賛否両論を呼んだジャガーの新世代「タイプ00」、むしろ「トラディショナルである」と考える確かな理由

1/11 9:02 配信

東洋経済オンライン

 2024年12月初めにアメリカ・フロリダ州マイアミで公開された、ジャガーのデザインビジョンコンセプト「タイプ00」が話題だ。といっても絶賛というわけではなく、賛否両論というか、否定的な意見が多い感じがする。

 これまでのジャガーは、1960年代に生まれた「Eタイプ」や初代「XJ」などのイメージを引き継ぐ、優美な曲線で描かれたクラシカルなフォルムを特徴としていた。

 しかし、タイプ00は、多くのクルマ好きの脳裏に刷り込まれたそれらの形とは、かなり違う。

 もちろん炎上狙いではない。2025年に創業90周年となる老舗が、注目を集めるためだけにコンセプトカーをお披露目したわけではない。それが証拠に、前もって新しいロゴマークも発表されており、激変の予兆はあった。

 しかもニュースリリースには、ジャガーの創業者であるウィリアム・ライオンズ卿の信念である「Copy Nothing」まで立ち戻って引用され、「大胆に」「新たな発想で」「臆することなく」という言葉が並んでいる。

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■ジャガーの歴史に革新あり

 ジャガーというと、トラディショナルなブランドだと思っている人がいるかもしれないが、歴史を振り返ると、革新的なモデルがいくつもあった。

 第2次世界大戦後に限れば、航空業界から移ってきた空力技術者、マルコム・セイヤーが関わったクルマたちはその代表格だろう。

 終戦直後、ジャガーの名声を一気に高めたスポーツカー「XK120」をベースにしたレーシングカーで、コンペティションの頭文字をあてた「Cタイプ」は、いち早く4輪ディスクブレーキを採用したこともあり、ル・マン24時間レースで1951・1953年と、2度の優勝を記録している。

 続く「Dタイプ」では、当時としては珍しいモノコックボディを採用することで、1955年からル・マン3連覇を達成。車名で想像できると思うが、この2台の経験を投入したのが1961年発表のEタイプだ。

 さらに後継車として1975年に登場した「XJ-S」も、リアウインドー左右のフィンが象徴しているように、彼の空力の経験が織り込まれていた。

 もちろん、今回のタイプ00は、セイヤーが描いたフォルムとは異なり、空力に配慮しているようには見えない。それは時代背景が関係しているだろう。

 闇雲にスピードを求めるようなクルマづくりは、カーボンニュートラルが叫ばれる現代社会にはそぐわないからだ。しかも、ジャガーはEV専業になることを宣言しており、車名の「00」はゼロエミッションと新生ジャガーのゼロ号車であることを表している。

 ニュースリリースには、ジャガーの新たなクリエイティブな哲学として、「Exuberant Modernism(活気あふれるモダニズム)」という言葉も掲げられている。今の基準でのモダニズムを形にした、ということなのだと思う。

■サイバートラックと同類なのか? 

 タイプ00を見て、テスラの「サイバートラック」を思い出した人もいるかもしれない。

 筆者も実車を見たことがあるが、シンプルな線と面で大胆に描いていることは似ている。個人的にはモダンだと思っているし、あちこちで話題になっていることを考えれば、「活気あふれる」にも当てはまりそうだ。

 ただし、タイプ00とサイバートラックで大きく違う点がある。サイドから見たときのプロポーションだ。

 真横から見たサイバートラックは、既存のピックアップの3ボックススタイルとはまるで違うトライアングルシルエットなのに対し、タイプ00のロングノーズ・ファストバックというフォルムは、むしろトラディショナルだ。

 さらに真上から見た写真では、前後のフェンダーが豊かに張り出し、リアは絞り込まれるなど、有機的な造形も盛り込まれていることがわかる。

 ジャガーは、長いボンネット、流れるようなルーフライン、23インチのアロイホイール、ファストバックのプロファイル、ボートテールなどが、「EVの常識を覆す先見性のあるデザインである」という。

 トラディショナルなプロポーションとシームレスな表面処理の融合が、新しいということなのかもしれない。

 現行の市販車でも、これに近いスタイリングの車種はある。ロールス・ロイス「レイス」、ベントレー「コンチネンタルGT」などだ。さらに言えば、ジャガーのルーツにも、近いフォルムの車種はある。

■1930年代「SS1/SS2」のプロポーション

 ウィリアム・ライオンズ卿は、「スワロー」というモーターサイクルのサイドカーを製作するブランドでキャリアをスタートさせ、まもなくクルマのボディ架装(コーチビルダー)も行うようになると、1930年代にスタンダードというメーカーと提携し、「SS1/SS2」という車種を送り出した。

 ベースのスタンダードと比べると、ノーズは長く、キャビンは低くなっているうえに、エアラインクーペというボディでは、ファストバックに近いスタイリングとなっている。

 ウィリアム・ライオンズ卿の信念「Copy Nothing」まで引用するタイプ00は、このモデルを示唆しているのではないだろうか。

 マイアミでは、インテリアも公開された。バタフライドアからアクセスするそこは、エクステリア以上にモダンだ。

 キャビン中央と、左右を前後に貫くのは手仕上げの真鍮で、自然保護の観点からウッドパネルの使用が控えられる中、代替素材として起用したものだと想像している。

 左右2枚のデジタルディスプレイは、スタートボタンを押すと立ち上がる仕組み。この種のデバイスは中国などでも提案があるので、特に驚きはない。

 それよりも、シートを含めてモダンな造形ではあるが、水平基調でこれ見よがしなディテールはなく、落ち着きがあり上質感も伝わってくる。この仕立てには、さすが英国のブランドだという印象を抱いた。

■幾多の挑戦をしてきたジャガーの一手に

 今回のタイプ00は、そのまま市販に移されるわけではなく、最初のプロダクションモデルは4ドアGTで、2025年後半に発表する予定だと公表している。満充電で770km(WLTPモード)という最大航続距離と、15分で最大321km分の急速充電の実現をターゲットにしているという。

 市販に当たってはノーズが少し短くなり、キャビンが長くなることが予想されるが、それ以外のデザインテーマは引き継がれるはずだ。

 全長が5mを超えていることを考えれば、ロールス・ロイスやベントレーがライバルになりそうだが、それらに比べれば圧倒的にモダンである。一方、ドイツやアメリカ、中国のプレミアムEVに対しては、英国車らしいオーセンティックな雰囲気が個性になる。

 ジャガーの2023年度の販売台数はグローバルで約6万台と、メルセデス・ベンツ(約204万台)やBMW(約255万台)とは比べるまでもないレベルにある。このままでは、再浮上の可能性は厳しいと見るのが自然だろう。

 しかし、歴史を振り返れば、このブランドは新たな挑戦をいくつもしてきた。タイプ00を2025年における革新と捉えれば納得できるし、プロポーションにもインテリアにもブリティッシュネスを絶妙に織り込んでいることに感心している。

 個人的にはテスラ・サイバートラックとの2台並びは、かなりクールだと思う。サイバートラックを買うような所得と感性の持ち主であれば、新生ジャガーも響くのではないだろうか。

【写真】これはモダンか? トラディショナルか? ジャガー「タイプ00」のデザインをもう一度チェック! (70枚以上)

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最終更新:1/11(土) 9:02

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