大谷の“番記者”が語る「ドジャース移籍」の狂騒 「予期しない道を選ぶ」大谷ゆえの混乱と納得

5/13 14:02 配信

東洋経済オンライン

アメリカ在住のジャーナリスト・志村朋哉さんは、大谷翔平選手をエンゼルス移籍当時から取材し続けてきました。その志村さんが、同じく大谷選手の“番記者”として、その動向を見守ってきたアメリカ人記者2人と鼎談。本記事では彼らが大谷選手のロサンゼルス・ドジャース移籍をどのように見たかについて、『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』から一部を抜粋、再編集してご紹介します。

■移籍発表の日

 志村朋哉(以下、トモヤ) 大谷の去就は、23年の最大の話題だった。現役最高と称される選手がどこのチームに行くのかは、メジャーの勢力図を動かす可能性もあったから、野球ファンの誰もが興味津々だった。

 僕もスポーツ好きに会うたびに、「何か内部情報はないの?」って聞かれてちょっとうんざりしていたくらい。でも、僕が知る限り、誰もそんな情報は持っていなかった。オフシーズンになっても、大谷サイドや球団側からは、ほとんど情報が漏れてこなかった。

 最終的には、本人がインスタグラムでドジャース移籍を発表したんだけど、その前日には、トロント・ブルージェイズを選んだっていう情報がネットで広まって、野球ファンや記者たちが翻弄された。

 アナハイムからトロントに向かうプライベートジェットの飛行経路をファンが追ったり、菊池雄星がトロントの高級寿司店を貸し切ったなんていう噂がソーシャルメディアに出回ったりして、まさに狂騒劇だった。

 僕は信頼できる人から、「大谷はまだ決断していない」って聞いていたけど、万が一に備えてパソコンの前に張り付く羽目になったよ。

 2人は、大谷のドジャース移籍を知った時、何をしていたか覚えている? 

 ディラン・ヘルナンデス(以下、ディラン) 正直言って、何をしていたかは覚えていないんだ。でも、発表がいつあってもすぐに配信できるよう、事前に3パターンのコラムを書き上げていた。

 1つはドジャースに決まった場合、2つ目がエンゼルスに残留した場合、そして3つ目がそれ以外の球団だった場合。

 個人的には、3つ目がお気に入りだった。明らかに本命と言われていたのに獲得できなかったドジャースをけちょんけちょんにするつもりだった。

 ドジャースの関係者が日本に行った時に、向こうの球団関係者を怒らせたり、日本人選手との交渉で高慢な態度をとったりしたなんていう話を聞く。

 だから、スタン・カステン(球団社長)が大谷との交渉の場で興奮して話しすぎて、自分がいかに嫌な人間かを露呈して契約がオジャンになるケースも考えられた。

 サム・ブラム(以下、サム) 僕は買い物をしている時、大学時代の友達のグループテキストを見て知ったよ。そのことからも分かるように、大谷の去就を取材する上で大変だったのは、どうやって公表されるのか全く分からなかったことだった。

 大谷のインスタグラムや入団会見での言い回しは面白かった。「次のチームはドジャースに決めました」なんて言い方は、普通の選手はしないから。

 普通は交渉で双方が合意したって感じだけど、大谷の場合は、彼が選択肢の中から選んでいるっていう自信があるんだろうなって。実際、その通りなんだけど。

 決まるまでも、狂騒というに相応しかった。1人の記者がブルージェイズと契約するなんていう無責任な情報を流した。その24時間くらいは、情報が錯綜する混乱状態だった。

 結局、いつ発表があるのか?  すぐなのか、それともまだ数週間くらいかかるのか? 

 オフシーズンの行方も大谷の決断次第なところがあった。大谷の去就が決まるまでは、他球団も動きづらくて、ほかの選手の契約が決まらないという。

 大谷がインスタグラムの発表で使った写真が、解像度の低いドジャースのロゴだったのも可笑しかったな。

 7億ドル(約1000億円)の契約の話をしているのに、グーグル検索で出てきたロゴをスクリーンショット撮影しただけのような画像を載せるんだから。色々な意味で、話題になる要素が満載だった。

■必要とされる場で力を発揮する大谷

 トモヤ 本命と言われていたドジャースなだけに驚きはなかった? 

