日本人はオルカンを買いすぎ? 新NISAで人気の米国株が家計を脅かす《楽待新聞》

4/20 19:00 配信

不動産投資の楽待

ドル/円相場は約34年ぶりのとなる円安・ドル高水準である154円台で高止まりしており、当面は155円を巡る攻防が主眼となりそうである。

現状の円相場について語るべき論点は多いが、根雪のように積み上がり続ける「日本人の円売り」がドル/円相場の堅調を支えている面は否めない。

「日本人の円売り」を後押ししているのは、言うまでもなく今年からスタートした新NISA(少額投資非課税制度)だ。

この制度を利用した投資は年初ほどの過熱感はないものの、依然として非常に大きな存在感を見せている。東京外国為替市場が直面するようになった「新しい円売り圧力」として定期的にチェックすべき論点である。

■買い越し額は年間14兆円ペース

海外証券などへの投資がどのくらい行われているかを把握する上で、非常に分かりやすい統計があるので、紹介したい。

財務省から公表される「対外及び対内証券売買契約等の状況」だ。現在3月分までが公表されている。

同統計における投資家部門別の対外証券投資に目をやると、投資信託委託会社等(以下投信)は3月、+1兆1515億円の買い越しと前月から加速している。

この金額は現行統計開始以来では2番目に大きなものだ。ちなみに1番大きかったのは今年1月、4番目に大きかったのが今年2月だ。いかに歴史的なハイペースが持続しているかが分かるだろう。

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こうした状況を踏まえた今年1~3月期合計の買い越し額は+3兆5166億円で、四半期としてはもちろん過去最大である。

通年統計で見た場合、過去10年平均(2014~23年)が+3兆6111億円、パンデミック直前の過去5年平均(2014~19年)で見ても+3兆4457億円という実績だった。

つまり、今年1~3月期で記録した約+3.5兆円という数字は近年で言えば年間の買い越し額に匹敵する。

もちろん、為替が様々な要因で動くため、これが全てという話にはならないが、「3か月間で1年分の円売り」と考えれば、年初来の円安・ドル高傾向もうなづけるのではないか。

仮に、このペースで投信経由の対外証券投資が続いた場合、年間で約+14兆円程度の買い越しイメージとなる。少なくとも10兆円の大台は堅いと言えるのではないだろうか。

なお、1~3月期合計の買い越し額(+3兆5166億円)を商品別に見ると3兆1633億円が株式・投資ファンド持分で、相変わらず投資意欲の殆どが海外株に傾斜している。

■税金を使って円安を招いている

円安の功罪はさておき、こうしたデータを見る限り、2024年最初の四半期を終えたところで、政府・与党が先導する資産運用立国化への歩みは順当な滑り出しで始まったと表現して良いのだろう。

しかし、この政策の最終的な着地点はどこにあるのか。その点はまだ良く分かっていない。

新NISAを契機として日本の家計部門が海外株式投資に熱を上げる内実は「非課税枠を設定したことによる海外株式の買い」である。意地の悪い言い方をすれば「税金を使って海外株式を買っている」という構図にも読み替えられる。

そこまでして政府が成し遂げようとしている資産運用立国だからこそ、その顛末を国民として真摯に考える筋合いがある。

例えば家計金融資産の3割以上を株式が占め、株高が資産効果を通じて消費・投資意欲を焚きつける米国経済のような姿は1つの着地点になり得る。

日本人は「皆がやっている」という動機で極端な行動に走りやすい。多くの国民が日本経済や円の将来を悲観し、オルカンを筆頭とする海外投資に傾倒すれば、株式・出資金の保有比率はいずれその水準に到達するだろう(既に昨年12月末時点で過去最高タイの12.9%だ)。

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だが、この状況が極まったとしても、日本の家計部門が保有する株式は基本的に海外、特に米国主体ということになってしまう。その上、株式購入と引き換えに通貨価値(円安)を差し出しているような側面もある。

元々、円ひいては日本経済は米国の中央銀行に相当するFRBの金融政策(≒米金利)に影響される側面が大きかった。今後の日本は円安を常態として受け入れた上で、米金利に反応しやすい米国株式の動向によって消費・投資意欲も左右されるという未来が待っているのだろうか。現状を踏まえる限り、否定できない未来である。

■日本人の消費は米国株に依存する時代に?

