マシンガンズ・滝沢秀一さんがゴミ清掃員のバイトを通してわかった「富裕層と一般家庭のお金の使い方の違い」とは?
●芸人でありながら、妻と子どものためゴミ清掃員に!
最初はきつかったが、ゴミ清掃員として”日本一”を目指すと決意!
──お笑い芸人なのにアルバイトでゴミ清掃員を始め、いまや「ゴミ研究家」としても大活躍されています。そもそも、清掃員になったきっかけは何だったのでしょうか?
滝沢 食えなくなったからです(笑)。今年で芸歴は25年になりますが、苦労を重ねたおかげで昨年(2023年)、結成16年目以上の漫才師による『THE SECOND~漫才トーナメント~』で準優勝させていただきました。
でも、ゴミの清掃員を始めた2012年ごろは、本当に食うや食わずの状態だったんです。2007年ごろからの“ショートネタ”ブームに乗ってテレビでの出演が増えて、一時は年収800万円ぐらい稼いだこともあったのですが、ブームが過ぎ去ると、収入がぱったり途絶えてしまったんです。
妻が妊娠し、ますます出費がかさんでいくのに「このままでいいのか? 」と思い、副業のつもりでゴミ清掃のアルバイトを始めました。
──ところが、次第にゴミ清掃の仕事がメインになるわけですね。
滝沢 多いときは週5日、出勤しました。お笑いの仕事がほとんどありませんでしたからね(笑)。月収は20万円ぐらいになり、何とか妻と子どもを食べさせていけるとホッとしました。
──とはいえ、大変だったのでは?
滝沢 最初はきつかったですね。毎朝、住宅地を回って家庭ゴミを収集する仕事なのですが、夏はうだるように暑く、冬は死ぬほど寒い。肉体労働なんてほとんどやったことがないので、体が悲鳴を上げました。
でも、家族を食べさせていくには続けるしかない。あのころ「お笑いの世界で生きていくのは難しいだろうな」と諦めかけていたので、ゴミ清掃に専念する覚悟を決めました。
──自分たちのお笑いに限界を感じたということですか?
滝沢 それなりに自信は持っていました。相方の西堀亮とコンビでやってるマシンガンズは、2007年から2008年にかけてM-1グランプリで準決勝に進出し、2012年にはTHE MANZAIで認定漫才師50組の1組に選ばれていますからね。
でも、僕たちと同期のサンドウィッチマンが、2007年のM-1グランプリで優勝したのに、その後出演したテレビ番組でひな壇の端っこに座っていたので「M-1チャンピオンでもあそこに座っているのなら、俺たちの席なんてないな」と、現実を突き付けられてしまったんです。
だったら、ゴミ清掃員として生きてやろう。どうせなら、お笑いではなれなかった「日本一」になってやろうと決意しました。
●「間違ったゴミ分別を何とかしたい」と考えるように!
Xでゴミの出し方について発信したところ、大きな反響を呼ぶ!
──目指すは「日本一のゴミ清掃員」ということですね!
滝沢 とはいえ、何をもって「日本一」になるのか? 勢い余って決意したのはいいけど、目指す方向がはっきりしていたわけではありません(笑)。それが明確になったのは、家庭のゴミ分別にかなり問題があると感じたことがきっかけです。
ゴミ清掃員の仕事の中で、とくに面倒なのが分別されていないゴミを袋から選り分けること。各家庭が出す際にきちんと分けてくれればいいのですが、燃やすゴミの中に瓶や缶をこっそり忍ばせたりする困ったご家庭もあります。
でも、そうした“確信犯”は、さほど多くありません。おそらく8割方のご家庭は、分別のルールをよくわかっていないので、間違った出し方をしてしまっているのです。
──なぜ、それがわかるのですか?
