「日本はヌルい」「課金は青天井」中国系家庭が中学受験に参戦!御三家を目指す理由とは?

4/18 11:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 近年、中国にルーツを持つ子どもたちが日本の中学受験に挑むケースが目立っている。教育熱心で知られる中国系の家庭が、日本の受験システムに続々と参戦する背景に何があるのか? 中学受験専門塾スタジオキャンパス代表の矢野耕平氏がリポートする。

 〈前後編の前編です。後編は…東大さえも「踏み台」中国勢が日本の受験に参戦する“真の狙い”とは?〉

● 5人に1人が中国系のクラスも

 わたしは東京都世田谷区ならびに港区で中学受験塾を経営し、国私立の中高一貫校を志す子どもたちを日々指導するかたわら、社会人大学院生として博士後期課程に在籍し、言語学の研究に取り組んでいる。

 数年前、SNSに送られてきた大学院のゼミ名簿を一瞥(いちべつ)して驚いた。ゼミ生十数人のうち、日本人はわたし1人だけだったのだ。わたし以外は海外からの留学生であり、とりわけ中国系の名前がその多くを占めていた。

 そういえば……とここで立ち止まった。自身の生業にしている中学受験の世界でも中国系の子どもたちが増加の一途を辿っていることを改めて感じたからだ。

 学校関係者にヒアリングしたところ、東京都内の私立中高一貫校のあるクラスでは、およそ5人に1人が中国にルーツを持つ子どもたちで構成されているという。また、トップレベルの都立高校でも年々、中国勢の占める割合が高まっているそうだ。

 日本には82万人の中国籍の人々が暮らしている。日本に帰化した人や、父母のいずれかが中国出身という家庭も含めれば、その数はさらに膨らむ。彼ら彼女たちはなぜ、日本の受験システムに参入しようとするのだろうか。

● 富裕層の教育資金は「青天井」

 14歳で中国から日本に移住し、わが子を日本の私立中学校に入れた40代の女性はこう口にする。

 「子どもの将来を考えて、中国から日本に移住する人は多い。在日華僑の親世代に根強くある価値観は『教育はスタートラインで負けてはならない』。ですから、幼児教育から力を入れて一流の中高を目指すのです。一人っ子政策の名残もあり、子どもは両親や祖父母の愛を一身に受ける。『小皇帝』とも形容されます」

 日本の中学受験はとかく「お金のかかる」世界である。3年間の塾代などの総額は300万~500万円ほど。私立中高一貫校に進学すれば6年間の学費は500万~800万円台、中高時代に塾に通えばその費用も上乗せされる。

 それでも女性は、お金のことは気にしないと言い切る。

 「目標はいい中学に入ること。そのための予算はいくらまで……という発想がありません。お金をかけるほど合格の可能性が上がるならお金をかけたい。青天井です」

 「在日華僑の富裕層には、わが子の教育資金が余って、物足りないくらいの感覚の方も少なくありません。わが子の成績が上がって名門校に合格できるのであれば、いくら積んでも構わないと考えている保護者ばかりです」

● 「中国に比べれば日本はヌルい」

 聞けば、中国では受験戦争の過熱で学校と家庭の「橋渡し役」を自称する中間業者が跋扈(ばっこ)していて、そこに金品を支払うような腐敗が横行しているという。

 「中国の受験戦争はあまりにも激化しています。中国政府が『塾禁止令』の政策を打ち出したのは、塾をめぐるお金のトラブルが相次いでいることも大きいのです」

 「その中国に比べれば、日本の受験は穏やか、ヌルいと言えます。日本は中国から地理的に近く、物価も安い。そして何より、子どもが勉強すれば一流の中高、大学の切符が確実に得られます」

 「中国は儒教の思想が強く、保護者はわが子の勉強が第一。両親の圧が強いからか、よく勉強する子どもたちが多いです」

 塾選びで重視するのは何よりも進学実績。大手塾と家庭教師、個別指導を併用する家庭も少なくない。

 「在日華僑の間では、SAPIXの名前を一番よく聞きます。いい家庭教師の先生は取り合い。いいところは高い、高いものはいいと考える人が多いです」

● 「まずは御三家、とにかく1番」

 横浜市の大手進学塾で教室長を務める男性はこう証言する。

 「中国系の子どもたちは年々増えていて、わたしの教室でも塾生の3分の1を占めます。日本人家庭と比較すると、塾側への要求水準も高く、わが子の受験への熱の入れようは目を見張るものがあります」

 横浜市は港町であり、中華街があることから分かるように以前から中国系の人々が多く住んでいる。それでも、「3分の1」という数字は驚きだ。

 横浜以外にも、池袋や埼玉県川口市などに根を張る中国ルーツの人々は多い。在日華僑のなかでも、富裕層には湾岸地域のタワーマンションや、港区の高輪・白金あたりが特に好まれるという。

 冒頭の女性は「エリアや職種を問わず、御三家を狙っている家庭は多い。ホワイトカラー家庭も、ブルーカラー家庭も教育への熱量は変わりません」と語る。

 こぞって「御三家」の私立中高一貫校を目指す背景には、強烈なナンバー1志向、ブランド志向があるようだ。女性が続ける。

 「大体みんな、まずは御三家。とにかく1番を狙っています。『2位じゃダメなんですか』なんて考えません。日本の普通の家庭に比べればものすごくお金を投入しているし、親からの圧に鍛えられている子どもたちは、ちゃんと御三家に入っていますね」

● 手強いライバルの出現

 中国系家庭が中学受験の情報を交換するのは、もっぱらメッセージアプリの「微信」(ウィーチャット)。「どの塾、どの学校でいつどのようなイベントが行われるか」「塾の指導システムの長短やその評判」など、その内容は多岐にわたる。

 日本の家庭は「わが子にとっての良い情報」をひた隠しにするところもあるが、在日華僑の保護者たちには仕入れた情報を独占しようという雰囲気が微塵もない。ウィーチャットのグループを通じて、あけっ広げに情報交換しているという。同胞同士の結束の強さを感じさせるエピソードだ。

 ウィーチャットを盛んに飛び交う情報が、中学受験塾や中高一貫校の動向にも影響する――。いずれ、そんな時代が来てもおかしくはない。日本人の子どもたちにとっては、手強いライバルの出現である。

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最終更新:4/18(木) 17:36

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