50・60代なら押さえたい新NISA「リスクの取り方」 退職金を「同じ金融商品へ一括投資」は絶対ダメ

12/6 5:02 配信

東洋経済オンライン

政府は「貯蓄から投資へ」を推進し、金融教育にも力を入れています。一方、現在の50代・60代は「お金は汗水垂らして働いて得るもの」「投資でお金を増やすのは抵抗がある」という価値観が根強い世代であるようにも思います。
近年の物価の上昇や、将来の年金給付額の減額見通しといった環境の変化に伴い、投資による資産形成の必要性は高まっています。このような流れを受け、投資の切り札として2024年1月から始まったのが、新NISAです。

これまで投資に無縁で過ごしてきた50代・60代の方にもわかりやすいように、新NISAの活用法とリスクについて『老後のお金の不安をなくす50代・60代からの新NISA』より、一部抜粋・編集してお伝えします。

■50代・60代のリスクの取り方

 老後までの運用期間が短い50代・60代は、近い将来の生活費などを考慮して、必要以上のリスクを取らないよう注意しましょう。

●老後資金の形成に必要以上のリスクは不要
 50代・60代から投資で資産形成を始める場合、若年層で始めるよりも運用期間は短くなり、時間の分散や長期投資によるリスクの軽減効果を得づらくなります。

 一方で、老後の家計の不確実性は徐々に減り、必要十分な蓄えがどのくらいか、見当もついてきます。50代・60代は、老後資金の形成のために、必要以上に大きなリスクを積極的に取らなくてもよいのです。

●無理のない金額で投資する
 新NISAの年間投資枠は年間360万円、夫婦だと合計720万円になります。早く老後資金を作ろうとし、年間投資枠をフルに使うために過度に投資に回してしまうと、相場が急変した時に、慌てることになります。

 お金の分類をしっかり行い、余裕資金での運用を徹底しましょう。

●分散の鉄則を忘れずに
 50代・60代は、退職金や相続などで一度に大きなお金が入ることも考えられますが、入った資金の多くを、同じ金融商品へ一括投資することは控えましょう。銘柄や商品の分散、時間の分散の鉄則を忘れずに運用することが大切です。

 おすすめは、手元資金を按分して投資をする方法です。

 たとえば2000万円まとめて受け取り、向こう15年で老後資金を作りたい場合は、1年間で133万円ほど、月額だと11万円程度を投資に回す、というやり方なら、時間の分散による効果が期待できます。

■営業と広告に惑わされない

 金融機関のお勧めがよい商品とは限りません。勧められるがままに購入しないよう、気をつけましょう。

●対面販売ではすぐに購入しない
 対面方式の金融機関で金融商品の話が出てくる場合は、注意が必要です。

 金融機関の営業担当者にもノルマや目標があります。その体系は金融機関によって異なるため、一概にはいえませんが、購入時手数料がノルマなどに入っている場合、手数料の高い金融商品を勧められる可能性があります。

 また、金融機関によっては、新NISAで投資信託を販売するよりも、一時払い保険などの商品のほうが営業成績になるため、そちらを積極的に勧めてくる場合もあるようです。

 金融機関で商品を勧められても、すぐに購入を決めずに、持ち帰って信頼できる人に相談するか、自分自身で調べて判断しましょう。リスクが高すぎないか、手数料などが適切かどうかを確認するのがポイントです。

 また金融機関では、投資に関するセミナーを開催することがあります。有益な内容ももちろんありますが、商品購入へ誘導することが目的の内容も多いようです。あくまでも、数ある情報の1つと捉えるようにしましょう。

●ネット広告に惑わされない
 ネット証券などで気をつける必要があるのは、ポップアップなどでお知らせされるキャンペーンです。キャッシュバックや、ポイントアップのキャンペーンに誘導されて、意図しない金融商品を保有してしまう可能性に注意が必要です。

 また、新NISA対象の商品ではありませんが、初心者の長期運用に向かないFXなどの金融商品や、見た目の利率はよいものの実はリスクが高い、いわゆる「仕組債」などが手軽に購入できてしまうのも怖いところです。たまたま開いたページに甘い言葉があっても、惑わされないようにしてください。

●理解不足は大損につながる
 50代・60代になると、退職金や遺産相続といった、まとまったお金を手にする機会があります。そんなときによくありがちな過ちは、投資する目的も定まらない中、自分が理解できない、リスクの高い商品に投資をしてしまうことです。

 新NISA対象外の金融商品ですが、仮想通貨やFX、仕組債、保険商品などは、中身の実態や仕組み、注意点が初心者にはなかなか理解できないのが普通です。リスクが低くて利率が高いように見えて、中身は複雑でリスクが高いケースもあります。

 こうした商品に投資することがすべて悪いわけではありません。投資の目的がはっきりしていて、それを実現するためであれば、投資する商品の中身を吟味して、自分が理解できる範囲でリスクを取ることは、むしろ投資の本質といえます。

 しかし、投資の目的が明確でなく、他人に勧められるがままに高リスクの商品を購入したり、流行りに乗ってなんとなくはじめてしまうと、いざ損失の懸念が高まった時に正しい判断ができず、損を膨らませる可能性が高くなります。

■理解したうえで投資を

 低コストの商品に投資することについても、賛否あります。

 確かにコストは低いほうがよいですが、信託報酬の高いアクティブファンドの中には、コストを考えても、インデックスファンドより優秀な運用成果をあげている商品もあります。

