あの母子家庭は救われたのか、家賃保証会社元社員が見た住宅扶助の負の面《楽待新聞》

5/14 11:00 配信

不動産投資の楽待

私は家賃保証会社の元・管理(回収)担当者。十数年働いて今年(2024年)、辞めた。

2022年時点で、全国には247社の家賃債務保証業者(以後、家賃保証会社と書く。理由は「家賃債務保証業者」なんて言葉を使っている人を知らないから)があったそうだ。

本当にそんなにたくさんあるのか知らないが、2023年4月26日に国土交通大臣がそう発言していたから、そうなのだろう。

以前にも書いたが、契約者が孤独死した、逮捕された、債務整理が始まった……。そんな時、家賃保証会社の社員が「何をどこまで対応するか」は、各社バラバラだ。すべての家賃保証会社のことなど、私は知らない。それを語れる人間も知らない。

意外なことに、バラバラなのは家賃保証会社だけではない。生活保護を担当する役所の対応もバラバラなのだ。今回はそういうお話。

強調しておくが、私は生活保護制度には全く反対してない。特にシングルマザーに関しては根本的に不足していると考えている。

■家賃を払えない生活保護受給者

すごく大雑把に言えば、生活保護費は生活扶助(生活費)と住宅扶助(家賃)に分けられる。

住宅扶助が支給されている生活保護受給者であれば本来、家賃の延滞というのは発生しないはずだ(家賃の支払日と保護費支給日にズレがあるので数日間は延滞するだろうが)。

しかし、生活保護受給者の家賃滞納は非常に多い。

理由は「カネを落とした」とか「生活費や親族の医療費に使った」「滞納している光熱費を支払った」「借金の返済に使った」「知人に貸した」などさまざまだ。

これら全てが嘘とは言わないが、全てが本当でもないだろう。

最低限の生活をするために支給されているカネを「知人に貸した」は噴飯モノだが実際のところ、家賃滞納の理由として「カネを落とした」は非常に多い。

支給日に福祉事務所の周辺を散歩すれば一財産築けるのではないか――。それほどに、彼らはカネを落とす。

ドラクエのモンスターでも、倒してやっとゴールドをドロップする。延滞客は勇者に遭遇したわけでもないのにカネばっかり落としているのだから、本当に不思議である。

生活保護費の支給には振込と手渡しがある。最初は手渡しで以後は振込になる場合が多いとは思うが、ずっと手渡しの人もいる。なぜか?

「1カ月に1度くらい顔を見ておかないと」……連絡が取りづらかったりお金を目的外に使用しそうだったり、そういう相手には手渡し支給にしていると、ある職員は言っていた。

私も、生活保護費が振込支給されていて、かつ家賃を延滞し、連絡も取れない──そんな入居者には、福祉事務所の職員に「手渡し支給」に変えてもらって保護費支給日に役所で待つ、なんてこともしていた。

もっとも2020年以降は、担当する延滞客の数が多くなりすぎてそういうこともあまりやってられなくなった。延滞客が増えたと言うことは、家賃保証会社が世間に認知され、利用者が増えた結果ではあるのだろう。

■「協力的」な職員と、そうでない職員

ところで、家賃保証会社の管理(回収)担当者にとって、生活保護担当部署──福祉事務所(名称は地域によって違いがある)の職員は概ね3パターンに分類される。

・非常に協力的(2割)
・話はしてくれるがそれだけ(5割)
・何も話してくれない(3割)

まず、福祉事務所によって、家賃保証会社への対応は極端に異なる。入居者が生活保護を受給しているかどうかは、契約時に書面や通知等のコピーを取得し確認している。でなければ審査できない。

場合によっては、契約書の緊急連絡先欄に福祉事務所や生活保護受給をサポートしたNPO法人の名前が書いてあるものもある。

ところが、いざ延滞が発生して福祉事務所に問い合わせると、受給の有無すら回答を拒否される場合も多い。

「延滞客と連絡が取れないから、家賃保証会社に電話するように本人に伝えてくれ」と職員に言っても「受給者かどうかも回答できません」といった風に。入居後に生活保護受給者となった場合ももちろん同じだ。

