「基本的にテレビ出ない」令和ロマンの発言の意図 コロナ禍経て育まれた、若手芸人の新しい基軸

4/19 10:32 配信

東洋経済オンライン

 「漫才熱はないですよ。俺はM-1熱があるだけで。(中略)漫才愛があると、理想とM-1とのズレに苦しんだりすることもあるかもしれない。M-1に寄せ過ぎたくない、とか。でも僕らはスタートからM-1しかないから。迷う余地がないんです」

 2024年4月7日に公開されたNumberWebのインタビュー記事「『もう1回M-1出ます!』王者・令和ロマンが語る、なぜ“異例の再出場”宣言をしたか? 『芸人を食わせてくれるのはM-1だけですよ』」の中で、令和ロマンの髙比良くるまはこう語った。

 昨年の「M-1グランプリ」で優勝したくるまと松井ケムリは、ともに慶応義塾大学のお笑いサークル「お笑い道場O-keis」出身だ。

 「大学芸会」、「NOROSHI」といった大学お笑いの大会を沸かせ、「大学生M-1グランプリ2015」で準優勝。満を持して2017年にNSC東京校に入学すると、翌年の「NSC大ライブTOKYO 2018」で首席の座を射止めた。

■「漫才熱はない」の言葉の裏にある背景

 まさに“お笑いエリート”とも言うべき実績だが、もう1つ見えてくるのは「すでに2010年代中盤に大学生を対象としたお笑いコンテストが充実していた」という背景だ。

 お笑い養成所でもなく、プロとしての下積みでもなく、サークル仲間や他大学の知人と切磋琢磨しながら大会に向けて腕を磨く環境があった。

 YouTube動画で多くのネタを見られた時代でもあり、東京にはプロ・アマを問わないライブの受け皿もある。

 大きな会場でウケる快感、また大会で結果を残せば知名度が上がることも大学時代に知ったことだろう。そして、そんな彼らが目指す先にM-1はあったはずだ。

 関西の漫才師のように師匠クラスの芸人との交流が少なかった、東京の若手ならではの率直な思いが「漫才熱はない」という言葉につながったと考えられる。

 くるまは、前述のインタビューで「基本的にテレビには出ない」とも語っている。

 吉本興業とテレビ局(ABCテレビ)が主催する「M-1」優勝後、関西での活動を希望するコンビはいたが、表立って出演番組を選んでいると発言した芸人はこれまで記憶にない。

 必然的に一部のM-1ファンや先輩芸人からけげんな顔を向けられているが、その根底にはどんな思惑があるのだろうか。

 まず表層的な理由として挙げられるのが、「テレビはコスパが悪い」と言われる点だ。

 松竹芸能から独立し、「ザ・森東」を立ち上げた、さらば青春の光・森田哲矢はさまざまなメディアで「(MCクラスでない限り)テレビはギャラが安い」「稼ぐというより、宣伝の役割が大きい」と語っている。この現状を知れば、テレビの世界でトップを目指そうと考える若手が減少するのは自然なことだ。

■テレビよりも自由度が高く、稼げるところへ

 コロナ禍によってYouTube動画やライブ配信が盛況し、「テレビよりも自由度が高く、より稼げる」と活動方針をシフトした若手は数多い。

 また有観客でのライブが一定期間中止となり、劇場を中心とする活動にリスクが生じることも露呈した。テレビ、SNS、インターネットラジオ、劇場など、あらゆるプラットフォームでファンとつながれる場所を確保しておくことの重要性を痛感した世代でもあるだろう。

 逆に言えば、そんな状況こそ現在の若手を象徴している。だからこそ、くるまは時流を感じさせないテレビ番組の出演を控え、新たな流れを生み出そうと模索しているのではないか。

 2024年3月16日に公開されたYouTubeチャンネル『NON STYLE石田明のよい~んチャンネル』の動画「【野望】令和ロマンのこれからを熱く語る! /髙比良くるま(令和ロマン)、石田明(NON STYLE)【髙比良くるま#4】」の中で、くるまはこう語っている。

 「YouTube的な人たちインフルエンサーとか、(筆者注:上の世代が)敬遠してる人たちに対して同じ感性で取り組んで、お笑い的な文脈でも昇華するし、インフルエンサー的な文脈でも自分たちを昇華させるっていうことが俺たちの仕事だと思ってるし。そのうえでここ1個文脈を作って何かに持ってったりとか。テレビに持ってってもいいと思うんですよ、何かここが固まったら」

 こうした若手が出てきた裏には、世代だけでなく東西の土壌の違いも関係しているように感じてならない。

 まず関西には、つい最近までお笑いサークルが横のつながりを持ち、交流を深める大学お笑いの土壌がなかった。芸能事務所のオーディションを受けるかお笑い養成所に入る、主流はこの2つだ。