 ディラン 驚いた部分もあるけど、全く驚かない部分もあった。ドジャースは、大谷の求めていた多くの条件を満たしている。特に毎年プレーオフに出たいっていう。

 でも、大谷はキャリアを通して、人が予期しない道を選び続けてきた。「左に行け!」と言われたら右に行く。だから、みんなが選ぶだろうと言っていた球団を選んだのは驚きだった。

 サム 契約内容に衝撃はあったけど、ドジャースを選んだことに驚きはなかった。理に適いすぎている選択だから。

 ドジャースがこの数年のプレーオフで不甲斐ない結果に終わったのは、大谷を獲得する上では幸いしたかもしれない。いかに大谷を必要としているかを示すことになったから。大谷は必要とされる場で力を発揮するタイプ。

 驚いたのは、ドジャースと合意する前に、大谷サイドがエンゼルスのところに行って、ドジャースの提示額に合わせるか、もしくはそれを超える額を提示する気があるかを尋ねたことだね。結局、エンゼルスは断ったけど。

 個人的には、エンゼルスに残留する可能性は低いと思っていた。でもエンゼルスが大谷サイドの要望に応えていたら、チャンスはあったかもしれない。

 色々な面で、大谷という選手は予想しづらいところがあるのは分かっている。だから、ブルージェイズを選んでいたとしても、驚きはなかったと思う。

 ドジャースは、大谷にワールドシリーズ優勝を狙うチャンスを「保証」してくれる。ほかにも大谷がドジャースを選ぶべき理由はいくつもあるけど。契約についても納得がいく。両サイドにとって良い内容だと思う。

■野球以外には関心がない? 

 ディラン 大谷はもっともらうべきだよ。現役中に年200万ドルしか受けとらないのは、低すぎる。お金の価値は時間とともに低下するしね。

 文化の違いもあるかもしれない。この国で育ったら、グーグルのような大企業が社会に与える悪影響を目の当たりにする。メディア業界も、そういう大企業にめちゃくちゃにされた。

 だから、(アメリカ人選手なら)たとえお金がいらなくても、そういう連中に白紙の小切手を渡すくらいなら、慈善事業にでも寄付しようって気になる。

 (ドジャースを所有する投資会社の)グッゲンハイムは、宝くじを当てたみたいな気になったんだろうな。そして、それで得た金を、1週間に一度以上投げたことのない小さな投手(山本由伸)や、健康でいられたことのない投手(タイラー・グラスノー)に無鉄砲につぎ込んだ。

 通常なら彼らが絶対にやらないことだけど、自分たちの金じゃないとなった途端に、「とことん使うぞ」ってなった。

 サム でも大谷はこの6年間、絶対にこんなふうには補強しない球団にいた。彼は勝利に飢えている。ほかのことはどうでもいいんだと思う。

 適切な例かは分からないけど、元首相の安倍晋三が銃撃された時に、大谷にそのことは質問しないように言われたのを覚えている。彼は野球以外で起きていることから自らを遮断しようとしているんだと思う。

 ディラン それはそうだね。サッカーのワールドカップで日本代表のキャプテンを務めた吉田麻也が、ロサンゼルス・ギャラクシーに移籍して、エンゼルスの試合で始球式を務めた時、大谷の側を通りすぎても、大谷は見向きもしなかった。

 別に無視したんじゃないと思う。単に吉田が誰なのか、よく知らなかっただけなんだと思う。

■「変わったなと思うよ」

 サム 彼の世界には野球しかないんだろうね。大企業や政治がどうたらこうたらとか、自分の懐事情にとってどちらが正しいかなんてことは全く気にしていない。今回の移籍でどれくらいのお金を稼ぐかってことも。

 いずれにせよ、大谷はこれからの10年で勝ち続けるのに最適な契約内容にした。(経営のトップにいる)アンドリュー・フリードマン(編成本部長)とマーク・ウォルター(オーナー)がいなくなった場合は、自分から契約を破棄できる条件を盛り込んだことからも明らか。

 それと、大谷を取り巻く状況も、エンゼルスにいた時とは一気に変わった。ラムズ(ロサンゼルスを本拠地にするNFLチーム)の試合を観戦したり、ロサンゼルスの寿司屋に行った写真が出回ったり。

 ロサンゼルスという大都市のスーパースターになったことを受け入れたかのよう。7億ドルという契約を結んだことの意味を理解しているのかもしれない。

 エンゼルスにいた時は、自宅と球場の往復だけで、公の場に姿をほとんど見せなかった。変わったなと思うよ。

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最終更新:5/13(月) 14:02

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