「異物はクマネズミの子ども(約60mm)であることが判明」異物混入のPasco「超熟」、誠実な対応ゆえの問題点とは?

5/24 16:32 配信

東洋経済オンライン

 企業の不祥事対応では、迅速かつ誠実な対応が求められる。情報提供が時機を逸する、もしくは「消費者を軽視している」と思わせてしまうと、一気に企業イメージの低下につながる可能性があるからだ。そして、そうして失った信頼は、なかなか回復できないものでもある。

 しかし時には、誠実な対応が、むしろ逆効果となり、消費者に過度な不安を与えてしまう場合もある。昨今話題になっている、敷島製パンの「超熟」異物混入事案は、そうしたケースと思われる。

 筆者は10年以上にわたり、ネットメディア編集者として、企業が公式サイト上で発表するプレスリリースを眺めてきた。そうした経験からしても、ここまで真面目さが裏目に出てしまうことは珍しいと感じる。何がネガティブイメージの要因となったかを考えてみよう。

■生産したパンに異物が混入

 「Pasco(パスコ)」のブランド名で知られる敷島製パン(名古屋市)は2024年5月7日、パスコ東京多摩工場(東京都昭島市)で生産した「超熟山型5枚スライス」に、「異物(小動物らしきものの一部)」が混入していたと発表した。

 異物が混入していた商品は回収完了しているものの、同じラインで製造された商品も回収するうえ、原因究明と対策強化のために、当該の製造ラインを当面休止すると発表。なお、その時点で健康被害等の報告はないとした。

【画像】敷島製パンによる謝罪&経緯報告のリリースと、「クマネズミ」のイメージ画像を見る(4枚)

 回収対象となったのは、約10万4000個。開封や喫食済みでも問題なく、ウェブ申し込みと着払いにより、商品と包装紙(もしくは包装紙のみ)を受け付け、商品代金の代わりに、後日クオカードを送付するという。

 発表を受けて報道各社が伝え、異物の詳細についても、翌8日には「クマネズミと判明した」と報じられた。そして2週間後の5月21日、敷島製パンは「お詫びと経過のご報告」と題して、7日の初報以降の経緯を説明した。

 それによると、8日に「有害生物防除の専門事業者による鑑定の結果、異物はクマネズミの子ども(約60mm)であることが判明」した。なお、7日時点で「4月末時点の定期点検ではなかった新たな巣穴が工場外部で確認」されていたという。

 また4月末にかけての1年間、専門事業者による定期検査をした結果として、「捕獲・活動の痕跡が見られなかったことから、工場内部で長期的に生息していた可能性は低く、工場外部にできた巣穴を拠点に侵入し、焼成前の生地に混入したものと推定されますが、詳細については継続して調査中です」などと追加で報告した。

 なお自主回収対象に該当するサンプル品の細菌検査をしたところ、「いずれも一般生菌数は弊社基準値内であり、食中毒の原因となるような菌(大腸菌群・大腸菌・黄色ブドウ球菌・サルモネラ属菌)は未検出」だったとし、混入が申し出られた商品についても同様だったという。

■続報がより嫌悪感を招いた

 今回の混入事案をめぐっては、初報段階からSNS上でも話題になった。とくに衛生面に対する指摘が多く、「どんな小動物が入ったのか」などと心配の声が多数上がっていた。しかし続報が出てから、より「キツいな」といった反応は増している。

 続報ではモニタリング強化や、超音波発信機の設置など、具体的な再発防止策も挙げられている。本来ならば、消費者が安心するはずのアナウンスなのだが、なぜか今回は、むしろ嫌悪感を招いているように見える。その理由を考えてみると、2つの可能性が見えてきた。

 まずは「薄れかけていた記憶を想起させてしまった」ことだ。食品への生物混入は、それだけでインパクトが大きい。しかも、食べる機会が多い、人気の食パンでの事案とあって、「もしかして自分も買っていたかも」と気になる消費者は多いはずだ。