滝沢 たとえば、シャンプーの容器をペットボトル資源で出している人がよくいますが、多くの自治体では一緒に出してほしくない。でも間違っているご家庭も少なくありません。大抵の場合、同じ袋に入ったペットボトルのラベルやキャップは外されているので、分別はきちんとしてくれている。ただ、ルールを知らないだけなのです。
──なるほど。ゴミ分別のルールはかなり複雑ですし、自治体によっても違いますからね。
滝沢 ルールを守って分別すれば、ゴミ清掃員の仕事がラクになるだけでなく、ゴミ焼却の手間やエネルギーも減るので、地球にもやさしい。大半のご家庭は、何となくわかっているけど、いかんせんルールを誤解しているので、間違ったゴミの出し方をしてしまっているのです。
だったら自分が、正しいルールをわかりやすく伝える役割を果たそうじゃないかと思いました。どうせなら分別だけでなく、ゴミに関するありとあらゆる情報を発信する「日本一のゴミ清掃員」になってやろうと思ったんです。
──そうして「ゴミ研究家」としての第一歩を踏み出したんですね。いまではXでゴミの出し方に関する情報を頻繁に発信されています。
滝沢 おかげさまで、ゴミに関する本も10冊以上書かせてもらいました。2020年には環境省からサステナビリティ広報大使に任命されるなど、社会からの反響の大きさに驚いています。「食うため」に仕方なく始めたゴミの仕事ですが、いまではライフワークになってしまいましたね(笑)。
──Xでは、滝沢さんがゴミ収集で得た“気付き”もいろいろと発信して話題を呼んでいますね。とくに興味深く感じたのが、富裕層の家庭と一般家庭から出るゴミの違いです。
滝沢 おカネを持っている家庭のほうが、ゴミがいっぱい出ると思い込みがちですよね。じつは、まったく逆です。むしろ一般家庭のほうが、出るゴミの量は圧倒的に多い。
とくに最近は、安価な洋服をネットで簡単に買えるようになったせいか、大量の洋服が大きなゴミ袋に入れられて捨てられるケースが増えています。新品のような、ワンシーズン程度で捨てられてしまったシャツやアウターばかりです。着ていないタグ付きの服が捨てられていることもあります。最近、ゴミ清掃員になったばかりの若い女の子も「洋服って、こんなに捨てられているんですね」って驚いていました。
●おカネ持ちのほうが出すゴミの量が少ないことには理由がある!
余分なものを買わないことが、おカネ持ちになる第一歩!
──“大量消費”の弊害が見え隠れする話ですね。
滝沢 逆に、高級住宅地から大量の衣類ゴミを回収することは滅多にありません。こういう話をXですると「どうせおカネ持ちは、洋服の保管スペースが広いから捨てなくて済むのだろう」と炎上するのですが(笑)、気に入ったものだけを買って無駄遣いしないからこそ、ゴミは出ないし、おカネも貯まるのだと思います。
安いからファストファッションを大量購入し、保管スペースがなくなったから大量に捨てるのは、望ましい消費行動ではありませんよね。
──食品ゴミについては、どんな傾向がありますか?
滝沢 食品などの生ゴミも、富裕層より一般家庭のほうが大量に出ます。あくまで僕の実感ですが、お酒や栄養ドリンクの瓶・缶、たばこの吸い殻なども、一般家庭のほうが多い。
一方、富裕層の家庭からは、スポーツ用品や健康器具などが粗大ゴミで出されることが多いようです。
──おカネ持ちの人ほど、体を鍛えて健康を保ちたいという「自己投資」の意識が高いからでしょうか。
滝沢 かもしれません。それでいうと興味深かったのは、一時期大量に捨てられていたアイドルグループの握手券付きCDです。“推し”のアイドルと握手するため、何十枚も何百枚もCDを買うのは、おカネに余裕のある人だと思っていたのですが、大量のCDが入ったゴミ袋を回収するのは、一般家庭の地域が多かった。
富裕層は自分のために投資するけど、一般の人々は他人におカネを掛けているんだなと思いました。おカネを儲けられる人と、そうでない人の本質的な違いが表れているようで、何となく面白いですよね。
──ところで、最近は芸人としての活動も増えているそうですね。
滝沢 「ゴミ研究家」としての活動が注目されたし、『THE SECOND』でも準優勝したことで、一時は諦めかけていた芸人の仕事もお声が掛かるようになりました。
ゴミ清掃の定期収入があったおかげで辞めずに済んだので、“二足のわらじ”を履いておいてよかったと思います。忙しい毎日ですが、いまでも週1回はゴミ清掃員として働いています。これからだって、お笑いで食えなくなるかもしれない。それに、ゴミの情報発信のためには、現場での経験が欠かせませんからね。
とにかく「日本のゴミを減らしたい」というのが僕の夢です。日本のゴミ最終処分場は、あと二十年くらいでいっぱいになってしまいます。つまり、ゴミが捨てられなくなる。いま日本全国で年間約4000万トンのゴミが捨てられていますが、その量を少しでも減らしたい。
そのための取り組みとして、食品ロスを減らす食堂の運営や、古着のアップサイクル(※本来は捨てられるはずのモノに、デザインなどで新たな付加価値を持たせ、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせること)によって、ファッションロスを抑える活動などを行っています。タグ付きの洋服をそのまま捨てるなんてもったいない。余分なものを買わないことが、ゴミを減らす第一歩だと伝えていきたいですね。
ダイヤモンド・ザイ
最終更新:4/6(土) 21:21
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