とはいえ、これも職員によって、それも性別や年齢でかなり異なる。最も協力的なのは若い女性職員だ。

ここでいう「協力的」というのは、「払わなければならないものは払わなければならないよね」という現実的なスタンスであることだ。

住宅扶助を受給しているのに家賃を滞納している人間への指導を積極的に行ってくれたり、管理(回収)担当者も交えた面談などの場をセッティングしてくれたり──これを「協力的」と私は表現している。

このタイプは前述したように女性、しかも若い方に多い。加えるなら美人になればなるほど「払わなければならないものは払わなければならない」という思考をしている。してくださる。なぜかわからないが、私の経験上、そうなのだ。

この「美人」というのは当然に私の主観だ。しかし本当に、ナイトプールにいそうな美人だったりするのである。もっとも、私はナイトプールに行ったことがない。実在するのかも知らないのだが。

逆に最も非協力的なのは──住宅扶助を他のことに使っていても仕方ない、お前ら(さらに言えば、家主にすら)には何にも言わねえ、答えねえ……いわゆる「左巻き」とでも表現すればいいのだろうか。中年男性に多い。

彼らは、言い換えるなら「事なかれ主義」なのだ。受給者が家賃を延滞していようが知らないふりして、ただ支給だけを続ければ、仕事としては一番楽だろう。私も福祉事務所の職員だったらそうするかもしれない。楽そうだから。

彼らは家賃保証会社の管理(回収)担当者にとっては最も「役立たず」である。強調しておくが中年男性に多いというのは、私の経験に過ぎない。裏付けるデータは存在しない。だけれども、(私も中年男性だが)たぶん、間違っていない。

■家賃回収には「使いづらい」代理納付制度

「代理納付」という制度が存在する。ご存じの方も多いだろうが誤解されている方もたまにいるので、少し書かせていただきたい。

代理納付は、福祉事務所から直接に家主や不動産会社、場合によっては家賃保証会社に家賃を振り込む制度だ。

何が誤解かといえば、この代理納付というのは、生活保護受給者の同意、もしくは「代理納付にしてください」という本人の希望がなければ、まずしてくれないということだ。その時点で家賃の延滞があったとしても、である。

加えて、代理納付の対象が「家賃」だけなのか、「家賃+共益費」なのかも、福祉事務所次第である。

ここで「?」と思う方がいるかもしれない。

厚生労働省の代理納付に関する通知には、「家賃も共益費も」代理納付が可能であることが明記されている。そして、代理納付の実施に受給者の同意は必要ないことも、その通知から読み取れる。

だが、実際には全くそうはなっていない。少なくとも家賃保証会社の管理(回収)担当者にとっては。なぜそうなっていないのか、理由は知らない。

ちなみに6年ほど前に、ある福祉事務所の職員から「共益費の代理納付はうちのシステム的に無理なんです。システムに共益費を入力する所がないんです」と言われたことがある。

本当かよ? と思ったが──あまり関わったことのない田舎の福祉事務所だったので、そういうこともあるのかな、とだけ思った。

話を戻そう。

住宅扶助の対象は、上限は当然あるが「家賃」である。共益費や管理費は含まれない。

そして代理納付が対応するのは、建前上はさておき「家賃」だけであるケースが多い。共益費や管理費は絶対ではない。

決済手数料や水光熱費(毎月固定額で家賃と一緒に支払う契約であっても)は、代理納付ではまず対応してくれない。

話が再び横に逸れるが、例えば家賃5万円+共益費2000円の物件があったとして、生活保護受給者が契約する場合は、その構成を変更する場合がある。家賃5万2000円+共益費0円という風に。

そうすれば住宅扶助5万2000円が支給され、代理納付の対象となるからだ(保護受給者の負担も減らせる)。

代理納付という全国一律のはずのシステムですら、個々の福祉事務所によって対応が違う。

生活保護受給者が家賃を滞納した場合、代理納付の利用は正常なサイクルに戻すための有効なツールではある。ただ、家賃保証会社の管理(回収)担当者にとっては、かなり使いづらいものでもあるのだ。

