【コラム】ドル高の猛威、アジア通貨当局には介入や他の選択肢-モス

4/18 15:42 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): ジョージ・W・ブッシュ政権で財務長官を務めたポール・オニール氏は、初めての海外出張の際、称賛されることも多いが不満の対象にもなった「強いドル政策」に大胆に疑問を呈し、物議を醸した。

オニール氏はクリントン政権時代からドクトリンを受け継ぎ、それをレトリックに過ぎないと考えていた。国内では称賛されたが、国外、特にアジアでは助けにならない見なされていた。

オニール氏によれば、米国が実際に保持していたのは「強い経済政策」だった。他の国・地域に比べ成長が強ければ、ドルの価値に反映される。成長が衰えれば、ドルは下落するだろう。人々は冷静になるべきだ。その助言は、東京とソウル、ジャカルタ、ニューデリーで今も数十年前と同じように有効だ。

現職の財務省当局者らは、先任者ほど為替政策について語らず、しつこく聞かれることもない。しかし、強いドルは実際に存在し、驚くほど回復力のある米経済を反映している。2024年に矢面に立たされる国・地域にとって選択肢は多くないが、なすすべが全くないわけではない。

今年のドル高騰は起きるはずではなかった。一定の利下げが正当化できるほどインフレが十分後退し、景気が十分に落ち着きつつあると米連邦準備制度が示唆するという見通しを前提に多くの専門家がドル相場の下向き調整を予測していた。だが当局者も今疑いを抱いている。

物価上昇ペースの低下という非常に心強い兆候が一時表れたが、最近の進展は期待外れだ。労働市場はなお力強く、小売りは好調で、製造業は回復しつつある。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は16日、政策担当者が利下げ決定まで待つ期間がこれまでの想定より長くなるとの認識を示した。これは連邦準備制度とって後退だが、ドルにとっては好材料だ。

この変化はアジア全体に波及した。インド・ルピーは16日に過去最安値を更新。インドネシア銀行(中央銀行)は、通貨ルピアを支えるため市場介入に動き、韓国当局も行き過ぎたウォン安に異例の警告を発した。

日本銀行は3月にマイナス金利政策を解除し、無担保コール翌日物金利を0-0.1%程度に誘導する事実上のゼロ金利政策に移行することを決めた。円相場を反転させるはずだったが、実際には34年ぶりの円安更新が続いた。日本の当局は最大限の直接的介入の脅しを控えており、その慎重さは賢明だ。ドルの騰勢が強い時期に直接闘うことだけは避けたい。タイミングを選ぶのが一番だ。

多くの場合、長期的に通貨の命運を好転させることが介入の目的ではない。下落や上昇の阻止ではなく、管理することが当局の狙いと考えられる。一方的な動きとトレーダーに思わせないため、双方向のドラマを若干注入しようとするかもしれない。こうしたアプローチは時間稼ぎに有効だ。

通貨当局の行動が転機になった例も存在する。2000年後半には当時下げ止まらなかったユーロが日米欧のユーロ買い協調介入で底入れした。銀行の不良債権問題を背景に1998年半ばにかけ円が急落した際は、ルービン米財務長官(当時)の下で日米協調による円買いの為替介入が実現し、流れを変えるきっかけになった。

今の状況は危機とはいえず、97年に発生したアジア通貨危機のような事態からは程遠い。為替レートははるかに柔軟で、短期的な不安感があったとしても長期的なメルトダウンは回避できる。人為的に高くなったバリュエーションを正当化するために外貨準備を使い果たしたいと誰も思わない。

戦争の話やちょっとした介入、空売り投資家に二の足を踏ませる当局の何らかの対応を恐らくそれは意味する可能性が高い。予定された政策決定会合以外で金利を引き上げることさえ必要かもしれない。これは間違いなく注目を集める。通貨ルピアの動向に常に敏感なインドネシアは、経済を窒息させるほどでないにしろ、その手段に訴えるかもしれない。

オニール氏の率直な発言は、米国内で激しい抗議にさらされ、撤回された。「強いドル政策」を放棄するようなことがあれば、ヤンキースタジアムでブラスバンドを雇い、間違いなく皆に聞こえるようにするだろうと同氏は皮肉交じりに宣言した。アジアについて言えば、必要なときにトランペットがあったためしがない。

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(ダニエル・モス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Dollar on a Rampage Is a Test for Asian Currencies: Daniel Moss(抜粋)

(c)2024 Bloomberg L.P.

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最終更新:4/18(木) 15:42

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