「一期一会」の理解度にマネジャーの実力差が出る できる上司は自然とやっている仕事依頼のコツ

3/29 7:02 配信

東洋経済オンライン

「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」
「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」
ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。

本記事では、若い部下たちがついていきたいと思うマネジャーの指示の出し方を書籍の内容に沿って解説する。

■ビジネスにおける「一期一会」の重要性

 私はますます「一期一会」が重要な時代になってきたと思う。

 特に世の中のマネジャーに対して強く言いたい。タイパ(タイムパフォーマンス)を強く意識する若者たちを育てようと思うなら「一期一会」の精神が必要だ、ということを。

 私は20年近く、現場でコンサルティングをしてきた。多くの組織マネジャー、企業経営者と対話してきた。そこで思うことがある。おそらく「『座右の銘』ランキング」があれば、断トツに1位になるのは「一期一会」ではないか、と。

 ビジネスを取り巻く状況は常に変化している。それゆえ、一瞬のうちに現れるビジネスチャンスに日頃から備えなければならない。だからこそ、多くの経営者やマネジャーがこの言葉を支持するのだろう。もちろん私も、常にこの言葉を意識して、仕事をしたいと思っている。

 ところで「一期一会」の意味について勘違いしている人も多いようだ。実は私もその一人であった。ある作家から教えられてようやく本当の意味を知った。一期一会というのは、一生に一度しか会えない人との時間を対象にしているわけではない。毎日顔を合わせる相手にも「一期一会」は当てはまるということを。つまりお客様に対してはもちろんのこと、家族にも、上司や部下との間でも「一期一会」を意識して接しなければならないのだ。

■部下への依頼も「一期一会」の精神で

 そう考えると、部下を指導する際も「一期一会」の教えをしっかりと意識すべきだろう。部下と接する1回、1回を「二度とない大切な時間」として捉えるのだ。

 しかし、「一期一会」をまったく意識していないマネジャーは、部下への依頼一つをとってもその態度は表れる。

 たとえば、

 「わからないなりにやってみて」

 「まずは、自分で考えて手を動かして」

 こんな曖昧な表現を使うマネジャーがいるが、これはマズい。すべての機会を大切にする「一期一会」の教えに背いていることになる。部下の立場からすれば、どう取り組むことでマネジャーが求める成果を出せるのか無駄に迷うことになり、結果的に「タイパが悪い」指示だと受け止められるだろう。

 これは「ダメだし文化」に染まってきた昭和世代の悪しき伝統だ。相手よりも自分のほうが優位だということをわからせるために、

 「何事もまずは経験だ」

 と言ってやり方を教えず「とりあえずやってみろ」「まずは手を動かせ」と指示をする。そして失敗させ、一度恥をかかせてから、上から目線で仕事を教えるというやり方だ。

 「私が新入社員だった頃は、いきなりお客様のところへ行かされたもんだ。上司は何も教えてくれなかった。泣きそうになりながらお客様をまわったんだぞ」

 「だけど、あの修業時代があったから、今の私がある」

 こんなエピソードトークをする上司の気持ちを、私もわからないでもない。バブル全盛期に社会人になった「昭和ど真ん中世代」だからだ。

 とはいえ、このような理不尽な修業時代は、ないほうがいいに決まっている。自分が苦労したからといって、若い部下にも同じ経験をさせる必要はないのだ。

■仕事を依頼する「前」にすべきたった一つのこと

 大事なことは部下と一緒に「見通し」を立てることだ。特に経験の浅い部下を持つ場合は、

 「とりあえずやれ」

 ではなく、

 「一緒に仕事の見通しを立てよう」

 と声をかけるのだ。

 「見通し」とは、物事の進展や将来を予測すること。具体的には、「始めから終わりまで」を明確に見通せるようにすることだ。

 たとえば、分析の仕事を依頼する場合、どのようなパラメータが重要か、それをどう分析し、結果をどうまとめるかという点を、部下に問いかけることで明確化させるのだ。

 急かさず、否定せず、丁寧にやろう。困ったときには、掘り下げる質問を繰り返してみる。

 「より具体的には何をすればいい?」

 「たとえば何がある?」

 具体的に掘り下げるには、この2つの質問は便利だ。

 部下の考えを促すコツは、尋問にならないよう柔らかい表現で質問していくこと。そして適宜助け船を出すこと。上司自身もわからなければ、素直に伝えるのもいい。

 「実は私もわかってないんだ。一緒に考えないか?」

 「そうなんですね。お願いします」

 この共同作業によって「見通し」が立つと、仕事の進行がより明確になり、部下も自信を持って取り組むことができる。

■「反省の気付き」を減らして「発見の気付き」を増やす! 

 人が成長するのに「気付き」は重要な要素だ。一つの仕事に対して質の高い「気付き」を数多く得ることができれば、より速く育つことだろう。常に「一期一会」の教えを守るのだ。

 本を読むときも、講演を聴くときも、商談を行う際にも、常に「一期一会」の精神で「見通し」を立てて臨んでいれば、毎回質の高い「気付き」を得られる。

 「気付き」には2種類ある。

 事前に見通すことができなかった質の高い気付きを「発見の気付き」と呼ぶ。反対に、事前に予想可能なものや当たり前の事柄に気付くことを「反省の気付き」と呼ぶ。

 「反省の気付き」ばかりで、「発見の気付き」が少ないと成長も遅くなる。仕事をしていても楽しくないだろう。「とりあえず依頼」が問題なのは、予測可能なはずであった「反省の気付き」が増えるからだ。

 反対に、質の高い見通しを立てることで「反省の気付き」を減らし、「発見の気付き」を増やすことができれば、成長スピードは速くなる。「タイパ」を重視する若者にとっても、望ましい姿だ。

 だから質の高い「見通し」を立てることが大事なのだ。「一期一会」の教えを守り、「見通し」のレベルを上げていくことで、「反省の気付き」は減り、自然と「発見の気付き」は増えていく。

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最終更新:3/29(金) 7:02

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