「SNSで本名は使わない」「顔出し投稿NG」 Z世代の意外な”SNS観”と親が意識すべき重要事項 「SNS禁止法」が日本で制定される可能性は?
2024年11月、オーストラリアで16歳未満のSNS利用を禁止する法律が成立したことは、世界中に大きな衝撃を与えた。すでに2025年1月から仮運用が始まっており、1年間の猶予期間後、2026年1月から施行される予定だ。
このニュースに対する日本の反応は、大人と子どもでまったく異なる印象を受ける。大人からは「日本でも禁止してくれればいいのに」「子どもが一日中使っているので注意ばかりしている。禁止してくれたら助かるのに」という肯定的な受け止めが少なくない。一方、子どもの多くは「あり得ない。そんなことになったら暮らしていけない」と憤慨する。
この法律は、SNSの運営会社に対して16歳未満の子どもが利用できないような措置を義務づけている。違反した場合は最大で4950万オーストラリアドル(約48億円)の罰金が科されるが、保護者や子どもへの罰則はない。
想定されるSNSは、InstagramやTikTok、Snapchat、X、Facebookなど。YouTubeやメッセージングサービスなど、教育目的でも使われるものは除外される。今後、SNSを利用する際に子どもの年齢を確認する方法を具体的に検討していく。
■オーストラリア国民の8割近くがSNS禁止を支持
南オーストラリア州のマリナウスカス首相の妻が、アメリカの社会心理学者ジョナサン・ハイト氏の著作『不安な世代』を読んだ後、夫に対して対策を促したことが本法律制定のきっかけとされる。
マリナウスカス首相が行動を起こしてから法案が成立するまで6カ月しかかからなかったのは、背景に未成年間でのSNSのいじめや性被害、自殺などの重大な問題があったからだ。
オーストラリア政府の世論調査によると、国民の77%がこの16歳未満のSNS利用禁止を支持し、反対は23%にとどまる。
支持層の大半は、規制の対象外となる成人だろう。成人にとっては特にデメリットがない法だからだ。多くの成人は、危険なSNSから未成年を遠ざけることに問題があるはずがないと考えるだろうし、子どもにSNSを使わせないいいきっかけになるとさえ思うかもしれない。
ところがオーストラリアの若者たちは、この法に反対し、実施されることで自由を奪われたり、友人と連絡が取れなくなったりすることを心配している。
例えば、11歳のときにオンラインニュース「6News Australia」を立ち上げたレオナルド・パグリーシさん(17)は、法案を審議中だった欧州議会の特別委員会で反対意見を述べている。
ニュースはYouTube、TikTok、Facebookなどで配信されており、運営メンバーである中高生には16歳未満も含まれる。法が施行されたら、そのメンバーは運営に参加できなくなるかもしれないのだ。
日本でSNS禁止について学生などに聞くと、「反対」とする意見が多い。それはもっともな話で、若者たちはSNSでのみつながっており、たとえ親しくても他の連絡手段、電話番号やメールアドレスなどは知らないことがほとんどだからだ。
同じ学校の友人同士でさえ、SNSが使えなくなるといとも簡単に連絡が取れなくなってしまう。ましてやネットだけでつながった関係では、そもそも関係自体が切れてしまう可能性も高いだろう。
また、彼らは日々の情報のほとんどをSNSやインターネット経由で得ている。筆者が教える成蹊大学の受講生に対してこの4月にアンケートを採ったところ、情報収集手段のトップはInstagram(77%)であり、テレビ(62.8%)を上回っている。次いで「YouTube」(58.8%)、「X」(54.1%)、「TikTok」(50.7%)となっている。
「Yahoo! ニュース」(37.2%)、「LINEニュース」(34.5%)も使われているが、「ラジオ」(13.5%)、「新聞社のニュースサイト」(7.4%)、「新聞(紙)」(4.7%)など、従来のメディアは軒並み利用率が低い状態だ。彼らが求める“今起きていること”や”流行していること”などの情報は、従来のメディアから得ることは難しい。
近年は、大人においてもSNSの利用率が高まっている。総務省情報通信政策研究所の「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(令和6年6月)によると、全年代における各SNSの利用率は、LINEが94.9%、YouTubeが87.8%、Instagramが56.1%、Xが49.0%などとなっている。
大人世代もSNSから情報を得ており、LINEなどSNSでのみつながる友人も少なくないはずだ。事実上、成人にとってもSNSは生活で必須となっているのに、未成年だからという理由で16歳未満にだけ禁止するのはいかがなものか。
■学校の公式アカウントが増加傾向
高校や大学が運営するInstagramの公式アカウントは、観測範囲では増加傾向にある。若者のメインのSNSがInstagramとなっているためだろう。
高校生の子どもを持つある保護者は、「うちの子がInstagramデビューをしたのは、学校の公式アカウントのせい」と苦々しい顔をする。子どもに「学校の公式アカウントの投稿を見たいから」と言われ、やむなくアカウントの作成を許可したところ、Instagramにはまってしまったという。
