現役銀行員が「タワマン投資にはお金を貸したくない」と考える理由《楽待新聞》
タワーマンションへの投資、略して「タワマン投資」が注目を浴びてしばらく経ちました。現在も、タワマンは居住用物件としてだけではなく、投資物件としても高い人気を維持し続けています。
では、銀行はタワマン投資についてどのような考えを持っているのでしょうか? 銀行にとってタワマンは、融資をしたい投資案件なのでしょうか。それとも、投資としてはネガティブに捉えているのでしょうか。
筆者は銀行員ではありますが、すべての銀行を代表するような立場にいるわけではありません。ただ、銀行が総体的にタワマン投資をどのように考えているのかについての感覚は持っています。
そこで今回は、「銀行から見たタワマン投資」について、銀行員の立場として考察してみたいと思います。
■「タワマン投資」ってどんな投資?
現在、個人によるタワマン投資の手法としては、自らの居住用として購入し、しばらく経ってから物件を売却するパターンが主流になっていると思います。
住宅ローンを利用してタワマンを購入し、実際に居住したあと、「居住用財産の3000万円特別控除」などを利用して、売却益の課税を回避・軽減することで利益を得る…というものです。
もちろん、投資用として購入して賃貸に出す、という方法もありますが、タワマンの価格が高騰している現在、投資額対比で利回りが低くなりすぎるため、投資としては成り立ちづらいのが現状でしょう。
そのため以降では、前者の住宅ローンを活用したタワマン居住・投資に焦点を当て見ていきます。
■タワマン投資のメリット・デメリット
これについては、インターネットで検索するだけでも大量の記事が出てきますので、ここではごく簡単に触れておきたいと思います。
<タワマン投資のメリット>
購入者が居住して一定期間後に売却するタワマン投資のメリットは、主に以下となります。
・金利の低い住宅ローンを利用するため、低いコストで物件を購入できる
・過去のトラックレコードのように価格の上昇が続くとすれば(たとえ購入時に割高だったとしても)、購入後のさらなる値上がりが期待でき、売却時に大きな利益を見込むことができる
・税制上の特例を活用することで、利益に対する課税を回避・軽減できる
・予想が外れて物件価格が下落しても、そのまま居住し続けるという選択肢がとれる
<デメリット>
以下はどちらかと言うと「留意点」とすべきかもしれませんが、タワマン投資のデメリットを挙げると以下となります。
・物件価格に比して賃貸に出した際の賃料が低い(ただし需要は比較的安定している)
・共用部が充実していることが多いため、管理費が高くなる傾向にあり、保有中のコストがかさむ
・建築費が上昇している中で、長期的な修繕積立金の上昇リスクがある(もしくは技術面、ゼネコンの人繰り面、多数の所有者の意思結集の面で修繕がそもそも可能か)
上記を単純化すれば、住宅ローンを使って居住用タワマンへ投資するということは、将来の時点で、タワマンが購入時よりも高値で売却できるかに成否がかかっていることになります。
■J-REITの投資事例で考えてみる
タワマン投資は過去20年ぐらいを見ると非常に有効でした。ネットには投資の成功例が溢れていますが、成否について客観的に把握するには、J-REITによるタワマン投資の例が役に立ちそうです。
もちろん、J-REITのタワマン投資ですから、一室ではなく一棟の投資となっていますし、住宅ローンを活用しているわけでもありません。しかし、数字の全体感はつかめるでしょう。
事例としては、三井不動産がスポンサーとなっている「日本アコモデーションファンド投資法人」の保有物件である「パークキューブ愛宕山タワー」を取り上げます。
理由は後述しますが、そもそもJ-REITはタワマン投資の事例が多くありません。また、少ない事例には定期借地のタワマン投資も含まれています。そのため、J-REITでのタワマン投資の事例としては、上記パークキューブ愛宕山タワーだけを採り上げることとしました。
ちなみにこの物件は、東京都港区の高級住宅地エリアに位置しており、竣工は2007年、日本アコモデーションファンド投資法人が取得したのは2014年です。
<パークキューブ愛宕山タワーに対する投資の概要>
