【伝統のCBシリーズ復権の可能性】ホンダ「CB1000Fコンセプト」を発表、往年の名車「CB750F/CB900F」をオマージュしたデザインに熱視線
60年以上にわたり、ホンダ製ロードスポーツバイクの伝統を受け継いてきた「CB」シリーズ。そのフラッグシップといえる「CB1300スーパーフォア」が生産終了となるなか、ホンダが次世代CBのひとつの回答として「CB1000Fコンセプト」を公開し話題となっている。
とくに注目を集めているのが、往年の名車「CB750F」、その輸出仕様車「CB900F」をデザイン面でのモチーフとしていること。車体には、1980年代に大活躍したアメリカ人レーシングライダーのフレディ・スペンサー氏が北米レースで戦ったマシンのカラーやグラフィックを復刻。当時、バイクで青春を謳歌した(筆者も含む)ベテランライダーたちにとって、「憧れの1台」だったバイクを彷彿とさせる仕様となっているのだ。
まだ参考出品の段階であるため、市販の時期や価格などは未発表だが、2輪車の展示会「第52回 東京モーターサイクルショー」(2025年3月28〜30日・東京ビッグサイト)で現車をチェックしたので、その感想も交えつつ、現時点でわかる範囲で、このバイクの特徴や登場した背景などを紹介しよう。
【写真】東京モーターサイクルショーに参考出品されたホンダ「CB1000Fコンセプト」のディテール(51枚)
■ホンダのCBシリーズとは
ホンダを代表する2輪ブランドのひとつが「CB」。1000ccを超える大排気量マシンから125ccの原付二種バイクなど、幅広い排気量のロードスポーツバイクを揃える人気シリーズだ。
ホンダが最初にCBのネーミングを使ったのは、1959年に登場した125ccモデル「ベンリィCB92スーパースポーツ」だから、その歴史は約66年。なかでも1969年に登場した750ccモデルの「ドリームCB750フォア」は、市販の量産バイクとして世界初の直列4気筒エンジンを搭載。高回転・高出力を生み出すエンジンは、当時としてはかなりパワフルな最大出力67馬力を発揮し(国内仕様車)、日本はもちろん、北米など海外でも大ヒットを記録する。一躍、ホンダやCBの名前を世界中に知らしめた名車中の名車だ。
■レースシーンで確立した「CB」ブランド
その後、他メーカーも4気筒の高性能モデルを続々とリリースしたことで、ドリームCB750フォアの性能的なアドバンテージは少なくなる。そこでホンダは、自慢の4気筒エンジンに改良を施す。やはり当時画期的だった「DOHC・4バルブ」機構を投入し、燃焼効率や出力などをアップ。1976年に、そのエンジンを搭載したレーシングマシン「RCB1000」で欧州の耐久レースに参戦し、年間チャンピオンも獲得する。
そうしたレース活動で培った技術やノウハウを盛り込んだ市販車として、1978年に欧州などで輸出仕様車「CB900F」を発売。翌1979年には、当時の日本で最大排気量となる750cc版の「CB750F」を国内発売する。いずれも欧州の耐久レーシングマシンと同じDOHCエンジンを搭載し、「高性能な大排気量モデル」としてのCBを復権させたモデルたちだ。
しかもCB900Fは、前述のとおり、ホンダ所属の元レーシングライダー、フレディ・スペンサー氏が1982年に北米の最高峰レース「AMAスーパーバイク」に参戦したマシンのベース車両だ。当時、スペンサー氏は、北米だけでなく、世界最高峰の2輪レース「WGP(ロードレース世界選手権、今のMotoGP)」で大活躍。空前のバイク・ブームが巻き起こっていたことを背景に、日本でも多くのファンを獲得していた。
1990年代には、スペンサー氏がアメリカで闘ったCB900Fのカラーリングを施すカスタマイズが大流行したほどだ。今回のCB1000Fコンセプトが話題を呼んでいる理由のひとつが、そのカラーリングがいわゆる「スペンサー号」を彷彿とさせるからだ。当時を知る筆者のようなベテランライダーにとって、CB1000Fコンセプトは、まさに「憧れのバイクの復刻版として登場するのでは?」といった期待を抱かせるのだ。
■国内ではCB750Fが憧れの的に
ちなみに国内版のCB750Fも、いまだに多くのファンから支持されている名車だ。その理由のひとつには、1980年代に大ヒットしたバイクマンガ「バリバリ伝説」で、主人公・巨摩 郡の愛車として登場したことも挙げられるだろう。マンガ内では、赤いCB750Fを駆る主人公が大活躍。赤×白のオリジナルグラフィックを施したヘルメットは、レプリカ版が販売されるほどの人気だった。
ちなみに排気量750ccのバイクは、当時「ナナハン」と呼ばれ、多くの国内ライダーにとって垂涎の的だった。理由は、メーカーの自主規制により、先に述べたように、当時の国内で乗れる最大排気量だったことだ。加えて、当時の制度では「自動二輪免許の限定解除(現在の大型二輪免許)」が必要だったことだ。