延滞客に口頭で「福祉事務所の担当者に、代理納付したいと言ってくれ」と依頼したとして、それが実行される割合は一体どれほどだろうか。延滞客の部屋に訪問し、福祉事務所に同行する、という方法もなくはないが、なかなかそんな時間は取れない。

代理納付について、契約者のサインが必要な場合もある。福祉事務所から書面をもらって延滞客に送ったはいいが、その後音沙汰無し――ということにもなりがちである。

そして、家賃保証会社の管理(回収)担当者にとって代理納付が使いづらいもう1つの大きな理由が、担当者は数字、ノルマを持っているという点である。

代理納付はすぐに実行されるわけではないし、実行されたとしても過去の延滞分を生活保護費から「天引き」してくれるわけではない。つまり、延滞状態を解消させるには、延滞客から追加で支払ってもらわねばならない。

面倒な延滞客だと、代理納付の手続きをした時点で「あとは役所に言ってくれ」などと言い出す。役所はアンタの秘書じゃないんだ何様なんだよ、と言いたい。

まあ、あまりはっきりとは書きづらいが「だったらもう少し延滞してもらって、退去の方向に話を進めた方が良いかも」と考えてしまうこともあるくらいには、面倒だったりするのだ。

単月ならともかく、半年や1年のスパンで見た場合、退去してもらった方が管理(回収)担当者の数字には益することも多い。

以前に楽待の動画でも話したが、管理(回収)担当者は数字が悪いと辛く悲しい目に合うのである。うつ病になったり夜泣きしたりするのである。

いったい、福祉事務所というのは誰のために仕事をしているのだろう? と思うこともある。

家賃保証会社の管理(回収)担当者風情が偉そうに……と言われれば全くその通り。だが、そう思うことがそれなりの頻度であったのだ。

■会話を拒絶する福祉事務所職員

ひとつ、断行(いわゆる強制執行)まで住宅扶助を支給し続けた福祉事務所の話をしよう。

そのマンションは、古びた団地のような外観だった。2DKの部屋の契約者は40代前半の女性。名前はB。子どもは2人の母子家庭だ。どちらも男の子で小中学生。収入は生活保護のみで、家賃は5カ月分滞納していた。

Bとは全く連絡が取れていなかった。

子どもは在宅していることもあるのだが、マンガじゃあるまいし小中学生相手に延滞の話などしない。しても仕方ない。

母親がどこに行ったのか尋ねると「わからない」か「買い物かパチンコ」のどちらかだった。確かに、マンション入口のポストにはパチンコ屋からのDMがたくさん入ってはいた。

解決を図るには、明渡訴訟が必要だと判断。訴訟を提起して1週間が経過し、私は福祉事務所の担当職員と話をした。

その福祉事務所の職員は女性で、過去の別件でのやりとりから極めて非協力的であることが分かっていた。その職員とはこれまでにも3度、Bの件で話はしていた。意味がなかった。個人情報保護を盾に、一切の会話を拒否されたからだ。

私の依頼は「連絡をくれとBに伝えてほしい」「家賃を払ってないから、Bへの生活保護の住宅扶助(家賃)分は支給を止めるべき」の2点だった。

入居の際に、生活保護受給を示す書類のコピーは取得している。「受給していないわけがない」のだ。だからそれまでも、職員は「そんな被保護者はいません」とは回答せず、単なる会話拒否を続けていた。

この職員がBの担当であるということはわかっていた。以前、電話を取り次いでもらう際に別の職員に聞いたからだ。ついでに言えば、他の職員から、Bに住宅扶助が支給され続けていることも聞いていた(それ以上は何も聞けなかったが)。

4度目となる会話で、私はBに対して明渡訴訟が提起された、と告げる。それでもやはり「何も答えられません」の一点張りだ。別にかまわない。実際、もうBから連絡が欲しいとも思わないから。訴状を受け取れとは伝えたかったが……これは明渡訴訟をスムーズに進めるためだ。