・2014年当時の取得額は86億5000万円
・2024年8月時点の鑑定評価額は121億円(含み益34億5000万円)
・10年程度での価格上昇は約4割
・2024年8月時点のキャップレートは3.0%
・稼働率97.6%
・年間賃料は5億1379万円
・表面利回りは5.9%(物件取得価格比)
・鑑定評価額=時価対比での表面利回りは4.2%
・184日間(約半年)のNOIは205,569千円
・NOI利回りは4.7%(NOI利回りは184日分のNOIを2倍し、取得価格で控除して計算)
・時価対比のNOI利回りは3.3%(184日分のNOIを2倍し、鑑定評価額=時価で控除して計算)
この数字を見ると分かることは、この日本アコモデーションファンド投資法人によるパークキューブ愛宕山タワーへの投資は「成功している」ということです。
この事例が他のタワマン投資でも同様だったと考えると、2014年にタワマンに投資していれば投資としては成功だった可能性が高いということです。
もちろん、J-REITが取得する物件は立地・品質が高い物件であることが多いということはありますが、個人が投資してきたタワマンも立地としては良いものが多いため、参考にできる事例でしょう。
では、なぜJ-REITはタワマン投資をもっと行わなかったのでしょうか?
その理由は、主にJ-REITのスポンサー側(上記日本アコモデーションファンド投資法人にとっての三井不動産)の事情があると筆者は考えています。
これは単純で、スポンサーはJ-REITにタワマンを売却するよりも、分譲マンションとして一般に売り出した方が儲かったからです。
スポンサーがJ-REITに物件を売却(供給)する時には、J-REITとしての投資が成り立つように相応の利回りが確保できる価格とします。
ところがタワマンは人気が高く、J-REITが利回りを確保できるレベルではないぐらい高い価格で分譲マンションとして売れるのです。
したがって、スポンサーはJ-REITにタワマンを売却することには消極的であり、J-REITはスポンサーからタワマンが供給されずタワマン投資があまりできていないのです。
■タワマン投資をするということ
上記を鑑みると、タワマン投資には1つの問題があることが分かるのではないでしょうか。すなわち、タワマン投資の問題点は、単純化すれば「取得時に割高である」ということです。
J-REITのような不動産賃貸事業者が投資できない価格で、不動産デベロッパーは個人にタワマンを販売しています。それでも売れており、需要が大きいので、デベロッパーから見ると当然に問題がないビジネスです。
しかし、投資家としての個人にとってみれば、タワマン投資は、不動産投資家としては採算を確保するのが難しい高価格で物件を購入しているということに等しいのです。
もちろん、希少性や外国人投資家需要を背景に、タワマンはこれからも値上がりを続けるかもしれません。
ただし、現時点の賃料対比では割高なことは確かです。もし、将来的にタワマン価格が値上がりしない場合には、投資収益率の低い不良資産を購入したことになり、なかなか売れない可能性があります。
過去にタワマンに投資した個人が儲かったであろうことは、先のJ-REITの例からも見て取ることができます。しかし、今後も同じとは限りません。
タワマンの価格が「上がり過ぎ」であった場合、金利上昇局面に入った現状では、実需としてのタワマン価格は過去のような価格上昇は難しいかもしれません(銀行員は保守的に見ますので)。
◇
以上のことを踏まえ、銀行員の立場として申し上げると、タワマンを購入したいと住宅ローンの申し込みがあれば、筆者なら収入面で問題なければ貸すでしょう。
しかし、これは投資として上手くいくか否かではなく、単純に収入対比では返せると判断しているに過ぎません。タワマン自体の評価が高いわけではないのです。
以上が、銀行員から見たタワマン投資です。皆さんはどのようにお考えになっているでしょうか。
旦直土/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
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最終更新:4/14(月) 19:00