 例えば大阪吉本の若手は、まず「よしもと漫才劇場」のメンバー入りを目指して切磋琢磨する。ようやく所属メンバーとなり、プロとして認められてからも壁は少なくない。ピン芸人やコント師は、関西ではウケにくいと言われる。とくに地方からきた観光客は、漫才を観ようと劇場へと足を運ぶからだ。

 筆者が大阪吉本で活動する(あるいは「していた」)複数の芸人にインタビューしたところ、コントやピン芸であるとわかった時点で「ガッカリしたような客の空気」を感じると語っていた。そんな状況もあり、吉本新喜劇に加入する、もしくは活動拠点を東京に移すことが恒例になったという。

■関西の若手芸人が続々上京

 注目すべきは、昨今若手の漫才師たちも続々と上京し始めたことだ。関西では上沼恵美子、トミーズ、ハイヒールといった大御所の番組が多く、そのレギュラー枠に入ることも容易ではない。

 例えば2024年、『せやねん!』(MBS)のレギュラー出演者がさや香からドーナツ・ピーナツへと引き継がれたように、東京進出をきっかけとして後輩にチャンスが回ってくるのが定石だ。

 一方で、東京には『ネタパレ』、『千鳥のクセスゴ!』(ともにフジテレビ系)、『チャンスの時間』(AbemaTV)など、若手を起用する人気番組が多い。

 加えて、多くの芸能事務所、MCN(マルチチャンネルネットワーク。複数のインフルエンサーと提携し、総合的にサポートする組織)が集っていることからボーダーレスな関係性を築きやすくもある。お笑いライブ制作会社も多く、都内では日々さまざまな企画ライブが行われている。

 昨年、事務所の異なる「ヤーレンズ×令和ロマン」のツーマンライブがコンスタントに開催されたのも東京ならではの動きだろう。若手漫才師の東京進出が増えたのは、シンプルに活躍の場が広がるからだと考えられる。

 「勝手に次の年号の世代『第7世代』みたいなのをつけて、YouTuberとか、ハナコもそうですけど、僕ら20代だけで固まってもええんちゃうかな」

 かつてラジオ番組『霜降り明星のだましうち!』(ABCラジオ)の中で、霜降り明星・せいやはこう語っていた。ほぼ同世代のくるまの発言と似たニュアンスを感じる。メディアを通じて先輩芸人から反発を受ける企画も近いものがあった。

 4月5日に放送された『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(AbemaTV)の企画「#220:【鬼越トマホーク】立ち上がれ! 高卒芸人!! 大学お笑い芸人が勢力を拡大させている問題【魂の叫び】」はその典型だろう。

 鬼越トマホーク・坂井良多が大学お笑い出身者のストレッチーズに向かって「お笑いサークルって何?」とすごみを利かせ、令和ロマンが出演番組を選んでいることに対して「若手芸人が何となくやってきた仕事をブランディングと称し断る。これが大学お笑いの今のやり口」と言い放つなど、「高卒vs大卒」の対立構造で番組を沸かせた。

■大学お笑いと高卒お笑いの融和

 これは、2020年2月に放送された『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で“中堅に差し掛かった芸人たちが第7世代の波に乗れず苦悩している”というエピソードを語る企画「僕らビミョーな6.5世代」とよく似た構図であることに気付く。

 ただ、大きく違ったのは、4月12日に放送された『しくじり先生』の【完結編】で鬼越トマホーク・坂井が「俺は慶応大学入っておばあちゃんを喜ばせたかった」と前言撤回し、今後は「大学お笑いと高卒お笑いの融和」が大事だと着地させていた点だ。

 実を言うと、「第7世代」ブームの後期に筆者は6.5世代にあたる芸人から「正直、仕事が被らないから文句はない」「むしろ、仕事が増えてありがたい」と聞いたことがある。

 もちろん、本気で下の世代に不満を持つ芸人もいただろうが、かなり少ない印象だ。あくまでも対立構造は、バラエティーを盛り上げるための演出だったのだろう。それから数年後、近い企画でリアルな方向に舵を切っていたことが新鮮だった。

 テレビは、良くも悪くも旬な出来事をまる飲みする。結果的に霜降り明星は、幅広い世代の芸人、別ジャンルのアイドルやミュージシャンなどとも共演し、YouTuberとしても人気を獲得した。

 令和ロマン・くるまはもう少し絞った範囲を想定しているようだが、それが「第7世代」のように半熟なままバラエティーで消費されることも考えられるし、キャッチーなフレーズがない分、イメージに近い形で実を結び新たな文脈を生む可能性もある。

■M-1王者が無理して体調崩す場合も

 他方、例年のM-1王者が無理を押して仕事に臨み、体調を崩したという話をたびたび耳にしたものだ。働き方改革が進む中、芸人とはいえそんなスタンスは今の時代に合わない気もする。

 その意味でも令和ロマンが新たな機軸を作り、次世代のトップランナーとなるのか。今後の彼らの動向にも注目していきたい。

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最終更新:4/19(金) 10:32

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