とくに大型バイクに乗れる運転免許は、今のように自動車教習所で取得できず、運転免許試験場でいわゆる一発試験に合格するしか取得の道はなかった。しかも合格はかなりの難関で、「10回以上挑戦しても不合格」といったライダーもざらだった。そんな背景のなか、高性能ぶりが世界的に評価されており、人気マンガでも活躍していたCB750Fは、まさに当時の若者のハートをグッとつかんだバイクの1台だったのだ。
ちなみに、その後、ホンダは、レーシングマシンの技術やノウハウを投入した市販バイク、いわゆる「スーパースポーツ」の位置付けを、フルカウルモデルの「CBR」シリーズに統一している。
CBRシリーズは、1983年に登場した「CBR400F」が元祖だが、このマシンはまだカウルレス。1986年登場の「CBR250フォア」以降にフルカウルとなり、1992年には「CBR900RRファイヤーブレード」を販売。現在、シリーズのフラッグシップである1000ccの「CBR1000RR-Rファイヤーブレード」の源流といえるモデルだ。その後、CBRシリーズは、400ccや250ccなどの多様な排気量のバイクを揃え、CBと並ぶホンダの代表的ブランドとなっている。
■CBRに対するCBシリーズの存在価値
一方、CBはネイキッド(カウルレスモデル)のスポーツバイク・シリーズとして継続。1992年登場の「CB1000スーパーフォア」、現在の「CB1300スーパーフォア」をフラッグシップに、こちらも400ccや250cc、125ccなど多様なバイクをラインナップ。CBRがサーキット走行なども含め、スポーツ性を突き詰めるモデル群なのに対し、CBは、より幅広いライダー向けに街乗りから高速道路、ワインディングなど広範囲で走りを楽しむためのオンロードモデルという位置付けとなっている。
なお、CBのネーミングを冠した大排気量モデルでは、ストリートファイターというスタイルを採用した1000cc・4気筒の「CB1000ホーネット/SP」を2025年1月、750cc・2気筒の「CB750ホーネット」を2025年2月に発売。いずれもスーパースポーツの高い動力性能を公道向けにアレンジしつつ、アグレッシブなスタイルなどを採用したネイキッドモデルだ。
とくにCB1000ホーネット/SPのエンジンは、スーパースポーツモデルの2017年型「CBR1000RR」に搭載した999cc・水冷DOHC直列4気筒を採用。ストリート向けに扱いやすい特性に変更しており、今回のCB1000Fコンセプトにも同じエンジンを投入している。
他方で、これも前述のとおり、30年以上の歴史を誇るCBシリーズのフラグシップ「CB1300スーパーフォア」は、生産終了が決定。現在販売中の「CB1300スーパーフォア・ファイナルエディション」が最後となる。CB1000ホーネットやCB750ホーネットもネイキッドではあるが、いわゆるCBの伝統的スタイルを継承しているとは言い難い。
その点では、やはりCB1300スーパーフォアのようなスタイルが市場からも求められるだろう。そして、まさに王座不在ともいえるCBシリーズの次期フラッグシップとして期待できるのが、今回発表されたCB1000Fコンセプトなのだ。
■CB1000Fコンセプトの概要
そんなCB1000Fコンセプトだが、オーソドックスなロードスポーツらしいスタイルに最先端のテクノロジーをマッチングさせていることが特徴だ。とくに鋼板製の燃料タンクは、ホンダの開発者いわく「スチールらしい面の表情」を持たせたそうで、かつてのCB750Fなどを想起させる形状ながら、硬さと柔らかさをバランスさせた今風のテイストもマッチングさせている。
また、燃料タンクやサイドカバーなどのグラフィックやカラーは、前述のとおり、スペンサー氏が北米レースで乗った1982年式CB900Fをオマージュしており、昔からのファンがこのマシンに大注目している一番のポイントといえる。
搭載するエンジンは、これも先に述べたとおり、ストリートファイターの新型CB1000ホーネットと同系の1000cc・4気筒。レースにも対応するスーパースポーツマシンの2017年型「CBR1000RR」用エンジンをベースとし、新開発のダイキャスト製ピストンを採用するなどで、低・中速域のトルク特性と出力特性を高いレベルでバランスさせていることが特徴だ。
なお、CB1000ホーネットの場合、エンジンのスペックは、スタンダード車が最高出力112kW(152PS)/11000rpm、最大トルク104N・m(10.6kgf・m)/9000rpm。サスペンションなどを強化した上級グレードの「SP」で最高出力116kW(158PS)/11000rpm、最大トルク107N・m(10.9kgf・m)/9000rpm。もしCB1000Fコンセプトが市販される場合、これらと同様のパワーを発揮することが予想できる。
