ。

 ①収益性:ROEや、ROA(総資産利益率)等が含まれる。資本からどれくらい効率的に利益を生み出しているかを示すものであり、どのインデックスも採用している特性である。

 ②資本構成:どの程度負債を抱えているかを示す指標であり、一般的に、財務レバレッジと呼ばれる。クオリティ指数においては、負債が少ない会社のほうが、クオリティが高いと判断される。これは、負債の少ない健全な企業のほうが不況時においても生き残れる可能性が高いと判断されるためだ。

 ③利益の安定性:毎期の利益の金額に変動が少ない会社のほうが、クオリティが高いと判断される。これは、市場の好不況や競争環境により利益の金額が変動する会社よりも、毎期安定的に予測可能な利益を生み出せる会社のほうが、クオリティが高いと判断されるためだ。

 ④成長性:先に挙げた図を見ると、FTSE RUSSELLのみに使用されている指標のため、クオリティを測るうえで一般的な特性とはいえないかもしれない。ここでいう成長性では、資産回転率や利益率の変化率などが重視されているため、ROEやROAが向上していく可能性を測る指標といえよう。

 ⑤会計の質:「利益の質」とも呼ばれる。インデックスプロバイダーのひとつであるMSCIは会計の質について以下のように述べている。

 「会計上のクオリティの評価は、一般に利益の持続性および予測可能性と関連している。景気の良し悪しにかかわらず、安定的かつ予測可能な利益を生み出す企業は、通常クオリティの高い企業とみなされる。しかし、会計操作が利益の質の実態をゆがめることもよくある」(「クオリティへの逃避」MSCI 2015年9月)

■会計操作で「利益の質」をゆがめることも

 では、「会計操作が利益の質の実態をゆがめる」ケースとしてどのような場合が考えられるだろうか。代表的なケースとしてアクルーアル(accrual)が挙げられる。

 アクルーアルは簡単に言えば、会計上の調整項目であり、実際に会社に現金が入ってきていないのに売上を計上し、利益を計上することを可能とする。

 たとえば、来期に売上のお金が入金される予定であるが、顧客への商品の販売は当期中に完了しているので、当期に売上を計上するケースが挙げられる。

 この処理は、不正に行なうものではなく、会計上のルールに基づいてなされる正当な処理だ。しかし、このような処理が可能になることで、会社のマネジメントは売上の計上タイミングをある程度決定することが可能となり、よってそれに基づき計上される利益は「質が低い」と判断される場合があるということだ。

 なお、アメリカの南カリフォルニア大学教授Richard Sloanは“Do Stock Prices Fully Reflect Information in Accruals and Cash Flows about Future Earnings?”(1996)のなかで、アクルーアルが将来の投資リターンと関係があるという検証を行なった(すなわち、アクルーアルが少なく、利益の質が高い会社への投資のほうが、投資リターンが高かった)。

 これは、アクルーアルが高い会社は自社の売上や利益を短期的に高く見せようとし、結果としてその後、高い売上や利益を維持できない(実際に現金が入ってくる売上や利益ではないため)ことで、株式市場を失望させてしまうケースがあるためだ。

■「収益性」こそがビジネスの本質

 このように、クオリティといってもインデックスプロバイダーごとにその考え方や使われている特性が異なり、また、各社とも、何か単一の特性でクオリティを測定しているわけではなく、3~4個の特性を組み合わせて総合的にクオリティを測定していることがわかる。

 しかし、どの指数においても収益性と資本構成(財務レバレッジ)の指標は共通して備えているので、両者はクオリティ戦略の必要条件といえよう。

 さて、以上から、「収益性」と「資本構成(財務レバレッジ)」が最も一般的なクオリティ投資の指標であると考えられるが、ここでは、「収益性」にフォーカスを当てることとする。

 なぜならば、「収益性」はビジネスの本質に起因する要素が大きい一方、「資本構成(財務レバレッジ)」はマネジメントの意思決定に依存する要素が大きいためだ。

■負債を嫌う企業は「良い会社」と言えるのか

 たとえば、日本企業は負債を抱えるのを嫌い、現金を保有することを好む傾向にあると言われている。

 その場合、負債のない日本企業は、負債を利用して急速に成長する欧米企業に比べて質の高い会社だ、ということになるが、当然、そのようなことはない。

 ただたんにリスクをとることを恐れて現金を溜め込む場合、将来の成長のための投資を怠ることとなり、会社の存続に影響を及ぼすかもしれない。

 「資本構成(財務レバレッジ)」は財務的な安定性を測る重要な特性であるものの、会社のマネジメントの意思決定によって左右されるため、「良い会社」か否かを判断するうえでは「収益性」のほうが本質的な特性であると考えられる。

 したがって、ここではクオリティ投資の視点から考える「良い会社」とは、「収益性の高い会社」であり、より具体的に表すと「高いリターンを長期的に生み出すことができる会社」であると定義する。

 先ほど説明したROEの概念を含めて言い換えるのであれば、「高いROEから得た利益を、同水準以上のROEを得られるビジネスに、継続的に投資できる会社」がクオリティ投資における投資対象だ。

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最終更新:5/27(月) 7:02

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