もっとも、「単なる延滞」が原因の明渡訴訟だ。多少遠回りしたとしても、時間が解決してくれる。

しかしどうにも、この職員の拒絶の声音がアタマに来た。私は血の通った、感情のある、不完全な人間だから。それで私は、上司を出してくれと言った。

電話口に出てきた上司とやらは男性だった。私がこれまで話をしていた女性職員以上に酷薄な口調で、「何も回答できない」の一点張り。

驚くべきことに「仮に家賃を延滞して明渡訴訟になっていたとしても、住宅扶助の支給を止めることはあり得ない。それが法律だ」と主張した。「それが◯◯市の考えだ」とも。

住宅扶助は「家賃として支払ってないことが明白で、部屋の賃貸借契約は解除になって、明渡訴訟まで起こされていてもそれでも支給し続ける」──などという代物ではない。

福祉事務所が返還を求めてもおかしくないケースだ。実際、そうされたケースは普通にある。

少なくとも福祉事務所はBと面談し、家賃を支払うよう指導はせねばならない。というより、現時点では住宅扶助は停止が当然である。当たり前だが、賃貸借契約はとっくに解除されている。

私が「少なくとも住宅扶助の支給は止めろ」というのは、もちろん延滞客がそのカネを他のことに使っているのはおかしいという単純な指摘でもあるが、それと同時に、住宅扶助がなくなれば「退去せねばならない」「住み続けてもメリットがない」とBに認識させる意味もあった。

何せ現時点では、本来家賃として支払うべき住宅扶助を丸々、別のことに使えているのだ。延滞客本人にとって、こんなに美味しい状況はないだろう。

その「美味しい」状況を断てば、Bに退去の意思が芽生えるかもしれない。もはや支払を求める状況ではない。さっさと出て行ってもらう。これも、家賃保証会社の管理(回収)担当者の仕事である。

■福祉事務所は「良い仕事」をしたのか?

福祉事務所の上司殿とは本当に、全く会話が成立しなかった。「何も回答できない」「仮に被保護者だとして、絶対に支給を止めない」「それが国の制度であり市の考えだ」と繰り返すのだ。

住宅扶助が支給され続けている限り、Bは退去しないだろう。Bにはそこに居続けるメリットが確かにあるからだ。

結局、答弁書も出ずに明渡訴訟の判決は下り、強制執行まで進んだ。催告時には子どもがいただけ。強制執行日には誰もいなかった。荷物はある程度、運び出されていた。

明渡訴訟を提起され、「不正に住宅扶助を使用」した状況で、福祉事務所へ転居を希望しても、ストレートには認められないと思う。

一旦はどこかの施設に入るなりせねばならないとは思うが、母子家庭なら案外、単なる転居が認められたのかもしれない。福祉事務所によるが、その可能性はゼロではない。

彼女は子どもたちと転居先で新たなスタートを切るつもりかもしれない。だが家賃11カ月分と原状回復費の負債は存在する。保証契約終了後の請求を担当する部署は、追跡をスタートさせる。場合によっては回収のみを業とする他社へ債権を売る。

Bには他にも負債は当然あると思うが、生活保護しか収入のない人間にとって、それは絶望的な金額ではないのか?

さっさと福祉事務所が住宅扶助の支給を止めていれば、もっと早く彼女たちは転居して、負債は少し軽く済んだかもしれない。破産・免責すれば良いという話ではないだろう?

私との会話を拒否し続けた福祉事務所職員。住宅扶助を支給し続けた福祉事務所。それは本当に彼女たちのために良いこと、良い仕事だったのか?

ほぼ間違いなく彼女たち家族のお先は真っ暗だ。

生活保護の申請を受け付けずに問題化する福祉事務所がある。しかし家賃保証会社の(管理)回収担当者にとっては──少なくとも私や同僚にとっては「指導せずに支給し続ける」福祉事務所の方が身近だった。

どちらの福祉事務所の在り方も正しくはないのだろう。

皆さんはどう思うだろうか?

元家賃保証会社社員・0207/楽待新聞編集部

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最終更新:5/14(火) 11:00

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