墜ちた漁業大国・ニッポン。魚の獲りすぎをやめないと、日本の魚は枯渇=ゼロになる

5/27 6:02 配信

東洋経済オンライン

日本の漁業が危ない。漁業生産量は1984年のピークから7割減。輸入金額も増え、海外勢には買い負けている。持続性ある漁業を確立するには、目先で魚を獲りすぎないこと。資源を安定させなければ、日本の漁業の未来はない。
『週刊東洋経済』6月1日号(5月27日/月曜発売)の特集は「全解剖 日本の魚ビジネス」。サンマやウナギなど激減した魚種の背景、企業による養殖ビジネスの現地リポートのほか、主要16魚介の動向をデータで調べた「魚図鑑」、全国主要漁港別の水揚げ量ランキングなどを取り上げた。

われわれはいったい、魚をいつまで食べられるのか。
 高級魚であるクロマグロの価格がこのところ下がっている。

 直近の2024年4月、豊洲市場の冷凍クロマグロは1キログラム3193円。2023年3月は同4030円だったから、800円超下がった計算だ。昨秋以降、内外の豊漁で在庫が豊富なこと、中国や韓国の景気悪化で需要が後退したことが要因に挙げられるという。

 が、今後も下落が続くかというと、定かではない。マグロの資源回復が本物かどうかわからず、アジアでの需給が再び引き締まるとの声も聞こえてくる。現に2021年から2023年にかけ、クロマグロの価格はずっと高騰していた。

■魚が獲れなくなったのは複合的な理由

 長期で見る限り、日本の漁業生産量は40年間近く、ずっと下がり続けてきた。ピークは1984年の1282万トン。その後は長く低落傾向を続け、2022年は391万トンである。ピーク時からは約7割もの大幅減だ。

 一方、それとは対照的に日本の和食ブームを機に「魚食」を知った世界は、右肩上がりで生産量を増加。2022年には2億2321万トンまで拡大している。生産量1位の日本を88年に抜いたのが中国。当時12億人の胃袋を満たすため、養殖に力を注ぎ、今や有数の養殖大国になった。反対に日本は世界11位まで落ちてしまった。

■昔は世界に行き、好きなだけ獲ってこれた

 なぜ日本がここまで落ちてしまったのか。歴史的に見るといくつか複合的な原因が考えられる。

 まずは遠洋・沖合漁業からの後退だ。かつて日本は「公海の自由」の原則の下、世界のどこにでも行き、好きなだけ魚を獲ってこられた。獲れなくなったら別な漁場へ行く。そんな漁業だった。ところが、米と旧ソ連(現ロシア)が1977年に200カイリ水域を設け、その後、世界の沿岸各国もEEZ(排他的経済水域)を設定。日本も大きく方針転換せざるをえず、遠洋漁業や沖合漁業からの後退を迫られたのである。

 ほかにもある。マイワシといった固有の魚種の激減や、近年では地球温暖化に伴う海水温上昇などもそうだ。「サンマが減ったのは公海上で中国や台湾の大型漁船が大量捕獲したからだ」。ある漁業協同組合の幹部は外国漁船による乱獲を理由に挙げる。

 主要魚種で減った代表がサケ、サンマ、スルメイカだろう。2022年のスルメイカの漁獲量は3.1万トンだが、これは20年前の10分の1。逆に増えたのはブリくらい。ホッケのように”サイズが小さくなった”といわれる魚種もある。

 「魚を自国で獲れないなら、他国から買えばいいのでは」との反論があるかもしれない。実際にサケ・マス類はチリやノルウェー、カツオ・マグロ類は台湾、エビはベトナムなど、日本の輸入先はバラエティーに富む。

■世界の水産物価格は上昇トレンド

 とはいえ、世界の水産物価格は、ずっと上昇トレンドにある。魚離れで、日本人の1人当たりの年間購入量は減っているが、円安もあって、日本の輸入金額は増え続けている。片や1人当たりの消費量では、過去50年間で中国は50倍に、インドネシアは4倍に膨張した。日本が中国などに買い負けることも珍しくなくなり、より多くの金額を支払わなければ、魚は手に入りにくくなったのだ。

 確かに日本の漁獲量減について、外部要因が影響してきたことは否めない。しかし、日本自らが招いた過ちもある。水産庁の魚谷敏紀・資源管理部長は「しっかり資源管理をしていれば、今のような状況にはなっていなかった」と振り返る。

■世界は資源管理の時代に突入した

 水産物のような生物資源は、獲りすぎると資源量が減り、獲るのを抑えるとまた増え出すとされる。つまり、生物の自然増と釣り合ったペースで漁獲をすることが、漁業を永続させるのには欠かせない。だが日本の場合、魚の“獲りすぎ”を抑えられず、これまでは資源管理ができていなかった。

 一方、ノルウェーのような漁業先進国は、政府主導で厳格な資源管理を行っている。1996年に発効した国連海洋法条約を受け、翌97年から日本でも実質的に運用が始まったのが、「TAC」(漁獲可能量)制度だ。魚種ごとにあらかじめTACという“枠”を設けて、実際の漁獲量をそれ以下に抑制しようとする考え方である。最初はサンマやスケトウダラなど、8魚種をTACに設定した。

 ただし、実績を見る限り、TACのハードルはかなり甘い。

 枠を高めに設定することで、漁獲を抑えなくても悠々と守れてしまっている(途中で増枠するケースもある)。実際の漁獲量をTAC(漁獲可能量)で割ったのが”消化率”だが、どの魚種も無理なく、TACの枠内で消化できている=達成できているのが実情である。獲りすぎは抑えられていない。

■TACにIQ導入でより管理を厳しく

 日本の場合は漁業者の存在も無視できないだろう。漁師は「大漁」をよしとする文化で、もちろん目の前の生活もあり、“獲れるのに獲らない”という考えにはなじみにくい。現実には国による公的規制と民による自主規制を組み合わせた資源管理になっている。

 それも2018年には漁業法が改正(2020年施行)。2020年から改正漁業法に基づくTAC管理も始まった。日本も遅ればせながら、TACの魚種について、25年4月までに5業種ほどが追加される予定。また2021年からは改正漁業法に基づく、「IQ」(個別割当方式)による管理も順次スタートした。IQ導入によって、漁業者や漁船ごとに枠を細かく配分したりと、より厳しく管理する方向へと傾きつつある。

 そうした施策を行い、政府は2030年度に漁獲量を444万トン(2010年度と同水準)へ回復させることが、現時点での公式な目標だ。

 われわれはいつまで魚を食べ続けられるのか。東京海洋大学の勝川俊雄准教授は「日本の漁獲量は2050年にほぼゼロになるペースで減っている」と警鐘を鳴らす。持続性ある漁業の確立に向けて、今から本気になって取り組まなければ、日本の漁業の復活はない。

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最終更新:6/3(月) 9:36

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