 すべての人にとって、またあらゆる状況でベストな投資方法は存在しないのです。得た情報をもとに中身を理解し、それが自分にとって必要か、今後状況が変わったらどうなるかを自分の頭で考えて投資することを忘れてはいけません。

●内容が理解できなければ投資しない! 
 投資する目的を明確にし、商品内容をしっかり理解して投資を行うことが、リスクの抑制につながります。

 理解していないと、いざという時の判断ができません。

 老後に向けた資産形成に、その商品は本当に適切かどうか、しっかりと考えて、購入を決めましょう。迷ったら、購入をやめるということも、大切な判断です。

 高い利率を謳う金融商品には、必ず高いリスクが潜んでいます。安易に手を出さないよう注意しましょう。

●高い利率の債券・預金の金融商品に注意
 新NISA対象商品ではありませんが、金融商品の中には「年6.00%」など、通常の円建ての預金・債券の金融商品では考えにくい高い利率をうたう商品があります。

 こうした金融商品の1つとして、外貨建てで運用されていて、為替変動リスクがある商品があげられます。

 たとえば外貨預金、外貨建て債券、外貨建て保険などは、高い利率が表示されています。しかし、為替が円高になった場合は高い金利が得られても、元本が目減りすることで、トータルでは損失になることもあります。

 高い利率を表示している商品としては、株価連動債券などの特殊な債券があります。特定の株価指数や個別企業の株価が基準となり、指定された期間に株価が一定水準以上であれば、元本と利息が受け取れ、水準を割り込めば元本割れとなる仕組みになっています。

 利益は限定されているのに、元本が大幅に減ってしまうリスクがあり、得られる利益の期待値に比べてリスクが高く、お勧めできる金融商品とはいえません。

 また、仕組預金という商品もあります。

 高利率で元本保証を謳っていますが、満期を金融機関側が状況に応じて決める仕組みになっています。長期保有になる可能性があり、中途解約ができない・できたとしても元本割れとなるリスクがあるため、定期預金のつもりで気軽に預けるのは避けましょう。

 資産形成は新NISAの対象商品で、地道に投資して行うことがお勧めです。

■株価下落局面での心構え

 株式市場の下落により保有資産に評価損が出ても、慌てず落ち着いて対処しましょう。

●株式相場は上昇と下落を繰り返す
 図は、1995年から現在までの約30年間の日経平均株価の動きです(※外部配信先ではイラストを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

 上昇局面と下落局面を繰り返しながら、概ね上昇トレンドとなっています。ただしこの間、2008年はリーマンショック、2020年はコロナショックによる株価の大幅下落が起こっています。

 この先も、何らかの理由で株式市場全体が大きく下落する局面が出てくる可能性があります。

■実損を伴う可能性を低くする

●長期分散積立投資ならダメージは少ない
 株価インデックスに長期積立していれば、銘柄と時間の分散と、ドルコスト平均法の効果が生きてきます。そのため、運悪く相場下落局面でお金が必要となって取り崩したとしても、大きな実損を伴う可能性は低くなります。

 さらに、債券や金、預金などの、株式以外に資産を分散していれば、ポートフォリオ全体のダメージは、より緩和される可能性が高くなります。慌てて売ることはせず、落ち着いていつも通りの積み立てを続けましょう。

●個別株式に一括投資した場合は売却も視野に入れる
 保有している株式の価格が大きく下落している場合、なんらかの手を打つ必要があります。

 まずは資金を使う予定や、老後の資金計画を見直しましょう。そして、これ以上の損失は耐えられないというポイント(損切ポイント)をあらかじめ決めておいて、売却を断行する勇気も必要となります。

 2013 年ごろまでは投資額を割り込むタイミングもありましたが、それ以降は資産を増やすことができています。相場が下落しても慌てて解約せず、積立投資を続け、すでに保有している資産は持ち続けることが大切です。

■退職金の運用を焦らない

 退職金が入ると、何か有利な商品に投資しなければと思いがちですが、焦りによって失敗しないよう注意が必要です。

●退職金の運用も基本は同じ
 退職金で大きなお金が一度に入った時に、「何か有利な金融商品に入れておかないと、もったいない」と感じる人もいるようです。

 しかし、まとまったお金だからといって、なにか特別な金融商品に投資するよりも、これまで紹介してきたような長期積立で分散投資を行うのが堅実な投資方法です。

 投資初心者の場合、自分が理解できない商品への一括投資は控えましょう。

●退職金運用プランの落とし穴
 よく銀行などで見かけるのが「退職金運用プラン」という、金融商品とセットで金利が優遇される定期預金です。年7%ほどの高金利設定になっていることも多く、一見お得そうですが、いくつか落とし穴があります。

 まず、利息で得られる金額よりも、投資信託の購入時手数料が上回ることが多い点です。多くの退職金運用プランの定期預金は3カ月ものですので、300万円を年7%の定期預金にしたとしても、得られる利息は4万1834円です(税引後)。

 また、購入時手数料がかかる商品しか適用されない場合がほとんどのため、たとえば300万円で購入時手数料2%の投資信託を購入すると、優遇金利で得られる額よりも多い6万円分が手数料で引かれてしまいます。

 また、金利目当てに多額の一括投資をして、相場の悪化の影響を大きく受けてしまっては元も子もありません。退職金を上手く運用しようと焦らず、地道な投資が資産形成の近道と心得ましょう。

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最終更新:12/6(金) 5:02

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