「保育園や学校でわが子が友達に大ケガをさせてしまった」親が損害賠償を請求されるケースとは

4/18 15:17 配信

プレジデントオンライン

わが子が保育園や学校でほかの子にケガをさせた場合、損害賠償を請求されることはあるのか。弁護士の佐藤香代さんは「保育園や学校などで子どもがケガをした場合、日本スポーツ振興センターによる災害共済給付制度を利用できることが多い。それでも後遺症が残るような大きな事故の場合は、親や保育園に損害賠償請求がされることがある」という――。

■子どもが集まる場所ではケガはつきもの

 保育園や幼稚園に子どもを通わせる保護者から、このような相談を受けることがあります。

 ※プライバシー保護のため相談内容には一部変更を加えております。

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5歳の息子を保育園に通わせています。先日、息子がお友達と追いかけっこをしていたところ、近くで竹馬で遊んでいた女の子とぶつかり、女の子が転倒して、おでこに傷を負ってしまいました。女の子の親御さんの話では、将来傷が残るかもしれないと言われているそうで、子ども同士の事故であっても適切に補償してほしいとのことです。5歳の子どもがしたことであっても、親が賠償しないといけないのでしょうか。また、保育園には、子どもたちを見守る義務があると思いますが、何の責任もないのでしょうか。
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 学校や幼稚園、保育所などの子どもが集まる場所では、子どもたちがスポーツや遊びなどをする中で、思わぬケガをしてしまうようなことは決して珍しくありません。そうした事態が起きたときでも、子どもたちへの教育活動や保育が円滑に実施できるように、被害者に対して、医療費、障害見舞金、死亡見舞金などの一定額の支給を行う制度(災害共済給付制度)があります。

■学校や保育所でのけがには「災害共済給付」を利用できることが多い

 災害共済給付は、日本スポーツ振興センターが運営しており、保育園が保護者等の同意を得て、センターとの間に災害共済給付契約を結び、共済掛金(保護者と設置者が負担します)を支払うことによって行われます。認可保育園や無認可でも一定の要件を満たす保育施設では、センターと加入契約を結ぶことができます。そこで、学校や保育所等で子どもがけがをした場合、まずはこの災害共済給付制度の利用を検討しましょう。

 災害共済給付制度に基づく主な給付金は、医療費については医療保険並みの療養に要する費用(いわゆる10割負担をした場合の医療費)の4割に相当する金額と、後遺症が残った場合には、障害等級に応じて14級88万円から1級4000万円の障害見舞金、死亡に至った場合の死亡見舞金、歯の欠損があった場合の歯牙欠損見舞金などです。

■後遺症が残るような大きな事故の場合はカバーしきれない

 ただし、例えば、交通事故などで子どもが被害に遭った場合、こうした医療費や障害見舞金だけではなく、親が通院に同行して会社を休まざるを得なかった場合の親の休業損害や、通院が長引けばその期間に対応した通院慰謝料、後遺症が残れば後遺症の程度に応じた逸失利益なども補償の対象となります。しかし、災害共済給付制度では、こうした被害者に生じるすべての損害をカバーすることはできません。

 そうなると、軽いケガで済めば「子ども同士のことだし、医療費さえカバーできれば、事を荒立てる必要もない」と考える方も多いと思います。他方で、本件のように将来にわたって後遺症が残ってしまうような大きな事故の場合には、災害共済給付制度からの給付金だけでは満足せずに、将来に向けて十分な補償を得ておきたいと希望する場合もあるでしょう。

 このように、災害共済給付制度でカバーしきれない損害についても、しっかり補償を得たいと考える場合には、別途、加害をした子どもの保護者や保育園に対して損害賠償請求をすることになります。

■子どもに責任能力がない場合は親に損害賠償義務が生じる

 もし大人が不注意で誰かにぶつかって、相手を転ばせてけがを負わせた場合、そうした行為は、民法709条に定められている不法行為として、加害者本人が被害者に損害賠償をしなければなりません。しかし、加害をしたのが幼い子どもであった場合、そもそも人にけがをさせないように十分に周りに気を付けたり、ルールをしっかり守るということも難しいでしょう。

 民法712条では、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と定めています。この「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」のことを「責任能力」と言います。この条文の意味は、子どもが、不法行為に当たるような行為をして、他人に損害を与えてしまっても「責任能力」を備えていない場合には、その子ども自身は賠償義務は負わないということになります。

 なお、法律上、明文の規定はありませんが、裁判では、子どもが責任能力を備える時期は、おおむね12歳程度と考えられています。そのため、本件では5歳の子どもには責任能力がなく、子ども自身には賠償義務はないと言えます。

 では、責任能力のない子どもにけがをさせられた被害者は、泣き寝入りとなってしまうのでしょうか?

