カワサキ新型「Z7ハイブリッド」 スポーツバイク初ストロングハイブリッド採用と電動化戦略の行方

5/26 9:11 配信

東洋経済オンライン

 カワサキモータース(以下、カワサキ)が、世界初のストロングハイブリッド・システムを搭載したスポーツバイク「Z7ハイブリッド」を発売すること発表した(カワサキモータースジャパンは2024年6月15日としていた「Ninja 7 Hybrid/Z7 Hybrid」発売予定について、5月20日に諸事情により延期すると発表。正式な発売日については決定次第案内するとしている)。

■世界初の試みとなるZ7ハイブリッドとは

 エンジンと走行用モーターという2タイプのパワートレインをマッチングさせ、優れた走行性能と低燃費を両立するのがストロングハイブリッド。トヨタの「プリウス」を筆頭に、4輪車ではおなじみとなったハイブリッド機構だが、2輪車では主要メーカーの量産モーターサイクルに採用例はない(スクーターモデルを除く)。

 カワサキでは、すでに同様の機構を持つ兄弟車として、フルカウルモデルの「ニンジャ7ハイブリッド」を、2023年10月~11月のジャパンモビリティショーで日本初公開。2024年3月には、Z7ハイブリッドと同日の2024年6月15日に国内導入することも発表している。

 一方、カウルレスのネイキッドモデルとなるZ7ハイブリッドは、海外では先行発表されているが、日本では2023年3月~4月の大阪、東京、名古屋のモーターサイクルショーが初のお披露目。カーボンニュートラル実現に向けた新時代のスポーツバイクとして、大きな注目を集めていた。

 ここでは、そんなZ7ハイブリッドについて、「第51回 東京モーターサイクルショー(2024年3月22~24日・東京ビッグサイト)」で現車を実際に取材。兄弟車のニンジャ7ハイブリッドとの違いも含め、主な特徴などを紹介する。

【写真】スポーツバイク初のストロングハイブリッド・システムを採用したカワサキの新型バイク「Z7ハイブリッド」の全貌(60枚以上)

 Z7ハイブリッドは、カワサキが「スーパーネイキッドZ」と呼ぶシリーズのスタイルを踏襲したモデルだ。900ccの「Z900」を筆頭に、650ccの「Z650」、400ccの「Z400」、250ccの「Z250」など、豊富なラインナップを誇るのが同シリーズ。いずれも高い動力性能を持つエンジンと、アグレッシブなスタイルが特徴で、世界的に人気が高い「ストリートファイター」と呼ばれるジャンルに属する。とくにフロントのミニカウルを擁したフロントフェイスが印象的で、さながら野獣のような雰囲気を演出。それでいて、アップライトなポジションを生むバーハンドルなどにより、公道でも乗りやすい特性を持つことも人気の秘密だ。

 会場に展示されたZ7ハイブリッドの外観も、そんなスーパーネイキッドZシリーズのスタイルを身にまとっていることが印象的だった。フロントからリアにかけてのシャープなフォルム、先端が尖ったシートカウルなどがスポーティさを醸し出す。また、高いグリップ位置となるバー形状のハンドルは、市街地から長距離ツーリングまで、幅広いシーンで快適なライディングポジションを提供することを想起させる。しかも燃料タンクから伸びたシュラウドと呼ばれる左右のカウリングには、「Z HEV」のロゴが鎮座。このバイクが新世代のハイブリッドモデルであることを強調する。

■Z7ハイブリッドのサイズについて

 車体サイズは、全長2145mm×全幅805mm×全高1080mm、ホイールベース1535mm。車格的には、中間的排気量となる600ccあたりのミドルクラスのバイクと同等のようだ。

 ちなみに兄弟車となるフルカウルのニンジャ7ハイブリッドは、全長2145mm×全幅750mm×全高1135mm、ホイールベース1535mm。全長とホイールベースは両モデル同じで、全幅はZ7ハイブリッドが55mm広く、全高はニンジャ7ハイブリッドのほうが55mm高い設定だ。

 また、シート高が795mmというのも両モデル共通で、足つき性は比較的いいことが予想できる。さらに車両重量はZ7ハイブリッドが226kg、ニンジャ7ハイブリッドが228kgだから、車体の重さもほぼ同等だ。

 フレームには、Z650などに採用されている、独自のトレリスフレームを採用。スチール製ながら軽量な車体は、軽快なハンドリングなどに貢献する。足まわりは、インナーチューブ径41mmの正立式フロントフォークと、リンク機構を持つニューユニトラック・リアサスペンションを搭載。ブレーキは、フロントが外径300mmのダブルディスク、リアには外径220mmのシングルディスクを装備する。タイヤサイズは、前120/70ZR17、後160/60ZR17で、足まわりの主な装備もZ7ハイブリッドとニンジャ7ハイブリッドはほぼ共通となっている。

■システム最高出力69PSのパワートレイン

 一方、注目のパワートレイン。まず、エンジンには、451cc・水冷4ストローク並列2気筒を採用。これに4輪車のEVなどにも採用される交流同期モーターをコンビネーションする。また、走行用バッテリーは、50.4Vのリチウムイオン式だ。

 エンジンのスペックは、最高出力43kW(58PS)/10500rpm、最大トルク43N・m(4.4kgf・m)/7500rpm。また、水冷式モーターは、最高出力9.0kW(12PS)/2600~4000rpm、最大トルク36N・m(3.7kgf・m)/0~2400rpmを発揮する。そして、これらのマッチングにより、システム最高出力は51kW(69PS)/10500rpm、システム最大トルクは60N・m(6.1kgf・m)/2800rpmを実現している(エンジンやモーターの形式やスペックなども、Z7ハイブリッドとニンジャ7ハイブリッドは同じ)。