筆者の息子が通う高校でも、複数の部活動がInstagram上に公式アカウントを持っており、それどころか高校の公式アカウントもある。投稿からは日々の活動の様子がわかり、楽しそうな雰囲気が伝わってくるものばかりだ。たびたび炎上ネタが話題になるXと異なり悪いイメージが少なく、写真のみの投稿で済むため、運用のハードルも低いのだろう。
写真や動画は情報量が多く、感覚的に情報を得やすいというメリットがある。最近の学生は、オープンキャンパスや就活関連の情報などもSNSで得ている。レコメンド力が優れてハマりやすく、もはや利用しないことにデメリットさえあるように感じる。
中高一貫校に通う息子も高校生になり、中学とは違って学校にスマホを持ち込めるようになった。高校に入学して最初に始めたいと言い出したのが、Instagramだ。同級生たちは高校生になってからInstagramを使い始めたらしく、息子も「友達のアカウントが見たい」と言うので使用を許可した。
Instagramには、子どもの利用者を守るために、利用者に連絡できる人や表示されるコンテンツを制限する「ティーンアカウント」という機能がある。息子や同級生たちは15歳でティーンアカウントなので、アカウントは検索対象とならず非公開だ。
しかもフォロワー以外から投稿などを見られないように設定するいわゆる「鍵アカ」で、公開状態になっている子はいないという。友達のアカウントをフォローしたところ、他の友達もおすすめに表示され、フォローできたそうだ。「高校と入学年度が分かる記号(アルファベットと数字からなる記号)をプロフィールにつけているから分かる」ようだ。
興味を持って聞いてみたものの、「投稿している子はほとんどいないよ」と言われた。男子生徒は基本的に投稿なしでアカウントのみ。一部の女子生徒が投稿しているが、顔をスタンプで隠しており、個人が特定できないものばかりだという。
LINEも、友人の間ではアイコンに顔写真を使う子はおらず、名前もニックネームのみ。個人情報を出したり、全体公開にしたり、知らない人とつながったりする使い方は一切されていないそうだ。
ただし、LINEでのメッセージのやり取りは相変わらず活発だ。長時間利用に苦い顔をしたくなるが、どうやら部活、秋に行われる文化祭の実行委員会の話し合いや連絡をしているらしい。具体的には練習日時や場所の変更、持ち物の連絡などが中心だ。そうした必須の連絡に使われており、自宅でも真面目な顔でせっせと委員会の話し合いや連絡を送り合っているのをよく見かける。
先日、委員会の場所と時間が急に変更になった時は、同じ校内にもかかわらずLINE通話で連絡が飛んできたそうだ。
個人情報に関する意識が高まっているのは、息子の高校だけの話ではない。筆者が講義を持つ成蹊大学でも、近年、その傾向がはっきり強まっている。
以前は入学前にXで「#春から成蹊」と投稿して新入生同士でつながり、親しくなった人とInstagramの鍵垢で交流する使い方がされていた。Xではプロフィールアイコンに顔写真を使わず、ニックネームのみで本名も出さず、個人情報はほぼ出さない。
受講生を対象に毎年取っているアンケートによると、「Xで『#春から成蹊』でつながる」利用をしている学生は、2023年は25.2%と4人中1人だった。ところが2024年は13.2%と減少し、2025年は11.5%と10人中1人まで利用が減っている。
Xの利用率が減っていることも影響しているだろうが、リテラシー教育が浸透した結果、個人情報の管理に注意し、知らない人とつながりすぎないよう気をつける学生が多くなっているのではないだろうか。一方で、SNSの利用自体は変わらず多く、友達とのやり取りもSNSで行われているという。
■日本でも未成年のSNS禁止は必要か?
「日本でもSNSが法で禁止される可能性はあるか」と聞かれることは多いが、まず考えられない。日本は表現の自由を重んじる国であり、SNSで問題が多発していても、国が一律に禁止することが本当にいいことだとは思わない。
未成年を性的な目的で呼び出したり裸の写真を送らせたりすることを「グルーミング罪」として罪に問えるようにしたり、ネットでの誹謗中傷で問われることが多い「侮辱罪」を厳罰化するなど、日本でも一定の対策は進んでいる。
SNSを一律で禁止した場合、SNSをセーフティネットとしている子どもたちが行き場所をなくす恐れもある。禁止しても隠れて使う子は後を絶たないだろうし、犯罪の被害にあっても相談できなくなることを考えると、けして良策ではない。
SNSでは多くの問題が起きており、対策が必要なことは間違いない。けれどSNSはもはやインフラ的な使い方をされており、日常生活に深く入り込んでいる。連絡や情報収集のための必須ツールで、それに代わる適切な代替手段がない状態だ。
一律な禁止ではなく、適切な対策とリテラシー教育こそが必要ではないのか。例えば、すでに実施されている通り、SNS上における未成年と成人とのやり取りを制限する「ティーンアカウント」のような仕組みは有効であり、このような対策を増やしていくことにこそ力を入れるべきだ。
リテラシー教育と経験から、子どもたちは多くのリスクを学び、対策するようになってきている。一方的に禁止するより、適切に使えるためのリテラシーを高めるべきであり、保護者がすべきなのはそれを見守ることではないだろうか。
東洋経済オンライン
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最終更新:4/26(土) 10:02