「必要な会社は残し不要な会社は売る」ではダメ、日立がグループ会社の再編に成功した「ただ1つの理由」

5/15 5:41 配信

東洋経済オンライン

日立製作所はこれまで上場子会社の売却や非連結化を活発に行ってきた。一方で、日立ハイテクなどルマーダと親和性が高く、社会イノベーション事業を進展させるために必要と判断したグループ会社は、完全子会社化したり合併したりした。
東原敏昭会長は、初の著書『日立の壁』で、いわゆる日立グループの再編がどうしてスムーズに行われたのかについて詳しく語っている。

「この会社とこの会社を一緒にすればシナジーがある、という理論だけでは反発が起こってうまくいかない」という。今だから語る、再編のカギとは―――『日立の壁』より抜粋・編集してお届けします。

■再編という大仕事

 日立は2016年から8社の上場子会社の売却や非連結化を行ったほか、画像診断関連事業をはじめ資産の売却を行ってきました。売却価額は合計で2兆円以上に上ります。

 一方で、日立ハイテクなどルマーダと親和性が高く、社会イノベーション事業を進展させるために必要と判断したグループ会社は、完全子会社化したり合併したりしました。

 いわゆる日立グループの再編です。その結果、2008年度末には22社あった国内の上場子会社は、2022年度にはゼロになりました。

 社会イノベーション事業の拡大や、世界ナンバーワンの事業を育てるために必要だと判断した買収も積極的に行いました。日立ハイテクなどの完全子会社化のためにも株式を取得しましたから、総投資額は3兆5000億円以上になりました。

 CEO就任前の2015年度末の日立の総資産は約12兆6000億円ですから、再編のインパクトの大きさがわかると思います。これも、社内革命といってよいほどの大改革だったと思います。大赤字を出したあとの2009年以降、グループ連結の売上は9兆~10兆円規模で推移していますが、この間の事業売却と買収で、その売上のうち実に30~50%が入れ替わっているのです。

 中でも、日立グループの再編は大仕事でした。基本方針は、事業環境を踏まえ、事業の将来の成長を見据えて、どのような形にするのが日立グループ、そして当該事業にとって望ましいか。完全子会社化し取り込むか、日立グループよりも大きな事業成長を実現できるパートナーを見つけて株式を一部またはすべて譲渡し、非連結化するかです。2016年には日立物流と日立キャピタル、2017年には日立工機と日立マクセル、2018年には日立国際電気、2019年にはカーナビ事業のクラリオンなどの売却・非連結化を行いました。

■日立御三家の一角も売却

 さらに、2020年には日立化成、2021年には画像診断関連事業、2022年から2023年にかけては日立建機と日立金属を売却しました。かつて「日立御三家」と呼ばれ、日立グループの成長と発展を支えてきた日立化成や日立金属も含まれています。各社の売却には身を切るような痛みを伴いましたが、それぞれの事業の未来の成長のために決断しました。

 上場会社の経営は、いかに当期利益を増やすか、EPS(1株当たり当期利益)を上げるかです。優良なグループ会社をたくさん連結してすばらしい営業利益を上げています、しかし実際には少数株主に利益がどんどん流れて、当期利益は大したことがない……そんな経営がよいとは思えません。

 言うまでもありませんが、経済のグローバル化の急速な進展により、ビジネスの世界はどの分野であれグローバルな競争力を持たなければ淘汰される時代となっています。日立もその中で戦っています。

 CEO就任以来、私は中西さんの方針を継承し、ルマーダが象徴するデジタル技術を活用した社会イノベーション事業を中心とした、課題解決・サービス提供型ビジネスに重心を移す方針で諸改革に着手しました。