仮にそのような体質の経済に変わった場合、FRBの金融政策運営は今以上に日本国民の関心事となる。

例えばFRBの利上げ局面では、米金利上昇を受けた米国株下落や日米金利差拡大を受けた円安・ドル高が典型的には想定されやすくなる。(あくまで典型的には、である。現実のシナリオはもっと細分化できるが、敢えて単純化している。後述する利下げ局面の場合も同様。)

この場合、日本の家計部門は「米国株下落に伴う逆資産効果」と「円安によるコストプッシュインフレ」というダブルパンチを被る可能性がある。

逆に、FRBの利下げ局面では米金利低下を受けた米国株上昇や日米金利差縮小を受けた円高・ドル安が典型的には期待されやすくなる。

この場合、日本の家計部門にとっては「米国株上昇に伴う資産効果」と「円高によるコストプッシュインフレの後退」が想定される。こちらは日本経済にとって前向きな展開と言える。

とはいえ、このケース(FRBの利下げ局面)には注意も必要である。

貿易赤字国になった日本では「FRBの利下げが円高を招く」と言っても、その動きは限定的なものにとどまる可能性がある。

事実、過去1年でFRBに対する利下げ期待が何度も高まりながらも円安は大して修正されてこなかった(されても直ぐに戻ってしまった)。

そうなると、FRBの利下げ局面では「米国株上昇に伴う資産効果」を享受する一方、「円安によるコストプッシュインフレ」はある程度残り、資産効果が減殺されるかもしれない。

米株保有比率はまだ低いが、ちょうど今の日本が直面している状況がこれに近いようにも思える。

■円安&米国株下落が日本経済の足かせに

もちろん、これらはただの頭の体操であり、現実をかなり単純化している。

だが、日本の家計金融資産が非常に多くの米国株を抱えるようになった場合、何が起きるのかということについては少しずつ分析を進める価値はある。

FRBの政策運営にかかわらず、株式には上昇局面もあれば、下落局面もある。現在、新NISAの直接的な影響としてその可能性が認められるのは円安くらいであり、米国株上昇への寄与度は良く分かっていない。

だとすれば、FRBの金融政策運営はどうあれ、日本の家計部門が米国株式の購入に傾斜したことで発生した円安は残るとしても、日本の家計部門の行動とは無関係に米国株が下落する状況は十分起こり得る。

そうなった場合もやはり「円安によるコストプッシュインフレ」と「米国株下落に伴う逆資産効果」が併存することで日本経済は足かせを嵌められたような状況に直面してしまう。

元々そうだったという声もありそうだが、日本の実体経済は今まで以上に米国経済とこれに割り当てられるFRBの金融政策に依存してくる可能性がある。

■現預金からリスク資産シフトのインパクト

資産運用立国の歩みはまだ始まったばかりであり、関連統計もまだ十分出揃ってはいない。よって、上述の議論は悲観的な方向へ振れ過ぎている可能性も多分にある。

しかし、非課税枠を設定して購入される資産が国内ではなく海外中心という状況が続くことに関し、「得も言われぬ不安」を抱くのは筆者だけではないはずだ。資産運用立国の着地点については今後明らかになってくる関連統計を踏まえながら、調査・分析を重ねて行こうと思っている。

歴史的に日本の家計部門の金融資産構成は円の現預金が主体だった。よって、その消費・投資行動が内外金融市場の変動に影響される可能性などは考える必要が無かった。

しかし、今後、国内外のリスク資産(典型的には米国株式など)を多く保有するようになれば、FRBを筆頭とする海外中央銀行の動きやこれに付随する資産価格の変動を受けて、日本の家計部門の消費・投資行動に影響が出る展開は避けられない。

日本人の消費行動と内外金融市場が連動する時代に入ったとすれば、エコノミストとしては興味深い分析テーマではある。

唐鎌大輔/楽待新聞編集部

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最終更新:4/20(土) 19:00

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