自民党議員CAにカスハラ?反論ブログが致命的な理由 相手の立場に立つべき時に意固地に映らない技

3/26 7:02 配信

東洋経済オンライン

行動のマズさもさることながら、現代社会では事後対応のマズさが致命的になることもある。立ち回りによっては松本人志氏は今ごろテレビに復帰していたかもしれないし、「集団自決」発言で非難された成田悠輔氏も、もう少し要職に就けていたかもしれない。近頃、また事後対応にミスをした人物が登場した。自民党所属の参院議員、長谷川岳氏だ。
CAに対してカスタマーハラスメントをはたらいたとされる長谷川氏は、それに対して自身のブログで反論。しかし、この反論が結果として人物の非を決定づける印象を与えてしまい、長谷川氏をめぐっては3月24日現在、非難の声が高まるようになっている。

長谷川氏のブログは、何がマズかったのか。大学の人気講師として、YouTuberとして、さらには起業家としてプレゼンで道を切り拓き、その知見を『一生使えるプレゼンの教科書』として発表した中川功一氏が、その問題点を浮き彫りにする。

■問題のブログとその経緯

 ことの発端は、歌手・吉幾三氏による告発である。さる国会議員と飛行機に乗り合わせたが、横柄な態度でCAに高圧的なクレームをつけていた、もう少し議員として節度ある行動をしてほしい。そのような内容を、あくまで相手の名前を伏せて、YouTubeに投稿した。

 だが、その後も氏の態度は改まらなかったらしい。CAから被害を訴える連絡が吉幾三氏に入ったことで、氏の姿勢を正していただきたいとして、実名を出して動画で糾弾。その動画の中では、長谷川氏に対して航空会社の中で対策マニュアルすら作られていたということが明らかにされた。

 動画が出ると、長谷川氏には批判が殺到。これに対し、長谷川氏はブログで反論を行う。タイトルと、最初の2段落ほどを引用しよう。私の目から見れば、この最初の部分だけで取り返しのつかないレベルで豪快に失敗しているのだが、皆さんは何がいけないのか、わかるだろうか。恐らくは皆さんも直感的に「何か、良くないな」とは感じるだろうが、その違和感の原因どこにあるのだろうか。

 (以下、長谷川氏のブログより引用。取得:2024年3月23日)

タイトル
“本日は航空政策および飛行機の遅延についての考え方を述べたいと思います。”
本文
“本日は航空政策および飛行機の遅延についての考え方を述べたいと思います。
私は、航空会社の対応について、機内で発言をする際、三つの原則に従います。
一つ目は「正確な情報を伝えているか」、二つ目は「不都合な情報をしっかりと開示しているか」、三つ目は、「正しい見立てを立てた情報発信となっているか」の三点です。“

■問題は「読み手目線」ではないことである

 このブログ記事が出たあと、SNS等で流れた批判は「ブログをみて、CAを恫喝したという話も納得した」「上から目線」「自分の非を全く認めない」というものだった。恐らく皆さんも、冒頭部分の数行だけを見たに過ぎないのに、同じような印象を持ったのではないだろうか。この冒頭部分には、一切乱暴な言葉遣いもなければ、他人を批判するような言葉もない。だのに、私たちははっきりこの文章に嫌悪感を覚える。まことに人間の脳はよく出来ているというべきか、わずかな文章でその人柄を想起させる長谷川氏の力量(? )をほめるべきか。

 さて、皆さんがこの文章に覚える「いやな感じ」の原因を、解説してみよう。端的に言えばそれは「読み手への敬意が全くないこと」である。ただ、自説を語るのみ。相手が何を聞きたいのか、どういう言葉なら相手に聞いてもらえるのかを、恐ろしいほど感じさせない導入なのである。こちらを読み手として認識しているのかすら不安になるほど、そこには言葉を伝える「相手」がいない。自分しかいない。

 マーケティングの理論の中では、このコミュニケーション失敗の原因と対策を「企業が提案するのは4Pではなく4C」と表現する。マーケティングの4Pとは、企業が顧客に提案できるものは究極的にこの4つのP「Product:製品・サービス、Price:価格、Place:販売場所、Promotion:情報提供」だとする、非常によく知られた考え方である。

 この考え方自体は正しいのだが、大切なのは、それが顧客にどう見えているかである。企業はProductを提案しているつもりだが、顧客が見ているのはCustomer Value:自分にとっての価値である。企業はPriceを提案しているつもりだが、顧客はCost:負担で見ている。企業はPlaceを決めているつもりだが、顧客はそれをConvenience:利便性で評価している。企業はPromotion:情報提供をしているつもりだが、顧客はそれを企業とのCommunication:対話だとみる。

 「3年間、研究開発を重ねたドッグフード」と言ったところで、顧客には響かない。だが「お宅のワンちゃんの健康寿命を延ばすドッグフード」と言われれば、それが欲しかったものだと気がつくことができるだろう。これが4Pと4Cの考え方の端的な違いである。企業目線の事情など、顧客にとっては知ったことではない。顧客目線で語ってはじめて、それは自分の愛犬のために、企業が努力した産物なのだと気がつくことができる。

■長谷川氏の反論に足りなかったもの

 長谷川氏の反論には、4Cの観点が全く抜け落ちている。自分の言いたいこと(Product)を、相手に読んでもらう負担など考慮せず(Price)、また相手の利便性も気にせずに自分のブログで(Place)、対話など考慮せず一方的に話す(Promotion)。皆さんは無意識のうちに冒頭のわずか数行でそれを感じ取っていたから、こちらの意図がないがしろにされているように感じて、不快感を覚えたのである。

 この局面で本来あるべきだった対応は、相手の期待することを(Customer Value)、分かりやすい表現で(Cost)、現代的な利便性の高い媒体を通じて(Convenience)、対話の中で説明すること(Communication)だったのではないか。要するに記者会見で誠実な対応をしていれば――たとえば自分の非を認めて行動をただすことを約束したならば――、それで済んだ話だったはずなのだ。

 本件がどれほど氏の政治活動にダメージを与えることになるかは定かではないが、読者の皆さんは事後対応のケーススタディとして、相手の立場に立つべき局面で自分が意固地な4Pモードに入ってしまわないよう、学びに変えてもらいたい。

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最終更新:3/26(火) 7:02

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