 そのような事態にならないように、民法714条では、子どもに責任能力がない場合には、子どもを監督する立場の人たち(監督義務者)に、子どもの代わりに損害賠償義務を負わせることにしました。監督義務者とは、すなわち子どもたちの親のことだと言ってよいでしょう。

■親が賠償義務を逃れることはとても難しい

 監督義務者である親は、責任能力のない子どもの生活全般について、その身上を監護し教育をすべき包括的な義務(身上監護・教育義務)を負っていると考えられています。こうした親としての監督義務は、保育園の中での出来事であり、その場に親自身はいなかったとしても、免除されるわけではありません。

 なお、民法714条第1項但し書きには、一応、監督義務者がその義務を怠らなかったときや、監督義務を怠らなかったとしても損害が生じただろうときは賠償義務を負わない、ということも定められています。

 ただし、この条文を使って親が賠償義務を免れるためには、監督義務を尽くしていたことを自ら証明しないといけません。そして、親が子どもに対して負っている監督義務の内容は、生活全般に及ぶとても広いものなので、親がこのように幅広い監督義務を十分に尽くしていた、あるいは、監督義務を尽くしたかどうかに関係なく子どもは同じ行為をしていたなどの事実を証明することは、現実的にとても難しいと言えます。

 こうした事情から、責任能力のない子どもが不注意で誰かにけがをさせてしまったような場合には、親は、被害者に対する損害賠償義務を免れることはできないと考えておいた方が良いでしょう。

 現在では、こうした場合に備えて、家族が第三者に損害を負わせてしまった場合の賠償金や弁護士費用を補償してくれる保険商品も多数登場しています。子ども同士の事故による、思わぬ経済的負担を回避するためには、こうした保険の利用も検討しておくとよいでしょう。

■保育園には安全配慮義務がある

 保育園で起きた事故である以上、保育園にも何か責任はないのかという点は気になるところだと思います。

 法律上、保育園は、単に乳幼児を預かって食事を提供するなどの保育をしていればよいというだけではなく、こうした保育中の乳幼児の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っていると考えられています。

 そのため、保育園の中で子どもの安全が脅かされ、ケガを負うような事故が起きてしまったときに、もし保育園側が必要な注意をしていれば、そうした事故の発生を防ぐことができた場合や、事故のあと適切に対応していればもっと小さな被害で済んだ場合などには、保育園が園児に対して負っていた安全配慮義務に違反したのではないかということが問題となります。

 そして、保育園に安全配慮義務違反がある場合、被害を受けた子どもの親は、保育園に対しても損害賠償請求をすることができます。

■親か保育園か、賠償請求に優先順位はない

 このように、親にも保育園にも賠償請求ができるような場合、優先順位などはあるのでしょうか。

 法律上、損害賠償責任を負う当事者が複数いる場合でも、誰を相手に損害賠償請求をするのかは、被害者が決めてよいと考えられています。また、被害者は、全員に対して請求してもよいし、そのうちの一部の人だけを相手に請求してもよいとされています。例えば、保育園がしっかり民間の賠償保険にも入っていて、誠実に対応してくれそうだと判断すれば、保育園だけを相手に請求することも考えられます。

 ただし、二重に補償を得ることはできないので、一方から先に賠償を得た場合には、その部分については他方には請求できなくなります。

■園や親に損害賠償が命じられた裁判例もある

 最後に、子ども同士の衝突事故に関して裁判になった事例をご紹介します。

 後遺症が残った事例として、幼稚園で4歳の園児が他の園児に衝突されて、後遺障害等級10級に相当する外傷性の視覚障害が生じた事故がありました。この事故について、裁判所は幼稚園を運営する法人に約2000万円の損害賠償を命じました(岐阜地裁判決、令和5年4月26日)。

 また、小学校での事故ですが、小学3年生の子どもが休み時間中に同級生に衝突されて転倒してしまい、頚椎ねんざや成長ホルモン分泌不全等の傷害を負ってしまった事故では、6年にわたる治療が必要となりました。スポーツ振興センターから約90万円が給付されていましたが、裁判所は、それとは別に衝突した同級生の保護者に対して約420万円の賠償金の支払いを命じています(高松高裁判決、令和3年4月9日)。



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佐藤 香代(さとう・かよ)
法律事務所たいとう代表弁護士
1979年生まれ。弁護士・産業カウンセラー。2002年中央大学卒業。2004年弁護士登録(東京弁護士会)。2014年日本社会事業大学専門職大学院修了、同年法律事務所たいとう開設。プライム上場企業等の社外役員や顧問業務等で企業や社会福祉法人の経営を支援する傍ら、教職員・保護者向け研修や子どもの権利擁護活動などを通じて、いじめなどの学校問題・子どもの人権課題に取り組む。主な著作は、『Q&A 子どもをめぐる法律相談』(新日本法規)共著、『弁護士と精神科医が答える 学校トラブル解決Q&A』(子どもの未来社)共著・編集委員、『いじめ防止法 こどもガイドブック』(子どもの未来社)共著。
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最終更新:4/18(木) 15:17

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