「トランプ氏銃撃」国際ボディーガードによる考察 鉄壁だったはずのシークレットサービスの警護になぜ「隙」ができたのか?

7/16 14:32 配信

東洋経済オンライン

 世界中を震撼させたトランプ前大統領の襲撃事件。そこには、警護態勢や犯人の行動を分析する者と狙撃する者、警護する者と、犯人との「一進一退」の攻防があったようだ。

 警護のプロからみたトランプ銃撃事件の裏側とは? 

■熱気あふれる会場に響いた発砲音

 熱気あふれる歓声が響いた会場に突如、複数の発砲音が聞こえた――。

 会場での一部始終を捉えた海外ニュースの映像を見ると、トランプ前大統領は発砲音の直後、右耳を押さえ、周囲にいたシークレットサービス(USSS=アメリカ大統領警護隊)が一斉にトランプ前大統領を守るようにしゃがませ、盾になった。

 その後、シークレットサービスが彼を取り囲んだ状態で車に乗り込ませたが、その間、観客に向けて何度もガッツポーズをとっていたトランプ氏の右耳からは血が流れていた。演説を聴いていた観客らは逃げ出し、会場はパニックになった様子が見て取れた。

 アメリカメディアの各種報道によれば、7月13日午後、ペンシルバニア州バトラーで演説中だった共和党のトランプ前大統領が銃撃され、右耳に大けがを負った。聴衆の1人が死亡し、2人が重体だという。

 犯人は警護していたシークレットサービスによって射殺され、その後、20歳の男と判明。演説会場そばの建物の屋根から、ライフル銃のような自動小銃で狙ったとみられるという。

 今回の銃撃事件、世界最強と呼ばれるシークレットサービスがついていながら、なぜこのようなテロ行為を許してしまったのか。国際ボディーガードとして数多くの要人警護経験を持つ、民間ボディーガード会社代表の小山内秀友(おさない・ひでと)さんは、こう説明する。

 「通常、アメリカ大統領選候補者には、選挙の120日前からシークレットサービスの護衛がつきます。トランプ氏の場合は前大統領ということもあり、おそらく大統領を辞めたあともずっとシークレットサービスの警護がついていたはずです。

 ステージから130メートル程度しか離れていない建物にライフル銃を持った人物が容易に近づき、屋上に上がれてしまったことや、対狙撃チームから見て見通しのよいロケーションであったにもかかわらず、近くの建物の屋上からライフル銃で狙っている人物に気づくのが遅れたのは、シークレットサービスのミスであったと思われます」

 実際、海外メディアの報道では、狙撃地点となった屋根に登る容疑者の男を目撃した住民がインタビューに応じ、「近くにいた地元警察関係者に男の存在を伝えたが、とりあってもらえなかった」と話している。

■犯人の強い殺意があった? 

 小山内さんはまた、「事前の警護にミスがあった」と推測しながらも、「警備体制を上回る、犯人の強い殺意があったからではないか」とも指摘する。

 「攻撃者にとってターゲットとの距離はとても重要です。距離が遠くなればなるほど、自分の身の安全を確保できる可能性は高くなりますが、相手を仕留められる可能性が低くなります。逆に、近ければ近いほど、相手を仕留められる可能性は高くなりますが、自分の身の安全を確保できる可能性が低くなります。

 おそらく犯人は自身の身の安全という要素を捨て、より確実に仕留められる可能性にかけたものと思われます。そのため、ターゲットから約130メートルという距離まで近づいて銃撃を行いましたし、犯人は警護側の反撃を受け、死亡しています。

 このように、自分の身の安全よりも、目的の達成を優先する攻撃者には高いモチベーションがあるため、距離を可能な限り縮め、攻撃成功の可能性を高めてきます。例えるなら、この攻撃手法は『自爆テロ』のようなものです」

 一方で、狙撃という形を取ったことについて、小山内さんは「近距離警護がしっかりしていたからこそ、このような方法を取るしかできなかったのではないか」と主張する。

 「アメリカでは、過去にも多くの大統領や大統領候補者が暗殺されているので、シークレットサービスなどはかなりしっかりとした警備体制を取っています。そのため日本とは違い、攻撃者がターゲットに近づくのは容易ではありません。

 今回もおそらく、演説会場周辺にはしっかりとしたセキュリティバリア(境界線)が設定され、会場敷地内へのアクセスには金属探知機などを使った出入管理がしっかりと行われていたはずです。

 このように近距離の警備体制がしっかりとなされると、攻撃者はターゲットに近づくことすらできませんので、距離を取った狙撃という方法を取るしかなかったのでしょう」

■犯人が自動小銃を選んだ理由

 アメリカメディアによると、犯人は地域の射撃クラブに所属していて、日頃から銃の扱いに慣れていたようだ。小山内さんも「犯人は狙撃に最適な自動小銃を選んでいた」と分析する。

 「犯人が使用したと思われるアサルトライフルは、スナイパーライフル(狙撃銃)よりも容易に入手でき、訓練さえすれば300メートル程度先のターゲットを狙うことができます。狙撃の状況から考慮すると、犯人が使用したライフル銃、おそらくアサルトライフルは、今回の襲撃に適した武器であったと考えられます」

 警護態勢のミスが指摘される報道が多いなか、銃撃の直前にシークレットサービスの狙撃チームが犯人の存在に気づき、犯人が発砲したため、すぐさま射殺したという報道もあった。

 小山内さんも「即座に犯人を射殺できたのには理由がある」と言う。

 「例えば、事件があった場所のようなひらけた空間ですと、銃声を聞いてからすぐに狙撃手の位置を特定するのは、難しいです。比較的早く攻撃者の位置を特定し、反撃できたのは、おそらく直前にシークレットサービスの対狙撃チームが、犯人の位置を特定していたからではないかと思われます。

 先に攻撃されてしまったのはシークレットサービス側のミスですが、攻撃発生後のレスポンスは素晴らしかったと思います」

 犯人の車から爆発物が発見されたと報じられていることから、小山内さんが指摘するような「自爆テロ」によって最悪の事態を招いていた可能性もあった。

 「昨今、われわれのような警護の人間が想定するのは、小銃やライフルを使用した狙撃、遠隔操作による爆発物攻撃、そして小型ドローンを使った攻撃です。遠隔操作による爆発物攻撃は、事前に爆発物をしかけておく必要があるため、会場の検索作業をしっかりと行う、シークレットサービスが実施する厳戒な警備体制下では容易ではありません。

 この現場で実施されていたかは不明ですが、昨今は小型ドローンによる攻撃への対策も重要視されているため、大統領警護などでは必ずドローン対策も行われています」

■銃社会で起きた銃撃事件が持つ意味

 FBI(アメリカ連邦捜査局)では、容疑者の素性などを現在捜査しているが、詳しい動機についてはまだ不明だという。

 銃社会のアメリカで起きた銃撃事件。世界最強の警護態勢をもってしても、自爆テロ型の犯行を完璧に防ぐのはやはり難しいということを、世界に知らしめることとなった。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/16(火) 18:02

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