車体には、剛性としなやかさを高次元でバランスさせたというダイヤモンドフレームを採用。Y字5本スポークの前後17インチホイールや、フロント120/70ZR17とリア180/55ZR17のタイヤサイズなど、足まわり系パーツもCB1000ホーネットと同様だ。
ほかにも、ヘッドライトには丸目一灯タイプを採用。ぱっと見はレトロなデザインだが、中味は最新のLEDランプを採用し、機能面での充実も図っている。なお、メーターは、今回の展示車は点灯しなかったので詳細は不明。だが、ユニットの四角いフォルムを見る限り、おそらくデジタル表示の液晶タイプとなることが予想できる。
■カスタム仕様車
今回のショーでは、さらにCB1000Fコンセプトをベースに、他メーカーとコラボとした2台のカスタマイズ仕様車も展示された。1台目は、レース用マシンのコンストラクターやカスタムパーツメーカーとして知られる「モリワキエンジニアリング」が手がけたマシンだ。
いわゆるモリワキカラーといえるブルー×イエローのボディカラーに、大型のラジエーターとアンダーカウル、ゼッケン付きのメーターバイザーなどを採用。マフラーもオリジナルで、同社がリリースする「BLADE」シリーズのサイレンサーを装着するなどで、「レーシング仕様」にカスタマイズ。まさに、サーキットを疾走するモリワキ製マシンをイメージさせるモデルに仕上がっている。
もう1台は、セレクトショップでおなじみ「ビームス(BEAMS)」が手がけるデザインプロジェクト「ビームス カルチャート(BEAMS CULTUART)」とのコラボマシン「HONDA CB1000F meets GUCCIMAZE」だ。世界的なグラフィックデザイナー「グッチメイズ(GUCCIMAZE)」がクリエイティブディレクターを担当。レッドブルやバドワイザー、アディダスといった企業ともコラボレーションしている日本出身のグラフィックデザイナーだ。
大きな特徴は、燃料タンクやテールカウルなどにフレアパターン・トライバル調のグラフィックやタイポグラフィなどが描かれていること。かなり派手なグラフィックは、まるで海外で人気の高級カスタムマシンを彷彿とさせる。レトロな雰囲気を持つオリジナルのCB1000Fコンセプトとは一味違う、どこかストリート・アート的テイストが注目を集めていた。
このように、ホンダはCB1000Fコンセプトに関し、あくまで参考出品としながらも、オリジナルに加えてカスタム仕様車も展示するほど今回のショーで力を入れていたのが印象的だ。あくまで私見だが、これだけアピールしているのは、このマシンを市販化する可能性がかなり高い証なのではないだろうか。
■CB1000Fコンセプトのライバル
国内の大型バイク市場では、カワサキ「Z900RS」が2017年の登場以来、400cc超クラスの新車販売台数で7年連続1位を獲得している。1970年代の名車「Z1(900スーパー4)」を彷彿とさせるスタイルと、最新テクノロジーを駆使した動力性能などが魅力のスポーツバイクだ。
主な特徴は、水冷ながら美しいフィンを持つ948cc・水冷並列4気筒エンジン、ティアドロップ型の燃料タンクやテールカウルなどで、ビンテージ感満点のスタイルを演出していること。一方で、トラクション・コントロールやマルチファンクション液晶パネル、LEDヘッドライトなどの最新テクノロジーや高性能パーツも搭載。街乗りから長距離ツーリング、ワインディングやサーキットのスポーツ走行まで、幅広いシーンで高次元の走りを実現する。
ラインナップにはカウルなしのスタンダードのほか、カウル付きのZ900RSカフェ、オーリンズ製リアショックなどを持つハイグレードモデルのZ900RS SEを用意。価格(税込み)は148万5000円〜170万5000円だ。
ホンダのCB1000Fコンセプトは、もし市販化が実現するとすれば、直接のライバルになるのはまさにこのZ900RSとなるだろう。レトロと最新装備を融合させたバイクというコンセプト、とくに往年の名車をイメージさせる装備やスタイルを持つことで、ガチガチのライバル車となること間違いなしだ。個人的な好みでは、CB1000Fコンセプトのメーターは、Z900RSと同じような2連メーターにした方がレトロ感をより演出できそうな気がするが、さて、実際に市販される場合、どんな仕様となるのかが楽しみだ。
ともあれ、国内の大型バイクジャンルでは、今や絶対王者ともいえるZ900RS。それを凌駕し、伝統あるホンダCBブランドの復権にも期待がかかるのがCB1000Fコンセプトの市販化だ。実際に、いつ、どのような形で登場するのか、今後の動向に注視したい。
東洋経済オンライン
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最終更新:4/17(木) 10:32