背水の住友ファーマ、窮地脱却を占う「次の焦点」 親会社の住友化学は「パートナー探し」を開始

5/13 5:41 配信

東洋経済オンライン

 「カツカツではあるが、10億円の利益をなんとか確保していきたい」

 5月1日、住友化学傘下の製薬会社、住友ファーマは前2024年3月期の連結業績予想(国際会計基準)を下方修正したことを踏まえ、急きょオンライン会見を開いた。

 2024年3月期決算の発表は5月15日に予定されており、通常であれば下方修正のタイミングで会見を開くことは珍しい。しかし住友ファーマにとっては、今後の方針を対外的に説明しなければならない、のっぴきならない事情があった。

2期連続の最終赤字によって資金繰りが逼迫しているうえ、親会社である住友化学にとっても、過去最悪の赤字決算を招いた元凶となっているからだ(詳細は財界総理輩出の名門・住友化学が陥った“2重苦”、ヒット薬が97%減、住友化学子会社が陥った窮地)。

■最終赤字は3000億円超に拡大

 会見では、下方修正の理由と併せて、今2025年3月期の見通しに関する説明が行われた。その中で野村博社長は冒頭のように述べ、今期になんとしてもコア営業利益の黒字化を目指すと強調した。

 同社のコア営業利益とは、営業利益から減損損失や事業構造改革費など、一時的な損益を控除したもの。前2024年3月期のコア営業損益は1330億円の赤字(前期は163億円の黒字)に落ち込んだもようだ。

 会社側は期初の段階で減収減益を見込んでいたが、今回の下方修正により、売上高は3146億円(前期比43.3%減)、営業損益は3549億円の赤字(前期は769億円の赤字)、最終損益は3150億円の赤字(同745億円の赤字)と、赤字が大幅に膨らむことが明らかとなった。

 業績がここまで急激に悪化した最大の要因は、売り上げの4割弱を稼いできた抗精神病薬「ラツーダ」が2023年2月に特許切れを迎えたことだ。

 住友ファーマはラツーダの特許切れに備えて、2019年にスイスとイギリスに本社を置く創薬ベンチャーの子会社を買収。その際に取得した3つの薬を基幹製品と位置づけたが、販売実績は想定を大きく下回る事態に。このうち子宮内膜症用の新薬「マイフェンブリー」は、買収時に計上していた無形資産のうち、現地通貨ベースで9割以上に相当する1335億円を減損処理するに至った。

 そのほか北米事業ののれんの減損なども含めて合計約1800億円に上る減損と、事業構造改革費用を301億円計上した。今2025年3月期の復配を見送ることも発表し、2年連続で無配となる。

 今期の黒字化に向けて住友ファーマが掲げた施策は、大きく2つある。

 1つ目が、基幹3製品の売り上げ拡大だ。今回発表した見通しによれば、前期は900億円前後だった3製品の売り上げを、今期には1300億円前後に伸ばすとしている。3製品については会社の予想に対して実績が届かないという事態が続いてきたが、「達成確度はこれまでの予想よりも⾼い」(野村社長)という。

 もう1つの柱が、コスト削減だ。前期は2360億円だった販売管理費を約3割カットし、1690億円にまで圧縮する。この多くを占めるのが、同社にとって主力市場でもあるアメリカでの人員削減だ。

 アメリカでは前期の期初時点で2200人の従業員がいたが、その後2度にわたるリストラを実施。2024年3月末には約1200人に減少しており、今期末(2025年3月末)までに追加で100人ほどを削減する方針だ。

■国内でのリストラは完全否定せず

 一方で、国内での人員削減の可能性については明言しなかった。親会社の住友化学が4月30日に開示した今後の経営戦略に関する資料には、住友ファーマの国内事業について「2024年度中に一段の体制スリム化」との記載がある。野村社長は「これは主に経費の削減を指すもの」とした。

 ただ、リストラを否定したわけでもない。例えば薬の営業担当であるMRについては、「一定の規模感をある程度見直していかなければいけないタイミングも来る」(野村社長)と述べ、「一段の体制スリム化を、あらゆる選択肢の中から進める」と含みを持たせた。

 同社の有価証券報告書によると、住友ファーマ単体の従業員数は2023年3月末時点で約3000人。アメリカではすでに前期に大規模なリストラを実施済みである分、より確実な販管費の削減に向けては、国内の人員削減も1つの焦点となるだろう。

 会社が示したコスト削減計画の対象は、研究開発費にも及ぶ。研究開発の対象領域を絞ることで、前期比でおよそ半減となる500億円にとどめるという。

 住友ファーマはこれまで、精神神経領域が強みの1つだった。だが、主力品候補だった統合失調薬「ウロタロント」のアメリカでの開発が滞り、3月には共同開発していた大塚製薬が単独で開発する体制に切り替えると発表。住友ファーマは今後、がんと再生医療の2領域に集中する。

 薬の開発は、製薬企業の成長を占う要だ。自社で開発するにせよ、買収などによって他社の開発品を導入するにせよ、相応の費用と時間を要する。業界では売上高の2割前後を研究開発費に回すことが一般的とされ、成功確率も低いことから、複数の製品を並行して開発する必要もある。

 住友ファーマで目下開発が進んでいる品目数は約20。売上高が同規模の塩野義製薬やエーザイでは40近くあり、競合と比べると少ない状況だ。今期だけでなく来期も、研究開発費は500億円程度に抑える方針という。

■住友化学はすでに売却を模索か

 資金繰りが厳しさを増す中、当面は中長期的な成長投資よりも、会社の存続に向けたコストカットに集中せざるをえない住友ファーマ。こうした状況下で、親会社の住友化学は4月30日に開いた会見で、住友ファーマへの出資比率(現在は約51%)を変更する可能性について言及している。

 これについて野村社長は「住友ファーマを今後どう成⻑させていくかという中での話と理解しており、(出資比率の変更や他社への株式売却などの)提案があれば、前向きに検討したい」とコメントしている。複数の業界関係者によれば、住友化学はすでに複数の製薬企業に対し、住友ファーマの株式売却を打診しているもようだ。

 また、住友化学は住友ファーマの再生医療事業について、住友化学主導で今期中にも別会社化すると発表している。住友化学の岩田圭一社長はこの新会社について、パートナー探しをすでに進めていると明かした。

 コストカットを進めつつ、新たなパートナーを見つけることはできるのか。明確なシナリオはまだ見えてこない。

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最終更新:5/13(月) 5:41

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