 ちなみに、Z7ハイブリッドと同じようなクラスとなるNA(自然吸気)エンジン車のZ650は、649cc・水冷4ストローク並列2気筒を搭載。最高出力50kW(68PS)/8000rpm、最大トルク63N・m(6.4kgf・m)/6700rpmを発揮する。エンジン排気量はZ650のほうが大きいが、パワーなどのスペックはほぼ同等だ。また、燃費性能もZ7ハイブリッドとZ650は同じWMTCモード値23.6㎞/L。ただし、燃料タンク容量は、15LのZ650に対し、Z7ハイブリッドは14Lで、やや小さめのタンクを搭載している。

■走行性能・燃費性能について

 パワートレインのスペックだけを見ると、Z7ハイブリッドは、従来のNAエンジンを搭載したバイクとあまり変わらない印象もある。ただし、走りに関しては、ハイブリッドモデルらしい数々の機能を備える。

 まず、トランスミッションには、電子制御6速AT(オートマチック・トランスミッション)を採用。そのため、このモデルには、左ハンドルにクラッチレバーがないだけでなく、通常は左ステップ付近にあるシフトペダルもない。ただし、左ハンドルには、シフトセレクタも備えており、ライダーが任意にギヤを選択して走ることもできる。ハンドル外側にシフトアップ用の「+」スイッチ、内側にはシフトダウン用の「-」スイッチを備える。いわば、4輪AT車のパドルシフト的な乗り方もできるのだ。なお、運転は、MT車も乗ることのできる大型二輪免許だけでなく、AT限定大型二輪免許でも可能だ。

 また、走行状況などに応じて、走行モードを選ぶことも可能。以下の3タイプを設定する。

・エンジンとモーターの能力をフルに発揮する「スポーツ-ハイブリッド(SPORT-HYBRID)」
・モーターで発進し、必要に応じてエンジンが協調する「エコ-ハイブリッド(ECO-HYBRID)」
・静かでクリーンな低速用の「EV」
 とくにモーターだけで走るEVモードがあるのは、ハイブリッド車ならではといえるだろう。

 さらに、スポーツ-ハイブリッドで走行する際には、瞬時の加速を要するときなどに5秒間使用できる「e-ブースト(e-boost)」というモードも使える。これは、600ccクラスの車体ながら、200PSの1000ccスーパースポーツ並みの加速性能を発揮するというもの。例えば、高速道路などで、本線への合流車線を走る際や、前車を追い越す時など、鋭い加速が必要な場合に便利な機能といえるだろう。

 ほかにも、駐輪場などで、車体を押し歩きする際などに便利な「ウォークモード」も設定。200kgを超える比較的重い車体を、取りまわしするのが苦手なライダーなどにはありがたい機能だ。しかも、後進機能付きだから、せまい場所へ駐輪するときなど、車体を押しながら前進やバックを繰り返すシーンで役立ちそうだ。

■カワサキの電動化戦略

 気になる価格だが、Z7ハイブリッドは、税込み184万8000円(ニンジャ7ハイブリッドも同価格)。車格が近い600ccクラスのZ650が101万2000円だから、80万円以上高い設定だ。この価格差で、先述したようなハイブリッド車ならではの走行性能に、ユーザーが価値を見いだすかは非常に興味深いところだ。筆者的には、とくにe-ブーストは気になるところ。5秒間の限定とはいえ、1000ccのハイパワーモデルと同等の加速感を体感できるというのは面白い。

 また、例えば、早朝や深夜に住宅街を走るようなシーンでは、静かに走ることのできるEVモードを使えば、気を使わずに済むといった利点もあるだろう。ただし、それにプラス80万円を出すのかは微妙ではないだろうか。もっとも、4輪車でもそうだったように、バイクでも、今後ハイブリッド車の販売台数が伸びてくれば、価格的にも抑えられる可能性はあるだろうが。

 ちなみにカワサキでは、こうしたハイブリッドモデルだけでなく、100%電気とモーターで走る原付二種バイク相当のBEVモデル「ニンジャ e-1」と「Z e-1」も国内導入。2024年1月13日より発売しており、フルカウルのニンジャ e-1が106万7000円、ネイキッドのZ e-1が101万2000円となっている。

 BEVの国産バイクでは、現在、商用向けスクーターが多いなか、スポーツモデルを出したのは、カワサキらしい点だ。スクーターはもちろん、50ccなどの小排気量モデルもラインナップに持たない、同社の独自路線を象徴している。ただし、原付二種のバイクで、100万円を超えるのは、ちょっと割高な印象だ。もちろん、これらはCEV補助金(令和5年度補正の場合で12万円)などを使えば、安く購入することが可能。

 だが、問題は1回の充電あたりの航続距離。ニンジャ e-1で55km、Z e-1で53kmしかなく、主に通勤・通学や近所の買い物など、日常の近距離移動にしか使えない。とくに車体が小さな2輪車の場合、大型のバッテリーが積載できないなどの問題で、まだまだBEVモデルには課題も多いのだ。

■2輪市場におけるハイブリッド車やBEVの行方

 そんななか、趣味として乗るユーザーが多いスポーツモデルに、ハイブリッド車やBEVをリリースしたカワサキの電動化戦略に対し、市場がどのような反応を示すのかは気になるところだ。とくにBEVと違い、航続距離をあまり気にしないで済むハイブリッドモデルは、長距離ツーリングなどにも使えることで、価格面などを除けば、ライダーには受け入れやすいだろう。

 いずれにしろ、カーボンニュートラルの実現を目指すうえで、こうしたハイブリッド車が、2輪車市場で次世代のスタンダードとなるのかが注目だ。

 【追記:2024年5月27日8時34分】初出時の発売日を修正し、延期についての情報を加えました。

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最終更新:5/27(月) 8:38

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