飲食店を悩ます「ドタキャン」何が問題なのか やむを得ないキャンセルのときにできること

6/17 11:02 配信

東洋経済オンライン

 飲食店のみならず、美容室など多くの個人店を悩ませているのがゲストのドタキャン問題だ。

 経済産業省によると、飲食店のキャンセルによる被害額は推計で年間約2000億円にも上るという調査がある(「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」2018年)。

 店は予約客のために食材を揃え、予約時刻に準備万端で待機している。しかしゲストは現れない。確認の電話をかけてもつながらない。

 店は材料費も人件費も無駄にしただけでなく、そのゲストのために追加の予約を断っていることもある。このキャンセルがもう少し前にわかっていれば断らないで済んだのに……。

■ドタキャンに泣き寝入りするしかない店の現状

 先日、SNS上のあるシェフの投稿に多くの賛同が集まった。

メールを送った後、お客様から返信メールがある。
文面は丁重だが、行間を読むと、ちょっと逆ギレしてる感あり(笑)
ドタキャンのお客様の逆ギレ。
ドタキャンあるある。
ドタキャンが悪いとは言いません。
どうしてもそのような状況はあるでしょう。
お客様にお願いしたいのは、お互いに人間同士、誠意を持って話し合って折り合いをつけるのが一番なんじゃないでしょうか? 

お店の人も人間なんです。
 熊本市で、薪火を用いて調理した熊本あか牛を提供する「アンティカ・ロカンダ・ミヤモト」。18席の店は、地元の常連のほか、休日は国内外からの来訪も多い。

 シェフの宮本けんしんさんによれば、このゲストは、予約時間15分前に2名の予約を体調不良でキャンセルしたいと連絡してきた。

 直前、しかも体調不良ということで、キャンセル料は後日ということでいったん電話を切ったものの、数日後に宮本さんがそのゲストに電話してもつながらず、ショートメールにも返信がなかった。

 それで控えてあったメールアドレスに、キャンセル料の支払いについて連絡したところ、逆に不満感をにおわせた返信が来た。「料理を食べていないのに、なぜ自分はお金を払わなければならないのか」ということだったらしい。

■そもそもキャンセル料は何の費用か

 最近はキャンセル対策として、キャンセルポリシーを公式サイト等に掲げる飲食店も増えてきた。宮本さんの店でも「1週間前から予約前日までが50%、当日は100%」とキャンセルポリシーを設定し、予約時にゲストに伝えている。

 このキャンセル料、何に対してかかっているのだろうか。

 飲食店はホテルや航空会社などのようにその日・その時間でしか消費できない「在庫を繰り越せない業態」であるため、キャンセルを受けると売り上げがゼロになるだけでなく、そのゲストのためにほかの予約を断っていたとすれば、さらに損失額が増える可能性がある。

 一方で、キャンセルで出る損害を、「時間」ではなく「食材などの原価」だけだととらえてしまうと、食材が残れば店の損失は発生していないと考えてしまう。そのため食べていないのにキャンセル料を払うということに納得がいかないと考えるのかもしれない。

 しかし、食材が使われなければ損失が出ていないかというと決してそうではない。仕込みの人件費はすでにかかっているし、食材そのものでも宮本さんの店でいえば、いったんキャンセルが出れば食材で「7割か8割は損失」という。

 たとえばメイン料理のあか牛は、予約時間の数時間前に人数分カットし、乾燥させて、食材のコンディションが予約時間にピークになるように持っていく。キャンセルが出れば、その分は使われない。

 コンディションのピークを過ぎた食材は、翌日の営業に使えないことは明白だ。もし逆に、自分が飲食店で食べる料理が前日誰かがキャンセルした、ピークを過ぎたコンディションの食材だと知ったら、その店には二度と行きたいとは思わないだろう。

 くだんの「不満感」を伝えてきたゲストは、驚くことにさらにこのようなメッセージを伝えてきたという。

 「キャンセル料はそのまま払わなければならないのか。キャンセル料に見合う対価は自分に何かあるんですよね」

 キャンセル料が何に対してかかっているかを理解すれば、このような声は出てこないはずだ。

■キャンセルするのはどんな人? 

 2019年、都内の居酒屋に17人分22万円の虚偽の予約を入れて無断キャンセルした50代の男性が偽計業務妨害の疑いで逮捕された事件があった。そのときは「無断キャンセルで逮捕者が出た」と大きな注目を集めた。

 そのほかにも、メディアやSNSで飲食店予約の団体キャンセルの事案が報じられるのを目にするが、実際にキャンセルしているのはどんな人たちなのだろうか。

 「キャンセルは年齢層、男女を問わず起きています。ドタキャン自体の発生頻度も、最近急増したというようなこともありません」と述べるのは、飲食店のキャンセル事情に詳しい弁護士の北周士さんだ。

 北さんは、飲食店や美容院などのキャンセル料を支払わなかったゲストに対して、店に代わってキャンセル料の回収を代行する「ノーキャンドットコム」を2019年から運営している。

 北さんに回収を依頼している飲食店の多くは個人店、価格帯は比較的カジュアルな店が多いという。予約人数では2名から6名程度の依頼が多いそうだ。

 その理由として、高級店と大規模チェーン店にはそれぞれ、ドタキャンが比較的少ないことの理由があるという。

 「高級店はドタキャンの発生頻度が低いこととデポジットの導入なども可能なことから、ご依頼の頻度は低いです。また大規模チェーン店は予約のリマインドをシステムとして導入できていることが多く、かつ予約の比率がそれほど高くないこともドタキャンでの依頼が比較的少ない理由です」(北さん)

 宮本さんも「キャンセルの件数自体は昔から比べれば減っている」という。その理由として「キャンセルしたらキャンセル料金を支払うという感覚が社会的通念としてある程度浸透してきた」ことを挙げる。

■最終的にはシステム構築とゲストのモラル

 それでも、やはりドタキャンはなくならず、そのたびに大きな損失を店舗にもたらしている。

 宮本さんも、悪天候や事故などの避けられない理由でのドタキャンの場合はほとんどキャンセル料をとっておらず、ウェブ予約ではクレジットカードの登録を必須にもしている。

 しかしながら、昔からの常連や高齢のゲストなどからの予約はまだ電話が多く、予約の間口を広げておくためにも、予約をネット経由だけにしぼることはできないと言う。

 「ホテルや飛行機でキャンセル料を払うのは一般的になってきたのに、飲食店のそれはまだ難しいのが現実です。その理由は、残念ですが飲食店の『キャンセルするときは連絡して。キャンセル料の規定を守って』という声が一般の方に届いていないということ。行政に働きかける力もまだ弱いと感じています」(宮本さん)

 ただ、キャンセル対策を工夫する余地もまだある。

 「リマインドのシステムの構築やキャンセルの連絡をやりやすくすることで、ある程度は防げるかと思います。キャンセル客の全員がモラルの欠如や悪意からキャンセルしているわけではないからです。督促するとあっさり払ってくる事案も多いです」(北さん)

 予約が「未来の時間を約束する」という性質をもっている以上、どのように注意してもドタキャンをゼロにはできない。だからどうしてもドタキャンをしなければならない場合は、なるべく早く店に連絡すること、そしてキャンセル料について話し合うことが必要だ。

 冒頭の宮本さんの言葉を借りれば、「お互いに人間同士、誠意を持って話し合って折り合いをつけるのが一番なんじゃないでしょうか?  お店の人も人間なんです。」

 キャンセル料を実際に払ったゲストとは、その後、円満な関係を築ける場合が多いのだそうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:6/17(月) 11:21

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