 不祥事に限らず、あらゆる話題は、日を追うごとに薄れる。しかし、初報から2週間という「忘れはじめたころ」に続報が伝えられたことで、最初の印象が、ふたたび色濃く浮かんできたのではないか。まだ初報の記憶があざやかなうちに、経緯と再発防止策を発表していれば、そのぶんネガティブイメージからの回復も早くなるのではと思える。

 もうひとつの可能性は、「詳細な描写により、より具体的にイメージしやすくなった」ことだ。たしかに初報の「小動物らしきものの一部」と、続報の「クマネズミの子ども(約60mm)」では、より詳細に伝えられているだけに、後者のほうがグロテスクに感じられる。

■十分すぎる対応

 とはいえ、ここまで「続報が抱える問題点」について書いてきたものの、企業広報の「炎上」対応を幾多と見てきた筆者からすれば、大手企業の異物混入対応としては、十分すぎるのではないかと感じる。一時的にはいい印象を残さなくても、長期的に見ればブランドイメージの維持・強化につなげられるだろうと考えるのだ。

 不祥事対応をめぐっては、経緯説明も再発防止策も不十分なうえ、取材対応にも応じず、はたから見れば「うやむやにしたいのでは」と感じさせる企業も珍しくない。しかし今や、それで逃げ切れる時代ではない。SNS上には「誠実に向き合わなかった事実」が残り、ことあるごとに再燃される。

 広報対応が不十分だと、その背景にある企業体質に、根本的な問題があると見なされる。ひとたび「スピード感がない」とか、「不都合な事実は隠す」といった印象を残してしまえば、それだけ尾を引いてしまうものだ。

 その点、敷島製パンの発表には、誠意が感じられる。そもそも、食品メーカーにとって、異物混入による不祥事は、命取りになりかねない。とくに今回のように「生物混入」となれば、より消費者の忌避感は増す。

 かつて、とあるカップ麺にゴキブリの混入事案が発生し、その後の広報対応をめぐり「大炎上」が起きた。当該企業は販売休止後、製造ラインを一新して衛生面を確保したうえ、ブランディング面でも「チャレンジングな期間限定商品」を立て続けに出すことで、これまでになかった話題性を集めているが、騒動から約10年を経てもなお、完全にネガティブイメージを払拭するまでには至っていない。

 誠実すぎたゆえに、逆効果になりかねない今回の事案だが、ではどうすれば回避できたのだろう。例えば、「クマネズミの子ども」ではなく「げっ歯類の一種」といった表現であれば、まだ想像をかき立てずに済んだのではないか。

 今回、SNS上では「クマネズミを画像検索した」との反応も見られた。調べやすくなったからこそ、より嫌悪感が増した消費者も少なくないだろう。先ほどの「記憶の想起」と通底する話だが、発表文や各社報道によると、異物の正体は5月8日時点でわかっていたのだから、その時点で伝えていれば、リカバリーも早かったと思われる。

■「60ミリ」より「6センチ」表記のほうが良かった? 

 また「60ミリ」は「6センチ」に書き換えるだけでも、ちょっと小さめな印象を覚えないだろうか。よく冗談話で引き合いに出されるが、栄養ドリンクに含まれる「1000ミリグラム」の栄養素は、わずか「1グラム」にすぎないが、大量に配合されているように感じてしまう。その反対のパターンだ。

 これまで見てきたように、企業が不祥事対応する際には、そのタイミングと表現も、しっかり見極めたうえで対応する必要がある。誠実であるに越したことはないが、「受け手がどう考えるか」と、一瞬立ち止まって思いをめぐらせることも重要なのだろう。

 時には「社内や業界内、関係官庁向けの発表文」と「一般消費者向けの発表文」を出し分けるのも効果的かもしれない。今後に向けて、もっとも大切なのは、愛用している消費者に「食べても安心だ」と感じさせること。その観点から考えると、過度な不安を招いた消費者に対しては、より気持ちを解きほぐすような追加対応が必要なのかもしれない。

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最終更新:5/24(金) 16:32

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