 別の言い方をすると、ライトアセットへの転換です。ライトにはRightとLightがありますが、その両方です。つまり、適切かつ軽い保有資産への転換です。

 資産の回転率を上げ、資本効率を高めることが企業経営においては重要ですが、100%子会社でなくとも、連結子会社はすべての資産が日立グループ連結のバランスシートに計上されてしまいます。また、日立の成長をわかりやすく示すには、EPSを大きくすることに尽きますが、非支配持分(日立以外の株主)の利益は日立グループの当期利益には残りません。そのため、大きな資産を保有する“重たい事業”は整理し、保有資産の少ないサービス中心の事業への転換をめざしたのです。

■残るか出るか、残すか出すか

 親会社は子会社に対して絶対的な力を持っています。過半数の株式を保有していますから、日立にとって必要な会社は残し、不要な会社は売却するという方法もありました。欧米のCEOなら躊躇せずにそうすると思います。

 私は少し違うアプローチの仕方をしました。「この会社とこの会社を一緒にすればシナジーがある」という理論だけではグループ会社の中で反発が起こり、合理的な判断が難しくなるケースを見てきたからです。感情的な反発が起きると、うまく行くはずのことですらうまくいかなくなってしまいます。社員が「望んで一緒になる」と思えるかどうか。「一緒になったら、もっと大きいことができるな」という自覚を持ってもらえるかです。

 これから劇的に変化していく日立に残るか外に出るか、残すか出すか。互いにとっての最適解を得るために、グループ会社のトップと徹底的に議論するところから、グループ再編をスタートさせました。

 グループから去るにしても残るにしても、社員を含めたグループ会社のみなさんの大半が納得し、胸を張ってそれぞれの道を進んでいけるような方法を追求しました。そして、上場会社の将来の方向性を決めた段階で取締役会に諮り議論してもらいました。

 たとえば、日立建機の社長だった平野耕太郎さんとは、日立建機がグローバルに成長するために何をすべきかを繰り返し議論しました。日立建機は油圧ショベルや鉱山向けの大型ダンプトラックなどを製造販売する会社です。

 「これからの時代は、建設機械は所有せずにリース会社から借りて使う企業がいっぱい出てくるだろう」

 「日立建機としては、金融機関などもパートナーとして、リースビジネスを展開したい」

 「機械は日立建機の資産にするということ?」

 それだと今でも10兆円ある日立の連結バランスシートの資産がさらに重たくなってしまう。Lightじゃない。私のめざす方向とは違います。

 ただ、日立建機の油圧ショベルの遠隔監視ソリューションなどは正しくIT・OT・プロダクトを組み合わせたルマーダソリューションです。ほかの多くの製品にも日立グループの電気部品を使っています。資本関係は残しておいたほうが双方にとって得策です。話し合いの結果、日立が51%を保有していた日立建機の株式の一部を売却して保有率を25%とし、日立建機は日立グループを離れるという結論に至りました。3年近くかけ、世界で戦える形を議論した上での結論でした。

■闇夜で刺されることはない

 同じように、ほかの上場会社の社長たちとも議論を重ねました。その結果、2009年には22社を数えた上場子会社のうち、社会イノベーション事業に親和性の高い日立ハイテクや日立情報システムズ、日立ビジネスソリューションなどの7社は合併か完全子会社化でグループ内に残り、プロダクト中心の日立工機、日立化成、日立金属などの計15社はグループを去ることになりました。

 グループ企業の株式を売却し、グループを去ってもらうのは、心情的には辛いことでした。グループ会社に転籍した先輩も大勢います。どの会社も業績自体は悪くありませんでしたから「なぜ、東原は業績のいい会社を売ったりするのか」と反対するささやきも聞こえてきました。

 逆なのです。業績がよいからこそ、今のうちに売るのです。サービス提供事業への重心移動を加速していった日立グループに残ったままだったら、必要な投資や戦略の実行ができず5年後には業績が落ちていったかもしれません。

 恨んでいるOBの方々もいるかもしれません。しかし、闇夜で刺されることはないでしょう。日立のことだけではなく、双方の未来にとって最善の策を模索した結果だったからです。

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最終更新:5/15(水) 5:41

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